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第二十八話 「深夜テンション」


 降り注ぐ日差しにも負けず、歩いている。


『そういえば、俺とリフィは転移してきて割とまともな靴を履いてるからいいけど、ロゼは足元サンダルなんだよな。流石に三日も歩き通すのは辛くないか?』

『……最悪アキトがおぶればいいんじゃないかの? スキルポイント余ってるじゃろ。《筋力》レベルを3にでも4にでもすれば、何も問題無いと思うのじゃ。どーせ取っておいたって、貯まっていく一方じゃよ?』

『お前はスキルポイントを何だと思ってるんだ』


 流石に、女の子をおんぶするためだけにポイント使えるかボケ。なんか才能無いとかボロクソ言われてるから、あんまりそういう肉体系のステータス上げるのも抵抗ある。《頑丈》はやむなしだが、《筋力》はなぁ。別に筋肉ムキムキのマッチョメンになりたいわけでもないし。

 それよりも、最初から2レベルある《器用》を上げたいものだ。どこで役に立つかは知らん。最終的に、リンゴの皮で1/1スケールの龍とか作れるようになるんだろうか。ちなみに今でも、1/1000スケールくらいのものなら作れる。


「なあロゼ」

「はいっ、なんでしょうかご主人様」

「足痛くないか? そんなクレープと見分けのつかないようなぺったぺたのサンダル履いて」

「クレープ……? いえ、大丈夫です。私は獣人ですので、むしろ裸足の方が良いくらいです。お気づかいありがとうございます」

「そうなのか」

「はい」


 なに、獣人ってそんなに足の裏が分厚いの? すごいね。


『獣人は魔法にあまり適性がない代わりに、普通の人間の倍くらいの身体能力を持っていると言われているのじゃ。足の裏が分厚いかはともかくとして、無理して嘘をついているという訳ではなさそうじゃの』


 そうか。ならいいんだけど。


「歩くの辛くなったら言えよ? どうせ休憩しながら歩かなきゃなんだしな」

「ありがとうございます、ご主人様」

「アキトー! 妾はもう疲れたのじゃ! おんぶして欲しいのじゃ!」

「嘘つけお前、ぴんぴんしてるだろ!」




 ……で。最終的に、リフィ、俺、ロゼの順番でダウンした。

 正確に言うと、俺がへばった時点でロゼはぴんぴんしていたが、強制的に休憩することにした。うわぁ獣人ってすごい。でも俺は背中にお荷物を背負いながらの行軍だったので、その辺りも加味して評価してほしいと思う。軍隊のトレーニングかよ。



 休憩しては味噌汁を食べ、夜になったら火を起こして道の脇で野営をした。


 ……どうやって火を起こしたのかって? それはね、ロゼが《生活魔法》を使えたからだよ。


「**~*~*【ティンダー】」


 むにゃむにゃと良く分からない呪文を唱えたら、ロゼの指先に小さな火が灯ったのだ。適当に拾って来た枝に着火すれば、一瞬で焚き火の完成である。獣人は魔法に適性がないはずなんだけど、どうやら《生活魔法》くらいは使えるらしい。そしてその《生活魔法》すら使えない俺って一体……。


<《異世界言語習得》の発動条件を満たしました。《異世界言語習得》のレベルが足りません。スキルポイントを消費して《異世界言語習得》のレベルを上げ、『魔法詠唱言語』を習得しますか? YES/NO>


 こんなアナウンスが出たりもしたが、魔法使えないのに、魔法の詠唱だけ聞き取れるようになって何が嬉しいんだ。

 ポップアップするガラス板のNOの部分を、最短距離で打ち抜いてやった。俺はノーと言える日本人です。


 さらにロゼはというと、「*~~**~【ピュアウォーター】」などと言って、水もだしてくれるのだ。塩気を含んでない、混じりけのない美味しい水だ。ロゼの天然水だ。付加価値でバカ売れしそう。


「寝る前に風呂入りたいなー」と呟けば「~~*~**【クリーニング】」といって全身爽やか仕立てにしてくれるし、夜風に当たって冷めてしまった味噌汁は「**~~~*【ウォーム】」とかなんとか温めてくれる。


 いちいちロゼの口から謎言語を聞かされるのには閉口したが、絶対に魔法詠唱言語なんか取らない。取らないぞ。


 ちなみに【ティンダー】は小さな火を作る魔法、【ピュアウォーター】はコップ一杯程度の水を生み出す魔法、【クリーニング】はリフィの浄化作用と同じで全身を綺麗にしてくれて、【ウォーム】はものを温める魔法だ。

 【ピュアウォーター】は俺の《クリエイト:味噌汁》と同じく、創造魔法と呼ばれる「凄い魔法」じゃないかと思ったが、どうも火とか水とか土とか、属性単体を生み出す魔法は創造魔法じゃないらしい。ほーん。


 昨日の洞窟野営の時点で使ってくれても良かったのにと思ったのだが、どうやら奴隷の基本として主人に命令されるのを待っていたらしい。しかし、今日は俺の意向を汲み取って、少しだけ気をきかせてくれたのだとか。うん、なかなか自主性の芽生えが見えて、俺は嬉しいよ。


 とにかく驚いたことは、ロゼさんは獣人がてらに、《生活魔法》限定だがびっくりするくらい魔法が使えたってことである。


 これは思わぬ拾い物とかそんなチャチなものじゃない、ともすれば俺とリフィの出番が食われかねないレベル。なにこの娘、一家に一人必須だろ。

 しかも獣人なので、剣を持たせれば俺程度圧倒できるだけのポテンシャルがあるとか。ぱないの。


「すごい! ロゼすごいのじゃ! お主が勇者なのじゃ!」

「ふっ……完敗だロゼ。今日からお前がナンバーワンだ!」


「えっ、えっ!?」


 異世界に来て初めて魔法を見たものだから、興奮して変なテンションになってしまった。

 ……でもリフィ、流石にそれだけで勇者になるのはどうなんだろう。どれだけリフィの中で勇者ブランドが暴落してるのか、もの凄く気になる。


 更には寝ずの番までしてくれると言うロゼを押しとどめて、俺は夜の間の見張りをすることにした。至れり尽くせりのロゼの《生活魔法》に対して、俺は味噌汁しか出してないからね。なんだか凄く申し訳ない気持ちでいっぱいだったので、『命令』してロゼには寝てもらった。これ以上お前を活躍させるわけにはいかんのだ! 


 凄い抵抗されたが、『俺にも男としてのプライドがあるんだ! 俺に全て任せろ!』と一喝したら、顔を赤くして素直に寝てくれた。ついでにブレザーを掛け布団代わりに与えたら、すごく大人しくなった。なにかしら琴線に触れるものがあったらしい。きっと俺のイケメンっぷりに感服したとかそんなんだろ(適当)。


 なお、本当になんにもしてないリフィは寝るのが仕事なので、本人もそれをわきまえているのか速攻で寝付いた。子供か。まあリフィが寝ないと浄化作用が働かないから、いいんだけど。なんか釈然としない。


 明日になったら『ロゼの《生活魔法》のおかげでリフィさんの存在価値激減してませんかー? ぷーくすくすー!』とからかってやろう。実際、【クリーニング】とのキャラ被り具合はやばい。浄化作用は服の補修と軽ヒールができる点で優っているが、普通に街で過ごす分にはいらない機能なんだよな……。街についたらいつの間にかリフィがフェードアウトしていないことを祈る。


 そんなことを考えて、眠気と戦いながら夜を過ごす。

 一日目は俺とリフィだけで防御力ばっちり(だと思っていた)し、二日目はゴブリンが巣にしていた洞窟で寝たため見張りなんて立てなかったのだが、こうして普通に野営する分には、見張り役は必須だ。


 特にここは人の目に着く場所だから、魔物だけじゃなくて人間も警戒しないといけない。荷物らしい荷物も無く、気温の暖かさに任せて芝生の上でズダ袋にくるまり雑魚寝している俺達だが、美少女二人が寝てるんだぞ。寝てる間に盗賊とかがやってきて攫われないとも限らない。そんなことになったら、ぐちょぐちょぬるぬるのR18的展開になるのは必至。対象年齢が爆上がりしてしまう。


 頑張れ俺。気をしっかり持つんだ俺。


 寝るなー! 寝たら死ぬぞー! ロゼの信頼を裏切っていいのかー!


 内心での必死の声掛け作業と、物理的な手段(頬をグーパン)によって誤魔化し誤魔化しやっているが、ついこの間まで普通の高校生をやっていた俺に、寝ずの番は荷が勝ち過ぎていたらしい。


 見張り作業開始から何時間も経過し、虫の声がやけに耳に心地いい。周りは真っ暗でなにも見えない。


 うつらぁ……がくん! うつらぁ……がくん!


 頭もろくに働かず、首をカクカクさせながら、あわや睡魔に屈してしまうかと思われたその時。

 俺の脳内に、アナウンスが走る!



<習得可能スキルに《徹夜》が追加されました。一夜漬けの心強い味方なスキルです>


 《徹夜》1

(【常時発動型スキル】夜を徹することのできるスキル。一徹までならその後の活動に支障を出さずに行える。レベルが上がると、越せる夜の数が増える)



「っしゃあキタコレ! これで勝つる! センキュー異世界フォーエバー!」



 見事な深夜テンションで深く考えもせずにステータスを呼び出し、新しいスキルを取得しに指が伸び……


「……はっ」


 すんでのところで思い留まった。


 ……おい俺。今なにしようとしてた!?


 あっぶね、危うく貴重なスキルポイントをアホみたいなスキルにつぎ込むところだった……深夜テンションって、怖い。


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