第七話 「勇者適正」
「……で、肝心のスキルポイントなんだけど。一体何に使えばいいんだ。《森脱出》とかいうスキルがあったりすんの?」
「そんなピンポイントかつ地味なスキルは有る訳無いのじゃ……『新しくスキルを習得する』という文字をタッチすれば、現在の取得可能スキルが表示されるのじゃ」
言われた通り、残りスキルポイントの下の文字をタッチ。
「とりあえず、勇者専用スキルは取っておいて損はないの」
なにそれ強そう。
みれば、リストの一番上にそれっぽいスキルが三つ並んでいた。……というか、それを除くと取得可能スキルが一つしかないんだけど。最初はこんなもんなの? やっぱりスキルに応じた行動とかをしていくことによって、取得可能スキルが増えていったりするのだろうか。
勇者専用スキルは、この三つである。
《異世界言語習得》1
(【勇者専用スキル・常時発動型スキル】これさえあれば通訳いらず。1種類までの異世界の言語を見聞きするだけで習得する。レベルが上がると、習得できる言語の数が増える)
《アイテムストレージ》1
(【勇者専用スキル・任意発動型スキル】旅のお供に便利な収納。押し入れ1つ分のスペースを持つ異次元収納を生成する。レベルが上がると、収納スペースが広くなる)
《ブレイブシンボル》1
(【勇者専用スキル・条件発動型スキル】運命を切り開く勇者の証。危機に瀕した時、スキルポイントを4ポイント取得する。一日一回まで発動可能。レベルが上がると、取得できるスキルポイントが増える)
なるほど……なるほど? 一番下とか、超物騒なんですけど。なんだよ危機に瀕した時って。確かに、レベルアップ以外でもスキルポイントが増えるなら取っといて損は無いかもしれないけど、これがデフォルト搭載とか勇者の運命過酷すぎだろ……。
しかし折角オススメされたし、三つとも一レベルずつ取得する。
なんだか体の奥から力が溢れてくるような……こないような。
これで残りスキルポイントは14ポイントだ。
「よし、全部1レベルずつ取ったぞ」
「うむ……あ、《マジックマスタリー》だけは2レベルまで取るといいのじゃ。取得可能スキルに、中級風魔法スキルで《フライ》が出現するようになるはずじゃからの。それで森なんぞひとっ飛びなのじゃ!」
これが一番早いと思いますと言わんばかりに、手でびゅーんと何かしらの飛行物体を真似するリフィ。
「え?」
「のじゃ?」
……え?
思わず取得可能スキル欄をまじまじと見つめる。
今さっき勇者専用スキル――《異世界言語習得》《アイテムストレージ》《ブレイブシンボル》をすべて取った。今そこに残っているスキルは一つだけだ。勿論、《マジックマスタリー》などという勇者専用スキルではない。
「えっと、リフィ」
「のじゃ?」
「大変言いにくいんだど……」
「なんじゃ、勿体をつけおって」
「……そんなスキル、存在しない件について」
リフィは、俺がまるで未知の言語を喋ったかのように目をぱちくりさせ、やがてその瞳が徐々に理解の色に染まっていった。
「のじゃぁぁあっ!?」
本日二度目の、ロリブリッジ建設の瞬間であった。
……もうやだこの世界。やる気メーターぐんぐん下降中だわ。
どうやら俺は、勇者専用スキルだなんて最高に勇者してる物すら、満足に覚えられないらしい。俺のステータスに書いてあるクラスは、飾りかなんかなの?
そして、まじでなんだよ《マジックマスタリー》って。名前的に魔法とか超使えそう。ていうか俺も魔法使いたい。今んところ戦闘系っぽいスキルが皆無なんだけど。残ったもう一つのスキルも、見るからに戦闘向きではないし。ていうかなんだこれ。
「うそじゃろ……《マジックマスタリー》は、全ての魔法が扱えるようになる勇者専用の強スキルなのじゃ。歴代の勇者も、このスキルのおかげで並みいる魔物をばっさばさと倒したと聞くのじゃ」
「うわすげー他人事」
「アキトのせいで、まじで他人事じゃからな」
「むむう」
反論できない。なんなの? そんなに俺をいじめて楽しいかこら。
「……なあ、そのスキルが無いと、もしかして魔法って使えないのか?」
「魔法の才能は、先天的なものじゃからの。今アキトの取得可能スキル欄に、《なんちゃら属性魔法》というスキルが無ければもうムリじゃ。だからこそ勇者専用スキルに《マジックマスタリー》があるのじゃよ? 魔法の才能が無くとも、神の加護によって後天的に扱えるようにの」
なん……だと。
「俺、ファイアボールとか撃ってみたかったんだけど」
「諦めるのじゃ。この世界の魔法は才能とチートが全てなのじゃ」
「なんてファンタジー世界だ。俺に優しくない」
さよなら俺の魔道士ライフ。実は俺、結構魔法とか憧れてたクチだったのに……。ひそかに異世界行ったらやってみたいことランキングの第二位に『魔法を使う』ってあったのに……。ちなみに第一位は『ドラゴンを倒す』だ。この調子だと逆立ちしたって無理そうだけど。
しかし、まいったな。リフィとしてもあてが外れてしまったようで、本格的に脱出の手段が……。もうあれか? 《敏捷》に残りポイント全振りして、風となってひたすらBダッシュでもするか? あるいは《幸運》に振って、スムーズに森から出られることを祈るか……うーむ。
リフィは『うにゅむむむー』と頭を捻っている。どうやら俺がポンコツ勇者なせいで、ようやく真面目に脱出について考え始めたらしい。ごめんねポンコツで。
「む! そういえばアキト、他の取得可能スキルはどうなのじゃ? こう見えても妾は神様じゃからの。スキル名さえ分かれば、有用な活用方法を思いつくかもしれん。言ってみるのじゃ」
ほう、それは頼もしいな。
「まず、今取ったスキルは、勇者専用スキルの《異世界言語習得》《アイテムストレージ》《ブレイブシンボル》だ」
「……のじゃ? 《ユニークマスタリー》と《万能鑑定》は?」
「え?」
「あ、いや、何でもないのじゃ」
今なんか、更なる衝撃の事実が語られた気がする。
気がするが、そこに深く突っ込むと俺の心が大ダメージを負いそうなので、スルーする。スルーするんだからねっ!
「あと、その。残ってるスキルが一個で、有用な活用方法っていうか、本当に名前そのままな効果のスキルなんだけど」
俺は残り一つの取得可能スキルに目を落とす。
《マジックマスタリー》の件は本当に残念だが、これがあれば少なくとも飢える心配はないのかもしれない。ははは、はは……。
《クリエイト:味噌汁》1
(【固有武装スキル・任意発動型スキル】いつもあったか家庭の味。鍋に入った出来たての味噌汁を創造する。レベルが上がると、より豪華なものが創造される)
戦闘スキルではないことは確か。
「あ、ある意味これも、生産チートと呼べるのか……?」
「味噌汁作ってどうやって魔王と戦えっちゅーんじゃ!!」
リフィがキレた。
これ以外にもうスキルは無いと言うと、今度は泣きだした。
「うわぁぁん! なんてことじゃ……思った以上にアキトの勇者適正が低いのじゃぁ!」
「おう泣きながら俺をディスのをやめろよ」
「妾の勇者が使えねぇのじゃぁぁ!」
「おいやめろ。本当にやめろ。手が出るぞ」
俺まで泣きたくなってしまう。泣きながら必殺の腹パンがリフィのボディーを捉えるぞ。
っていうかなんだよ、《クリエイト:味噌汁》って。もうどういうスキルだよ。レベル上げると味噌汁が豪華になるとかどういうシステムだよ。どこまで俺を馬鹿にすれば気が済むんだこの世界は。もうちょっと、俺に優しくても良いと思います。
しかも固有武装スキルってもしかして、本来チート級武器に付属するようなチート級スキルなんじゃないの? 違うの?
「……その通りなのじゃ。固有武装スキルとは本来、固有武装の力を更に引き出したり、その力を勇者に上乗せしたりするスキルなのじゃ……」
ずぴー、と鼻を鳴らしながら、泣いてもどうしようもないと悟ったらしいリフィが言う。懸命な判断だ。
固有武装スキルとは、固有武装のレベルが一定以上(基本は10の倍数)になるごとに増えていくもので、レベル1の状態だと最も基本となるスキルが一つ発現するのだとか。それでも、例えば魔剣の勇者ならば一撃で下級ドラゴンくらい倒せるような技が発現するのだとか。
「味噌汁作んのが得意なリフィの力が俺に上乗せされると、俺が手から味噌汁出せるようになんの?」
「うぐっ……ま、まあ妾の味噌汁は絶品じゃからな!」
そんなもん実際にリフィに作ってもらわないと意味ねぇだろうが! 男が手から味噌汁出して何が嬉しいんだよ!
「神様なんだし、神様の素敵パワーの一部が使えたりするんじゃねぇの?」
「……こ、固有武装のレベルが上がればあるいは……」
だんだんしどろもどろになっていくリフィ。確かに俺がポンコツなのも悪いかもしれないよ? でもさ、リフィも大概だよね。女神なのにこの役立たず感とか、大概残念なハズレ女神だよね。
「リフィのレベル上げるのに必要なスキルポイント、いくつだか知ってる?」
「……5とか? 平均的な固有武装はそのくらいなのじゃが……」
「10だよ馬鹿野郎!」
「ひっ」
無駄にレベル上げにポイント食いやがって! 性能に見合って無さすぎだろ!
次に固有武装スキルを覚える10レベルまで、90ポイント必要なのである。今ある14ポイントも全てつぎ込んだとしても、その頃には俺は77レベル。なんならもうエンディング終わってるレベル。というかロリ駄女神だけにポイント突っ込んでも俺が強くならないから、そもそもレベル上げできない不具合。他のところに他のモノ突っ込んでやろうかファッキン。
いやまぁ、平均的なポイントである5もまぁまぁ高い感じはするけども。ひょっとしてリフィがぼそっと漏らした《ユニークマスタリー》って、その辺を緩和するスキルだったりして……ハハ、まさかな。
「で、リフィさんや。この《クリエイト:味噌汁》を有効活用して、森から脱出する算段は立ちましたか」
「……パン屑の代わりに、味噌汁をこぼして道しるべにするとか?」
ヘンゼルとグレーテルじゃねえんだぞ。むしろ俺がグレちゃうぞ。というかそれ、脱出手段じゃないじゃん。
「……今のボケはいまいちじゃったの」
「小声で酷評するなよ」
――でも結局、話し合った結果《クリエイト:味噌汁》は食料として使えるので取っておこうということになりました。
創造系スキル? とかいってめっちゃ魔力を使うから、乱発はできないらしいけど。まじ使えねぇな。
ちなみに魔力とはMP、マジックポイント的なあれだ。時間経過で回復する不思議な力だ。勇者の魔力量は総じて多いらしいけど、適正の低い俺はどうなんだろうか。まさか《クリエイト:味噌汁》一回分も無いなんてことにはならないって信じてる。
ここにきて俺の中の勇者な部分は急速に支持率低下してるけど、それでも信じてる。頼むぞ……!