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第二話 「最強の装備」

 


 ――――そういえばここ、どこだ?


 キャトられてからこっち、ずっと立っている白い世界を改めて見渡してみる。わー白いなー、という感想しかでてこない。


「今さらか!」


 がくっ、と神様がずっこけた。


 それは見事なずっこけっぷりで、白いワンピースが良い感じにめくれ上がって、シンプルな純白に包まれた小ぶりなお尻が見える。この神様は芸の神様なのだろうか。

 別に俺はロリコンじゃないけど、お尻に罪は無い。お尻はただそこに有るだけなのだ。いわば、空気。お尻は空気! だからこうやって触っているのもむしろ自然なことぐはっ!?


「な、な、なにをするのじゃー!?」


 ロリ神様に殴られた。脳を揺さぶるいいパンチだ。


「いや、折角だし、触っとこうかと思って」

「何が折角なのじゃ!? 意味が分からんのじゃ!」

「人間じゃなければ、女の子のお尻を触ってもどこにも怒られないじゃん」

「妾が怒るのじゃよ!? このヘンタイ! さっきのゼウスに対する発言はなんだったのじゃ!」

「いや年齢差的におっさんは駄目なんだよ、それはR18だ、マジでヤバイ。でも高校生ならセーフだ、R15程度ですむ。分かるだろ?」


 運営に怒られるかどうかの瀬戸際なのさ。ラブコメです、ラッキースケベです、で通せる道理と通せない道理があるのだ。


「分かるかぁぁああ! っていうかさっきのどこがラッキースケベなんじゃぁぁああ!」


 それからしばらく神様が怒って、山が割れたり海が割れたり谷が割れたりした。いやごめん、谷は最初から割れてるな。そして割れてると言えばお尻。いやー、なかなかの触り心地でした。けっしてロリコンではない。神様だし、どうせウン千歳なんだろうから、法令にはこれっぽちも違反していないはずだ。合法ロリBBAだ。


 とかどうでもいいことを考えながら、ガミガミとしたお説教を聞き流すこと数十分。


 肩で息をする神様は、本来の目的を思い出したのか、こほんと咳払いをすると穏やかな口調に戻って俺に語りかけてきた。


「……ここは、妾の創った神聖なる空間じゃ。どこの世界からも隔離された、いわばプライベートスペースじゃな」


 どうやら、律儀に俺の疑問に答えてくれたらしい。


「つまり、神様の自室みたいな」

「まあ殺風景じゃが、そうとも言えるかもしれんのじゃ」

「俺……女の子の部屋に入ったの初めて……。なんか、良い匂いがするんだね」

「いきなりなんのアピールじゃよ!?」

「いや、女の子の部屋に入ったらこれはやっとかないとなって。ほら、付きあった彼女が『これ……ファーストキスだから』っていうような感じで、とりあえず初めてって言っとけばいいんじゃね的な。それにしてもあいつら、ファーストの意味理解してんのかね。セカンドもサードもファーストになんなら、内野の左側ガラ空きよ?」


 なんならピッチャーキャッチャー含めて全員ファーストに押し掛けるレベル。ふざけんな。俺の純情とファーストキスを返せ。おかげで俺は純情を失い、こんなにもスレて汚れてしまった。


「いや……そんな死んだ目で言われてもの……。というか、結局意味分からんのじゃ」

「お子様にはまだ早いか」

「お子様じゃないのじゃ! 神様なのじゃー!」


 迂闊な発言によってまた神様が説教モードに入りそうだ。流石にもう聞き流すネタも尽きたし、何よりずっとここに居るのも飽きたので、話を進めることにする。


「あーはいはい神様神様、世界一可愛いよ。……それで、何。勇者だなんだと俺を呼び出した世界一可愛いよちゃんだけど、結局俺はなにをすればいいの? 世界一可愛いよちゃんの世界一の可愛さを異世界に広めてくればいいの? 任せろ得意だ」

「……せ、せかいいち……?」


 適当ほざいてみると、上目遣いでそう聞き返してくる神様。

 なにこれ可愛い。そしてチョロそうな臭いがぷんぷんする。


「うん、可愛い可愛い」

「……お、お主、実は結構良い奴じゃな……にへへ、ふへへ」

「世界一! 可愛いよ! 神様!」

「うぇへへへへへ」


 物欲しそうな顔をするので、ちょっとだけだけ誉めてやったら、そのまま神様が痴態を晒して身悶えること数分。

 なにこれ正直引いちゃう。本当に神なのか。頭のおかしいドラッガーじゃねぇのか。誉められ耐性マイナスとか、今までどんな環境にいたのだろう。親の顔が見てみたい。


 ひとしきり白い床を転がりまくった後、神様は正気を取り戻した。しかし、失った尊厳までは取り返せないのであった……。おいたわしや、こいつはこれから、チョロQ並みにチョロいポンコツ神様というレッテルと共に生きていくのだ。

 ……顔も知らないゼウス某の気持ちがわかったような気がした。


「……って、ハッ! 違う、そうじゃないのじゃ! 妾の名前はその、せ、世界一もにゃもにゃ……じゃなくて、アーデルリフィケイティカというのじゃ!」

「いや別に俺、名前聞いたんじゃないんだけど。何すればいいか聞いたんだけど」


 会話のキャッチボールちゃんとできてますか。

 ていうか長いし言いにくいな、アーデルリフィケイティカ。神様でいいよ。っていうか噛み様だよ。


「……な、名乗ったからにはちゃんと名前で呼んでほしいのじゃ」

「え゛え゛ぇ゛……」

「そこまで嫌なのじゃ!?」


 いかん、神様が涙目だ。

 というか、本当に話が進まなくなりそうなのでふざけるのも大概にしておこう。この神様反応がいちいち面白すぎる。


「ごめんごめん。冗談だよアーデルリフィケイティカ」

「……ん。許すのじゃ。ついでに、妾のことはリフィと呼ぶことを許可してやるのじゃ」


 あ、どうやって略すのかと思ったらそこ取るのね


「わかったよ、リフィ」

「うむ、くるしゅうないのじゃ。――で、お主にやってほしい事じゃったの。まず最初に言っておくが、この空間に入った時点でお主に拒否権は無い。お主は勇者となって、異世界『アリスティア』に行かなくてはならぬ」


 それはまた、随分と横暴なことで。でも横暴ロリって属性的には嫌いじゃないな。最終的に屈服させて、首輪付けるまでが1セット。


「そうか、まあいいんじゃない」

「なんじゃ、えらいあっさりじゃな。妾が言うことではないが」

「いや、まあ、それも良いかなって。……俺、親に捨てられて児童養護施設の育ちだからさ。施設の人とも、あんまり話さなかったし。腹を割って語り合える友達もいなかったし。彼女とは別れたし。最近、餌やってた野良ネコまでどっか行っちまうし」


 猫は自分の死期を悟ると、姿を消すと言う。

 ……きっと、エリザベスはもう……。

 いやよそう。悲しくなるだけだ。男なら上を向いて、ぐっとこらえるんだ。頑張れ俺。しかし涙って、どんくらい上向いてれば蒸発するんだろう。ドライアイになっちゃう。


「……異世界、楽しいといいのぅ」

「同情するならチートをくれ」


 いついかなる時もハッピーになれる魔法とか。あれ、なにそれ副作用とかヤバそう。


「むぅ、チート……チートか。それは、お主が何の勇者になるかにかかっておるのじゃ」


 リフィが真剣な顔で告げる。


「何の勇者って……どういうことだ。勇者ってなにかしら司ったりするものなの?」

「まあそうじゃな。『固有武装』として、剣とか槍とか弓とか盾とか司るものじゃの。その方が力を付与しやすいし、それにほれ、妾達のような神々が覚えやすいじゃろ?」


 驚きの理由。爺さん婆さんだからボケてんのか。


「あァ!?」

「……さーせん」

「……こほん。まあ、よいのじゃ。さぁて、何の勇者がいいかのー?」

「まぁなんか、いい感じにオススメなの頼むわ」


 というか何があるかも分からないんだが。とりあえず神様のオススメを聞いておいて損は無いだろう。


「じゃあこれじゃな。じゃじゃーん、ゼウスん家のトイレ用ブラシ~!」

「返してきなさい」


 リフィがどこからともなく取り出したのは、緑色のプラスチック製と思われる柄の先にタワシみたいなのが付いたアレだった。


 なんてもん効果音付きで出してんだ。

 ていうかなんで、オススメって言ってそれになるんだ。


「いやこれ、最強じゃよ? チートじゃよ? この世の全ての汚れを浄化できるのじゃ。ほれ、ほれほれ!」


 やめろ。やめてください。その汚ならしいブツを俺の顔に近づけるな。いくら神様のでも、生理的に無理だよ。いくらすごかろうと、トイレ用だもん。


 そんなものの勇者になってみろ、そんでまかり間違って向こうで歴史書なんかにのってみろ。誰っ一人得しないから。トイレ用ブラシの勇者とか真面目に編集するやつらのことも考えてやれよ。

 可哀想だろ。いや主に可哀想なのは俺だけどさ!


「ありじゃな」


 なしだよ馬鹿。


「じゃあ、お主は何がいいのじゃ。妾はオススメと言われたからトイレブラシを出したのじゃぞ?」

「リフィの感性がおかしいということがわかった」

「むぅ……良いのにのぅ、コレ……」


 流石は神だ。感性が人間には早すぎる。

 リフィはブラシをぽいっと放る。床に落ちた瞬間、ふっと掻き消えるブラシ。おお、ファンタスティック。


「何か持っていきたいものでもいいから、言ってみるのじゃ。最強の剣とか、最強の盾とか」


 持っていきたいものか……スタンダードに考えるなら、勇者といえば剣のイメージがある。

 が、しばし待ってほしい。そんな安易な考えで自らのチートを決めてしまって本当にいいのだろうか。


 例を一つ出そう。仮にここで俺が、『戦車を持っていきたい』と言ったとする。それも特別グレートなやつだ。剣と戦車。どちらが強いかと言われればまあ戦車だろう。馬鹿でもわかる。俺でもわかる。そもそも比較するようなものでも無いとも言う。


 実際は使用するシチュエーションとか、そもそも俺が戦車なんて扱える訳ねぇだろとかいろいろな問題があるが、戦車があれば異世界の戦場はいろいろ捗ること間違いなしだろう。


 とにかく俺が言いたいのは、勇者イコール剣とか、そういう安易なイメージは選択肢を狭めるということだ。自由な発想が大事だ。メガ粒子砲とかもありかもしれない。世界観大丈夫だろうか。

 なんなら武器じゃなくても構わないというのは、さっきのトイレブラシで確信している。ならば……。


「そうだな……異世界……異世界か。あっ」

「なんじゃ、何か浮かんだかの?」

「リフィ」

「却下じゃ」

「三行」

「妾は

 神だから

 物理的に無理」

「把握」


 ……いや把握じゃねぇよ。物理的にも何も無いだろ。むしろお前物理法則とかガン無視出来る存在だろ。


 そしてなぜこのネタが通じるのか。神様に不思議は尽きない……。



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