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第四十二話 「ミノムシ」

 



 ――――リフィが俺に教えてくれたことは、じつにシンプルだった。


 いわく、スキルには『発動させるための魔力量』が決められているのだが、それ以上の魔力を注ぐと、スキルの効果は増すのだとか。


『……無理をゴリ押しして道理を叩き潰すような鬼畜の所業じゃが』


 と前置きをしてから、リフィは言った。

 オイそれどんだけ無茶な方法!?


『ちょっとでも属性を持ってる生活魔法相当のスキルに、本来ならあり得ないくらいの魔力を注ぎ込んで発動するのじゃ。余剰に注がれた分の魔力を消費しようとして、スキルはその効果を大きくする……それを属性付きのスキルでやると、たぶん精霊の領分に強引に割って入って、属性魔法っぽい感じになるはずじゃ。……どうじゃ、妾天才じゃろ? ふっふっふ、なにせ女神じゃからの。スキルのこともスクールでちゃんと勉強したからの! 褒めて褒めてなのじゃ!』


 ということらしい。あ、最後のところいらなかったな。っていうか、スクールってなんだ。神様になるにはスクールに通わないといけないのか。きちんと講習を受けてリフィはコレなのか。カリキュラム見直した方がいいぞ。


 ……神様スクールのことは一旦置いておこう。

 スキルの増幅に話を戻すと、この方法には欠点があって、それは効率がめちゃくちゃ悪いということだった。


 例えば、発動に必要な分の二倍量の魔力を注いでも、効果が二倍になることはない。せいぜい5%増しとか、そんな程度の話らしい。

 魔力を注いだ分だけスキルの効果は増す。ただし、注いだ魔力に見合う効果が得られるとは言ってない。おう、詐欺かな?


『《クリエイト:味噌汁》一回分くらいの魔力を込めれば、《静電気》のようなクソ雑魚スキルでも、下級の雷属性魔法くらいの威力は出るじゃろ。本来なら勇者一人分の魔力を使って下級魔法を撃つんじゃから、魔力の無駄使いも甚だしいがの……』


 ……うん、素晴らしく効率が悪い。効率っていうかもはや頭が悪い。


 ただ、そんな頭の悪い解決方法も、俺の無駄に有り余った魔力と合わせれば、ほんのり良い感じに見えるって寸法である。実際、普通の勇者一人分の魔力なんて俺にとっては『ほんの少し』レベルの量なのだ。


 改めて、自分の魔力量が怖い。なんだこれ、チートすぎるだろ。そしてどうしてここまで魔力チートのお膳立てがされているのに、肝心の魔法の才能が皆無だったのか。ありえん。


『ごっめ、ウチの不手際だったわぁ』とか言って神様が夢枕に降りて来て、お詫びにすんごいチートを貰える展開はよ。




 そんな訳で、なんか強引に魔法(っぽいもの)を使って、俺は無事嫉妬の炎に焼かれた親父さんを撃退することに成功したのだった。


 こうなるとアレだな、絶対にいらないだろと思っていた《種火》とかいうスキルも、俄然欲しくなってくる。ファイアボール来るだろこれ。どうすれば発現するだろうか。木の板に木の棒を突き立てて、シャリシャリ回せばいいだろうか。


 ちなみに。効率は悪いとはいえ、理論上は魔力を込めれば込めるだけ威力が上がるので、俺の海のような莫大な魔力量をもってすれば世界最強の一撃とか打てるんじゃね? と思うじゃん。

 しかし、魔力を過剰に注ぐには今回のように、魔力を放出点うでに意図的に集める必要があるらしい。


 そして、今の俺が一度に集められる体内の魔力は、およそ味噌汁十杯分であった。

 実際に限界まで集めてみて『そのくらいかな?』と感じた程度のもになので、あまりあてにならないかもしれないが、まあ大きく間違ってはいないと思う。それ以上集めようとしても、魔力が腕から逃げていくみたいで無理だった。


 《静電気》の威力に換算すると、"下級魔法の"上位程度の威力になるようで、とてもじゃないが最強タグは付けられなかった。……いくらなんでも、上がり幅渋すぎませんかねぇ。

 幸いにも、訓練によって一度に集められる魔力量は増やせるのだけれど、高威力を得ようとするほど集めなければいけない魔力は爆発的に増えるとのことで、果たして俺に最強タグが付く日はくるのだろうか……。いやもう、いいけどさ……いいんだけどさぁ(半ギレ)。



「おーいアキト。とりあえずステラが持ってきた荒縄でおっさんを縛ったのじゃ。これ、どうするのじゃ?」

「目を覚ますまで放置かな。ついでに椅子に括り付けとけ」

「あいあいさーなのじゃ」


 親父さんをミノムシにする作業を、リフィとステラちゃんがやっている。なんだかステラちゃんの手際がすごく良くて、この宿の闇のようなものを感じた。おい、それ、毎回やってるんじゃないだろうな。


 なお、ロゼは親父さんを鋭利な物で刺そうとするので、俺の膝の上に隔離してある。良い感じに尖った木の破片とか、たぶん親父さんが暴れたお陰でどっかしら壊れたんだろう。

 自分で自分の店を壊すとか、クレイジーだよな。なんのためらいもなくそれを手に取るうちの奴隷ちゃんも、なかなかクレイジーだけど。


「……よし、こんなもんですかね」


 良心の呵責が一切ないプロの表情で、縄のチェックをしていたステラちゃん。ふー、と汗を拭うような仕草をしたのを見るに、どうやら縛り終えたらしい。


「……おう、思った以上にミノムシ」

「お父さん馬鹿力なので、このくらいぐるぐるにしないと引きちぎっちゃうんです」

「手負いの熊かなんかなの、ステラちゃんの親父さん」


 えぇ……俺、荒縄引きちぎっちゃうような人に殴られてたのかよ。こっわ。よく無事だったな。


 と、俺が生きることの喜びを実感していると、宿の奥の方からカタンと何か音がした。さっき逃げた客が戻ってきたのか? 

 目の前の見苦しいミノムシオブジェから目を反らして、そちらを向くと……


「……ブレンダンさん、さっきから騒がしい。一体何事……、え?」


 宿側のスペースとしてカウンターで仕切られた、その奥の扉。この宿が飲食店を兼ねていることを考えると、厨房に続くであろうその扉から、億劫そうな声を出しつつ、緑髪の美少女が出てきた。


 年齢的には、おそらく俺と同じくらいだろう。

 声の調子はかなりダウナー系。緑色のショートヘアーはあちこち跳ねていて寝ぐせ感まる出しで、彼女が身だしなみにあまり頓着しない性格であることが窺えた。しかし、それでも俺の目はごまかせない。これは、滅多にお目にかかれない美人さんだ。


 眠たげに細められた紫紺の瞳は、よく見れば大きくて形もいい。すっと通った鼻梁と薄い唇は、怜悧な美しさを演出している。きめ細やかな肌はミルク色をしており、仮に手入れをしていなくてこれならば奇跡と呼ぶべきだろう。すらっとした体型も合わせて、地球ならばモデルで荒稼ぎできそうな子である。

 特定の一部分もすらっとしているが、そこは個人の好みもある。ちなみに俺は大きくても小さくても大好きです。


 属性を付けるなら、ジト目・クール・スレンダーといったところか。うーむ、実にいい。


 ベージュのエプロンを付けたその子は、まず初めに俺を見た。「どうも」と頭を下げておく。

 次に、リフィ達を見た。ステラちゃんが、ちいさく手を振る。

 最後に、その奥に飾られている荒縄の塊と、滅茶苦茶になったテーブルや椅子の惨状を見た。


 そして、半眼だった目をますます細めて、一言。


「……なんだ、ブレンダンさんのせいか」


 ブレンダンとはきっと、親父さんの名前だ。

 実に状況把握能力に優れたジト目美少女だった。

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