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第三十八話 「(美少女)」



 リフィのまさかの一発合格に、ステラちゃんはものすごい納得いかなそうな顔で、何回も《能力測定》を使っていた。あんなにピカピカ瞳を光らせて、眩しくないのかしらん。


 でも、俺がにっこり笑いながら手を取ってお礼を言うと、真っ赤になってうやむやにしてくれた。俺自身に対ステラちゃん特攻がついてやがる。なんかここまで反応されると、逆に申し訳ない。ごめんね? 本当はぽんこつ勇者なんですよ。


<習得可能スキルに《ニコポ》が追加されました。笑顔を見せることで異性を虜にするスキルです>


 そこでなぜか、突然のアナウンス。

 《ニコポ》ってあれか。あのハーレム主人公とかが標準搭載してるやつ。ニコッと笑いかけるとちょろい女の子がポッてなる。スキル扱いなの? へー。


 ……審議中……。


 ……。


 ……いや、やっぱりさ、スキルに頼って女性をどうこうするのは、どうかと思うんだ! 

 そんなのは最低のクズ野郎のすることだ! 本当のイケメンとは、スキルなんて小賢しいものに頼らずとも、己の身一つで女性を虜にするものなのだ!


 でも、本当にこう、なんていうの? 切羽詰まった時なんかは、お世話になるかもしれないので、心のメモ帳にしっかりと記憶しておこうと思います。いやね、どこで役に立つか分からないし、生きてれば時にはクズ野郎の汚名を被らなきゃいけないこともあるだろうしね。うん。


 ……ってか、勇者の覚えるスキルってこんなのばっかりなの? もっと戦闘で有用なスキルを覚えなくていいの? なんでゴブリンキングを倒して戦闘系スキル一つ覚えないのに、ギルドの受付嬢にニコッってしたらスキルが取得可能になるの? 

 もっと魔王倒しに行く気にさせろよ。あるいは魔王が超絶美少女だったりするのか。美少女魔王を俺のニコポで骨抜きにするクエストが始まったりするのか。


『魔王が美少女という話は聞いたことがないのぅ……そもそも当代の魔王が誰になるか、まだ決まっておらん段階じゃし』


 えー、なにそれ。初耳なんだけど。魔王継承揉めてんのかよ。そのまま魔王サイドで自滅しろよ。


『都合良く、前の魔王の娘(美少女)が魔王の座を受け継いだりしないのか』


 (美少女)だぞ、(美少女)。美少女以外認めない。


『さっきから何回美少女連呼するんじゃ。……流石にそんな都合の良いことはないじゃろ』

『まぁ、ですよねー』

『……もう、諦めたらいいじゃないんかの。勇者に関しては。妾も諦めたぞ』

『……そうかもしんない』


 でも、お前が諦めていいのか。この駄女神。職務放棄も甚だしすぎる。


「あの、ご主人様。どうしてそんなに疲れた顔をされているのですか? ……はっ、もしやそこの女のせいですか」


 そして俺の疲れた顔を見て、何故かロゼがステラちゃんへと気炎を上げていた。リフィと念話で話している間、俺がステラちゃんの方へ体を向けていたせいだ。


 ぶわっと可視化できそうな何らかのオーラが立ち昇った気さえする。犬耳はぴんと天を指し、怒ってますよーと言わんばかりだ。前髪の奥から覗く眼光が、軽く貞子ばりのホラー。


 ステラちゃんは「ですっ!?」と縮こまってしまっている。


「いやいや、違うから! ステラちゃんは何の関係もないから! どうどう、抑えて抑えて」


 なでなで。彼女が落ち着くように、誠心誠意丁寧な仕事を心がける所存。


「……はっ、ん、ふっ……ふわぁ……。……そう、ですか。ロゼの早とちりでした。申し訳ありません、ご主人様。ステラさんも、失礼しました」

「いっ、いえです。ダイジョウブデス」


 俺のかつてないくらいの必死の撫でにより、ホラー要素をパージしてくれたロゼさん。今のが、獣人の秘められしポテンシャルというものなのだろうか。できることなら一生秘めておいてほしい。

 ロゼの前で、迂闊に誤解されるような顔はやめようと固く心に誓う俺であった。



<習得可能スキルに《ナデポ》が追加されました。頭を撫でることで異性を虜にするスキルです>



 ……おう、美少女魔王が爆誕したら旅に出てやるよ。




 ◇◆◇◆◇




 ロゼの貞子ショックから立ち直ったステラちゃんに、もう一つの本題である宿の事を聞く。


「――――えっと、お宿です? この時間だと、どこも満室かもですねー。最近はアキトさんみたいな黒髪の方が多いですから、空き部屋が少なくなってるです」


 ギルドで茶髪の受付嬢、ステラちゃんに宿について尋ねると、返って来たのはそんな台詞だった。


「そっか……」


 もう時間も遅いしな……仕方ないのかもしれないが。しかし、路地裏で雑魚寝だけは勘弁してほしい。どうにかならんか。


「あ、そんなに落ち込まないでくださいです! でもでも、泊まる場所ならちゃんとあるですよ。私、これでも宿屋の娘なんです。うちの宿なら、多分空いてるです」


 ぶんぶんと左右に手を振って、そんなことを言ってくれるステラちゃん。へぇ、宿屋の娘さんなのか。


「そうなの? ……いやでも、流石に身内権限みたいなので割り込みをする訳にもいかないでしょ」

「いえ、大丈夫です。単純にうちの宿は、人気がないので部屋が空いてるのです!」


 にこぱぁ、と邪気無く微笑むステラちゃん。

 ……それ、大丈夫なの? 目の前にそこの娘さんがいる手前聞きにくいが、ボロ宿だったりするのだろうか。


「最近改装したばかりなので、お宿自体は綺麗なんですよ! ただ、その……」


 ステラちゃんが、ついっと目を逸らして言う。


「……お父さんが、気に入った人しか泊めない変人さんです。私が言えば、大丈夫だと思うですけど」


 商売としてどうなんだ、その宿。

 一見さんお断りとか、そういう感じの高級宿なんだろうか。


「あんまり高すぎる宿も、遠慮したんだけど」

「お値段は普通です。お父さんが普通じゃないだけです」

「……そう」


 ますます安心できない気がする。どんな人なんだ、ステラちゃんのお父さん。


「のぅアキト。要するにその宿の主人に気に入られれば良いだけじゃろう? 任せとくのじゃよ。ほら妾、多分おっさん受けはよいぞ? 見事にその宿の主人を懐柔して見せるのじゃ!」


 うっすい胸を張り、フンスと鼻息荒いリフィ。

 ……まあ、そこまで言うなら任せようじゃないか。実際、こいつの見た目はまんま小学生。おっさん受けはいいだろう。親戚の集まりとかでしこたまお菓子を貰うポジションだ。


「いい加減妾も、休みたいしの! もう歩くのは疲れたのじゃ! そこの……ステラといったかの? 早く宿に案内するのじゃ!」


 くいっ、顎を動かすリフィ。横暴だなこの女神さま。 


「いやリフィ、ステラちゃんにも仕事あるんだから……」

「いえ、もう今日のシフトは終わりましたです。そろそろ上がるところだったですから、一緒に行きましょう!」


 シフト!? そうか、ギルドの受付嬢もシフト制なのか。


「そうなの? なんかごめんな、ステラちゃん」

「いえっ、新人さんのサポートをするのも、受付嬢のお仕事です! では、着替えてくるですから、ちょっと待ってて欲しいのです」

「わかった。ゆっくりでいいからね」

「ありがとうございますです!」


 とととー、と受付のカウンターの奥に備え付けられた扉の向こうへ消えていくステラちゃん。


 ――――さて。ステラちゃんが戻ってくる間、テーブルに腰を落ち着けて待っていようかな。


 冒険者ギルドの内装だが、入口の向かいには銀行のカウンターを彷彿とさせる受付が複数あり、その隣にはでかい木のカウンターが目を引く酒場みたいなスペースになっていた。


 酒場のカウンターでは食事や酒が注文出来て、それらをギルド内に設置された木製の円形テーブルで楽しみながらパーティーが憩うことができるって寸法だ。ウエイトレスも回っているので、座ったままでも気軽に注文できる。フリフリの制服とミニスカートが目に眩しいね。


 テーブル数は五十は下らないが、流石は迷宮都市と言うべきか。そのほとんどが埋まっており、マッチョメンや露出の多いお姉さんや魔法使いっぽい陰気な方々などで構成されていた。街を歩いてる時はあんまり見掛けなかった獣人の比率が結構高い。まあロゼも身体が丈夫とか言ってたし、納得。


 この時間帯は、丁度夕食時と重なって酒場の利用者も多くなるのだろう。


 しかし、アレだな。

 ……あの踊り子風の衣装を着た褐色お姉さんを見れただけでも、異世界に来た甲斐があったというものだ。

 アラビアンナイトでヒラヒラのスケスケ、ボンキュッボンのナイスバディ、ちょっとつつけば簡単に外れてしまいそうな衣装。そんな人が普通に出歩いているのだ。すげぇよ異世界。そうは思わんかね、リフィ君。


『妾にそんなこと振られても困るのじゃ……で、でも、アキトがあーゆうのが好きだと言うのなら、妾が着てやらんこともないのじゃぞ?』


 いやだから、お前が着てもその体の貧相さを晒すだけだから。やめとけって。自ら率先して晒しものになる趣味があるなら止めないけど、その場合俺は他人のフリをする。


『くっ……成長しないこの身体が憎いのじゃぁ……』


 まあ永遠のロリというのは需要があるから大丈夫だよ。俺は決してロリコンではないけど、そういう小さな女の子を生涯かけて抱き枕にしたいと思うような変態もいるからね。


 テーブル席の一つを占領すると、周囲の冒険者から好奇の視線が送られた。


 ロゼはなんか居心地悪そうに身じろぎして、最終的に俺の椅子に椅子をくっつけて、密着状態でぷるぷるしだした。

 不安そうな上目遣いで、ちょっと頭を差し出すようにしてきたので、撫でて欲しいのだろう。欲しがりさんめ。すっかり彼女は俺の撫でテクニックの虜だ。そして上目遣いの破壊力高すぎだろ。訓練された俺じゃなきゃ、三回は死んでた。


「大丈夫か?」


 わしゃわしゃと髪と犬耳を一緒くたに撫でてやる。

 視線が集まってる理由は……まあ色々考えられる。


 ロゼとリフィが美少女だからとか、俺がイケメン過ぎるからだとか、リフィがどっからどうみてもガチロリで、そのくせ冒険者登録をパスしてしまったからだとか。あるいは、可愛い受付嬢さんに同伴で宿を紹介してもらえる幸運に恵まれたからかもしれない。


 まあ、こういうのは気にしななければいい。別に見られてるからと言って、死ぬわけじゃないんだし。もっとも、ロゼにとってそれはちょっとハードルが高いようだが。


「……ご主人様、もう大丈夫です。ご主人様に撫でていただいたので、もう何も怖くありません!」


 さっきまでのちょっと血の気の失せたような顔色はどこへやら、完全に血色が良くなって幸せそうなロゼさん。ケモミミもご機嫌に揺れている。あっさりとハードルを飛び越しやがったなオイ。

 それなんてフラグ? いや、ロゼが某魔法少女アニメを知ってる訳無いんだけど。でも胸の大きさは共通してるな。けしからん。


「そうか? ならいいんだけど……」


 もうこの子に関しては、頭を撫でとけばだいたいどうにかなる気がしてきた。


「アキトー、もう片っぽの手がお留守じゃぞー」

「ん? ああ、そうだな。じゃあ両手を使ってロゼを撫でてやろう」

「わぁ、嬉しいですご主人様!」

「いや違うじゃろ! 妾も撫でろよ!」


 はいはい、分かった分かった。

 もう片方の手でリフィも撫でてやる。


『いい感じに時間が空いたな……あ、そうだリフィ。魔法がどうたらの件、今話してくれ』


 二人を撫でながら、リフィに念話で話しかける。


『ん、そうじゃな。その代わり、もっと誠意を込めて妾を撫でるのじゃ! さぁ!』

『偉そうだなぁ』


 誠心誠意、真心を込めてなでなですると、リフィは『俺でも属性魔法が使えるたった一つの冴えたやり方』を上機嫌で語り始めた。


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