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第二十九話 「迷宮都市」

 翌朝。


 《徹夜》スキルを取りかけたショックにより、あれから睡魔が襲ってくることはなかった。何だかんだでいい眠気覚ましになったらしい。

 一度睡魔の山を越えたせいだろうか。目がやけギンギンしている。これならもう何日でも徹夜できそうだ。今ならなんでもできそう。魔王だって倒せそう。ハハッ!


「申し訳ありませんご主人様! 夜のうちに一度起きて、見張りを交代しようと思っていたのですが、いつの間にか朝になっていて……本当に申し訳ありません!」


 ロゼが起きるなり謝ってきた。なんだかんだで、一回起きるつもりだったのか。


「いいっていいって。人間、一日くらい寝なくても何とかなるもんだよ。ハハハッ!」

「のぅアキト。やけに目がギンギンしておるが、大丈夫か?」

「だいじょーぶだいじょーぶ!」


 頭はスッキリと冴えわたっているし、なんの問題もない。むしろ寝ない方がいいんじゃね? ってくらい朝から絶好調。寝なくてこんなに絶好調になれるなら、《徹夜》スキルにポイントをつぎ込んでもいいかもしれないレベル! いやもう、これはつぎ込むしかなくね!?


『《徹夜》スキルぅ? なんじゃその、胡散臭いスキルは』

『胡散臭いとはなんだ。文字通り徹夜ができるようになる素晴らしいスキルだ』

『……え、そんなくだらんことにスキルポイント使ったのかの?』

『くだらんとはなんだ。まあ、まだ使ってはいないが……だいたいリフィも昨日、貯めてないでさっさと使えみたいなこと言ってただろうが』

『まさか、そんなショボいスキルにポイントを突っ込もうとするなんて、思ってなかったじゃろ!? 確かに使えとは言ったが、せめてもっと役立ちそうなやつを取って欲しいのじゃ……』

『ショボイとはなんだ! さっきからお前は、《徹夜》スキルさんの何が気に入らないんだ!』

『強いて言うなら存在じゃな!』

『ひでぇ!』


 ばっさりリフィである。

 くそ、徹夜の良さがわからないとはお子様め!


『とにかくあれじゃぞ? 《徹夜》スキルとかそんな訳のわからんスキルを取って、ポイントの無駄使いしたらダメじゃからな?』

『あと数日寝ずの番をするために、《徹夜》スキルを3くらいまで伸ばそうかなと思ってる』

『絶対に伸ばすなよ! いいか、絶対じゃぞ! 1レベル足りとも取ったら駄目じゃからな!』

『おっ、前フリかな』

『フリじゃねーのじゃ! お主ちょっと、テンションおかしいぞ!? やっぱり徹夜のせいじゃな!?』


 ――結局話しあって、夜の見張りは俺、リフィ、ロゼの全員で交代でやることになりました。


 ……《徹夜》スキルを取って伸ばしたら、なんだか新しい世界が見えたような気がするのに。残念。


 朝ご飯として味噌汁を食べて、今日も元気に出発だ。迷宮都市なんちゃらへの道は未だ遠いが、森で彷徨っていた時に比べれば千倍マシというものだろう。早くロゼを正式な奴隷にしないといけないし、サクサク行こう。そろそろ味噌汁以外のものを胃に入れたいぜ。


 ……ゴブリンの肉って、食えたんだろうか。


『その発想はなんか、人間の尊厳的にアウトじゃろ』



 ――で、道中何事もなく、サクサク進む。

 いや本当に、まじでなんも無かった。


 魔物の襲撃も無いし、盗賊が急に襲ってくることもない。

 強いて言うならご飯時にロゼが、『ご主人様の温かくて美味しいお汁が欲しいです!』と味噌汁をねだったくらいなものだ。全方位に誤解を招きかねない、ある意味すごいアクシデントではあった。


 途中で出会った商人さんによると、この辺りは迷宮都市に続くそこそこ大きな街道の一つだから、比較的安全なルートなんだって。その割には森の中にゴブリンの巣とかあったけど、あれはイレギュラーだったらしい。


 そして異世界に転移して、実に六日目。豪快に裂けた俺のブレザーもすっかり元通りになった頃。


 俺は異世界最初の街――――迷宮都市ゲーなんちゃらへと到着した!


『ゲーテニヒルじゃから! そこちゃんと締めてほしいのじゃよ!』




 ◇◆◇◆◇




 迷宮都市ゲーテニヒルは、周囲をぐるっと壁に覆われた城郭都市だった。見上げるほどに高い壁のせいで、街の様子なんか微塵も分からない。ちっちゃい凱旋門みたいなところに数人の列ができているので、あそこから中に入れるのだろう。


 俺達も大人しく列にならんで、順番待ちだ。適当にベルトに挿していた小剣は、《アイテムストレージ》に入れておく。これ、危険物持ち込み放題なんじゃね? 異世界怖い。


 しっかし迷宮都市っていうからには、街の中に迷宮ダンジョン――魔物とかわんさかでてくる不思議建造物があるんだろうか。ダンジョンと言えば塔のように天に伸びるタイプと、地下に広がるタイプがぱっと思いつく。特に背の高い建物は見えないので、地下に広がるタイプなのかな。

 いやそもそも、俺が考える通りの迷宮があるのかどうかも分からんけど。


『あるのじゃよ?』

『あるんだ』

『うむ。この迷宮都市ゲーテニヒルについては知らんが、この世界には各地に迷宮と呼ばれる、魔物の激湧きポイントがあるのじゃな』

『激湧きポイントって……』


 いや間違って無いんだろうけど、仮にも神様なんだしもっと上品な表現してほしい。


『迷宮ができたのは、魔神……魔王を生み出して人間を滅ぼそうとする、はた迷惑な神のせいと言われておるな。まあ、妾が生まれる前の話じゃから、詳しくは知らんのじゃが』

『それ何億年前の話?』

『失礼じゃな! せいぜい数千年単位じゃ!』

『数千年をせいぜいといえるお前の感性には、どん引きだよ。流石女神だ』

『どん引き!?』


 退屈な待ち時間も、リフィをいじっていれば飽きない。すごいな俺の固有武装。暇つぶしに最適じゃないか! 梱包材としてよく入ってるあのプチプチに優るとも劣らない。


『プチプチと比較しないでほしいんじゃけど! 流石にもうちょっと役に立ってるじゃろ? ……立ってるはずじゃ』

『やめろよ、そこで弱気になんなよ』


 まあ実際、俺の知らない異世界知識なんかを与えてくれるしな。おばあちゃんの知恵袋みたいなもんだ。役には立ってる。自信を持てよ女神さま。愛してるぞ。


『ふぇ!? そ、そうかの? にゅふ、にゅふふふっ……』


 しまった、トリップしやがった。表情筋がゼリーになったのかって程ユルユルな顔で、笑いながら俺にしがみついてくるリフィ。頬ずりするのはいいけど、よだれ付けるのはやめてほしい。

 しばらく使い物にならないので、大人しくロゼと会話を楽しみながら順番待ちをすることにした。ロゼの使える生活魔法は、なんと二十種類以上あるんだって。これ豆な。



 で、そうこうしていると俺達の番が回ってくる。

 門守の衛兵さんは、背の高い金髪イケメンだった。職業的な意味でも、実におモテになりそうだ。俺以外のイケメンは全員滅びればいいと思うよ。

 しかも俺たちを見たときに、「《賞罰看破》」と言いながら瞳を金色に光らせやがる。えっ、何その演出。邪王真眼? いい年して中二病とか地雷すぎるだろ。


『《賞罰看破》スキルじゃの。主に治安維持のために、犯罪歴をチェックするためのスキルじゃ』

『なにそれ怖い』


 看破とか、見るからにステータスとか覗かれてそうな感じするんですけど。

 ……勇者だってばれたりしてないだろうか。


『あくまで《賞罰看破》で見えるのは、対象の善行と悪行だけじゃよ。スキルレベルによって詳細さが変わったりはするが、ステータスどころかお主の名前すら分からんから安心するのじゃ』


 そうか。それならいいんだけど。

 にしても、高度な防犯システムだな。悪人を一発で見破るスキルがあるとか、この迷宮都市とやらはずいぶんと安全性に配慮されている。こりゃあもう、住むしかないっしょ。根を張っちゃうぜ俺。伊達に水と安全がタダの国で生まれ育ってないよ。


『いや、悪人も悪人で、《経歴詐称》のような隠蔽系のスキルを持っていたりするからの。その場合、看破系スキルとのレベル勝負になるから、迷宮都市が絶対安全という訳ではないぞ? それに、中に入ってから犯罪を犯すような輩もいるのじゃ。日本と違って、こっちの世界は荒事に事欠かないから、あんまり気を緩めない方がいいのじゃぞ』


 ……ロリに防犯意識を諭されてしまった。流石、最近の小学生は警戒心バリバリで防犯ブザーを使いこなしているだけあるのだった。



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