第十六話 「洞窟探検」
本日は午前12:00、午後18:00にも更新です!
同日投稿その1。
「……ん? アキト、今洞窟の方から何か聞こえんかったか?」
「え?」
一人で探索をする最中。
突然、リフィがぴたりと止まってそんなことを言う。
何かって……中にまだ、ゴブリンがいるとかだろうか。でも、出てきて俺達に敵意を向けてこないのならば放置で良いと思う。別にゴブリン憎しでさっきのやつらを殺した訳でもないし。やり合わないのが一番だよ。だいたい今襲われたら、俺普通に死ぬよ? まじで刺激すんなよ……?
「いや、ゴブリンではなく人間の女の悲鳴のような……」
「人間の? そういえば、ゴブリンが巣穴に女の子を連れ込んでよろしくやってるとかは定番だけど。この世界でもやっぱそうだったりするの?」
「いかにもなのじゃ」
まじか。それはやばいな。
洞窟の中は暗くてよく見えないが、おそるおそる覗いてみる。リフィが。
俺は後ろで応援です。頑張れリフィ、お前なら何があっても大丈夫だ。
いきなり全身ホワイトコーティングなレイプ目の女の人とか出てきたら、ゴブリンよりビビるな。
人一人が通れる大きさの洞窟だが、そこまで大きいというほどではない。リフィはちょっと入って行くが、入口付近には誰も居なかったようだ。すぐに戻ってきた。
「奥で曲がっておるのじゃ。ゴブリンが自分たちで穴を掘ったのかもしれんの」
「まじかよ、働き者だなゴブリン。鹵獲して炭鉱にでも放り込んだらいいんじゃね」
「なんじゃその発想……割といいかもしれんの」
二人してゴブリンビジネスの可能性にしばし思いを馳せる。が、今はそんな悠長なことを考えている場合でもなかった。悲鳴が聞こえたというのなら、発生源は穴の奥の、曲がりくねった先だろう。
うわぁ、なんか尻ごみしちゃう。そして物理的にも尻ごみしてる格好。早く十分経てよ。
「お主、ハーレムがどうとか言っておったではないか。ここで可愛い女子の一人や二人は見つかるかもしれんぞ?」
「いや、ゴブリンにぐちょぐちょにされた娘はちょっと……だいたい、ここで可愛い女の子に出会う確率とか低すぎるし。世の中に美少女なんてそうそう転がってるもんじゃないからね?」
ゴブリンと穴兄弟とかやだし。え? 薄情なゲス野郎? なんとでも言うがいい。こちとら清廉潔白、高潔無比な勇者じゃありませんのよ。別に処女厨だとかそういう話ではない。無いったらない。でもストライクゾーンは経験豊富なお姉さん方よりも、垢ぬけた年頃の少女に寄っているのは事実。
「……もうなんでもいいから、早く行くのじゃ! 妾は女神として、誰かがゴブリンに捕まっているというなら、見過ごすわけにはいかん。それを、何をそんな変な格好で固まっておるのじゃお主は!」
なんか鼻息荒いリフィ。興奮してるらしい。腐っても女神、慈愛の心は持ち合わせているらしい。その割には、さっき俺をおいて一人で逃げやがったけどな。
「好きでこんな格好してるわけじゃねーよ! 《スーパーアーマー》の硬直時間中なんだよ!」
「……あっ、そういえばそうじゃったな」
この女神様、興奮しすぎて冷静さを欠いていたらしい。ぽんこつめ。
「そういう訳で、非常に残念だが。残念で残念で仕方ないが、洞窟の奥に行くのはやめておこう。あー、つれーなー! 体が動けばすぐにでも助けに行きたいんだけどなー! 動かないから仕方ないなー!」
リフィに白い目で見られる。
いや本当だって。本当に人が捕まってるなら助けにいきたいと思ってるよ? でもね、《スーパーアーマー》の硬直時間がね……
そう心の中で《スーパーアーマー》に文句を言った瞬間である。
急に体が自由になる感覚がして、気付いたら顔面から地面につっこんでいた。
「ぎゃああああああ!? 鼻折れた!? ちょ、リフィ! 大丈夫か俺の鼻! まだ付いてるか!」
《鼻防御》ぉぉおお! 取っとくべきだったぁぁあ!
「おっ、ナイスタイミングで硬直時間が終わったようじゃの。……安心するのじゃ、鼻は無傷じゃ」
実にナイスなタイミングで十分が経ったらしい。屈んでいた俺は、重心が前にあったばっかりに鼻を強打したが、リフィ曰く無傷だそうなので我慢しよう。でも今度からは、普通に立つか寝るかの状態で硬直時間を迎えると固く心に誓った。というか、硬直切れの方もなにかしらお知らせ機能プリーズ。
「よし、じゃあ何も問題が無くなったところで、行くかの! 一刻も早く、囚われの美少女を助けにいくのじゃ!」
「まだ美少女って決まった訳でもないだろ……」
「お主のモチベーションの問題じゃよ」
「実際に助けてブスだったら、精神ダメージでかいんだけど」
「その時は……まあ、妾が慰めてやるのじゃ」
「……オーライ、分かった。丸一日膝枕させてやるから覚悟しろ」
「丸一日!?」
こうして女神の膝一つを犠牲にして、俺は洞窟の奥へ向かうことになった。そんなに大きな洞窟にも見えないし、ゴブリンが出て来ても、最悪もう一回《スーパーアーマー》使えばなんとかなるだろ。
丸一日後、どんだけリフィの足が痺れているのか見物である。突き回してひぃひぃ言わせてやろう。リアクション芸人みたいな女神だな、それ……。
せめて灯りくらいはなんか欲しかったなぁ、と思いつつ洞窟を進む。足音を立てないようにぬき足差し足忍び足。すぐに曲がり角に到着して、恐る恐る向こう側を覗きこむ。
そして――――
「っ!」
その光景を見て、俺は駆け出した。
「ちょ、アキト!?」
別に何かを考えてから動いたわけではない。ただ、体が動いた。
小部屋のようにくり抜かれた空間には、大きな影と小さな影があった。小さな影は蹲り、地面に鎖で繋がれていた。そして、今にも大きな影の持つ巨大なナニカが振り下ろされようとしていた。
薄暗がりのなかでぼんやりと見えたそれは、巨大な肉切り包丁のような刃物だった。蹲るちっぽけな少女なんて、簡単にひき肉にしてしまうだろう。
ああくそったれが! もっと早く決断すべきだった。もっと早くここに来るべきだった! 味噌汁の回収なんてのん気にやってる場合じゃなかった! 食べ物を粗末にしてはいけませんと教えてくれた小学校の先生が憎い!
「《スーパーアーマー》!」
スキルを使い、全速力で飛び出して、小さな影に覆いかぶさる。なかば突っ込むようにして細い身体を抱きすくめる。
俺の背中でこれまでにない衝撃が弾けたのは、ほぼ同時だった。




