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第八話 「異世界の猪」

 

 ◇◆◇◆◇ 




 それでだよ、諸君。


 なんか俺のポンコツ加減について無駄にリフィと話し合っていたんだが、どうにも埒が明かない。ていうか早く森を抜けろよ、まずは歩きだせよ! という声が聞こえてきそうなので、俺も腹をくくることにした。


 まずは当初の予定通り、歩く。ひたすら歩く。《クリエイト:味噌汁》のお陰で食料と飲み水の問題はほぼ解決したと言っていいだろうから、限界まで粘って歩いてみる。最悪この森に土着する構え。なにそれ野蛮。


 そしてスキルポイントは、ステータスの《頑丈》に全部振ることにした。10ポイント使ってレベル3まで上げて、余り2ポイント。なぜ《頑丈》かというと答えは簡単、死にたくないから。


 ――――リフィ曰く、この世界の森と言えば『魔物』と呼ばれる割とガチで凶暴な野生動物が暮らしている可能性が高いのだとか。そんなところで何日も彷徨い歩く覚悟を決めたのだ。戦闘系スキルの無い俺なので、せめて防御力を高めようとね。


 べ、別に魔物の話を聞いてビビって防御過剰にした訳じゃないんだからね! ついでに体力スタミナもつくから歩きまわる上でお得なんだからね!


 《頑丈》レベル3だと、そこらの魔物の攻撃くらいは素手でも受け止められるらしい。なにそれどこの改造人間? リフィはステータスレベル3のことを、『かなり極まった人間。でもまだ人間』と評していた。

 この世界の人間は、化け物のパンチを素手で止めてもまだ人間を辞めていると言わないらしい。ファンタジーってすげぇ。


 あと、気になったのはリフィの防御だけど、こっちは心配いらなかった。なんか固有武装は『不壊属性』なるものが神の加護として与えられているから、痛みは感じても傷つかないんだって。落下の後にピンピンしてたのもそれが理由かよ。

 俺で言う《頑丈》レベルMAXみたいな感じらしい。そういう加護は勇者の方に付けてあげて欲しかったなぁ、と思わないでもない。いや、無いものねだりはよそうか。


 とにかく二人揃って防御面は問題ナシ。

 これでいつ敵がおそって来ても、相手が諦めるまで立っていられる。なにそれ超非暴力主義だわ。俺ってばまじでマハトマ・ガンジー。


 ……真面目な話をすると、《筋力》も上げて物理で応戦も考えたんだけどね。しかし生まれてこの方、喧嘩なんてほとんど経験が無い俺としては、考えが防御優先になるのも仕方が無い話である。ソシャゲでも攻撃パーティーより耐久パーティーを組むタイプだった。


 一応、流行りに乗って空手とか習ってた時期もあったけど……しごきが厳しかったからやめた。あと、剣道もやったことある。高校の授業でな。柔道を犠牲にしてな。

 棒の振り方はまだ何となく覚えてるから、これはもう俺が剣士として才能を開花させる日も近い。


「《剣術》のスキルが最初からスキルの一覧になかった時点でお察しじゃろ」

「……これから鍛えればいいんだよ、これから。その《剣術》? スキルとやらも、そのうち習得できるようになるだろ」

「まあ勇者じゃし、常人よりもスキルを習得しやすいのは確かじゃから、否定はせんがの……」


 なんだその、『でもこいつポンコツだしなぁ』みたいな目は。偉そうにしやがって、そんな反抗的な目をする子はこうです。


「にゅはははは! ちょ、アキト、脇腹はっ! んんっ!」

「くそっ、むだに触り心地がいい……!」


 と、こんな感じで和気あいあいとしながら、俺とリフィは森を進んでいた。


 景色は変わってるんだか変わってないんだかわからない。これで同じ所をぐるぐると歩いてたら最悪だな。


「なかなか森を抜けられんのぅ」

「んー、まあまだ一日目だしな。まぁまぁ歩いたし、そろそろ休憩するか」

「うむ! しかしアキトは《頑丈》を上げてスタミナも上がっておるからよいものの、やはり妾の体力がもたんの……」


 やはりそのロリボディでは長時間の行軍は厳しいらしく、のじゃぁー、と腐葉土にダイブするリフィ。ばっちい。


 一方で、日本では普通の高校生だった俺だが、なんか《頑丈》を上げたお陰で一日ぶっ通しで歩き続けられた。本来ならばあり得ないことなので、やっぱステータスってすげぇ。もうスキルとかチートな固有武装とか無くてもやっていけそう。


 実際、《頑丈》レベル3があるってだけで、そんじょそこらの戦士にも引けをとらない強さらしいし。生半可な剣なら皮膚で止まるレベルという神様のお墨付き。勇者を除けば、ステータスレベル3ってかなり珍しいらしいんだよね。『かなり極まった人間』だし。

 まあでも、勇者として見れば下の下も良いところなんだけど。




 今日は何キロくらい歩いただろうか。出口に向かえてればいいんだけど、奥へ奥へと進んでないかだけ心配。


 魔物との遭遇も、一回あった。灰色の毛並みの猪だった。あんまり魔物! って感じじゃなかったけど、リフィが言ってたから間違いないだろう。サイズは、養豚場の豚くらい。野生の猪としては小柄だが、魔物だけあってなんか凶暴だった。


 突進してきたところを気合いで避けて(避けきれてない)、何度か吹っ飛ばされたり引きずられたりしながらも地道に頭を殴って気絶させた。《頑丈》レベル3の俺に不可能は無かった。

 すげぇよこれ、見えない防弾チョッキを着ているみたいだ。小さめサイズとはいえ、野生の猪に体当たりされても生きてる。ただし……めちゃくちゃ痛いがな!


 突進攻撃だから、衝撃はそのまま通るのだ。内臓や脳も頑丈になっているのか(どういうこっちゃ)、意識を失ったり内臓破裂したりはしなかったが、すごい痛い。あと吹っ飛ぶし、命に別条はなくとも怪我はする。


 当たり前だ、血気盛んにブイブイ言わせた猪さんが、猛スピードでぶつかって来るんだよ? これで痛くなかったら逆に詐欺。

 

 ……いやでも、生半可な剣では傷つかないはずの《頑丈》レベル3をもってして、アザとか裂傷が全身にこさえられてるのはいかがなものなのか。看板に偽りありなんですけど。


『まあ、妾が言ったのはあくまで一般の目安みたいなもんじゃからの。ステータスの恩恵には、実際は個人差があるのじゃ。……それにしたって、《頑丈》がレベル3もあってこんな最下級の魔物相手にボロボロになるのは前代未聞じゃが。ミニボアじゃったよなアレ。……あれ、ホント、才能無さ過ぎじゃろ。ヤバいぞ』


 とはリフィの談。

 てかなんだ、ミニボアって。くっそ弱そうな名前しやがって。野生どころか人間に飼い慣らされてても驚かねぇよ。

 そんなんと割りと互角にやり合うゆうしゃって一体……。


 どうやら同じステータスレベルでも、個人によってその効果の程はピンキリらしい。効果には個人差がありますとか、化粧品じゃねーんだぞ。

 そして俺には、《頑丈》ステータスに関する才能が圧倒的に無いらしい。


 マジかよ、能力値割り振りミスったな……いや逆に考えるんだ、《頑丈》をレベル3上げていなければ、今日のうちにミニボアに轢かれてお陀仏だったと考えるんだ。

 ……良かったぁ、魔物にビビって防御力過剰気味にポイント突っ込んどいて良かったぁ……! 生きてるって素晴らしい……!


 これが、ズルをして身の丈に合わないステータスを手に入れた凡人の限界ということなのだろうか。でも、途中で痛みに負けてギブアップしなかっただけ褒めて欲しい。オラ、褒めろよリフィオラァ! なんでそんなに深刻そうな顔してんだよオラァ!


「が、頑張ったのじゃアキト! 凄いのじゃ! かっこいい!」


 むなしい。リフィの優しさがつらい。

 他の勇者みたいに、魔法とかでもっとお手軽に強くなりたいです……。結局あんだけ頑張って、レベルアップもしなかったし。取得可能スキルは一個発現したけど。


 この先の異世界生活、とても不安なんだけど。というか、まず森を抜けられるのか。待て次回!




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