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第二十話 「黒髪獣人」

同日投稿その2。



「は、はい……あの、えっと、えっと」

「ゆっくりでいいよ。慌てなくても、ちゃんと聞くから」


 口をぱくぱくとさせるロゼに微笑んで、頷く。


「……わ、私は……あの、黒い髪だから、お母さんに奴隷として売られて、村も貧しくて、それで……いろんなところに行って、街に向かう途中でゴブリンに襲われて、商人さんは私達を置いて逃げちゃって、えっと、他の奴隷と一緒に戦ったけどみんな殺されちゃって、私だけ殺されずに洞窟に連れて行かれて、それで、えと、それで……」


 彼女は纏まらない言葉で、たどたどしく話し始めた。


 辛いだろうに、思いのほか俺を信用してくれているのか、頑張って言葉を紡いでくれた。『もう良いんだよ』と抱きしめて背中をポンポンしてあげたかったが、気になる情報もあったので断腸の思いでロゼに喋ってもらうこと数分。


 分からない所や繋がらないところを根ほり葉ほり質問し、ロゼの言い分をまとめて編集・脚色するとこうなる。



『とある小さな獣人族の村で生まれたロゼちゃんは、小さな頃からその黒い髪のせいで差別を受けていました。この世界では黒髪といえば勇者様のイメージが強く、普通の人間が黒髪を持っていると不敬だの罰あたりだのと言われてしまうのです。

 特に獣人族は元々普人族と比べて立場が弱いため、その黒髪ともなればそれだけで白眼視されてしまいます。たとえ、どんなにロゼちゃんが美しくてもその事実は覆りませんでした。

 頭が固く目の腐った村人どもは全員水虫で死ねばいいのにとアキトくんは思いました』


『そんな事情でロゼちゃんは村で肩身の狭い思いをしながら暮らしていましたが、ある日村に奴隷商人がやって来ます。貧しい村では口減らしのために子供が奴隷として売られることもありますが、いままで来た奴隷商人は誰もが黒髪のロゼを買おうとしませんでした。

 しかしその日来た奴隷商人は、ロゼちゃんを買ってくれるというのです。村の人達は厄介者の処分ができてお金にもなると、諸手をあげてロゼを売り飛ばしました。ファッキュー』


『奴隷商人は獣人の子供を集めて、労働奴隷として炭鉱に売り飛ばすお仕事をしていました。各地の村を回って沢山の獣人の子供を集めるため、奴隷商人はロゼちゃんを買った後も各地を巡ります。

 そして、一年以上経ちました。とある街に向かう道すがらで、ロゼちゃん達はゴブリンキングに統率されたゴブリンの集団に襲われてしまいました。ケチな商人は護衛を安い金で雇っていたので、ゴブリンキングを見た護衛は一目散に逃げ出しました。慌てた奴隷商人は、集めた奴隷たちを檻から出して囮にして、自分はからくも逃げおおせたのです。

 街につく前に猪にぶつかって死ねばいいのにとアキトくんは思いました』


『一方囮として取り残された奴隷たちは、必死にゴブリン達に抵抗しましたが、いくら身体能力に優れた獣人とは言えまだ子供です。一人また一人と殺されてしまい、残るはロゼちゃん一人となってしまいました。

 ゴブリン達は一人残したロゼちゃんに、奴隷商の積荷の一つである鎖を付けて、洞窟へと担いでいきました。あのゴブリン達は他にもケモミミをこの世から減らしていたのです。

 もっと残酷で救いようの無い方法で殺してやればよかったとアキトくんは精神のダークサイドに堕ちそうになりました』


『洞窟に運ばれたロゼちゃんは、なんとなく自分がどうなるのか想像がつきました。ゴブリンがどういう方法で繁殖するのか、知っていたのです。しかしそれに抵抗する気力ももはや残っておらず、ただ自分の運命を呪うばかりでした。

 しかし、洞窟に着いて何もしないうちに、ロゼちゃんを連れてきたゴブリンは慌ただしく洞窟の外へ出ていくではありませんか。ゴブリンキングと洞窟の部屋に取り残されたロゼちゃんのキュートな犬耳は、外の音を微かに拾っていました。ゴブリン達と、誰か人間の男の人が戦っている音でした』


『ロゼちゃんは思いました。どうか、外の人が私に気付いて私を助けてくれますようにと。ロゼちゃんは生きる希望が湧いてきました。

 そう、下卑た笑みを浮かべながら自分に近づいてくるゴブリンキングに、悲鳴を上げて抵抗できるくらいにです。それはもう、必死にイヤイヤしました。ナイスロゼちゃん!』


『抵抗されたゴブリンキングはしばらくすると、怒りの表情で、ロゼちゃんの足元に刺さっていた大きな剣を引き抜きました。しかしロゼちゃんは、外の人が助けに来てくれるかもしれないという淡い希望をもったまま、ふるふると首を振ります。

 ゴブリンキングは、自分の思い通りにならないことが大嫌いでした。だから剣を振り上げて、短気でロゼちゃんを殺そうとしたのです。馬鹿ゴブリンめ、くそったれ脳ミソミジンコ野郎が。

 ロゼちゃんが死を覚悟した瞬間、間一髪アキトくんが間に合いました。ロゼちゃんはアキトくんにかけられた言葉に安堵して、気絶してしまいました』


 ――――そしてもう一度目が覚めて、今に至りますと、そういう訳だったらしい。

 なお、話の途中で《スーパーアーマー》の硬直時間がやって来て、首だけうんうん頷く人形みたいになってしまったが、怪しまれなかったのでよしとする。硬直状態でも、首から上はなんとか動くという新発見。


 ところどころ俺の想像で補ったりもしているが、大体の事情はこんなところだろう。ちなみに森に運ばれてからこの洞窟までは、精々一時間といったところらしい。洞窟の左手の森から出てきたそうなので、そのあたりを探って獣道を見つければ森から出られるだろう。やったね。


 でも今の話の中でとりあえず一番大事なのは…………ロゼちゃん、ゴブリンにぐちょぐちょされてなかった! ということだな!


 それとなくその辺りの事情を尋ねるのは骨が折れたが、俺はやりきったのだ。誰か褒めて欲しい。俺はどうやら、かなりナイスなタイミングでここに訪れたらしい。あと少し遅かったら、危うくロゼが傷物になっているところだった。あっぶねー。まさに神がかり的な……これも、本物の神様がいたからだろうか。


「そうか……う゛ぅ、つらかったのじゃな゛ぁ……うぇっぐ、ぷぁああ」


 当の神様であるリフィはというと、ロゼの境遇に同情してガチ泣きである。涙と鼻水で汚い。


 血の付いたワンピースを着たリフィに抱きつかれて、ロゼもさぞ迷惑だろう。まあ、血自体は俺が担ぐ時にロゼにも付いちゃってるんだけど。

 当のロゼはというと、話し終えてから俺の方に向き直り、(前髪越しにだが)俺の目を見て深々と頭を下げた。リフィが張り付いたままなので若干動きにくそうだったが。


「アキト様。私の命を助けてくださって、本当にありがとうございます。このご恩は一生忘れません。私にできることがあれば、なんなりとお申し付けください。……こんな、黒髪の獣人にこんなことを言われても、迷惑かもしれませんが……」

「まさか、とんでもないよ。それに黒髪のことなら、俺も同じだし」


 ほら、と自分の髪を一束つまむ。

 あ、もしかして返り血で赤く染まってたから分からなかったか?


「え……あ、本当だ……」


 いま気づいた、という風なロゼ。おう、まじか。そんなに赤いか俺の髪……まあいいや。これでロゼとも、少し距離が縮まるはず。


「だからさ、少なくとも俺の前では自分の髪のことを卑下しないで欲しい。いきなり言われても戸惑うと思うけど……できれば、その髪もロゼちゃんの一部として誇ってあげてよ。だってこんなに、綺麗なんだからさ」

「……ぁ、」


 ロゼに近寄って、ボサボサの黒髪を手櫛ですく。すぐにすんなり指が通るようになる所を見ると、やはり元々の髪質は良いようだ。シャンプーアンドリンスさえすれば、すぐにでも輝きだしそう。ロゼは少しびくっ! としてから、なんだか恐れ多いような表情で俺に為されるがままだ。

 少し調子に乗って犬耳の方も撫でると、びくっ、ぴょこん、と耳が動いてベリーキュート。


 ――リフィ、ちょっとどいて。


 ロゼに抱きついていたリフィが素直に俺と位置を交換すると、髪を撫でる流れのまま俺より頭ひとつと半分小さな体躯を抱きしめる。多少血なまぐさいのはリフィも一緒だったので許して欲しい。


 目の前にこんなに弱った女の子がいて、俺なんかに恩義を感じてくれている。両親に捨てられた悲しみは、俺にも少しは分かる。勿論、日本という豊かな国に産まれた俺と、過酷な環境で生きてきたロゼとでは、大部分が違うのだろうけど。

 それでも、これを抱きしめずに何が男か。守ってあげなきゃいけないと、ケモミミとかそういう俗っぽい不純な動機抜きで思った。これが薄幸系美少女の魅力か……あれ、今なんか一気に俺の想いが俗っぽくなった気がする。


「……あ、の」

「ロゼちゃんは頑張った。よく頑張ったよ。泣いてもいい……俺は君の全てを受け入れよう」

「…………すん、」


 それからしばらく、彼女は静かに泣いた。生まれ故郷で差別を受けて奴隷商に売られてゴブリンに犯されそうになって殺されそうになって。更には目の前で、仲間が死んでいく様も見たのだと言う。こっちの世界の人達は、俺と同じくらいの年齢で、俺の想像もつかないくらい難しい人生を歩んでいるんだろう。


 ぶっちゃけ今までファンタジーとか舐めてたし、なんなら奴隷最高! ヒャッハー! くらいのことは思ってたけど、これからは考えを改めなければいけない。

 ……奴隷でも、お互いの意思とか大事にしないとだね。無理やり、ダメ、ゼッタイ。やっぱり相思相愛が一番だよね。


「……そこは奴隷反対とか、世界から奴隷をなくそうとかではないのかの」


 ボソッとつっこみを入れてくるリフィ。

 いやいや。それはこの世界に根付いたシステムじゃん。リンカーンでもない俺に出来ることは現状を受け入れて、なるべく可愛い奴隷の女の子と合意の上で仲良くすることだけだ。どっかの国の王様になったら考えなくもない……いや、それはそれで奴隷大ハーレムとか憧れるな。


「勇者にあるまじき下衆い思考なんじゃけど」


 まぁ、崇高な目的なんて、俺にはあるはずないのだから。ゲス思考結構、案外こういう生き方の方が得をするってもんだ。ぐっへっへ。


「いや、魔王倒して欲しいんじゃがの……」

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