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第一話 「神様空間」

 それは突然の出来事で、俺に抗うすべなんかなかった。

 

 まるで白昼夢でも見せられているかのように――――俺の身体は、ひび割れた田舎のアスファルトを離れて、みょんみょんと空へと吸い込まれていった――――




 ◇◆◇◆◇




 突然だけど、今の俺の状況を簡単に説明させてほしい。


 俺は地元の中堅進学校に通う男子高校生。成績は中の中。平均点を取ることに関しては、並みいる同級生の追随を許さない、平均点の鬼。アベレージ・ナツムラとでも呼んでくれ。


 これといった趣味もなく、日々を学校と勉強に追われながら消費する、いたって普通の男の子だ。特技はリンゴの皮むき、得意な科目は暗記科目。ただし英語、てめーは駄目だ。もう十八にもなるのに〝男の子〟と名乗れる年齢かどうかは、議論の余地があるかもしれないけど、俺の中では成人してないからセーフ。


 ある暑い夏の日。


 予備校からの帰り道、勉強漬けの毎日に『絶望したッ』とか考えていたら、突然頭上に現れた謎の魔法陣。


 みょんみょんキャトルミューティレーションされて天に昇り、気が付いたら目の前に神様がいた。

 やたらちっこい金髪で、いわゆる『のじゃロリ』だ。


 で、のじゃのじゃうるさい神様が言うには、俺は異世界を救う勇者の一人に選ばれたんだとか。悪い魔王を倒しに行くんだとか。


 俺の灰色の脳細胞(遺伝子組み換えでない)が告げていた。

 これは、異世界転移ものだ。最近は小説なんかでよく読むぞ。自宅からチャリで一時間くらいかかる大型書店にも、これでもかというくらい、同じような内容の奴が平積みされているぞ。


 あれだけばんばか日本人が異世界に拉致られているのだ、ついに俺にも出番が来たか。なんだか現実逃避したい気分だったので、そんな考えがすぐに出てきた。実際、当たってた。


 しかし、そこで一つ疑問が湧く。勇者の『一人』ってどういうことでしょう。俺以外にも勇者が居るんだろうか。むしろそっちが本命なのだろうか。俺は成り上がりとかしなくちゃいけないんだろうか。

 やだ、主人公っぽい。最近のトレンドってやつだろ。


 神様が言うには、異世界を救うためには人手がいるじゃろう? ということだった。別に本命とかそういう差別は無いらしい。差別の無い、アットホームで楽しい職場らしい。


 用意された勇者の数は……九人。その最後の一人として、俺は神様に強制拉致されていたのだった。

 


 理解できる? ついてきてる? 俺は大丈夫、なんとか整理完了。

 ……オーケー、じゃあ、以下本編だ。




 ◇◆◇◆◇




 どんなに目を凝らしても地平線すら見えない真っ白な世界の中には、俺とのじゃロリが二人っきり。


 俺はのじゃロリ……もとい神様が言ったことを、思わず聞き返した。


「……は? 九人?」


 九人って、なんか多くないですか神様。

 勇者そんなに居るんですか。


 そもそも勇者というのは、個の質によって軍の量を凌ぐ、圧倒的強者を示す言葉だと思ってたんだけど。それが九人とか、なんで数に頼ってんだ。魔王涙目すぎるだろ。


 イメージしてたのとちょっと違うけど、これも最近のトレンドというやつなのだろうか。そういえば、クラス召喚とかいうジャンルもあるらしいしな。あれなんか三十人くらい一気に呼ばれる訳だし……ううむ。


「うむ。九人じゃ。今回は人間達も張り切っているようでの。各国ごとにやたらと勇者召喚の要請が多くて、嬉しい悲鳴なのじゃ」

「勇者召喚って、そんな国ごとに勝手にやるようなもんなの……? もっと計画性もってやれよ。あるいは神様なんか言ってやれよ」


 勇者乱立してるんですけど。戦国時代かよ。


「まあ、勇者が多い分には構わんじゃろ。それだけ要請が出来ると言うことは、人間達の力が強まっている証拠じゃ。妾としても都合が良い。早く魔王を倒して、世界の秩序を取り戻してほしいしの」

「むむむ……そんなもんか……いやでも九人って、しかもバラバラに召喚って……」


 早ければなんでもいいのか。何やってもいいのか。

 それ絶対、勇者の間で揉めるからな。特に国ごとに召喚されてる辺り、手柄問題とか超深刻だからな。国家間のパワーバランス的なあれそれが危ない。魔王倒したら、他の勇者がシームレスに敵になりかねないぞ。一国で済む分、クラス召喚の方がまだましかもしれないレベル。


 神様は渋い顔をする俺を無視して、空中に何やらホログラム映像みたいなのを投影する。


「ほれ」

「……ん?」


 謎パワーに驚くべきところだったのだろうが、渋い顔で手柄問題について考慮していた俺はその波に乗り遅れてしまった。

 反応がなくてちょっと寂しそうな顔をするロリっ娘に心が痛んだので、最高に渋い顔で微笑んでやった。最近ハードボイルドな映画を見たんだよね。あれはかっこよかった。これには神様もにっこりだろう。


 実際、俺の取り柄なんてぱっと見、顔くらいなものだ。元カノにも、『あなたって本当に顔だけは悪くないわよね。顔だけは。ご両親のDNAに深く感謝なさい』って褒められた。あれ? それ顔以外は全部悪いってことじゃね。なにそれ酷い。


「ど、どうしたのじゃ? いきなりそんな、梅干しを口一杯詰め込まれたような顔をして。どこか痛いのかの?」

「ちげーよ」


 酷評された。俺にはまだハードボイルドは早かったらしい……日サロにでも通おうかな……。

 心の痛みに耐えながらホログラムを見ると、八人の日本人が三分の一スケールくらいで立っていた。高校生くらいの、男と女が四人ずつ。


「お主以外の勇者じゃよ」


 とりあえず、女の子は可愛い……んじゃないかな。なぜかギャルゲ―のモブキャラみたいに顔が無いけど、スタイルは良い感じ。

 特に、右から二番目の子なんて、絶対美少女だわ。すらっと背の高い感じなのに、黒髪ツインテール。よほど自分に自信が無ければできないだろ、この歳とスタイルでツインテール。ある意味勇者だわ。

 ちなみに俺は、こういうギャップありそうなツインテール、好きよ。


「……うん?」

「どうしたのじゃ」

「いや、……っていうか、なんでみんな顔が無いん?」


 まさか、そういう妖怪ばっかり集めたの?


「いや、本人の許可を取って無かったことを思い出したのじゃ。肖像権的なあれなのじゃ」

「神様みみっちいな」


 女の子は皆スカートを穿いていた(というか全員、アニメに出てきそうなスタイリッシュ制服だった)ので下から覗こうと思ったが、神様にジト目で睨まれてしまった。

 しかし構わない。男なら、やらなきゃならない時がある。思いっきり寝そべってホログラムを下からガン見する。


「……真っ暗だ」

「CEROで言うと全年齢対象、Aじゃからな。パンツなど見えぬが」

「ちくしょう騙された!」

「お主……馬鹿じゃの」


 地に突っ伏して白い床を叩く俺を見て、神様は呆れ顔だ。

 ……って、あれ。そういえば。


「なんで、日本人しかいないの?」

「お主の世界では、人間とのコンタクトが非常に困難になっておっての。相手が【こんなことあるはずがない】と思い込んでしまっては接触自体がうまくいかんのじゃ」

「接触って、あの俺をキャトった魔法陣のことか」


いきなり頭上から現れて、みょんみょんと俺を空へ引っ張り上げたあの。


「うむ。そもそもあの方法でこの空間に連れてくることができる者自体が非常に少なかったのじゃ。特定の宗教を持っていると、まず妾が神じゃと告げても、信じてもらえんし。コンタクト可能な者の中で、さらに勇者の適正を持つ者を選ぶ必要もあるのじゃ。……のじゃぁ、本当に大変だったのじゃ……」


 哀愁ただよう神様。なんだか見てるだけで、ちょっと心が痛い。見た目は完璧にロリなので、可哀そうになってくる。


「いきなり妾が接触しても、【……まさか、こんなことって本当にあるんだなぁ】なんて能天気に思えるのは、お主ら日本人くらいじゃった。勇者の適正を持つものも多かったしの。褒めてつかわすぞ!」


 あ、はい。……ひょっとして、昨今のアニメとか異世界モノとかの影響ですかね。あと、宗教とか信じてないというか、どうでもいい人が多いし。

 なんか頭軽そうなので、褒められても釈然としねぇ。そしてまず自分がそうだったことについて、深い羞恥を感じる。まあ確かに、なんか非現実的なことが起こったらいいのになぁとは常々妄想してたけれども。穴があったら入りたい。


 すると神様、きゅぴんと目を光らせてここぞとばかりにどや顔で、


「穴か……全く、これだから童貞は!」


 ぶっこんできやがった。


「んん!?」


 いや待って。その返しはおかしいって。全然関係ないところで、急激にナニぶっこんでんだ。あんた本当に神なのか。


 ……いやしかし、こいつは現に俺の思考を読んだ。こんな芸当、神かさとりちゃんくらいしかできまい。見た目的には確かに小五ロリだが、サードアイもついてないし、ならば神か。流石神だ。

 俺の灰色の脳細胞(天然由来の着色料使用)が完璧な答えを導き出した。有能。 


 でもいきなり、オッサン並の下ネタぶっこむ神様ってどうかと思うな。


「……ど、どうじゃ? なごんだじゃろ? ……こ、こうすれば男子は一発じゃとゼウスが言っておったのじゃ!」

「無理やり下ネタでなごませてくる神様ってなんだよ。なんなんだよ」

「だ、だって、ゼウスがこれでいけって言ったんじゃもん!」


 そしてちょっと後悔しているのか、頬を赤らめている神様。さっきのどや顔はどうした。じゃもんってなんだよ。

 ゼウスが誰か知らんが、仮に神話で有名なあの神様だとすると、髭のおっさんである。おっさんが幼女に、下ネタでの異文化コミュニケーションを強制する……字面やばいな。事案発生だよ。


「……まぁいいや。今の発言については忘れてやる」

「う、うむ。ありがとうなのじゃ」


 殊勝に頷く神様に、一つ指を立てて注意する。


「今度からは、おっさんのセクハラにはちゃんと抵抗するんだぞ? 全く、こんないたいけな少女の口から下ネタを言わせるなんてけしからん!」

「妾は少女ではなく神なんじゃが。というかさっき女のスカートを堂々と覗こうとしたお主がそれを言うのかの!?」

「けしからん! おのれゼウスめなんてうらやま……けしからんぞ!」

「今羨ましいって言おうとしなかったか!?」


 ぎゃーすか突っ込んでくる神様。


 心外である。俺はこの神様のことを心から心配しているというのに。

 俺のまごころが伝わらないなんて、きっとこの神様は心が荒んでいるに違いない。その荒みきった心で、きっと俺に艱難辛苦無理難題とかを押し付ける気なんだ。

 こ、こんなところに居られるか! 俺は実家に帰らせてもらいます!


 ……。

 …………。


 ん?


 そういえばここ、どこだ?


異世界もの新連載です。クスッと笑えるファンタジーが目標。

一章相当部分まで毎日更新! ご意見ご感想いただけたら嬉しいです。

よろしくお願いします。


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