第十四話 「泥試合」
本日は午前12:00にも更新です!
同日投稿その1。
俺とリフィがへっぴり腰で覚悟を決めたところで、緑色の波が襲いかかってくる。
先頭の二匹は、棍棒を持ったやつらだ。
「こいつらは怖くもなんとも無いっ! 棍棒なんか効くかボケ!」
突っ込んでくる勢いそのまま、二匹まとめて蹴っとばす。意外に腰の入ったキックが出せた。振り下ろした棍棒が肩に当たって痛いけど、痛いだけだから大丈夫。むしろ痛くないと思えば痛くない。心頭滅却すれば火もまた涼し理論だ!
二匹が後ろに吹っ飛んだお陰で中央は僅かに抑えられたが、その隙に左右から刃物持ちが襲い来る。ぎゃあ、刃物怖い!
二方向からの攻撃をいなすなんて高等技術は持って無い。そういうのは古武術習ってた系の勇者さんにお任せします。
このままだとキャットファイトばりの泥試合にもつれ込むことは必至である。二対十七とか卑怯すぎだろ。
「リフィ! 右のゴブリンをまかせ……た?」
あるぇー?
隣を見ると、そこに居るはずの金髪が見当たらない。代わりに軽く飛び跳ねながらゴブリンが剣を振りかぶってきたので、カウンター気味に顔に拳をブチ込む。グギャ! と汚い悲鳴を上げてのけぞるゴブリン。死んではいないがクリーンヒット! しかしその代償として、後ろから背中をばっさり切られた感触。
――――いったぁ……くないッ!?
思わず背中に手を回すと、軽くブレザーが裂けていた。俺の身体には傷一つない。
うわぁ切られた切られた! えんがちょえんがちょ! ……あれ、俺結構余裕あるな。
やっぱり実際に斬られてみて、俺には効かないと確信できたからだろうか。百聞は一見にしかず、百ビビリは一刀にしかずだな。それに皮膚が裂けていないからか、痛みの種類が殴打のそれと変わらない。
これは……いけるぞ! ありがとう《スーパーアーマー》! お前はやればできる奴だって初めから信じてた!
腕を曲げて、振り向きざまに後ろのゴブリンに肘を叩きこむ。位置的に、丁度顔に当たるんだよね。相手の数が多いから、適当に体を動かすだけでも攻撃がヒット。ゴスゴスと体中に当たる金属が痛い……いや痛くない! 体を動かすのに支障は無いんだから痛くないったら痛くないやい! でも一刻も早く状況を終わらせないと流石に心が擦り減って、色相が濁りそう。タイムリミットもあるしな。
これも俺が生きるためだ……ナムサン! 目の前のゴブリンの首根っこを掴んで、蛇口を捻るように勢いよく回した。コキャッという小気味のいい音がして、ゴブリンの頭がぶらーんと下がる。鶏みたいだ。
罪悪感は、感じなかった。好都合だ、それでいい。俺は勇者なんだ、躊躇いを持つな。前を見ろ、歯を食いしばれッ! ゴブリンがなんぼのもんじゃい!
「っおらぁああ!」
前方集団にタックルをかまして、一匹のゴブリンを引きずり出し、同じように首を折る。二匹目!
<クラスレベルが2になりました。スキルポイントを付与します>
足を止めれば全方位から叩かれる。その攻撃は有効なダメージにはならなくても、着実に俺の気力をすり減らしていく。足を踏み出せ、強引にでも動け、止まるな止まったら痛いぞ!
体を大きく動かしながら、ゴブリンの波の中で動き続ける。目の前にくればその小さな身体を掴みあげて、首の骨を折る。死体をジャイアントスイングしてゴブリンを遠ざけ、フィニッシュに放り投げる。投げた先にダッシュして、また新しい獲物に手をかける。
そこで、ゴブリンの手にしていた小剣を偶然奪い取った。切れ味は悪そうだが、意外にも錆びてはいない両刃の剣だ。
……これ使った方が早くね? なんで俺は今まで、ステゴロやってたんだ。
六十センチくらいの長さのショートソードを握りこむ。
気付いてからは、まあ早かった。流石に武器があるのと無いのとでは大違いだ。ゴブリンの顔に汚らしい剣先を突き入れ、細い首を切り落とすというより叩き折り、脳天唐竹割りで噴水のように血を噴き出させる。本物の剣なんか扱ったこともないから、太刀筋なんてめちゃくちゃだ。それでも殺せてしまうあたり、武器の武器たる所以なんだろう。
<クラスレベルが3になりました。スキルポイントを付与します>
返り血がばしゃばしゃ降りかかって不快だ。こいつらの血、赤色なんだぜ? 緑とかだったらいかにもモンスターだったのに。結構浴びちゃったけど、体に害とか無い事を祈る。
<クラスレベルが4になりました。スキルポイントを付与します>
「十匹目ェ! まだやんのかコラァ!」
顔を叩き潰し、死体となったそれを蹴り飛ばし、周囲をギラリと睥睨する。胸を張り、地を踏みしめ、ゴブリン共を威圧する。生きたい! 俺はまだ生きたいんだぁぁああ!
無茶な動きをしているにも関わらず、息に乱れは無い。流石は腐っても《頑丈》レベル3。この調子なら十七匹全てを同じ手順で処理することも、難しくないだろう。
ここまで、五分たってない。やはり攻撃が効かないというのは圧倒的だ。
……それがゴブリンにも伝わったのか、俺の気迫におされたのか。
生き残った七匹のゴブリンは武器を放り投げ、グギャグギャ言いながら散り散りに逃げだした。うお危ねっ、刃物投げるんじゃねぇよボケ! 不法投棄だぞ!
それを追いかける気力は無く、森の中に消えていくゴブリン達を見送った。
――――俺の、勝利だ!
「ふぅぅぅ……」
ショートソードが自然と手から零れ落ちて、気がつけば俺は地面と仲良しになっていた。俺とゴブリンが踏みしめたせいで大地が固い。鼻打った、超痛い。
そこで、脳内にアナウンスが響き渡る。
<習得可能スキルに《鼻防御》が追加されました。不意の衝撃からあなたの鼻を守るスキルです>
どんだけピンポイントな防御スキルだよおい! 勇者舐めてんのか!
……地面に寝転がり、今更ながら、戦闘中のゴブリンの攻撃を思い出す。
今ならはっきりと言える。さっきは強がってたし、脳内麻薬がドバドバでてたから気にならなかったけど……めっちゃ痛かったッ!! 日本でちょっと殴られ慣れてなければ意識飛んでたかもしれない。俺の忍耐力超凄い。
《スーパーアーマー》なんだから、痛みも軽減してくれれば良かったのに。細かいところで気が利かないやつだ。あと、鼻がめっちゃじんじんするんですけど。さっきのスキルが《鼻ヒール》だったら取ってたかもしれないレベル。
腕を動かすと、ばしゃりとゴブリンの血が跳ねる。うわ最悪、全身血まみれじゃん。気持ち悪いけど、なんか感覚が麻痺しているような気もする。……どうすっかなこれ、リフィの浄化作用で綺麗になるだろうか。
そこでふと違和感を覚える。
ん? あれ、そういえば何か忘れているような……。
「あっ、そういえばリフィ何処行った!?」
戦闘の最初から居なかった気がする。もしかして、別働部隊的なゴブリンにさらわれてしまったとか。慌てて起きあがり、周囲を見回すと……
「ア、アキト……助けてなのじゃ……」
なんか、木にぶら下がったまま降りられなくなっている金髪女神様を発見した。




