第三話 「女神(ちょろい)」
「いやぁ、照れるのぅ。まさかお主が、そこまで妾の事を好いておったとは……」
俺の要求により、再び身をくねらせていやいやするリフィ。
その目はちらちらと俺を見ている。
「くっ……神様を持っていけたらいろいろ便利だと思ったのn……あ、リフィ様世界一可愛いです!」
殺気を感じたので、台詞の軌道修正も忘れない。完璧だ。
このぽんこつ神様はとりあえず褒めとけば何とかなる事は、すでに分かっている。まるで俺の元カノのようだ。……まあ、あいつは表面上では機嫌直しても、裏ではねちねちと根に持つタイプだったけど。ホントに、別れ際にプリンの話とか持ち出さないでほしい。
「よっ、スター発見美人過ぎる神様! リフィさんの可愛さで世界がヤバい! 全方位愛され系スーパー美少女!」
「にゅむふふ……そ、そうじゃろそうじゃろ!
「可愛いさの宝石箱! KAWAII文化の最先端! 美少女オブザイヤー全世界優勝!」
とにかく褒めた。褒め称えた。もう今後の人生で、二度と人を褒められなくなってもいいという覚悟。俺が冷血人間になってしまったら間違いなくこいつのせいだ。
その結果。
「……おほん。し、仕方ないのぅ。そこまで言われてしまってはこちらもそれなりの態度を取らねばならんのじゃ。せ、世界一可愛い妾が欲しくて辛抱堪らんとは、まったく、妾も罪な女じゃのう……。本当はあんまりやっちゃいけないんじゃけど、よしわかった。お主の願い、聞きとどけようぞ!」
俺の願いは聞きとどけられた。
「……え、まじで!?」
神様ちょろすぎだろ! なんかちらちらしてるからもしかしてとは思ってたけど!
えぇ……いいの? 本当に神様もらえんの? 物理的に無理じゃなかったの? 宇宙の 法則が 乱れるの? 衝撃だわ。
圧倒的リフィの手のひら返し感と、その驚きのちょろさを受け止めて、ちょっと考える。
ふっふっふ……これはもう、あれだな。異世界攻略済みといってもいいな。
やったね、まさにチートだよ! 他の勇者どもとか相手にならねーわー。いっちょ異世界行って、鼻で笑ってきてやりますか。ぷふー、お前のチートだっせぇ! 想像するだけでユカイツーカイ。ふはははは。
俺はこれ以上ないくらい、過去最高に調子に乗っていた。
「じゃ、じゃあそんな訳でお主……夏村秋人は今から、『アーデルリフィケイティカを司る勇者』じゃ! よ、よろしくの?」
「ああ! よろしくな、リフィ!」
待ってろ、バラ色の異世界生活!
まずはリフィにでっかい家を立てて貰って、美味しい食べ物と快適に眠れるベッドを用意して貰って、毎日食っちゃ寝して偶に外にでて異世界観光をして、んで気が向いたらリフィに魔王倒してもらおう。
うむ、完璧だ。我ながら自分の頭の冴えが恐ろしい。
「じゃ、じゃあアキト! 妾の手を握るのじゃ!」
「仰せのままに、マイプリンセス」
「にゅっ……うぅ。アキトの、ばか」
神様は凄い勢いで俺にほだされていた。これがホントの落とし神。
ははは、赤くなる君も素敵さベイベー。
「しかしアキト……本当に妾なんかで良かったのかの?」
上目遣いで尋ねてくるリフィ。
大きな翡翠の瞳は、星屑を散りばめたような輝きを放っていて、なるほど確かに神様だ。でなければこれほどまでの美は生まれ得ないだろう。
「何言ってんだリフィ……俺は、お前じゃなきゃ駄目なんだよ」
嘘は言って無い。断じて。
「はぅう……」
そっと頬に手を添えると、リフィは俯いてサラサラと流れる金髪に顔を隠してしまう。金髪ストレートロングとかむしろ狙いすぎな気もするが、鉄板に可愛いので許す。
そして同時に、俺達の周囲からはキラキラとした青い光が漂い始めていた。少女漫画的演出だ。いや違う。足元にはどっかで見たような魔法陣。
「……ありがとうなのじゃ、アキト。妾、頑張るからの!」
「おう! 頑張ってくれ! 色々とな!」
「下界に降りるために神力を全て失って、ただの人間の少女程度まで能力を制限されてしまうが、頑張るからの!」
「おう! がんば……、あれ?」
おう、ちょっと待て。セイセイセイ。
今すごーく聞き捨てならない言葉が聞こえたような……。
「妾、こう見えても料理だけは自信があるのじゃ! 得意料理はお味噌汁なのじゃぞ。アキトにも妾特製味噌汁をご馳走するから、楽しみにしておれ!」
「あれ、……あっれぇぇー!?」
魔法陣が一際大きく輝き、俺達の身体は足元から光へと変わっていく。
あれこれもしかして、選択ミスった? 初期装備が
E:ただのロリ
で異世界生活になっちゃうよ? ねぇ、あっれ!?
「それでは早速、異世界へ出発なーのじゃー!」
「ちょっちょっ、ちょい待ち! ストップ! やり直し! やり直しを要求する――――!」
ブゥンッ
俺の悲痛な叫びも虚しく、視界を青の光が覆い尽す。あっ、目が、目がぁあああ!
こうして魔法陣は、無慈悲にも俺達を異世界へと送りこむのだった……。