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第二十二話 「戦利品」

同日投稿その4。



 ◇◆◇◆◇




 お腹が空いてるかな、と思ってロゼに味噌汁を振る舞ってあげることにした。


「これが我が奇蹟の発現……《クリエイト:味噌汁》!」

「くっ、相変わらず雰囲気だけは無駄にかっこいいのじゃ!」


 相変わらず壮大な魔法陣と火花の演出の末に、アルミ製の片手鍋が現れた。中身はできたてほかほかのお味噌汁だ。美味さは神様のお墨付き。なお、ゴブリンに出した分は全部ぶん投げた。


「ほれ」


 たーんとお食べと鍋をロゼの方にやってから、俺は立ちあがってゴブリンの血だまりの方へ歩いていく。リフィ、ロゼを一応頼むぞ。


 ゴブリンが持っていた小剣やナイフを回収したいし、鍋も投げたから回収しないと。べっちょべちょの血だまりはそれはもうすごい臭いを放っていて鼻がひん曲がりそうだ。剣とか《アイテムストレージ》に入れて、亜空間が臭くならないか心配だなぁ……。


 ひょいひょい拾って、小剣7本ナイフ7本、棍棒2本、更にはゴブリンキングの使っていた一メートル半くらいの長大な肉切り包丁を回収した。ぞろりと光る刃が一度は俺の血を吸っていることからも、その威力はお墨付きだが、流石に《筋力》レベル2ではこれを扱えない。


 例に洩れずというか、本来の《筋力》ステータスの恩恵より、俺が受けている恩恵は低いらしいしな。少なくとも、軍人さん並の筋力になっているとは思えない。精々が町内の腕相撲チャンピオンってところだ。

 《筋力》レベルを上げて使うか、売れるのなら売ってもいい。状態はというと、流石ゴブリン産というべきか結構ボロボロなので、売るにも使うにも困るかもしれないけど。


 洞窟の中に投げ捨ててきた小剣も一応回収しに行くか。


 暗い洞窟を進んで、ゴブリンキングが居た部屋に。小剣を回収してこれで八本目。これは《アイテムストレージ》に入れるのではなく、ベルトに無理やり挿しておいた。と、そこで部屋の隅に気になる物を発見。


 てれれれってれー、ズダ袋ー! しかもめっちゃでかい。


 中身はなんだろな、と覗いてみると戦士の被るような兜やら籠手やら胸当てやらがゴロゴロ入っていた。過去のゴブリン達の戦利品だろう。それに紛れて、金や銀や銅のコインも発見。もしかしなくても通貨である。思わずガッツポーズ。


 ゴブリンにやられた皆さんにはご冥福をお祈りするとして、これらは有り難くいただくことにした。ズダ袋ごと《アイテムストレージ》に放り込む。結構重くて、《筋力》レベル2でもきつかった。残りの8ポイントを衝動的に《筋力》に振りそうになった。危ねぇ。


 思わぬ戦利品にほくほく顔で洞窟をでる。通貨も手に入れたし、ロゼを俺の奴隷にするお金はなんとかなったかもしれない。金貨四枚、銀貨二十八枚、銅貨四十一枚も入ってたからな。あと、青銅のお金が三十枚と、白っぽい石のお金が三十八枚。

 ゴブリンキングにボコボコにされたのは超痛かったけど、これだけの戦果があれば十分だろう。結局、背中の傷も大したことなかったしな。軽く裂けてた程度とか、《スーパーアーマー》兄貴強すぎ。まあ化膿とか怖いし、後の処置はリフィの浄化作用を信じてる。


「おーいアキト! 早く来るのじゃ!」


 と、そこでリフィに呼ばれる。なにかあったのかと急いで駆け付けると、そこには未だに味噌汁の鍋の前で正座しているロゼと、困り顔のリフィ。


「『ご主人様が食べていいとおっしゃるまで、手をつけるわけにはいきません』と強情での……なんか奴隷根性がめっちゃ染みついているのじゃ。誰が教えたのやら」


 見ると、犬耳はわっさわっさと揺れていて口の端からはよだれがでているが、ロゼはちゃんと『待て』をしていた。もの凄い切なそうな顔で、やってきた俺を無言で見つめる。きゅるるるる……というお腹の音が、悲しげに響いた。

 何この子、もの凄い忠犬っぷり。


「食べていいぞ」

「ありがとうございますっ」


 そして俺がゴーサインを出すと、鍋に飛びついて食べ始めた。お箸もスプーンも無いのだが、そんなことは全く疑問に思っていないらしい。当たり前のように具材を手掴みして、汁に顔を突っ込んでいる。……おいおい、奴隷商人は一体この子をどんな扱い方してたんだ。


「……すごい、美味しい、美味しいです……はむはむ」

「ふ、不憫なのじゃ……」

「全くだな。というか、これだけ血の匂いがするのによく食欲全開で食えるな」

「出す方も出す方じゃがな」


 リフィと顔を見合わせる。


「なあロゼ」

「はむ……。はい、なんでしょうかご主人様」


 鍋から顔を離して応えるロゼ。味噌汁まみれのその顔は流石にどうかと思う。前髪長いから、にんじんひっ付いてるぞ。

 ご飯の時くらい上げればいいのに……と思いながら、にんじんを取りがてらロゼの前髪を上げる。カーテンのように目にかかっていた黒髪が取り払われて、青い瞳と目があった。そのまま数秒、見つめ合う。


「やっぱ綺麗な目だなぁ」


 やはり美少女の必須条件は目なのだろうか。リフィもエメラルドみたいにキラキラしてやがるし。


 思わず呟くと、ロゼがアメリカザリガニもかくやというスピードで後ろに下がった。前髪を両手でばっと抑えて、小声で『うぅぅぅ』と呻いている。犬耳もぺたんとなっていた。

 その状態で、消え入りそうな声を出す。


「あの、すみません、あの……これは、その……恥ずかしくて」


 顔の上半分は見えないけど、下半分はリンゴのように真っ赤になっていた。

 前髪が無いと恥ずかしくて、見つめ合うと素直にお喋りできないらしい。村では差別されてたっていうし、それなら人と直接目を合わせること自体怖いのかもしれない。そういえば俺のいた孤児院にも似たような子がいたなぁ……懐かしい。前髪切られてからは眼帯付け始めて、遂には中二病になっちゃったあの子は今元気だろうか。


「いや、気にしてない。こっちこそ急にすまん」

「い、いえ……」


 ロゼは髪を抑えるのをやめて、スリット越しにこちらを見る。顔はまだ赤いけど。

 それで、そうそう。ロゼに声をかけたのはオープンフェイスをしてロゼを困らせたかった訳ではなくてね。折角話を聞く体勢になっているので、俺はロゼに言い含めるように教えてあげた。


「これからは、俺が出したものは全て俺の許可なしに食べていいから」


 食事の度にいちいち『待て』をされたんじゃあ……いや、それが悪いとは言わないけどそれはあくまで俺の趣味嗜好であってね。一般的に考えるとあんまりよろしくないんだ。別に俺は、ロゼを犬みたいに扱いたい訳ではない。と思う。きっと。俺は俺を信じてるぞ。

 はいそこ、小声で『……変態なのじゃ』とか呟かない。


「……しかし、奴隷ならば主人の命令を待たなければいけないのでは? 奴隷が勝手な行動をとることは許されていないと教わりました。ましてや、勝手に食事をとるなどと。……私はもう、ご主人様の奴隷なのですから。これからは身分に相応しい行動を心がけなければと思ったのですが……」


 何故悲しげな顔をする。奴隷がすでにアイデンティティになってしまっているのだろうか。

 まあ確かに、ご主人様の機嫌を損ねないようにと行動する気持ちはわかる。しかし、俺は世間一般でいう奴隷の主人のように、ロゼに理不尽を強いたりするつもりはない。


 そこのところは、これから根気強くロゼに接していって、分からせないといけないな。あと、ご飯の食べ方も。今は食器が無いから、ロゼの食べ方である意味正解なのが悔しい。なんてこった、これじゃあ蛮族じゃないか。はやく文明開化しなきゃ。


「いや、あー……なんだ。じゃあこれ命令な。『俺が出したものは全て俺の許可なしに食べなさい』……これでいいか?」

「……ご主人様がそうおっしゃるのなら」

「そうおっしゃるね。まあ他にも言いたいことはあるけど、今はいいや。ごめんな、食事の邪魔して。誰も取らないしお代わりもあるから、ゆっくり食ってくれ」

「お代わり……?」


 未知の言葉を聞くような顔をするロゼ。


「欲しくなったら言うんだぞ。遠慮するなよ。いいか、絶対だぞ。絶対だからな」

「は、はい」

「それだとなんかの前振りみたいなのじゃ……」


 結局、ロゼは食べ終わってもお代わりしなかった。そして盛大にお腹を鳴らしたので、今度からは自分がまだ食べたいと思ったらお代わりをするようにと言い含めながら、《クリエイト:味噌汁》を使った。


 そういえば、こんな痩せて不健康そうな子にお腹いっぱい食べさせるのも駄目じゃね? 

 ……俺がそのことに気付いたのはロゼが三鍋目の味噌汁を飲みほしてからだった。まあ、本人満足そうだし、具合が悪そうでもないから大丈夫かな? 大丈夫であってほしい。獣人だし、体とか強くあってほしい。


 そしてその日は、日が落ちてしまったので洞窟の中で寝泊まりすることにした。


 リフィの浄化作用で服を綺麗にしないと、街に入れないというのもある。軽い怪我ならヒールもできるということで、俺の背中も治してくれることだろう。うん、固有武装としては地味だけど、便利だね浄化作用。特に怪我の治療は本当にありがたい。


 ……地味だけど。

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