第四十話 「Typical親バカ」
お察しの通りストックが切れたので、週一、二回更新くらいにしようかと思ってます。もっと伸びるかも。ストック切れるとホントに貧弱だからね私の更新頻度……。
◇◆◇◆◇
ステラちゃんに案内された宿は、ギルドから歩いてすぐの場所にあった。外観は確かに、小奇麗な感じだ。あまり大きくも無いが、さっぱりしていて良いと思う。窓の位置を見る限り、二階建てだろう。
店に入ると、一階部分はまるまる食堂みたいになっていた。天井が高く、なんだかプチセレブな感じが漂う。『昼間は普通にお食事屋さんになっててですね、むしろそっちの方が評判いいかもです』とはステラちゃんの談。
数人、席に座って食事を取っている。根性がありそうかと言われると、あるようにも見えるし、無いようにも見える。要するにわからん。しかし、冒険者風だが女性客が多いように見受けられるな。あと男でも、パートナーがいる人が多数。なんだこのリア充の巣窟。
「お父さん、ただいまですー! お客さん連れてきたです!」
「おお。お帰り、ステラ」
奥(位置からして多分厨房になってるんだろう)から出てきたステラちゃんのお父さんは、板前みたいな恰好をした、白髪の混じり始めた厳しい顔つきの男性だった。かなり逞しい身体付きをしている。宿屋の親父って、こんな迫力あったっけ。
娘に掛ける声音は優しいが、続いて俺達に向けられる視線は元来の厳しさを帯びていた。ぶっちゃけ恐い。
「ステラが連れてきたお客さんってのは――――オイ貴様ァ、うちの娘とどォいう関係だァ!! あァん?」
ステラちゃんの紹介によって俺と目があった親父さんは、一瞬で今までの三倍くらい恐い顔になった。なんなの? オーガかなんかなの?
ギラン! と親父さんの眼光が鋭く光り、肩を怒らせながらドスドスとこちらへやってくる。威圧感が半端ない。
え、ここ宿屋だよね? そういう事務所ではないですよね? なんでいきなり恫喝されてんの俺。
「ちょ、お父さん! 違うです! 今日ギルドに入ったばかりの新人さんです! ここのところ宿がどこも満室ですから、うちに連れてきただけのただのお客さんです! やましいことなんて……これっぽっちも……ない、です……ぽっ」
「ぶるぁぁあああああ!! 許さんぞぉぉぉおお!!」
おい後半。頬を染めるなステラちゃん。可愛いけどそれじゃ火に油を注ぐようなものである。
ステラちゃんのあざとい反応を受け、野性動物のようにうなり声をあげるモンスター、もとい宿屋の親父さん。彼はどうやら、ステラちゃんのことを大事にしすぎるあまり、悪い虫候補に対して非常に高い敵性値を持っているらしかった。いわゆる親バカというやつだな。
ふっ、俺がイケメン力を高め過ぎたがゆえに起きた悲劇か……
……となんだか黄昏た気分で父子を見ていたと思ったら、次の瞬間には俺は宿の壁に叩きつけられていた。
――何が起きたかわからねーと思うが、マジで俺も何も分からなかった。
「ッかは!?」
「ご主人様!?」
「アキト!」
一拍遅れてやってくる尋常じゃない腹の痛み。
そして壁に背骨がクリーンヒット。
……超いってぇぇ!? ゴリってきた、ゴリって!
脊椎損傷したかもしんない。シャレになんねぇぞ、まだ自己回復系のスキルとか無いんだからな!?
下を向くと、腹部のところで淡い光の壁のようなものが消えていくところだった。蜘蛛糸Tシャツ、ミスリルシャツ、蜘蛛糸パーカーという三重の魔導服に付与された『防壁』の魔法が発動したのだろう。初めて効果を発揮するのが宿屋とか意味分からん。……おぇぇ……吐きそう。
壁からずりおちて、身体の両面の痛みで床をゴロゴロしていると、なんとなく状況が飲みこめてきた。……これあれだ、きっと、いわゆる親バカの暴走ってやつだ。おそらく嫉妬に狂う親父さんに腹パンされて、俺は宿の壁まで吹っ飛ばされたのだ。その証拠に、彼は拳を放った体勢で残心を取っている。
ロゼが慌てて駆けよってきて、お腹をさすさすしてくれた。犬耳が心配気に揺れている。
「あ、ありがとう、ロゼ」
「大丈夫ですか!? 大丈夫ですかご主人様!?」
「ロゼのご主人様は丈夫だからね。余裕余裕……それより、ちょっと危ないから下がっててな」
「……ご主人様が、そうおっしゃるのなら、良いのですが……あの店主、どうしてくれましょう」
前髪に隠されたロゼの青い瞳が、親父さんを睨んで冷たく光った気がした。うっすらと、物理的な寒気さえ感じる。なんなの、勇者である俺より先にロゼが覚醒イベントとか起こしそうな勢い。
「どうもしないでいいからね!? 下がってなさい」
「……はい」
厳命して、ロゼを下がらせる。
三重の『防壁』が役に立ったのだろう、深刻なダメージは貰っていなかったようで、早くも痛みが引いてきた。お腹がへこんで前よりスリム体型になってないかしらと思いながら、立ち上がる。ありがとう店員さん、あんたやっぱ良い仕事してた。
吐き気は収まらないし、やっぱりまだ痛いけど、立って話すことはできる。
『お、おい、本当に大丈夫かの? めっちゃ派手にふっ飛ばされておったが』
『防壁』の他に、《頑丈》レベル3も無かったらマジでやばかったかもしれん。内臓とか軽くイッてた。でも大丈夫! 勇者製のステータスだよ! ……ミニボアにいいようにされる程度のステータスだが。リフィの今夜の軽ヒールには期待してる。
ぱんぱんと、服についた汚れを払う。
……あーあ、買ったばっかの服が汚れちゃったよ。新品の服を汚すと、なんか落ち込むよな。白を買ってこないでよかった。
「いってて……おい親父さん、洒落ならねーぞ今のは。俺じゃなかったら死んでた」
そして俺でも死にかけた。
「貴様ァ……確実に殺したつもりだが、何故立っている。それに今の感触……おかしい。たとえ魔導服を纏っていたとしても、儂の拳は鎧をも破る。スキルを使っていないとはいえ、並の人間なら一撃必殺のはずだが……」
「やめろよ……さらっと殺したとか必殺とか言うのやめろよ……客商売だろあんた」
羅刹のような眼光で俺を睨む親父さん。あっ、他の客がそそくさと階段を上がり始めた。避難しやがったぞ。
「お父さん、なにやってるですか!? やめてください、一度冷静になるですよこの馬鹿!」
ステラちゃんから叱責が飛ぶ。が、これの原因の何割かは君にある気がする……いや、子は親をえらべないのだ。ここでステラちゃんを責めるのはよそう。
「む……ステラがそう言うのなら、拳を収めないこともない」
可愛い娘からの言葉に、わりとすんなり耳を貸す親父さん。瞬時に構えを解く。自分の意志ぐらぐらだな。情緒不安定かよ。
しかし、これ以上の事態に発展しなくてよかった……
「だが、ステラを誑かす男が迷宮都市に湧いた以上、こんなところで宿なんてやってられるかァ! 儂は店をたたんで、ステラと一緒に夜逃げするぞォ!」
「馬鹿かあんた!」
「やめてお父さん、私の生活も巻き添えになってるですよ!? ほんとに馬鹿ですか!? 三代続いてるお宿ですよ!?」
「そうだぞ、それに俺とステラちゃ……さんはそんな関係では無くて、」
「むゥ……ステラがそう言うのなら――――ハァッ!!」
瞬間、親父さんの姿がぶれた。
いや違う、高速で俺に迫って来たんだ。
そしてそのまま、堅く握りこんだ拳を、今度は顔目掛けて打ち放つ!
「ならばやはり、こいつをこのまま滅するまでだァ! 《撃応拳》!」
思考ルーチンが最所に戻っちゃったよ! あんたの脳内メモリ容量8bitくらいしかないのか!
というか、ちょっと弁解させてほしい。取りあえず、顔はやめてください顔は。
……とか言う暇もなく、もちろんちょっと人より頑丈なだけの俺に、その神速の拳を避ける技術がある訳もなし。殴られる前にスキル名を叫ぶのが精一杯だった。助けて《スーパーアーマー》っ!
――ばっごーん、と景気の良い音を立てて、頬を衝撃が襲った。
さっき相手も攻撃スキルっぽいのを叫んでたからか、拳の威力が激増してる。
重心を崩されて、漫画のようにくるくる回りながら再びふっ飛ばされる俺。壁に激突。やあ、さっきぶりだな、壁。
……とでも、なると思ったか馬鹿め!
「きゃぁぁあああああ!?」
ステラちゃんの悲鳴が宿中に響き渡った。
リフィも頬を引きつらせ、ロゼは凄い目つきで親父さんを睨んでいる。
そして親父さんは、殴られてもビクとも動かない俺に目を見開いていた。
不敵にニヤリとしてやる。《スーパーアーマー》の、ノックバック無効効果だ。
……でもこれ、良く考えたら、衝撃が抜けていかない分、辛くね……。
すぅぅぅう。
いってぇぇえええ!!! 顔いってぇぇえええ!!!
ほっぺたちゃんと付いてるかな!? 取れてない!? アタッチメント式になったりしてない!?
またもゴロゴロする俺。くそぅ、顔面にもなんか防具を付けとくべきだったか。アイスホッケーのマスクみたいな。十三日の金曜日とかに出没しそうなスタイルにしとけばよかった。
折角全然大したことないですよ的な演出しようと思ったのに! ダメじゃん! 大したことあるわボケ!
『大丈夫じゃ、傍目には損傷ゼロじゃぞ。……攻撃スキルを使っていたようじゃが、攻撃力はゴブリンキング以下じゃな。いけるぞ』
そ、そうか、よかった……いや待て、宿屋の親父がゴブリンキング以下の攻撃力なことを、そんなさも重要そうな情報みたいに言われても。
なんか、反応に困る。いけるってなんだ……。




