路地裏騒動
第一章
第ニ話
「は〜〜。これからどうしようかな〜〜」
そう語るのは、猫耳、尻尾がはえている頭がヒョウ柄な少年。チーター人間”ヒョウガ,,である。
ヒョウガは元々世界最速の生き物チーターだったがひょんなことから死に、魂だけが異世界の人間の中に入ってしまった。精神年齢は十七歳だが、見た目は十四歳くらいの小柄な少年になってしまった。
今、彼は路地裏にいる。その場から動かないのには二つの理由がある。
一つ目は、服がないこと。疑問はたくさん出ると思うが一つずつ説明させてくれ。まず、どうして見た目が人間とはいえ精神がチーターの彼が服というものを欲しているのか。それは簡単なことだ。人間の中に魂が入ったということは、その人間の魂はヒョウガの魂と合体した。それで、服を着ていないとダメという”人間的感覚,,が出てしまったのである。そして、少年自体が服を着ていなかったのは、ただお金がなく着る服がなかったからだ。最悪、布のようなものがあればこの問題は解決できた。のに、、、、、、世界はそう都合の良いようにはなっていない。布が周りに無いから今も素っ裸。
二つ目の動かない理由はまさにそれが問題だった。路地裏とはいえ人はたまに通る。男の人は引いたような目で見た後すぐに横を通っていったが、女の人は違った。一人の女の人が路地裏に入った瞬間ヒョウガと目が合う。女の人はヒョウガの目ではなく’下,の方に目をやった。その瞬間、まるで目の前で殺人鬼を見たかのような目と声で奇声、いや’鬼声,を上げた。
その瞬間、奇声を聞いた人達が路地裏の入り口と出口を塞ぐようにヒョウガを囲んだ。人々の目が痛い。これも人間的感覚なのか。そんなことを思っていると遅れて誰かがやって来た。
「そこで何をしている!ん?そこのお前!なんだその格好は!」
見た目は銀色の鎧をまとい、金髪の長髪がさらあっと風によってなびいている。その男を一言で表すとすれば間違いなく誰もが【聖騎士】と答える。そんな風貌だ。彼は続けざまに言う。
「ここ、『オウブ帝国』では人前での着衣の使用は絶対。そのはずだ。なのになんだお前は!人前で堂々と裸で!それは我々、『国家聖騎士団』への反逆と捉えて良いのか」
やはりその男は聖騎士だった。しかも、『国家聖騎士団』とは、国王の護衛・オウブ帝国の取り締まり・その他エトセトラ。簡単に言うと、この国で国王の次に偉い存在なのだ。ヒョウガは今その国王の次に偉い存在に「国への反逆か?」と言われている。言葉の意味は"人間的感覚,,でわかるが、元々チーターだったヒョウガにとって国だとか犯罪だとかそんなことはどうでもいい。だからヒョウガはこの状況でもこう言う。
「チーズが食える店知ってるか?」
プツンと頭の中で何かが切れた音がした。そして、一呼吸置いて、彼は言う。
「国家聖騎士団所属、第一級聖騎士”速攻のマルト,,その名に置いて業務を執行する」
その瞬間、奇声を上げた人を含め近くにいた人達は巻き込まれたく無いかのようにさっそうと逃げていった。残っているのはマルトとヒョウガだけ。そして、マルトは腰にかけてある剣とへと右手を伸ばす。剣を抜きヒョウガの方に刃を向ける。
「いざ参る」
そう言い捨てた後、ヒョウガに向けていた刃を腰のあたりに構え、ヒョウガめがけて走り出す。距離はわずか八メートル。だが、今まさに切られるか、捕まるかの状況にいるにもかかわらずヒョウガは、
「服もないし、チーズの店も知らないし、は〜〜。これからどうしようかな〜〜」
その瞬間、マルトが勢いよく切り掛かってきた。だが、ヒョウガは剣を軽々しくかわし、その場でジャンプした。
忘れてるかも知れないがヒョウガは人間ではなく『チーター人間』。つまりチーターの性質を持っている。その動体視力は剣をかわすのなんて朝飯前。さらにネコ科ということもあり、ジャンプ力は自分の身長の五倍から八倍の距離を飛べる。ヒョウガは隣の家の屋根に着地した。
マルトはヒョウガの方を見て驚きの表情を見せる。ヒョウガはヒョウガでマルトの方を見て「それじゃ」とつげ、屋根から屋根へと飛び移り移動していく。その速さは人間ごときが追いつける速さじゃない。なぜならヒョウガはチーター人間なのだから。
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
路地裏に響きわたる声。マルトは叫んだ
マルトが切り掛かってからヒョウガが逃げるまでかかった時間は約四十秒。マルトは"速攻のマルト,,と呼ばれるだけあって与えられた仕事は一日で終わらすほどの超速攻を得意としていた。にもかかわらず、たったの四十秒で敵を逃がしてしまった。速攻で仕事を解決するから速攻のマルトなのに逆に速攻で敵を逃してしまったことでマルトのプライドは傷ついた。それと同時に、心の中でマグマが噴火したかのような感情が湧き上がって来た。そして決める。
「奴は今日中に捕まえる。この"速攻のマルト,,の名にかけて」
そう言い残し、剣を鞘へと戻したマルトは人混みの中へと消えいった。
*
ヒョウガはまだ裸で屋根から屋根へと移動している。ヒョウガは移動しながらこの世界を見回していた。おりの中から見ていた景色とまるで違う。動物園の外は見たことはないが住んでいた世界と今いるこの世界は別物というのは建物を見ればすぐわかる。建物は全て木材かレンガでできていて、ビルといった大型マンションは見当たらない。その風景を一言で表すなら"中世ヨーロッパ,,というのが一番しっくりくる。そんな景色を百八十度見回した後でヒョウガは喋る。
「ここまでくればあいつも追って来ないだろ。しかしなんだったんだろうな〜あいつ。服を着ていないのはダメというのはわかるんだけど、なんで切り掛かってきたんだ?あいつが言ってた"国家聖騎士団,,ってのが関係してんのかな……………。まあいいやそんこと。それより腹減った〜〜。この辺で降りるか」
そしてヒョウガは屋根から飛び降りた。降りたところはまた路地裏だった。今度こそ布があることを期待したが世界はそんな都合の良いようになっていない。また、布はなかった。
「は〜〜」と、ため息をついているとヒョウガの耳に声が聞こえてきた。
「やめてください」
「いいだろちょっとぐらい!俺らとこいよ。今日の夜まで楽しもうぜー……………なあ、兄貴!」
「そうだよな〜弟よ。まあ、拒否っても無理矢理連れてくがな」
声のする方を見ると、いかにも悪いオーラを出してる二人組みの男達が、りんごが入ってるカゴを持ったオレンジ色の長髪で胸が巨乳のエルフ少女をおどしていた。
人間的感覚でこういう場合は男が身がわりになって女の子を助けるというのが当たり前というのはヒョウガはわかっていたが、あいにくそんないい奴じゃない。見捨ててどっかに行こうとした時、ヒョウガは思った。(ここから動いたらまたあの奇声を上げられてあいつがくる。)と。
そして、ヒョウガはまた男達とエルフ少女の方を見た。男達はエルフ少女の手を無理矢理引っ張り連れていってる最中だった。ヒョウガが振り向いて目でその光景を捉えるまでの時間約二秒。
ズガッ!!!!
そのにぶい音とともに二人組みの弟の方が地面に倒れた。一瞬のことだった。振り向いた二秒間から男が倒れるまでの時間は一秒も立っていない。しかし、ヒョウガは移動していた。膝が斜め上を向きながらういている。そして地面に降りる。兄の方が弟が倒れたことに今気づき、ヒョウガに殴りかかろうとしたが気づいたら兄も地面に倒れていた。何が起こったのか?誰もがそう思うがそれは単純なこと。ヒョウガは"チーター人間,,ゆえに足が速い。その足をいかし、振り向いた瞬間に弟の方にヒザ蹴りを顔面に入れ、その後殴りかかってきた兄の方を逆に殴り返した。二人とも勢いのある蹴りとパンチをくらったため気絶していた。
何秒かその場で沈黙はあったが先に声を出したのはヒョウガだった。
「これで服に困らずに済む」
ヒョウガはエルフの少女を助ける為ではなく、服を男達から奪い取るために倒したのだ。そして呆然と立ち尽くす少女の前で男達の弟の方の服を脱がし、ヒョウガは生まれて初めて服を着た。全身ジャージ。それが初めての服だった。服を手に入れたヒョウガはすぐさま振り返り、人がいっぱいいる大通りの方へ歩いていった。
その時、目の前で何が起きたかを今やっと整理できたエルフの少女が声を出す。
「あ、あの!その、あ、ありがとうございました」
ヒョウガは振り返るり、オレンジ色の長髪をなびかせたエルフの少女の方を見る。人間的感覚でその言葉が’お礼,と呼ばれるものだということはわかった。だからヒョウガは言う、
「別に君を助けたわけじゃないよ。その男が着ていた服が欲しかっただけだから」
その言葉を聞き、エルフの少女が言う。
「あの、もしかしてお金がないのですか?その………良かったら助けてくれたお礼に食べものでもおごりましょうか?」
ヒョウガはその言葉の意味を理解していた。だから頭の中で一つの存在が浮かび上がった。
「チーズ食いたい!」
「ええ、いいですよ。それじゃあ行きましょう。……………あ!申し送れました私、サーナ・ミレイアと言います。…………………………あの、あなたは」
「俺はヒョウガ。よろしくサーナ」
そして二人はチーズのある店へ向かい、大通りに出た。
*
この二人の出会いが後に起きる大事件に深く関わっていることは、今は誰も知らないこと。




