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妄想マタタビ

作者: WaRaBi

まず、最初にいっておく。

小生は孤高の存在である、と云うことを。

小生には親も友も必要ではない、と云うことを。


そんな小生にとって、何よりも大切な使命がある。

それは大切な彼女をこの生涯をかけて守り通す、と云うことである。

小生は今日も待つのである。

大切な彼女が無事で小生の元に帰ってくる事を。

日がな一日待っているのである。


そんな心配なら何故に今おまえはそこでただ大切な彼女を待って居るだけなのだ、と疑問に思われている方々もおいでであろうから説明をしておく。

決して言い訳などの類いではないと云うことを心して聞いて欲しいのである。


彼女が小生を家から出したがらないのである。


些か理解に苦しむが彼女が望むのであれば致し方ない事なので小生としては甚だ遺憾ではあるが、こうして大切な彼女の帰りを待つしかないという状況を甘んじて受け入れている事をご理解いただけるかと思う。


つまり彼女は心配性なのである。


確かに小生は見た目は決して悪い方ではない。

瞳もぱっちりしており、小生が歩くだけであちらこちらから甘い吐息が吐き出され、その吐息でできたふわっふわのわたあめが街中を覆って混乱の極みに陥った程である。


しかし、どうやらそういう事実よりも見かけとは裏腹に触るものみな傷つけてしまいかねない研ぎに研ぎまくった爪を小生が懐に隠し持っている事を彼女は知っており、その事を密かに心配しているのだと思われる。


なんとも奥ゆかしいヒト!

ヤマトナデシコ!

大好き!

だから小生としてはあのヒトの悲しむ顔はみたくない!

そんなあのヒトを小生が守らずして誰が守る!

飯はまだか!

ハァハァハァ…

いや、これは失礼。

少し熱くなってしまいました。

冷たいミルクでも飲んで落ち着こうではないか。


しかし小生もただのんびり家で彼女の帰りをまっているだけではない。

いろいろと任されている事もある。

イカガワシイ者共から色とりどりな洗濯物を見張ったり、留守を狙う怪しい訪問者を威嚇したりしているのだ。

しかし部屋にずっといると身体がなまるので気分転換と有事の際を考えた訓練を欠かさない。

まずはパンチングの練習だ。

フックとストレートを混ぜ合わせ、絶え間なく腕を動かす!

ワン!ツー!!

そして壁や椅子を使ったストレッチで身体をしならせ、俊敏性を磨く!

そしてミルク!

ふぅ。さすがに疲れが出たらしい。

少し寝よう。

小生の寝床はもちろん彼女のベッドである。

彼女の残り香が小生を安らぎへと誘う。。


…どれくらい時間が経ったのか、玄関の扉の開く音がする。

どうやら彼女が今日も無事に、小生のもとに帰ってきたのだ!

小生は飛び起きた。

今宵も仕事で疲れた彼女をまず猫なで声で迎えなければ。

お帰りなさい!!

きっとごぼれるような笑顔をみせてくれるだろう。

彼女はまずシャワーを浴びるだろう。

無論彼女が無事に出てくるまで扉の向こうで小生が見守っているから安心して心も身体もサッパリできるだろう。

それから一緒にご飯を食べよう。今夜は魚より肉がよいな。


一息ついた彼女からの声が掛かる。

早くと手招きをする。

「おいで」

小生は胸を高鳴らせ彼女の膝の上にそっと手を乗せる。

彼女は幸せそうに小生の頭に触れる。

小生にはこれが最高のご褒美である。

これがあるから一日頑張れるのだ。

彼女は分かっている。

疲れているのもかかわらず、たまに耳を掃除してくれるのもまた何とも幸せである。

愛を感じる瞬間である!

小生は彼女に生涯の愛を捧げる所存である。

彼女が居てくれれば他には何も何人も必要はないのである。


彼女もきっとそうであるに違いない。


冷蔵庫にビールを取りに立った彼女が小生をおいでとまた手招きしている。

彼女の元に向かおうと足を一歩進めたとたん、待ちきれなかったのであろう彼女がひょいと小生を胸に抱き寄せた。

そして小生に頬擦りをし、キスをした。


小生は彼女の腕の中でふくふくと幸せに包まれ丸まっている。


小生は猫である。

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