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第三十五話 「奴隷商」



「そういえばアキトは、何を選んだのじゃ?」


 品物を店員さんに渡して、レジ(簡単な計算の魔道具らしい)のあるカウンターにて。

 可愛い服を選んでもらって、傍目にもるんるん気分のリフィが聞く。


「蜘蛛パーカーとミスリルシャツと蜘蛛Tシャツ、後は黒なんとか牛のレザージーンズだ。防壁の魔法が付くんだって」


 黒……なんだっけかな。黒毛和牛?


「いや、黒毛和牛は絶対違うと思うのじゃが……なるほどの、魔導服か。でも、所詮服は服じゃぞ? 魔法が付与されていたとしても、魔力を消費した上で普通の皮鎧程度の防御性能なのじゃ。しかも自動発動型は、着用者の残存魔力に関係なく、魔力を持っていくしの。下手をすると戦闘中に魔力切れでぶっ倒れるのじゃ」


 詳しいな、駄女神。ちょっと見なおしたぞ。


「それでも十分だろ。逆に考えるんだ、魔力使うだけで普段着でも皮鎧レベルの防具になるんだと」


 俺の魔力は無駄に大量にあるし……並の勇者が、足元どころか足の小指の先にも及ばないくらいだ。切れた時の心配とか、多分しなくても大丈夫だろ。


「あっ、そうじゃったな。……魔力とか味噌汁以外に使っとらんもんな」

「それな」


 とかそんなやり取りをしているうちに、いつの間にか検品と魔法の付与が終わっていたようだ。

 エルフっぽい店員さんが、服を奥へ持っていって魔法の付与をやっていたらしいんだけど、随分早かった気がする。やはりあれか、エルフだから魔法が得意だとかそういうことなんだろうか。いやエルフじゃないかもしれないけど。


「お会計、リフィ様の分が八万九千八百リル。ロゼ様の分が九万二千五百リル、アキト様の分が九万七千百リル。総計二十七万九千四百リル……ですが、少しおまけで二十七万リルでご提供させていただきましょう」

「いや、足輪を外すサービスもして貰ったし、一万リル近くもまけてもらうわけには……」


 それ、少しじゃなくね? むしろ切り上げろよその値段なら。

 本来なら服の値段くらいガンガン値切っていくつもりだった俺だが、この店員の仕事ぶりを見てそんな気分じゃなくなってしまった。むしろ値下げを渋る始末である。


「いえ、こちらこそ久々に腕を振るわせて頂きましたので、このくらいは。どうしてもと仰られるなら、今後とも『メルベル服飾店』をご贔屓によろしくお願い致します。特に魔法の付与された服は、定期的にメンテナンスが必要ですから」

「……そうなのか?」

「はい、月に一回ほどはお越しいただければと思います。魔法付与の更新を致しますので」


 にっこりと営業スマイルを頂いた。……む、あるいはこれを狙っての値引きだったのだろうか。だとしても、いい買い物をしたことは変わらないが。


「わかった、じゃあそうさせて貰うよ」


 しかし、結局このエルフっぽい女の店員以外の店員は出てこなかったんだが、まさか彼女一人で切り盛りしてるんだろうか。オーナー兼店長兼店員なんだろうか。

 折り目正しくお辞儀をする彼女に見送られて、俺達は服屋を出るのだった。





 服屋を出て、大通りを手を繋ぎながら歩く。

 買ったばかりの洋服にさっそく袖を通し、気分も一新だな。あと、このパーカーなんかすげぇスタイリッシュ。某陽炎なプロジェクトばりだわ。暑いからフードは被らんけど。


「……十万リル……私の服が、本当に十万リル……金貨一枚……!?」

「ロゼは気が小さいのじゃ。もっと堂々と歩かんか」


 約一名、自分のしでかしたきんがくの重さに耐えられなくなってる子もいるけど、そこはもう頑張って慣れてほしい。


「俺の奴隷になるんだ、その倍の値段でも安いくらいだよ」

「……あうぅ……。流石はご主人様です。私には眩しすぎます。ロゼは、ロゼはご主人様の奴隷で幸せです……!」

「それは良かったな」


 なでなで、こりこり。耳の内側が弱いらしいロゼさんは、一発で腰砕けになるな。悪い男に騙されてこりこりされたあげく、お持ち帰りされないか心配だ。


『それは自分のことかの?』

『リフィ、正解』




 ◇◆◇◆◇




 ロゼを正式にお持ち帰りするべく、次に訪ねるのは奴隷商だ。


 商業区画の中心から外れ、どちらかというと貴族区画との境目付近に位置する真っ白な四角い建物。なんだか病院的なイメージを抱くその建物こそ、件のお店だった。

 『メルベル服飾店』を探してる時に、すでに見つけてあったんだよね。


「結構、綺麗な感じの建物じゃの」

「なんかちょっと、意外だよな。まあ客商売なんだから、綺麗にしてナンボなんだろうけど」


 よし、行くか。


「ごめんくださーい」


 重厚な木の扉を開けると、そこは狭い待合室のようになっていた。奥の受付でなにやら書類仕事をしていた爽やか系のお兄さんが、対応してくれる。ちなみにどれくらい爽やかかというと、夏の暑い日に歩き続けた末に自動販売機で飲むレモン炭酸飲料くらいの爽やかさ。

 クソが、俺と同じくらいのイケメン度である。爽やか枠なら夏村さん家のアキト君一人で間に合ってるっつーの。顔面取り替えてこい茶髪野郎。


『今のお主のどこに爽やかさがあるんじゃ……』


 お兄さんは俺達の格好を一瞥すると、深々と頭を下げた。

 そういやこの王国でも、お辞儀ってあるんだよな。西洋風の街並みなのに、やってることはアジア圏の風習とか、なんか不思議だ。ひょっとして勇者の影響なのだろうか。


「いらっしゃいませ、『マーピース奴隷商会』へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか」

「街の外で、この奴隷の子を偶然保護したんだが、どうも主人に捨てられたみたいでな。俺の方で引き取りたいから、奴隷契約の更新に来た」

「かしこまりました。少々そちらの席でお待ちください」


 お兄さんは待合室の奥の扉を開けて、その向こうへ消えてしまう。

 ロゼの身だしなみをチェックしたり、リフィの髪をお嬢様結びにしたりで時間を潰していると、扉の奥からお兄さんが帰って来た。


「奴隷契約の更新ということでよろしかったですね? 詳しい事情もお聞きしたいので、どうぞこちらへ。当店専属の隷属魔法使いが対応いたします」


 うながされて、ぞろぞろと扉の向こうへ行く。

 そこには、広い廊下にいくつもの個室の扉が並んでいた。空気はひんやりとしており、どこか厳しい印象を受ける。おう、ちょっと緊張してきたぞ。喉が乾燥したので唾を飲み込む。

 並ぶ扉のうちの一つに案内され、『それでは』と言ってお兄さんは退場した。


「なんか緊張するのぅ」

「あうぅ……申し訳ありません、ご主人様……ロゼが、私がご主人様の奴隷になるだなんてわがままを言ったせいで……あの、契約更新のお金も高いんですよね?」


 この時になって、急に弱気になるロゼ。

 まったく、この期に及んでこの子は。もう俺は絶対に逃がさない構えだというのに。なんならその首のチョーカーにリード付けたいレベル。それただの変態だな。


「そんなの今更なことだろ、ロゼ。それにお前は、俺が欲しいと思ったから奴隷にするんだ。もっと胸張れ。契約更新の金額くらい、ロゼにたっぷりと働いて返してもらうしな」


 こんなに可愛くて健気で、自分を慕ってくれる犬耳の女の子なんて早々いないよ? 正式な奴隷にした暁には、一晩中でもケモミミをいじり倒しちゃうぜ。あとほっぺとかお腹とか…………胸とか。


「はっ、働いてっ!? ……ぁの、はい、わかりました。ご主人様に満足いただけるか自信ありませんが……い、一生懸命ご奉仕させていただきます!」


 きゅー、と沸騰しそうなくらい顔を真っ赤にしながら、決意宣言をした。

 いや、君が思ってるのはちょっとまだ早いかもしれないなー。ロゼちゃん見た目中学生くらいだからなー……いやでも、半分合ってるし訂正はしなくていいや。


『このロリコンめッ……わ、妾にも色々していいんじゃからな?』


 つっこむなら最後までやりきれよ、淫乱ロリめ。


「ここで突っ立っててもなんにもならないしな。よし、開けるぞ!」

「よーし、ドカンと決めてやるのじゃアキト!」

「ご、ご主人様……格好いいです!」


 そして俺は、金属製のドアノブに手を掛けた。その瞬間――


 パチッ!


 ――青白き、電光の裁き!


「ぅおっ! 今めっちゃ静電気きた!」


 ……あー、ここひんやりしてるし、空気乾燥してんな。びっくりさせるなよ。一瞬、ロリコンへの神の制裁かと思っちゃったよ。


「……おい、そこはびしっと決めてくれんと困るんじゃが」

「いえ、少し抜けてるところもあるご主人様も素敵です」


 ロゼ、ありがとう。着実にヨイショが上手くなってるね。


 と、脳内に唐突に響くアナウンス。


<習得可能スキルに《静電気》が追加されました。相手を静電気でパチッとさせるスキルです>


 ……馬鹿にしてんのか!?


『おー、やったのぅアキト。念願の魔法っぽいスキルじゃぞ』

『違うだろ。これは違うだろ』


 《鼻防御》といい《徹夜》といいこれといい……勇者をなんだと思ってるんだこの世界は! まともなスキルは今んとこ《スーパーアーマー》だけじゃねぇか!


 あれか? 俺の勇者適正がなさすぎるのが悪いのか!? 『静電気でパチッと』じゃなくて、《剣術》スキルとか寄越せよぉぉおお!!


『きっと歴代の勇者も、静電気でパチッとなってはこのスキルが習得可能になったに違いないのじゃ』

『……スキルの発現方法見直した方がいいだろ、それ』


 そのうちよく分からんスキルに埋め尽くされて、取得可能スキル一覧がすげぇ見にくくなるなること請けあい。というか俺の場合、果たしてよく分からんスキル以外が発現するのだろうか。信じてるぞ、俺のブレイブハート……!


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