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タケミカヅチの娘  作者: 三日天下
9/13

9

「ぎゃあああぁぁぁぁぁ………………………………………………………………ん?………………あ、あれ?」

 気づくと痛みはなくなっていた。

 いつの間にか身体は平静になっている。

 そして水明は誓約を打ち破り、自我を取り戻した。

 --キス

 古今東西、世界中のあらゆる神話、童話、民話における最強の解呪法。

 主とのキスにより、はからずも水明は奴婢の誓約から解放された。

 ……い、いったい何だったんだ今のは。なんか頭がフラフラする。

 頭を振りながら水明はノロノロと立ち上がる。

 幸い体調は悪くはない。しかしどうも記憶は曖昧だった。

 誓約からの解放直後の混乱であった。

 ……って、なんで俺、床なんかで寝てるんだ? 

 そう思った水明は、何の気なしにベットを見た。

 すると、なぜか着衣を乱した小学生くらいの少女が寝ているではないか。

「…………へっ?」

 空気の漏れるような間の抜けた声が水明の口から出る。

 よく見ると少女は着衣を乱しているだけではない。

 なぜだか顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

 ついでにベットのシーツもぐちゃぐちゃ。

 さらに何故か点々とした血痕がシーツに染みついている。

「…………………………………………」

 顔面蒼白となる水明。全身が硬直して動けない。

 サーと、血の気が引くような音が聞こえた。

 ……え、どういうこと? これ? 

 …………誰? ……いや、見たことある……、ような……、ないような……

 ………………もしかして、もしかして? 

 ……………………いや、まさか?

 …………………………なんでシーツがぐちゃぐちゃなの? なんでこの子泣いてるの? 

 ………………………………この点々とした血痕……、なんの血? まさか、まさか、まさか、まさか……

 みっともないほど狼狽する水明。

 パトカーのサイレンの音がどこから聞こえるような気がしてきた。なぜか網走刑務所が思い浮かぶ。

 記憶が曖昧なので判らない。だがとんでもないことになってるのは判る。

 水明はガタガタと体を震わせながら考えた。

 とりあえずは、この子の服を直さないと。

 とはいえ、子供とはいえ女性の服に触れるのは色々とマズイ気がする。ましてやこの状況だ。

 そこで水明は、ベットからずり落ちてるシーツを少女にかけ直そうとした。

 と、その時、

 水明がシーツに手をかけた瞬間、ぱちりと音がしたような気がした。

 それまで気を失っていた少女の瞳がはっきりと見開かれたのだ。

 少女の紅い双眸が水明を捉える。

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 時間にして数秒。見つめあったまま固まる二人。

 窓から差し込む銀色の月明かりが二人を照らす。

 薄暗い部屋の中、亜狗亜の紅い瞳が煌めく。

 怪しげに輝くその瞳を見た瞬間、それまで混乱していた水明の記憶がリセットされる。

 脳髄に強烈なフラッシュバックが発生し、これまでの出来事が波紋となって広がる。

「あっ! お前は「ぐぎゃあああああああああああぁぁぁ!」」

 言い終わる間もなく、絶叫を上げた亜狗亜の強烈な頭突きが容赦なく水明に襲い掛かる。

 寝たままの中途半端な体勢ながら、顎先を捉えた一撃に水明の膝がぐらつく。

「ちええええええぇぇぇぇぇっ!」

「ちょっ! やめっ! おちつっ! ぐはああぁぁぁ!」

 背筋の力だけで跳ね起きる亜狗亜。

 勢いそのまま、水明の顔面に更なる強烈な頭突きを喰らわす。

 そのまま野生動物のような身のこなしで亜狗亜が水明に襲いかかる。

 顎と顔面への一撃でぐらついた水明に、更なる亜狗亜の連続攻撃が襲いかかる。

 容赦ない反則金的下段蹴り。そのまま正拳顔面突きを食らわせ、流れるような中段唐竹蹴りで吹き飛ばす。そして飛びかかる勢いを乗せた上段回し蹴りを躊躇なく水明の顎先へとにぶち込む。

 格闘ゲームでいう六連コンボ。

 水明は反撃できない『ハメ状態』のまま吹っ飛ぶ。

「ぐはっ、ちょっと落ち着いて! 話をっ、ぐはああぁぁ」

「うぎャあああアアぁぁぁ!」

「ひいいいぃぃぃっ! 話、話を聞けえぇぇっ! ぶべらっ!」

「きええええええぇぇぇぇ!」

 戦意など最初からない水明であったが、亜狗亜はいっさい手を緩めない。

 聞く耳持たず、無抵抗の水明を、奇声を上げながらフルボッコに殴り続ける。

「やめ、やめろおおおぉぉぉぉ! ぐわあぁ! 話を聞けえええぇぇぇっ! ぶべらつつつっっ!!!」

「うおおおオおおおぉぉぉォぉぉぉぉん!」

「ちょっ、やめっ、まじで、し、死ぬうううぅぅっ! ぶべらああああぁぁぁぁっっっ!」

「えピゃああああアあああぁぁぁぁぁぁ!」

 神聖なる神社境内に、再び水明の叫びが響く。

 ついでに亜狗亜の奇声も。

 その叫びに、神社境内の木々を寝床とする野鳥たちが迷惑顔を浮かべる。

 狭い室内を逃げまどう水明。奇声を上げながら襲いかかる亜狗亜。

 窓の外に浮かぶ月だけが、滑稽すぎる馬鹿二人の姿を見ていた。

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