プロローグ
佐藤元昭は探偵。
世界探偵協会レーツェルD級ライセンスを持ってる。
なんだD級かと言われるかもしれないが、天才でない探偵の中では、結構レベルが上である。
ちなみに探偵協会レーツェルというのは ドイツを拠点として活動してる探偵業務の斡旋機関である。能力ある者に探偵資格を与えたり、仕事を斡旋しランクをつける。
探偵業界、特に日本では探偵業務をするにあたって特別な資格は必要ない。誰でもその日から探偵を名乗って仕事をしても何ら問題はない。
とはいえ、他のライバル業者とのビジネスの差別化、競争に勝つためには独自の宣伝力、ブランド力が必要になる訳で、 その為に世界探偵協会レーツェルから資格を得るのは業界で生き残ろうとする者にとっては必須になる。
佐藤も協会からお墨付きを得てから、報酬の高い依頼が舞い込む様になった。
しかし、佐藤は探偵になって何度目かの猛烈な後悔に苛まれてる。
何故なら、目の前にバラバラに引き裂かれた死体があるからだ。
見ているだけで人の気を狂わせる光景。
本当に何故そんな事をしたのか問いたい。
この事件は「邪神信仰聖地へ巡礼」という胡散臭い団体旅行にて起きた。
しかも、この聖地は孤島で、島には警察所がない。
探偵にとっては警察に邪魔されずに捜査できるので格好の場ではある。見事に解決すれば協会レーツェルからの評価を上げるチャンスである。手柄を独り占めできるチャンスであるから普通なら喜ぶべき状況である。
しかし、ながら、
常軌を逸した殺人犯と一緒に逃げ場のない場所に閉じ込められている状況でもある。
この状況で
冷静に、犯人を追い詰めながら無傷で生き残るなんて可能なのだろうか。下手をしたら、犯人に殺されてしまいかねない。
佐藤は
今この瞬間も恐怖に逃げ出してしまいそうになりながら、血の臭いに嘔吐しそうで、破滅の予感に泣き出しそうになっていた。おびえながら、半ば形だけの捜査を行って、その場をとりつくろっている。
ともかく、普通の人間なら決して出会わないような事件に何度も遭遇して生き残り解決しなければ、探偵協会レーツェルの評価は上がらない。
レーツェルの評価は解決した事件数と事件レベルで変化する
人間離れした事件を解決する程、評価が貰え、探偵業としての仕事に潤いがもたらされる
命のかからない事件を解決しても、たいした評価には繋がならない。
と、前置きはさておき、本題。
他の人間が恐怖に脅え、死体の惨状に吐いたりしている。
そんな中で容疑者オーベットは、無表情であった。
死んだ魚のような目をして、死体を見つめていた。
2m以上の身長を持つ容疑者オーベット。
全身血塗れのどうみても犯人にしか見えないオーベットが、しゃべった。
「死体をみつけた。蘇生しようとしたが、死んでいた。誰かきてくれ」
合間にピチャピチャという音が混じった発音。 抑揚のない棒読み。
探偵でなくても、誰もがオーベットが嘘をついてるのだと疑ったはずだ。
だからこそ、皆が容疑者を刺激しないように、あえて疑わない振りをした。
容疑者を信じる振りをした者たちが、以下の通り
1 世界有数の財閥メディア・コングロマリットの美しい御令嬢、メアリー・ジェイン
2 ‘人類統一戦線’という言葉を産み出した高名な老政治家、オード・シャティロン
3 上海を代表する企業のトップで政府高官の弟でもある老翁ダン・ツァーミン
4 そして、‘ワールデェア’の有名作家クリエーターの9歳になる娘で佐藤の警護対象レーナ・サトウ・ノア
それにしても、ああ恐い、恐い怖いこわいコワイコワイコワイ、やっぱり……
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいボクは、コワイコワイコワイこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいボクハ、こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい……ボクハ、タンテイダ。
だからこわい、真実を追究しコワイコワイなければならこわいこわいこわいないコワイ。
容疑者の名前はオーベット、死体の名前はヨシフ
死体ヨシフを見ながら四人は息を飲んだ。
深海魚の様な目をギョロリとさせる容疑者オーベットに皆が恐れをなしていた。
皆はこの島に到着する前、船で容疑者オーベット見ていた。
オーベットは船内のトレーニングルームにてボクシングをしていたのだが、サンドバックを破壊して中に詰まっていた砂を散乱させるというトラブルを起こした。皆、オーベットの強靭な肉体が容易に人を殺せる凶器だと理解している。だから怖い。
そんな皆の警戒心を知ってか知らずかオーベットは語りだした。
「きっと、邪神、の、呪い、だ。 七人岬の、呪いだ。恐ろしい…」