表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/47

第三十六話 「契約」


 ……しかし、なんだな。何があるか分からないからって、折角気合い入れてロゼの奴隷契約更新に臨もうと思ったのに……。なんならこの扉の向こうに、ロゼを捨てた奴隷商人がいる可能性だってゼロじゃないんだぞぉ……。


 すっかり毒気を抜かれて、もう一度手をドアノブに回しかけた時。


『あぁーー!! そうじゃアキト!! この手があったのじゃー!!』


 リフィがものっそい大声を念話で出しやがった。

 脳内に直接響くので、頭ががんがんする。


『うっせぇわボケェ! 奴隷商に売り飛ばすぞ!』

『にょわっ!? う、いや、ごめんなさいなのじゃ。それは勘弁してくださいなのじゃ』


 すぱーん、と頭をはたくと涙目になりつつ素直に謝るリフィ。よし、その素直さに免じて許してやろう。


 で、何? いきなり大声を出してなんなの。

 この手があったとか言ってたけど。


『いや、実はの。……その、アキトでも属性魔法が使えるような方法を思い付いてしまってじゃの』

『属性魔法? え? ファイアボール?』

『まあ、おそらくそれも、似たようなことができるようになると思うのじゃ』


 才能が無いから、魔法使えません。ファイアボール出ません。


 この迷宮都市に来る前、リフィは確かにそんなようなことを言っていた。俺も、まあ渋々納得して諦めたつもりだったんだけど……え? ここにきてまさかのどんでん返し? どんなタイミングだよ。


『……まじで?』


『うむ。そして、その鍵を握るのはズバリ――《静電気》じゃ!』


「は?」


 訳が分からないよ。


 ついうっかり口に出してしまって、その様子をロゼに不審がられる。いや、なんだかんだ言って結構長くドアの前で留まってるし、言うまでもなくめっちゃ不審なんだけど。急にリフィの頭を引っ叩いたりしたしな。


「あの、ご主人様……?」

「ああ、いやなんでもない」


『……おいリフィ。この話はまた後でな』

『ラジャーなのじゃ』


 ロゼが不安げにこちらを見てくる。リフィが思い付いたという、俺でもファイアボールできる方法については、とりあえず奴隷契約が終わってから話そう。


 めっっちゃ気になるが、ロゼを不安がらせない方が今は大事だ。


 今度こそ、目の前のドアノブに手をかけて、


「失礼しまーす――」





 ――そして、契約更新自体は速攻で終わった。


 扉の向こうには爺さん魔法使いが居て、ロゼの奴隷紋を調べるなり


『あー、死亡届だされてますね。引き取り希望でしたか。更新も面倒がないので、相場の半分程度の値段となりますよ。ラッキーでしたね』


 とのこと。


 特に山もなく谷もなく、淡々と作業(俺とロゼの採血をしたり、なんか呪文をブツブツ呟いたり)が進められてロゼは正式に俺の奴隷となった。


 強いて言えば、更新が終わった瞬間に『ご主人様っ! これでロゼは、一生ご主人様の奴隷ですっ!』と感極まって俺に飛びついて来たくらい。大きくて柔らかい胸がふにょんと当たって大層気持ちよかった。が、生涯奴隷であることをそんな嬉しそうに言われても、反応に困るな……。


 奴隷と言っても、絶対命令権みたいなのは無いらしい。ただし禁止事項を決めることはできるし、主人の裁量で奴隷の首にある奴隷紋を『絞める』ことができる。


 主人が自分で絞める場合には殺すまではいかないが、禁止事項を破った場合は死ぬほど締めつけられるし、奴隷が主人を死に至らしめようとした場合は(直接・間接問わず)容赦なく、自動でくびり殺されてしまうのだとか。奴隷紋がきゅっと小さくなって一瞬で首チョンパ。怖ぇな、隷属魔法。ちなみにスキルではなく、本当に闇属性の魔法に分類されるらしいぞ。


 あまりにも怖いので、その部分の効果だけ抜いてもらおうとしたが、どうやらそういったカスタマイズはできないらしい。法律で決まってるんだとか。ロゼは『私がご主人様を傷つけるようなこと、するわけないじゃないですか!』と何故か隷属魔法の仕様に対して怒っていた。


 禁止事項については、無設定にしておく。別に行動を制限したい訳でもないしな。


 更新金額は十万リルぽっきりで、奴隷用の正式な身分証ももらった。

 事前に聞いていた金額と同じだったし、普通に支払う。ただ、相場の半額で事前に聞いていた金額と同じになったというのは、どういうことなのか。多分、ロゼの身だしなみを整え過ぎて価値が上がったせいだな。くっ、ロゼの可愛さは罪なのか……。


 ともかくあっさり終わったのは、懸案事項が大過なく解決したと喜ぶべきだな。




 ◇◆◇◆◇




 奴隷商会から出ると、空が夕焼けに染まっていた。

 服屋で結構時間使ったしなぁと、何の気なしに空を見上げる。


「おぉ……綺麗なもんだな」


 そこには、橙と紫の見事なコントラストが存在した。迷宮都市に来るまでは、なんだかんだでゆっくりと空を見上げるような余裕もなかった。

 無性に、何かが恋しいような気持ちになる。なんかこういう世界を越えて共通の美しい光景って、感動するな。


 しかし、知れば知るほど地球っぽいんだけどこの世界。

 いや、スキルとか魔法とかあるし、違うのは分かってるんだけど、自然現象がね。さっきの《静電気》もそうだけど、どこか地球らしさがあるというか。ぶっちゃけ大気の成分とかどう考えても同じだろうし。一年の日数とかも同じってことは、惑星の周期も同じなんだろうし。


『まあ、世界の大枠は同じじゃからの。こっちには魔力や精霊力という要素があって、地球にはそれがない。代わりに科学とか発達しとるじゃろ? そうやって変化を付けて生み出された世界は無数にあるのじゃよ』

『へぇー。で、こっちには魔王が居て大変。地球には……そうだな、核爆弾あたりか? それっぽい脅威は』

『いずれ地球で、人類が滅びかねんレベルの戦争が起きたら、その時は他の世界から勇者を呼ばんといかんのぅ?』


 魔法ないじゃん……科学でどうにかなるのかなぁ、勇者召喚。

 まあ、俺には関係のない話だけど。


「ところで、アキトよ」

「なんだリフィ」

「妾…………もう疲れて、一歩も歩けんのじゃが」


 情けない声をあげて、ぼすっ、と俺の背中に倒れ込んでくるリフィ。おいやめろしがみつくな、買ったばかりの服が伸びたらどうすんだよ。


 ……仕方ないなぁ。


「ほれ」

「かたじけないのじゃぁ」


 しゃがんで両手を後ろに回すと、リフィが慣れたように飛び乗ってきた。ばっか、痛いわ。

 勇者アンド女神のおんぶ合体モードである。レアリティめっちゃ高い。崇めよ愚衆ども。


「あの、ご主人様。わたしが代わりましょうか?」

「いいよ、ロゼも疲れてるだろ? もう今日は宿を探して休もう」


 ああそれとリフィ。後でまた、さっきのファイアボールの件聞かせろよな。


『いや別に、ファイアボールが使えると言ったわけではないんじゃが。どんだけ思い入れあるんじゃファイアボールに』

『いやほら、魔法といえばって感じするじゃん。目に見えて強そうだし』

『そうかの……?』

『そうなんだよ』


 魔法といえば、ファイアボール。つまり配管工は魔法使い。これ常識な。一時期それで、将来は配管工になりたいと思っていたくらいだ。……あの頃は純粋だったなぁ。うん。


 まあ、それはいいや。今はともかく宿だな。


 そこそこの人混みの中をリフィを背負って歩きつつ、折角ご主人様になったんだし、隣を歩くロゼを気遣ってみる。


「ロゼも、おぶってやろうか」


 背中のは、肩車モードに移行すればいいだろう。……すげぇシュールな絵面になりそうだ。


「い、いえ、滅相もありません。私はまだ平気です。獣人ですので」


 俺、『獣人ですので』って言葉をどこまで過信して良いのか分からないんだけど。種族についての知識があんまりないから、空元気なのかマジで元気なのか判別できない。


 確かにロゼが体力あるのは、数日一緒に旅をして分かってるが、ロゼの性格なら迷宮都市の人混みに当てられて……っていう精神的な疲労もあるだろうし。

 だもんで、ロゼの顔をじっと見る。


「ど、どうされましたかご主人様? ………ぁ、ま、まさか、こんな往来で、キキキ、キスですか!? そんな、嬉しいですけど、こここ心の準備がっ」


 嬉しいのかよ。出会って数日で好感度高すぎだろ。どうなってんだ異世界。……やはり、俺が超絶美少年だからか。


「いや違うけど、…………んー、本当に元気そうだな。獣人すごい」


 まだこんなに小さな少女なのにな。リフィを見習ってもいいんだよ? マジでおんぶしてあげるよ? ご主人様にもっと甘えてもいいんだよ?


「獣人族は、普人族の三倍はタフですので」

「獣人すごい!」


 そうか、三倍タフか……生粋のソルジャーじゃないか。生まれた時から《頑丈》が全員レベル2とか、そういう種族的優遇なんだと思う。羨ましい……。俺の《器用》レベル2なんか、今のところ何の役にも立ってないのに。


『いや、一応役には立っておるはずじゃぞ? 《器用》が高いと、武器の扱いも上手くなるからの。ほれ、初めてゴブリンと戦った時も、なんとなく自然に剣を使えたじゃろ?』


 そうだっけか……うーん、よく覚えて無い。でも、覚えて無いということは問題無かったという訳で、剣何か初めて握ったにも関わらず問題なかったということは少しは恩恵があったのかな。ただ鉄の棒を振りまわしてるだけだと思ってたけど。


『いや、思いっきりゴブリンの頭とか唐竹割しとったからの? 普通、初めて剣を持つのにあそこまでできんよ。木の上から見ててビビったのじゃ』


 覚えてねぇ……あの時は痛みを忘れようと無我夢中なところあったからな。まあでも、リフィがそう言うのなら、そうなんだろう。やったね! 俺のリンゴ剥きの才能は無駄じゃなかった!


 自分に戦闘に向いた才能があったという事実を噛みしめながら、本日の宿を探す。もうこれは、明日にでも《剣術》くらい楽々ゲットしちゃうな。もうぽんこつ勇者とは呼ばせないだろ。


 ここで屋台のおっちゃん情報。冒険者や旅人向けの宿なら迷宮区画にいっぱいあるらしいです。

 という訳で、どこかしら空いてるだろうと迷宮区画まで来てみた。迷宮都市は広いから、区画移動も一苦労だわ。メニューからショートカットできねーのか。


「あんまり安いところもあれだしなぁ……そうだ、冒険者ギルドでオススメの宿とか聞いてみるか」


 折角来たんだし、冒険者に登録しついでにな。


「まあ、それが妥当かの」

「そうですね。ロゼはご主人様と一緒なら路地裏で雑魚寝でも大丈夫ですが」


 それはご主人様が大丈夫じゃないんだよ、ロゼ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ