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第三十二話 「ショッピング」


 膝枕に、勝った。


 リフィとロゼが、人混みに紛れて見えなくなる。

 

 そういえば、二人とも着てる物は白のワンピースなんだよな。ロゼの方がかなり安っぽい作りだが、連日に渡るリフィの浄化作用によって新品同然に綺麗になっているので、ぱっと見は同じ感じだ。


 折角街についたんだし、新しく服を買ってやらないとな。特にロゼは、いつまでもあの格好では可哀そうだろう。スカートの丈とか、まるでそういうお店かっていうくらいの露出度だし。そんで、奴隷契約の更新もしなければ。


 あと、今日泊まる宿を確保しないといけないし、冒険者ギルドにも行かないといけないな。仮の身分証の期限が一週間なので、早めにどっかのギルドで正式に身分証を作らないといけないのだ。でないと、五万リルが戻ってこない。


 身分証を作る場所は別に冒険者ギルドじゃなくてもいいが、曲がりなりにも勇者なので、武力が物を言うだろう冒険者になるのが手っ取り早く稼げそう。稼げると思いたい。あと、地味に憧れだったりするんだわ、ダンジョンに潜って魔物を倒して、そんで女の子にキャーキャー言われるの。ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていないはずだ。


 十分ごとに動けなくなる勇者様にキャーキャー言ってるくれる女の子、どれくらいいるかなー。などと生産性のないことを考えながら、リフィとロゼを待つこと数分。


 両手に持ちきれない程の食べ物を抱えた二人がご帰還なさった。


「やっぱり、アキトがいないと駄目じゃの。《アイテムストレージ》が無いと、あんまりいっぱい買えないのじゃ」

「俺はお前の荷物持ちじゃねーんだよ」


 開口一番、人を便利な荷物持ち扱いするので、側頭部ぐりぐりの刑だ。

 ぎゃーすか騒ぎながらも構ってもらえて嬉しそうなリフィとは対照的に、ロゼはというと顔色が悪い。


「どうしたんだ、ロゼ」

「ご主人様……申し訳ありません。買い食いで……たかが買い食いごときで、銀貨五枚も使ってしまいました……! リフィ様を止めることのできなかったロゼの落ち度です……」


 しゅんと落ち込んで、「どうか、どうか私に罰を与えてください!」と繰り返すロゼの頭を撫でる。

 銀貨五枚……五万円相当か。おう、それは確かに随分使ったなぁ。


 いやまぁ、リフィも満足げだし、そんくらいで罰を与えるほど狭い心は持ち合せてないけど。それよりもむしろ、その金額分の食べ物が本当に胃の中に納まるのかと心配なんだけど。残ったら《アイテムストレージ》に入れるか。


「なぁロゼ」

「はい、ご主人様。鞭打ちでしょうか、水責めでしょうか、爪剥ぎでしょうか。どんな罰でもお受けする覚悟です! たとえどんな痛みでも、ご主人様がくださるのであれば、反省と共にこの体に刻みこみます!」

「思考回路が怖い! ……いや、そうじゃなくてな。別にこのくらいのことで罰したりしないから。一度渡した金なんだし、自由に使ってくれて構わないんだよ?」

「きっちり銀貨五枚、全部使ってやったのじゃ! 石貨一枚たりとも残っとらん!」

「まあ、こうやって誇るようになってほしくはないけど」


 ぐりぐりのスピードをアップさせる。「にょわぁぁあああ!!」と悲鳴を上げるリフィ。わざとだろお前。わざとそういう発言してるだろ、罰を受けたいがために。とんだドM女神だ。……やめろ、ちょっと恍惚の顔をするんじゃない! ロゼの教育に悪い!


「……しかし、銀貨五枚は流石に大金ですし」

「お前のご主人様は」


 リフィをぽいっと脇に放って、尚も言い募るロゼにぐいっと顔を近づける。


「銀貨五枚ごときでぐだぐだ言うような、器の小さい奴なのか? どうなんだ、ロゼ」


 顎くいっ。


「はぅ……! 申し訳ありません、ご主人様……ロゼが浅はかでございました……」


 ……ふっ、チョロい。


 腰砕けになったロゼが、ぺたんと尻もちをつく。

 ……あれ、そんなに威力あった? おう、そうか。初めてやったけど、すごいね、顎クイ。現代日本でやるともはやジョークの類になりつつあるが、異世界ではまだ現役らしい。



 もの欲し気なリフィの口にホットドッグを突っ込み、彼女らが買って来たものを全て胃の中に納めた後、とりあえず服を買いに行くことにした。


「服か……アキトが選んでくれるのかの!」

「私はこの服のままでも……ままでも……うぅ、すみません、お願いします」


 女の子二人も乗り気だ。


 屋台のおっちゃんに適当に話を聞いて、どうもこの迷宮都市には商業区画があるらしいと知る。

 他には貴族区画、平民区画、そして迷宮区画・・・・があるんだってさ。すごいね、やっぱり街中にダンジョン抱えてるとかクレイジーだわ。リフィいわく『迷宮の外に魔物は出てこないから、多分大丈夫じゃろ?』とのこと。多分ってなんだよ、こえーよ。大丈夫かこの国。


 服を買うために俺達は、街の南西側にある商業区画を目指すことにした。多分、奴隷商もそこだろ。




 ◇◆◇◆◇




 迷宮都市の人混みは、東京ほどではないにせよごちゃごちゃしている。その中でも商業区画は特に人であふれていた。


 黒髪率が上がったので、他の街や村からの旅人で賑わっているんだろう。なんなら黒髪特需と称されるまである。宣言一つで都市の景気を向上させるとは、まだ見ぬ勇者、恐ろしい子っ! 

 はぐれないように二人とはしっかり手を繋ぐ。あー、柔らけー。


 しかも通りの脇では当たり前のように露店や屋台が呼び込みをしている。あっちのお姉さんなんて、道具屋の前で風呂敷広げて雑貨を売ってるんだから見上げた根性である。通行の邪魔にはなっていないので、皆なにか一定の規則に従っているんだろうが、あの人どう見てもグレーゾーンだろ。


 そんな雑多な異世界風景を見ながら、やって来ました服屋さん。商業区画でもやや外れにあり、ユニクロをちょっと高級にしたような……という例えで伝わるかどうかは分からないけど、シンプルだがややブランドっぽい印象のある佇まいだ。しかも凄いよ、ガラス張りの壁だよ。この世界、一体どういう技術水準なのかいまいち分かんねぇな……。


「なんかちょっと、高そうな店じゃの」

「気後れしてしまいます……」

「どうせリフィの《スリーピングビューティー》があるから、服は何着もいらないんだ。できるだけしっかりした物を買った方がお得なのはわかるだろ」


 かっこつけて言っているが、浄化作用のことな。


「ああ、なるほどの……まあ、良い服を着られる分にはハッピーなのじゃ!」

「流石です、ご主人様」


 あと、人でごった返した古着屋とか行きたくない。服と言うのは落ち着いた雰囲気で選びたいものだ。こういうお店を探すのに、結構歩きまわる羽目になってしまった。


 ガラス扉を押して(流石に自動ドアではなかった)店内に入ると、そこは随分と現代風の小洒落た店だった。陳列棚が幾つかのブロックに分かれており、客の歩くスペースは広く取ってある。明るめの照明は、商品にある程度自信がある証拠だ。値段もはっきりと書かれている。


 奥に小さなレジカウンターがあり、その横には試着スペースまで完備。すげぇな、ほとんど日本だ。カウンターに控えていた女の店員と目があったので軽く目礼をしておくと、静かに頭を下げてくれた。

 今は、客は俺達だけのようだ。広い店内を三人占めである。


 ふむ、いいじゃないか。期待以上だ。

 店の雰囲気に満足して、早速服を見繕うことに。

 ……お、ここ下着とか靴まで売ってるのか。


「よし、じゃあ何か気になる服がないか、一通り見て回るか。そうだな、上下一式を二、三セット分くらいで頼む。ちゃんと下着も選べよ」


 現在の手持ちは、約五十六万リル。リルを円に置き換えても可。

 一人十万リルくらいは使っても大丈夫だろ。なにせ手に入れたのはあぶく銭なので、ぱーっと使うことに抵抗が無いのだ。


 流石にロゼの奴隷契約更新のためのお金は残すが、更新だけなら相場は十万リルくらいらしいからな。これも屋台のおっちゃん情報である。金払いがいいと、情報をハキハキ喋ってくれて助かる。


「了解なのじゃ! 流石に妾もワンピースだけでは飽き飽きじゃったからの。可愛い服でアキトをメロメロにしてやるのじゃ! あ……あと、その、下着の色は何が良いかの……?」

「おーう、期待してるぞ。色は……そうだな、やっぱ白かな」


 ふむん、と考え込んでから答える。

 リフィの純真無垢な外見には、やはり純白が相応しいだろう。黒の背徳感を楽しむのは、もうちょっとレベルアップしてからだな、色々と。キャラ物とかあったら、そういうのも捨てがたいんだけどね。……いや、ロリコンではないぞ?


「りょ、りょ、了解なのじゃっ!」


 リフィはぱたぱたと店内を探索しに行った……のだが、ロゼは動かない。


「どうした、ロゼ?」

「いえ……あの、その、もしやとは思うのですが……ロゼにも、ここでお洋服を買って下さるのですか? 流石に私は奴隷ですし、古着で十分かと思うのですが」


 そんな馬鹿な、とでも言いたげな表情。

 ……あ、そうか。遠慮してるのか。


 身分的には、奴隷だもんな、ロゼ。確かに、高級っぽい店で服をぽんと買い与えるものでもないのかもしれない。彼女には、さっきの屋台の件で俺の金使いについて納得していただけたかと思ったんだが、カルチャーギャップというのはなかなか根が深いようだ。

 まぁあれは、ほとんどリフィの勢いだけみたいなもんだったしな……はしゃぎすぎだろ、おい、女神様。



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