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第十八話 「救出」

同日投稿その3。



 


「リフィ、この子のこと頼む。俺はあいつを倒さなきゃならない」


 言いながら、血だまりに少々細工をしておく……うへぇ、気持ち悪い。こんなもんでいいかな。ああ後、ステータスもレベルアップさせないと……。


「……ほぅ、これは犬獣人か。いきなり飛び出すから何かと思えば、ケモミミのためじゃったと」

「ご明察」


 ステータスをいじりながら、リフィに応える。


「よくあんな暗がりで、しかも一瞬でこの耳を判別できたものじゃ」

「俺は一キロ先のケモミミの揺れも感知できる能力者だ」

「変態じゃの」

「紳士と呼べ」


 ファンタジー世界と言えば、エルフ耳や獣耳だよね。耳というのは顔のパーツの中でも特別な位置づけであり、古来から多くの萌え要素を生み出してきた。それは元々顔の側面についているという、ある種のいじりやすさから来るものであり、本来の顔の印象を損なうことなくいわばアクセサリーのような扱いとして……


「来たのじゃアキト!」


 耳と萌えの関係性についてリフィに説こうと思った矢先にこれである。ズシンズシンと音を立てて、関取みたいなゴブリンの親玉が洞窟からでてきた。巨大包丁を振り上げて大層お冠である。良く見れば、なんか体中傷だらけだなアイツ。歴戦の勇士気取りか? あ?


「空気読めよデブ! ピザばっか食ってるから空気が読めなくなるんだよ!」

「そんな理不尽なデブのディスり方初めて聞いたのじゃ」


 なにやら戦慄しているリフィに、獣人の少女を連れてもう少し離れておくように指示する。そして俺は、血だまりの向こうから走ってくる親玉ゴブリンに向かって、《アイテムストレージ》から取り出した味噌汁鍋をぶん投げる!


「ほらこっちだ!」


 元々、コントロールは良い方だ。《器用》レベル2だからだろうか。狙いたがわず、アルミ製の鍋はビッグゴブリンの顔に当たって良い音を立てた。そして、その中身はびしゃっとビッグゴブリンを濡らす。

 それ、もういっちょ……クリーンヒット! それそれ、弾はいっぱいあるぞ!(※食べ物を粗末にしてはいけません)


 顔に味噌汁をぶつけられ、香ばしくなったビッグゴブリンの怒りはいよいよ頂点に達したらしい。もはや聞き取れないくらいの剣幕で何かを叫びながら、緑色の顔を真っ赤に染めて一直線にこちらに突っ込んでくる。気が逸ってるのか、随分と前傾姿勢だ。


 いいぞ、それでいい。


 そしてその巨体が、ゴブリンの血でできた池に足を踏みれ――――


「ゴッォオオ!?」


 つるん。

 べっしゃーん!


 ぬるぬるとした血液に足を取られ、見事に滑った。それはもう、コントかというくらいに綺麗に前にずっこける。顔面強打だ。もともと見るに堪えない顔が、今はもうすごいことになってるだろう。


 そしてその頭は血だまりを乗り越え、丁度俺の足元に晒される。


「あばよデブゴブリン! 来世では脂質制限でもしな!」


 そして俺は、その無防備な首に向かって思いっきり剣を突き立てた。突き立てた。突き立てた! 


 《筋力》レベル2(・・・・)になった俺の腕力で振るわれた小剣は、人間よりも太めなビッグゴブリンの首をかろうじて貫通し、地面に縫いとめる。声にならない悲鳴を上げるデブ野郎に、力まかせに剣を引き抜いて更にもう一度突き刺した。首は硬い骨を残して半ばちぎれ大量出血、致命傷も致命傷、これで生きてたらこいつはアンデッドだろう。……死んでるよね?


<クラスレベルが5になりました。スキルポイントを付与します>

<クラスレベルが6になりました。スキルポイントを付与します>

<クラスレベルが7になりました。スキルポイントを付与します>

<クラスレベルが8になりました。スキルポイントを付与します>

<クラスレベルが9になりました。スキルポイントを付与します>


 沈黙したビッグゴブリンに剣を突き刺したまま、数十秒が経過した。勢いよく噴き出していた血も収まって、今は静かに血の池を拡大している。それだけ待ってやつが死んだことを確認すると、一息ついて顔についた血を拭い、リフィに振り返ってサムズアップをした。


「ミッションコンプリート!」

「何か今、勇者にあるまじきすごい卑怯な戦い方を見た気がするのじゃ!」


 リフィはなんか不満そうだったが、大過無くゴブリンの親玉を始末できたんだし、もっと俺を尊敬してくれていいと思う。


 仕方ないじゃないか、下手に腕とか足とか狙っても、厚い脂肪に阻まれて効率が悪いのは明白だったし、チート級のスキルとかが無い以上俺の攻撃力不足は目に見えてたんだから。

 だったら、敵の弱点を届くところまで引きずり下ろすのはむしろ正攻法。言い換えると王道。つまりこれは最も状況に即した勇者らしい戦いである。異論は認めない。


「じゃからさっき、ゴブリンの首を切って血を撒き散らしとったのか」

「念には念を入れて、より滑りやすくしようとね」

「躊躇なくそれが出来るお主は、ある意味勇者じゃな」


 ある意味ってなんだよ。正真正銘勇者だよ。


 他にも、厚い脂肪を突き破って剣を刺すために《筋力》のレベルを2まで上げた。親玉ゴブリンに斬られたときに発動した《ブレイブシンボル》によって、スキルポイントが4ポイントも増えたお陰だ。

 物騒なスキルだと思っていたけど、まさかこんな早々に活躍するとはね……。


 元々の3ポイントに4ポイントを加えて、そこから《筋力》を上げるために4ポイント消費したので、残りスキルポイントは3ポイントである。あ、今なんか猛烈にレベルアップしたから、その分の5ポイントを加えて残り8ポイントか。


 丁度、《頑丈》をレベル4にできるな。しちゃうか? いやでも、今回の活躍はどっちかというと《スーパーアーマー》さんのおかげなんだよな。こっちのレベルを上げた方がいいかもしれない。


 うーん、悩む。そもそもこの未知の環境でどういう選択肢が一番有効かを考えるのも難しい。

 ……とりあえず保留して、ポイントは取っておこう。衝動的に使って後で悔やんでも遅いからな。


「しっかしなんとかなったなぁ。いやぁ、洞窟でこの子が殺されそうになるのを見た時はどうなるかと思ったけど」

「いくらケモミミのためとはいえ、あの時、この子を守ったアキトは男らしくて……その……かっこよかったのじゃ」

「おう、当たり前だろ。俺だからな」


 頭をぐりぐり撫でると気持ち良さそうに顔を緩めるリフィ。ほれほれほれ……。

 あ、そういえば結局スモウレスラーはなんだったんだろう。ゴブリンの突然変異とか? 教えてリフィさん。


「うむ。あのでっかいのは、ゴブリンキングと言っての。ただ居るだけでゴブリンの集団を強化する上に、タフで馬鹿力だったのじゃ。普通はそこそこ強い冒険者が準備をしてからパーティーで討伐するレベルのやつじゃな。それを倒してしまうなんて……まあ、最後はちょっとアレじゃったけど、流石は妾の選んだ勇者なのじゃ!」

「……ってことは、最初のゴブリン達は強化されてた状態だったのか?」

「おそらくは。アキトが硬すぎて結局攻撃は通らなかったようじゃったがの。あの時のアキトもかっこよかったのじゃぁ」


 リフィが頬に手を当てて、なにやら悶え始める。思いだし悶えというやつだ。何この子、俺よりヤバいんじゃないの。

 適当にあしらって、俺は洞窟から助け出した獣人の女の子を見てみた。首にはぐるっと、まるで首輪のように変な黒い紋様が浮かび上がっている。


 なんだこれ? 新手のタトゥーだろうか。超痛そう……。




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