40 「痛みと決意と 後」
(うん、完璧だったね)
ボールタッチの感覚が、物凄くいい。今日は絶好調だと、紅葉は二点目を決めたループシュートの感覚を噛み締める。
チームメイトに祝福され、笑顔で自陣へ戻る。U-19女子アジア選手権の日本対朝鮮統一チームは、前半20分。2-0と日本の二点リードとなった。
監督である東条からの指示は、ゲームプラン通り。緩めず攻め続けろ。
紅葉はそうでなくちゃ、と笑う。
守備ブロックを形成し、朝鮮統一チームの攻撃を皆で身体を張って跳ね返す。ボールを奪ったら速攻はせず、一度センターバックまで戻してから、攻撃を組み立てる。
センターバックの大鳥が巧みにビルドアップし、ボランチの酒井が大鳥の横まで下がって、ボールを散らしていく。
後ろでパスを回し、朝鮮統一チームの厳しいプレスをいなし、攻撃のリズムを作る。紅葉、雪奈、柳瀬の3トップが飛び出しを繰り返し、敵センターバックのポジションを歪ませる。
そして、敵のバックラインに出来たギャップに、二列目の剣崎が飛び出す。
酒井から左のワイドに飛び出した剣崎にボールが出る。剣崎がサイドを抉るようにドリブルをする。
タッチライン際で、敵サイドバックと一対一になった剣崎は勝負を避け、フォローに来ていた左ウィングの柳瀬へとバックパスする。
柳瀬に敵ディフェンダーが突進するように寄せる。柳瀬が顔を上げて中央を確認し、さらにその先にいる紅葉のことを見た。右のワイドでサイドバック高に執拗にマークされながら、紅葉はそれを感じとる。
(ボールがこっち来るな。受け取り準備しなくちゃ)
それにしても、と、会場の異様な雰囲気に紅葉は困惑する。
ブーイングの矛先が日本ではなく、朝鮮統一チームの選手たちに向いているのだ。
二点ビハインドの不甲斐ない試合をしていると観客は感じているのだろうか。もしそうだとしてもまだ前半だ。これから巻き返す時間はたっぷりある。自国のチームへブーイングをする必要などないはずだ。
紅葉と相対する敵サイドバックの高も困惑した顔を観客席に向ける。
(プレッシャー感じちゃってるなぁ。これはちょっと可哀そうだ。せっかくの自国開催なのに)
朝鮮統一チームの動きが明らかに鈍くなっている。そして、それに反比例するように、日本のパス回しが冴え渡る。
柳瀬がマイナス気味に中央の酒井へ、酒井が前の雪奈へ。雪奈がそれを紅葉へ。すべて、ワンタッチで左サイドから右サイドへボールが移動する。
(中央の縦三人、雪お姉ちゃん、しずかちゃん、大鳥キャプテンが正確なパスを蹴れるのが大きいね。ボールがよく回るや)
ボールが左から右へ来たことで、相手守備が急いで左に寄った位置を修正しようとする。けれど、紅葉はそれを許さない。
紅葉が狙うのは敵サイドバックとセンターバックの間だ。
センターバックが左へ引っ張られた為、サイドバックとの間が間延びしている。そのスペースを突く。
ボールを右サイドで受け取った紅葉に、相手サイドバックの高とボランチの張がすかさず詰めてくる。
二人とも斜めに身体を構え、重心を後ろにしている。ボールを奪うことより、抜かれないことを優先しているのがわかる。二人が紅葉を睨みつけてくる。
(うん、そうだよね。もう私には絶対にやられないぞ、って思ってるんだね)
国を背負っての真剣勝負。相手の気迫がひしひしと伝わってくる。それが、嬉しく、紅葉もまた気持ちが高ぶる。
この二人をかわし、ゴールを決めたい。その思いが強くなるが、落ち着けと言い聞かせる。
紅葉は張と高を引き連れて大外にダッシュする。そして、紅葉が開けたスペースを、右サイドハーフの今井が一気に駆け抜けていく。
練習通りのプレーだ。
ピッチを縦に5分割する考え、5レーン理論という考え方がある。
右ワイド、左ワイド、中央で3レーン。その両ワイドと中央の間にある2レーンを右ハーフサイド、左ハーフサイドと呼ぶ。
後は簡単だ。前後の選手が一緒のレーンに並ばないように気を付ける。それだけだ。そうすると、どうなるか。効率よく選手が配置出来、パス回しに重要な三角形が自然と出来る。
今回だと、雪奈が中央、紅葉が右ワイド。後ろの今井がハーフサイド。▽の形が出来ているので、パス回しが容易に出来る。
ただ今回は別の狙いがある。紅葉が敵をワイドに引き付け、空になった右ハーフサイドレーンを今井にオーバーラップさせるのだ。
紅葉に敵が集中するのを逆手にとったセオリー通りの攻撃である。
紅葉は軽くバックスピンをかけて、今井へスルーパスを出す。そのボールを受けた今井が、タッチラインぎりぎりまで切り込み、マイナスのクロスを上げる。
ニアに飛び込んだ雪奈が敵センターバックと競り合いながら、ボール目掛けて足を伸ばす。雪奈の足先に当たったボールがゴールへ方向を変えて飛んでいく。
敵センターバックに身体を押されたことで、上手くミート出来なかったのだろう、ボールが右ポストの横をかすめるように飛んでいく。
立ち上がり、悔しがる雪奈にナイッシュと皆が声をかけながら、一斉に自陣へと戻る。
(惜しい! う~ん、でも本当に完璧に崩せてるね。このままどんどん攻めよう!)
しっかり守り、そして全員で攻める。朝鮮統一チームのフィジカルを、自分たちの繋ぐサッカーが上回っている。
試合は完全に日本ペースになっていた。
(楽しすぎる! よし、次は中に切れ込んで、雪お姉ちゃんとワンツーで崩してやるぞ!)
朝鮮統一チームの攻撃を防ぎ、再び日本ボールになったのを確認し、紅葉は右の前線へ移動する。
ボランチ酒井から下がってきた雪奈へ、雪奈から、右後ろの今井へ。今井がワイドに張っている紅葉へとパスを通す。
紅葉は後ろからのボールをコントロールし、ワントラップで前を向く。サイドバック高と対峙する。ボランチの張が中央からフォローに走ってくる。
(うん、絶対に抜かされたくないって、思ってる顔だ。そうなると、左は16番が来てるから、縦を警戒って思うよね。気迫はいいけど、わかりやすすぎるよ。やっぱり心に余裕がないと、ね!)
紅葉は縦に大きくボールを蹴り出し、即座にそのボールを引き戻す。高が大きく縦に移動するのを確認することもなく、左、中央目掛けて走り込む。
張と正面衝突するコースだ。紅葉はゴール前から紅葉の方へ走り寄ってくる雪奈へボールを預ける。
そのまま張をかわし、すれ違う。後ろから高が追いかけてくる。
雪奈は敵センターバックと間合いをとって対峙し、ボールをまたいでフェイントをかける。敵センターバックはゴール正面、ペナ外すぐの為、雪奈のシュートを警戒して飛び込めないでいる。
もう一人の敵センターバックが雪奈に詰め寄る。その前に、紅葉は雪奈に走り寄る。雪奈がボールを引き、かかとでパスをする準備をする。
雪奈がチラリと紅葉を確認する。紅葉の視線とぶつかる。紅葉は笑う。雪奈もかすかに笑っているのがわかる。
一瞬の視線だけで、敵をどう騙すか、その狙いを雪奈と共有出来た。
(ばっちり以心伝心だね!)
紅葉は雪奈の後ろを通過するフリをする。雪奈はヒールで左、紅葉の向かう先へパスを出すフリをする。
敵センターバック二人が見事に釣れる。大きく左へ二人とも移動するのを確認しながら、紅葉は急ストップ。雪奈の真後ろから、雪奈の右へと飛び出す。
雪奈がポンと紅葉の進むべき道、ゴール右前方へとボールを出してくれる。紅葉は雪奈の横を抜け、そのボールを……。
「……ぇ?」
紅葉は右を見て驚愕する。
後ろから相手サイドバックの高が追いかけてきているのは知っていた。だが、距離的に、何も出来ることはないと意識から外していた。
その高がスライディングで猛然と紅葉目掛けて向かってきていた。紅葉はすでに前へ走り出している。このまま、もう一歩進めば、高のスライディングには当たらない。
けれど、今、紅葉の真横には雪奈がいる。紅葉がブラインドになって、雪奈は高に気付いていない。
身体が勝手に前に進む。それを強引に止めようとする。雪奈へ手を伸ばす。雪奈に危険を知らせようと喉を震わせる。
粘度の高い温水の中にいるようだ。すべてがスローモーションの中で進行していく。
永遠のように長い一瞬の後、紅葉は何も出来ず無様に転げ、高が雪奈の足を真横から削る。
遠くで笛の音がなる。紅葉はピッチに転がったまま呆然と後ろを振り返る。
雪奈が足を抑え、丸まるようにうずくまっていた。
痛い、痛い、と悲鳴を上げる雪奈。右足があり得ない方向に曲がり血で真っ赤に染まっていた。
(……私を潰しにきたのが雪お姉ちゃんに……違う、そんなことは後で考えろ! 落ち着け、落ち着け)
紅葉は立ち上がり、雪奈に近づく。そして患部を見つめる。
開放骨折だ。骨が飛び出している。だが、出血は少量だ。圧迫はしちゃだめだ。痛みでのたうち、泣き叫ぶ雪奈を落ち着かせる必要がある。
「うぅぅぅ、痛いよぉ……」
「雪お姉ちゃん、大丈夫だからね。すぐドクターが来るから。ほら、ゆっくり仰向けになろう」
紅葉は雪奈の上半身に抱き着き、雪奈の身体を仰向けに固定する。涙を流して雪奈が身悶えるのを、優しくそして絶対に動かないよう強く押さえつける。審判が担架をジェスチャーで要請するのを確認しながら、紅葉は雪奈に明るく話しかけ続ける。
「大丈夫だからね。すぐ、痛いのなくなるから。もうちょっとだけ我慢してね」
「あぁぁぁ、紅葉ちゃん、痛いのぉ、私の足ぃ、おかしくなっちゃったよぉ」
雪奈の悲痛な声に紅葉は涙を堪える。いつも通りの声を作って、微笑みながら励ます。
「うん、怪我しちゃったね。でも、大丈夫だよ。すぐ治るからね」
「うぅぅ、もうサッカーできないのかなぁ。これ、元に戻らないよねぇ」
「そんなことないよ。すぐよくなるから。すぐまた一緒にサッカー出来るようになるから」
「ほんとう?」
「本当だよ。私が雪お姉ちゃんに嘘ついたことなんて一度もないでしょう?」
雪奈が涙を流しながら、頷く。そして、何かを思い出したのか、おかしそうに笑う。紅葉も一緒になって笑いながら、聞き返す。
「うん、うん……あっ、ふふふ、でも、ウソはつかれたことないけど、間違ったことは教えてもらったなぁ」
「ええ? 本当!? 私どんな間違いを雪お姉ちゃんに言っちゃったのかな?」
そこへ、チームドクターの佐伯が息を切らして駆け付けてくる。紅葉は場所を譲りながら、雪奈の状況を佐伯に伝える。
「右足から骨が見えてます。それと出血が見られます」
「ああ、わかった。立花さん、大丈夫だからね。もうちょっとの辛抱だから。落ち着いてゆっくり深呼吸をするんだ」
佐伯の言葉に雪奈が頷き、それから紅葉の手を強く握ってくる。
「紅葉ちゃん、行かないで」
「うん、どこにも行かないよ。一緒にいるからね」
担架が到着し、救護班が雪奈を担架へ乗せる。雪奈が紅葉の腕を掴んで離さない。紅葉は救護班に運ばれる雪奈と一緒にピッチの外へ向かう。
担架の上から雪奈が、さっきの続きね、と話しかけてくる。
「高性能リストバンドが流行らなかった理由だよ……ああ、そっかぁ、あの時も私は男子に置いてかれるってうじうじ悩んでたんだなぁ。あはは、今も紅葉ちゃんに置いてかれるって、うじうじして、ちっとも成長してないなぁ、私は」
「何の話かなぁ。わかんないけど、でも、雪お姉ちゃんはすごい成長してるよ。それに私が雪お姉ちゃんを置いてどこかにいくなんて絶対にないからね! 安心して!」
「うん、うん! あの時もそう言ってもらって、私は救われたんだよなぁ……ああ、悔しいなぁ。もっと紅葉ちゃんと一緒にサッカーしてたかったなぁ」
「怪我が治ったらすぐ出来るよ。そうだ。またメガネたちと同窓会しよう! 今度はあの時のレッジのメンバーも呼んで、リベンジマッチなんてどうかな?」
「それいいね。小六の時のリベンジ。ふふ、楽しいだろうなぁ……ねぇ、紅葉ちゃん。私はしばらくサッカー出来ないだろうから、私の分まで、サッカーを楽しんでくれるかなぁ?」
「……うん、わかった」
「それと、私のことなんて待たないでいいからね。ずっと先まで、誰にも負けない、男子にだって勝っちゃうぐらい先まで、先に行ってて。私はそんな紅葉ちゃんに追いつく為に頑張るから。紅葉ちゃんが、私の道しるべになって欲しいんだ」
「うん、わかった。誰にも負けない、男子にだって負けない選手になる!」
雪奈の手が離れる。雪奈が微笑みながらお礼を言う。
「ありがとう、紅葉ちゃん」
雪奈の顔に涙はなかった。いつも紅葉のことを見守ってくれていた、頼れるお姉ちゃんの素敵な笑顔がそこにはあった。
紅葉にピッチへ戻るように伝え、それから雪奈は明るく聞いてくる。
――紅葉ちゃん、サッカーって最高に楽しいよね?
それはかつて、紅葉が雪奈に聞いた問いであった。紅葉は笑顔で答える。
――うん、最高に楽しいよね!
紅葉は最後まで笑顔を貫き通した。
騒然とする中、日本のフリーキックで試合は再開される。ゴール真正面、ペナルティーラインの上。
ゴールから16.5メートル。壁まで9.15メートル。壁からゴールまで7メートルちょっと。壁の上から落とすには近すぎる位置だ。
紅葉はボールをゆっくりセットして、壁とその先のキーパーを見つめるフリをする。
頭の中がぐちゃぐちゃで、何も見えない。
声をかけてくれる酒井に何とか言葉を返す。
「紅葉、私が蹴ろうか?」
「大丈夫です。私に蹴らせてください」
「……ああ、わかった」
「ありがとう、しずかちゃん」
紅葉はふぅーと大きく息を吐きだす。
先へ進む為に認めなくてはならないことがある。
(私は人でなしの最低野郎だ)
サッカーに怪我は付き物だ。敵味方であっても、信頼関係のもとでお互いにプレーをしているので、それを裏切る先ほどのスライディングなどは絶対に許されることではない。
高が故意に雪奈を傷つけたわけではないのはわかっている。紅葉を行かせまいと、紅葉を削ろうとして、勢い余って、紅葉の横にいた雪奈に衝突したのだろう。
高のスライディングは反則だ。そして、サッカーのルールにおいて、イエローカードとフリーキックの付与という罰則が与えられた。
それが、たとえどんなに納得のいかない判定であっても、ルールの中で裁かれたのだ。ならば、それでおしまいにしなくてはならない。たとえ悔しさと怒りを覚えようとも敵を恨むべきではない。
紅葉を狙ったスライディングで、雪奈が怪我をしてしまった。紅葉の責任だと後悔する気持ちも、今はもうない。
雪奈は紅葉に、私の分までサッカーを楽しめと言った。ずっと先まで行けと言った。
それは、紅葉の罪悪感を減らす為に言った言葉だ。激痛の中で笑い、これから先の長く辛いリハビリが待っていることを承知しているのに!
紅葉にとって、最も頼りになる姉は、紅葉のことを気遣い、最後まで、紅葉の頼れる姉であり続けたのだ。
雪奈のことを、どれほど尊敬しても足らないほど尊敬する。本当に嬉しかった。
そうして、罪悪感から解放されてみれば、残ったのは喜びであった。
男子にも負けない選手になるという新たな目標と、サッカーは楽しいという事実のみ。
(私のせいで雪お姉ちゃんはこれから先、苦しい思いをいっぱいするのに、私はなんで、こんなに喜んでいるの!!)
――ああ、認めよう!
――認めなくてはならない! 私は大切な人より、サッカーを選んでしまう人間のクズだ! 私はどこか人としてオカシイのだろう!
紅葉は己の浅ましさを自覚し、嫌悪する。
サッカーが好きだと言う気持ちでいっぱいなのだ。もっといっぱいサッカーをして、もっともっと上手くなりたいと思ってしまうのだ。
紅葉は雪奈のことを忘れぬよう、唇を思い切り噛む。
血の味が口内に広がる。痛みで少し視界が晴れる。
――私はサッカーが誰よりも好きだ!
紅葉は血の味とともに、己の業を受け入れた。
審判の笛の音がなる。紅葉は考えることを止める。ふぅ、ともう一度息を吐きだしてから、大きく息を吸う。
そして、口に両手を当て大きな声を出す。
「みんなぁ! しゃがんでねぇ!!」
そして、助走を取る為、ボールから離れる。一歩、二歩、三歩、四歩、五歩、六歩、七歩、八歩、九歩。
(このキックは決めたいな)
ゆっくりと走り出す。小刻みなステップから、最後の一歩、左足を大きく強く踏み出し、バックスイングを大きくとる。ボールの真ん中を右足の甲で鋭く蹴り抜く。
低弾道の威力十分なボールが、ホップしながらゴールど真ん中、壁に吸い込まれていく。敵の壁の間に立っている大鳥の頭を打ちぬく軌道。
大鳥が紅葉の言葉に従い全力でしゃがみ込む。大鳥の頭の上をかすめてボールが突き進み、ゴール中央へ突き刺さる。
キーパーは一歩も動けず。
紅葉は高々と手を上げる。酒井が紅葉を抱き締めながら、祝福する。
「ナイスゴール! さすがだぜ紅葉!」
「ありがとう、しずかちゃん」
「本当にいいゴールだったよ。だから、思いっきり泣いていいんだぞ」
「うん……うん」
紅葉は酒井の胸の中で大泣きする。これは嬉し涙だから、と言い訳をして。
「おいこらぁ! 紅葉ちゃん! 私を殺す気か! まじで死ぬかと思ったぞ!」
「はぁ~、キャプは本当に空気読めない子だなぁ。今はそんなことどうでもいいじゃないの」
大鳥が紅葉に抗議の声を上げる。それを酒井が一刀両断する。
「よくないから! 全然よくないから! ボールが私の頭を擦っていったんだよ! ぶわって風圧だけで、髪が抜けちゃうくらいだったんだから!」
「あの、大鳥キャプテン、ごめんなさい」
「あ、いや、」
「ああ~、キャプテンが紅葉ちゃんを泣かした!」
「キャプテン、最低だぁ!」
皆が集まり、大鳥をからかい出す。
「あははは! でも、あの酒井に、空気読めないとか言われるなんて、さすがキャプテン! それと大井さん、ナイスゴール!」
「本当に酒井にだけは言われたくない言葉だよね! つかさ、事前に忠告したからってさ、さすがにあんな超高速シュートを頭目掛けてぶち込まれたら、たまらないよね! 紅葉ちゃんの度胸と精度に脱帽だよ!」
「私、紅葉ちゃんが、何言ってんのか理解出来なくて屈まなかったんだよ。ほんっとうに! 私のとこに来なくてよかったぁ! キャプテンのとこでまじ助かったよぉ!」
「ははは、そう考えるとキャプテンのとこに蹴った紅葉ちゃんは正しいな。キャプテンはしゃがめって言われたらしゃがむ素直な子だからね。これからもキャプテンの頭を狙って蹴るんだ、大井さん!」
「お、ま、え、ら、は~!」
キャプテンが怒った! 逃げろ! と皆が自陣へ走り出す。それを追う大鳥。紅葉は涙を拭い、笑う。皆が紅葉を励まそうと、はしゃいでいるのがわかる。紅葉は申し訳なさと、嬉しい気持ちになる。
(まずは、このチームで優勝するよ。見ててね、雪お姉ちゃん)
紅葉の新たな挑戦がこれから始まる。それがどんなに厳しいものになろうとも、紅葉は挑み続ける。
覚悟は決まったのだから。