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第五話 「スキルポイント」

 


 魔王なんか目じゃないぜ。俺は自由に生きるんだ。by夏村秋人。


 そうと決まれば、とりあえず拠点となる街を見つけないとな。村じゃ駄目だ。なんか不便そうだし。あと出会いも少なそう。やっぱ異世界来たからには、ケモミミ少女とかエルフとか奴隷とかメイドとか女騎士とか、そういうファンタジーチックな人達とお近づきになりたいよね。なんならそっちがメインで魔王討伐とかホントどうでもいいレベル。


「……その考えはどうかと思うのじゃ……」


「うお、なんだリフィ。力を封印したとか言うくせに、俺の考えは読めるのかよ」


 思わぬ合いの手にちょっとびっくり。


「おそらくアキト限定じゃが、意識すれば読めるのじゃ。アキトの固有武装だからかの?」

「ふーん」

「あと、アキトに思念を送ることもできるようじゃ。念話というやつじゃの。ツーカーの仲なのじゃ!」

「ほーん」


 まあ別に、こんな見た目ちんちくりんに考えを読まれたところでどうってことないけど。勿論、定期的に卑猥な妄想をしてやろうとか考えてすらいない。


「じゃあリフィ、とりあえず森を抜けようか。なるべく急いで」

「そうじゃの……あと、ちんちくりんは事実じゃが、ひ、卑猥な妄想は勘弁して欲しいのじゃ……」


 何を想像したのか赤くなるリフィ。

 ははは、当たり前じゃないか。俺は紳士の中の紳士だからな。


「すごい信用性のなさじゃの!」

「いちいち反応すんなよ、体力もたないぞ。スルースキル鍛えとけ」

「うぬぬぬ……」


 だいたい失敬な……この紳士のどこが信用ならないと申されるか。


 興奮するリフィを尻目に、立ち上がって辺りの木々を見渡す。まあ冗談はともかく、こんなところからは一刻もはやくおさらばしないといけないからな。


 俺の今の着衣は制服(ブレザータイプ、落下の衝撃その他で汚れてる)で、手持ちはポケットの中に入っていた飴ちゃん(イチゴ味)のみだ。むしゃくしゃしたのでそのまま取り出して食べた。これで手持ちは本当にすっからかんだぜ。

 リフィに拉致られた時に、その他の荷物を詰めた鞄は落っことしてきてしまったのだ。

 つまり、森を抜けるのに何日もかかるようだと……まちがいなく、餓死する。鞄の中には予備の飴の袋も入ってたんだけどなぁ。


 その辺の草を食べようにも、どれが毒かわかったもんじゃないし。

 狩りをして動物の肉を得ようにも、猟師でもないのに都合よく獲物が獲れるはずがない。そもそも道具がない。

 株を守りて兎を待つにしても、やっぱりナイフくらいは無いと捌けないし、火を通そうにもライターやマッチの持ち合せがない。

 最悪虫でも食べようかと思っても、やっぱり毒の問題が付きまとうし、生理的に無理。


 ないないづくしで絶体絶命大ピンチ。あ、飲料水の問題もあるか。

 更にはナチュラルに狩る側の視点で考えてたけど、狩られる側になる可能性もゼロではない。こんな森の中だし、熊さんとかに出会いそう。この世界の熊が、貝殻のイヤリングをダッシュで届けてくれたりする優しい奴ならいいんだけどね。


 こんなことなら地球でサバイバルレッスンでも受けとくんだった。ラノベとかに出てくるチート主人公なら、なんだかんだでサバイバル経験があったりして、この状況を涼しい顔で切り抜けられるんだろうけど。


 やはり俺は主人公の器ではないということなのか。悲しいけどこれ、現実なのよね。俺一人では、よくある木と木の摩擦熱で火を起こすような、簡単なことさえ成功しそうにない。まああれ実際の状況だと、滅茶苦茶難しいらしいけど。とくにこんな湿気の多い森の中だと。


 ふぅ……まあ、こうやってごちゃごちゃ考えても何も解決しないということが分かった所で、さっさと歩きだすとしますか。日が出ているうち距離を稼いでおきたい。


「とりま適当な方向に歩こうか。森を出られることを願ってな」


 適当な方向、これ重要な。今後の俺達の命運を決める、一番最初の方向決め。今、俺の運が試されている。……ここは古典的に、棒倒しとかで決めるべきだろうか。


 俺が手ごろな枝を探してキョロキョロしていると、リフィは何の悩みもなさそうな締まりのない顔で、ご機嫌だ。おいおい神様、あんたここで死ぬかもしれないのよ? まあ神様が死ぬかどうかは分からんけど。でも、もっと緊張感をだな……。

 流石に苦言を呈して、今後の方針のすり合わせを行おうと思っていると、リフィはあっけらかんとした表情でこんなことをのたまった。


「まあ、お主は勇者じゃしな。スキルポイントを使えば、この程度の森から出ることなど容易いじゃろ」


 容易い……えっ、何が容易いって? さっき俺がわりと絶望的だなぁとか考えたこの状況が?


 なんですかスキルポイントって。


 俺、初耳。


「ん? どうしたのじゃ、固まって。はっ、もしかして、やはり傷が痛むのか!?」

「いや傷はもういいんだ、ほっとけば治るから。それについて言及するターンはもう終わったんだ。そうじゃなくて、何、スキルポイントって。俺そんなの説明受けてないよ」

「のじゃ? 言っておらんかったかの?」

「超・初・耳!」


 きょとんとした顔のリフィに、大声で告げてやる。


「むぅ、それは悪かったのじゃ。どうやらアキトと下界に降りられるのが嬉しくて、本来説明するべきことをいろいろと端折って召喚要請に応じてしまったようなのじゃ」


 なんだこのドジっ娘神様。てへっと小さく舌を出す様子がうざ可愛い。俺のいままでの現実を見据えたスーパー的確な状況対処は一体……。まあ何一つ行動はしてないけど。

 尻を一撫でするだけで許してあげる俺、超紳士。


「ひゃぁあん! ア、アキト……そういうことは、その、もっとお互いをよく知った上でじゃな……あっ別に嫌という訳でないのじゃが、やはり段階というものが、」

「早くスキルポイントについて説明しろよオラァ!」

「は、はいっ!」


 この神様は悶えだすと後が長い。強制的に終わらせて、さっさとスキルポイントとやらについて話させることにした。が、頬を若干染めている。これはこれで喜んでいる風なあたり、このロリ神様はマゾ適正もあるらしい。なんだこいつ。


「ええっと、スキルポイントシステムというのはじゃな。勇者だけに与えられた特権というか、これも一種の神の加護とも言うべきシステムでの。『クラスレベル』を上げることによって手に入れたスキルポイントにより、通常なら習得に時間のかかるような技術を、一瞬で身に付けることができるのじゃ」


 ああ、育成ゲーム的なね。そういう設定の小説も読んだことあるし、理解は容易い。クラスレベルというのが、キャラクターLv表記に相当するのだろう。それを上げることによってスキルポイントを手に入れ、それこそゲームのようにお手軽に強くなれると言うわけだ。


 いいじゃんいいじゃん。これなら別にチートが無くたって、十分やっていける気がする。勇者とはかくも素晴らしき存在である。だからって積極的に魔王を倒そうとはならないけど。それとこれとはお話が違う。


「『ステータスオープン』と念じれば、スキルポイントを使うための仮想ウインドウが現れるのじゃ。お主にしか見えぬから、他の人間の目がある所などでは、気を付けるのじゃぞ」


 ああ、そうね。何も無い虚空を見つめてニヤニヤしてたら、頭のおかしい人だと思われちゃうからね。気に留めておくことにしよう。


 それじゃあいよいよ、俺のステータスを見てみるか。仮にも勇者のステータスである。どんな感じになってるのか、今からわくわくが止まらないぜ。




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