第三十七話 「冒険者ギルド」
という訳で冒険者ギルドを目指す。
迷宮区画で一番でかくて目立つ建物だったので、すぐに発見できた。石造りの重厚そうな建物は、大きさで言うと日本の市役所みたいな感じだ。結構広大な敷地のなかには、冒険者のための訓練場とかも併設されているらしい。
「……これが――――かの有名な冒険者ギルドか!」
「異世界小説的な意味でも、ふつーにこの世界の常識的な意味でも、有名なのは確かじゃな」
すごいなぁ、一歩踏み出せば夢にまで見た冒険者の世界だよ。オラ、わくわくすっぞ!
「やっぱ、いきなり絡まれたりするんだろうか。心構えは入念にしないと」
「流石に入っただけで絡まれるような無法地帯ではないと思いたいのじゃが」
「……えっと、冒険者の方は気性が荒い方が多いと聞きますが、いきなり絡まれるなんてことは無いかと思いますよ。むしろ皆さん、ご主人様から溢れだす気品に跪いて道を開けることでしょう」
「「それは無い(のじゃ)」」
ロゼの長い前髪の奥の瞳が、キラキラしている。いつの間にこの子のヨイショは異次元の域に達したのだろうか。正式に奴隷契約をしたからか?
日も暮れかれているし、あまりギルドの前で漫才をやっていても仕方が無い。
大きくて重厚な木の扉を押しあけて、俺達は冒険者ギルドへと足を踏み入れるのだった。
◇◆◇◆◇
――――冒険者。
それは人々を脅かす魔物を狩ることを生業とする、異世界の流れ者の定番職業である。
異世界に行ったら、大体冒険者になっとけば間違いないくらいの鉄板っぷり。そして大体、可愛い女の子でハーレムパーティーとか築いちゃう。あるいはロンリーウルフを気取って、各所にいっぱい女の子を囲っちゃう。
だから俺もそんな流れに乗ることにして、冒険者始めました。まだ見ぬ出会いに心が躍るね。
「――――えっと、こちらがアキトさんのギルドカードになるです。さっきも説明した通り、ランクFからの出発となるですけど、依頼をこなしてランクアップ基準を満たせばE、D、Cと順に高いランクを得ることができるです。ランクが高いほど素材の買い取り価格や各種サービスにおいて優遇されますので、頑張ってくださいです!」
にこぱぁ、と俺の目の前で微笑むのは、茶色の髪を肩くらいまでのショートボブにした可愛らしい受付嬢さんである。名前はステラちゃん。
まだまだあどけなさが残る顔立ちで、ギルドの制服(銀行の制服みたいなやつだ)がちょっと着なれて無い感じが初々しくていい。俺より年下っぽいけど、実際年齢はどうなんだろうか。
あまりにも彼女がにこにこしているので、こっちもつられて笑顔で各種手続きをしていたら、いつの間にか頬を染めながら『アキトさん』とか言われる関係になっていた。
『ちっ。ちょーっとアキトが優しくしただけで、ころっと騙されおって! これだから小娘は』
なにやらぶつぶつと呟くリフィ。いや、お前の見た目で小娘とか言っても説得力無いから。
あと別に、騙してないし。俺くらいのイケメンともなると、向こうが勝手に勘違いしてくれるんだし。受付嬢と仲良くなっておけば色々便利だろうなー、とかいう打算は考えてない。強いて言えば可愛い子と仲良くなりたかった、ただそれだけだ。うん。
渡されたのは、クレジットカードみたいな金属のプレートで、これこそがギルドカードである。ギルドカードは俺の名前と冒険者ランク(F)しか書いていない簡素な物だが、魔力による本人確認機能が付いており、身分証になる。
これで俺も、晴れて冒険者の仲間入りってことだな。……あとはリフィの身分証、どうしよっか。俺は今作ったし、ロゼは奴隷商のところでもらえたが……。
『妾も冒険者になればいいと思うのじゃ』
『はぁ? ……いや、無理じゃね。なんていうか、身長制限的に』
『大丈夫なのじゃ! 妾を信じるのじゃ!』
えぇ……?
あんまりリフィが自信満々なものだから、一応ステラちゃんにお伺いを立ててみる。
「あの、ステラちゃん」
「はいです、なんですかアキトさん!」
「こっちの金髪の子も、冒険者として登録したいって言ってるんだけど」
俺の場合、登録は簡単だった。
まず、受付に並びます。時間帯のせいか、かなり空いてました。
受付嬢のステラちゃんが《能力測定》とか言って瞳を輝かせた後、必要な用紙を出してくれます。
それに書き込みます。割とでたらめ書いてもオッケーです。
終了! 今日から君も冒険者!
……の簡単ステップ。五分とかからずに終わった。多分、《能力測定》ってスキルが鍵なんだろうな。戦闘力いくら以上じゃないと、冒険者になれませんよーみたいなことなんだろう。《看破》と同じで、詳細なステータスは見えてないのだと思われるが。ステラちゃんの反応も普通だったしね。
「えっ? この、ちっちゃい子です?」
「アーデルリフィケイティカなのじゃ。リフィと呼んでよいぞ。そして、冒険者になってやってもよいぞ!」
偉そう。女神さま超偉そう。
頭をひっぱたきたい気持ちをぐっとこらえて、静観する。行き場のない右手は、手持無沙汰にしていたロゼの耳をわしゃわしゃすることで事なきを得た。
「え、えっと……お嬢ちゃん? 冒険者になるには、《能力測定》っていうスキルの基準を満たさなくちゃいけないです。もうちょっと大きくなってからの方がいいって、お姉さん思うですよ」
ステラちゃんは苦笑いでリフィを見つめる。まあ、そりゃそうか。スキルを使うまでもなく、こんな小さい子が冒険者になる基準を満たしている訳が無い。
「そうか。では、さっさと使うがいいのじゃ。何色になったら合格なのじゃ? 黄色か? オレンジか? まさか赤とは言わんじゃろうが」
「……えっ? ど、どうしてこんなちっちゃい子が《能力測定》の効果を知ってるですか?」
「ふふん、まあ、妾じゃからな。ほれ、はよう《能力測定》するのじゃ」
黄色? オレンジ? 何の話……って、ちょっと考えれば分かるな。多分ステラちゃんの《能力測定》は、対象の戦闘力を色で判断するタイプのスキルなんだろう。
『その通りじゃ。レベル4からはその限りではないが、レベル3までは色で識別するだけのスキルじゃな。《賞罰看破》の同類スキルじゃ。ちなみに判断素材となるのは、種族、クラス、クラスレベル、ステータスの合計値、所持スキルの数やレベルなどの総合じゃな』
ほーん……ん? そういえば、俺ってば自分以外のステータスを見たことが無かったけど、やっぱりこの世界の人達も、俺と同じようなステータスの構成をしてるのか。
『うむ、世界のシステムじゃからの。生きとし生けるモノは、スキルポイントと固有スキルの項目以外は、だいたい全部同じなのじゃ。その二つの機能だけは、勇者というクラス専用じゃが。勿論妾にも、ステータスは存在するのじゃ』
『へぇー、固有武装扱いなのに?』
『固有武装扱いなのにじゃ』
『あっ、そう』
まあ、深くはつっこむまい。そういうもんなんだろう。
『それでリフィ、お前のステータスはそんな自信満々にドヤ顔できるほどなのか?』
とてもそうとは思えないんですけど。戦闘力は俺の半分以下とかじゃないの?
『固有武装じゃから、《不壊属性》が付いとるじゃろ? この一点だけで、《能力測定》の最高値を叩きだせるぞ』
『……あー、なるほど。そういうこと』
確かに"絶対に傷つかない"というのは、それだけでチートかもしれない。
という訳で、神様幼女リフィちゃんは、ステラちゃんの《能力測定》を余裕でパスして、無事冒険者になりましたとさ。めでたしめでたし。




