七夕に出合って
TE☆KI☆TO☆U☆
一年に一度しか会えない恋人に会いにいってみれば知らない女を押し倒していた
「ち、違うんだ織姫!これには深い事情があって……」
彦星は慌てふためき言い訳を並べようとするけど聞く耳を持たない
知らない女は無表情だけど服が乱れていた
正にナニカが行われようとしていた証拠じゃないの
女は言い訳をせず、ただじっと無表情で私を見ていた
私にはそれが馬鹿にされているように感じた
「これのどこが違うっていうのよ!彦星の……彦星の……浮気者ぉー!」
背中に彦星の声と女の視線を感じながらその場から私は逃げ出した
どうせ私は彦星に一年に一度しか会えないですよぅーだ!
どうせ私は一度も異性と手を繋いだこともない奥手な女ですよぅーだ!
彦星の馬鹿ーぁ!
7月7日
後に織姫失恋記念日となったりならなかったり
※ ※ ※
布団を涙で濡らして一夜が過ぎた
これからどうしようかと思っていたら
「おはようございます織姫様」
台所から全ての元凶である黒いのが出てきた
エプロンも黒だ
黒がイメージカラーになるくらい黒が似合う美少女だ
「…………」
それより問題はなんで私の家にこの泥棒猫がいるのかよ
これって不法侵入よね?
訴えたら余裕で勝てるよね?
「口をだらしなく開いて、どうしましたか?お昼ご飯の準備はできていますよ」
「なんでアンタがここにいるのか聞いてんのよぉー!」
「上司の指示ですが何か?あぁ、鍵は織姫様のお父上から預かっております」
あっけらかんと答えて鍵を見せつけてくる
「上司ってどっちよ?」
「昨日のことでわかると思われますが察しの悪さも愛嬌ですね」
なんか馬鹿にされてる気がする
美女だからって許されると思わないでよ
「社長令嬢とあろう者が引きこもって年に一度しか外出しないとは豚になりますよ?」
「アンタなんなの!?私を馬鹿にして笑いに来たの!?」
否定できないから余計にむかつく!言わないけど!
「笑いに来たなどとんでもない。家ち……織姫様の様子を観察して逐一、上に報告する仕事です」
「そんな仕事、止めさせなさい!」
「織姫様に拒否権があるとお思いで?」
「私、社長の娘、アナタより上、OK?」
「その社長より娘を頼むと言われますが?」
パパも私を裏切るのぉー!?そういえばパパから鍵貰ってるんだったわね!
「織姫様の私生活を見ていれば社長の気持ちもわかるというものです」
「なにがよ?」
「ゴミ箱を見れば毎日、何を食べているかわかります。今、昼ですよ?洗濯物は積んでいるだけ。部屋の掃除を最後にしたのは一体、いつですか?ゴミ屋敷でも製造するおつもりですか?」
少し私の家を見ただけで私の生活能力の低さを見破るなんてこの女、出来るわね
でも私はまだ本気を出していないだけで……
「というわけで今日から私が織姫様のお世話をすることにしましたが異存はありませんね?」
「ありまくりよッ!?彼氏を奪った女と住めってそれなんて拷問!?」
素敵すぎて殺意が沸くわ!
「安心してください織姫様。私は彦星様を奪ってなどおりません。寧ろ私が奪われる直前でしたし」
奪われるって何を!?
無表情だから怖いじゃないの!
私、手も握ったことないのに!
ウブじゃないわ恋愛に慎重なだけよ
「そんな下らないことは置いておいて冷める前にご飯を食べてください」
下らないって言われた
私の失恋を下らないって……!
ショックを受ける私を泥棒猫は無情にも引き摺って食卓に着かせた
「召し上がれ」
誰かの手料理を見るなんて久々ね
でも、泥棒猫の施しなんて誰が受けるもんですか
でも、料理には罪はないわ
そうこれは施しを受けるんじゃない
料理に失礼だから食べるだけよ
「……不味いわね」
「そういう割には箸の進みが早いですね」
お腹が減ってるだけよ馬鹿
美味しいなんて言ってあげないんだから
「では私は仕事に行きますので食器は浸けておいてください。いくら織姫様でもその程度のことはできるはずですね」
いつの間にかミスマッチなスーツに着替えていた泥棒猫は
「それと」
無表情を初めて崩してイタズラに成功した子供のような笑みを見せる
「泥棒猫ではなく鴉とお呼びください織姫様」
もしかしなくても心読まれてた?
7月8日
泥棒猫が家に住み着いた
※ ※ ※
某所、一人の男が酒を傾けていた
「鴉はうまくなってくれているだろうか?」
一人きりだからこそ漏らした失言
それが男の命運を分けたのだ
「何をだね彦星君?」
己しか存在しえない部屋に圧倒的存在が表れた
「なッ、天帝!?何故、このような場所に!?」
織姫の父、社長である
「なに少し、部下から報告を貰ってね。――――我が愛娘を傷付けたようだな小僧」
「……そうかそうか。鴉、あの女だな。天帝の犬だったのか。この俺としたことが騙されたよ。――――ならどうするというのだ?」
「裁く。ただそれだけのことよ。覚悟はできているか?我はできておる」
戦いが――――始まる!
※ ※ ※
泥棒猫、もとい泥棒鴉と奇妙な同居生活に慣れ彼女へ心を開き始めて……ハッ、私は今何を考えて?
「構ってくれないといたずらしてしまいますよ?」
「のわッ!?」
ネットサーフィンに勤しんでいると後ろから鴉に抱きつかれた
「なんで私がアンタの相手しなくちゃいけないのよ!?」
「私が織姫と戯れたいからですが何か?」
心底わからない見たいな顔するな!
いきなり抱きつかれたら心臓に悪いでしょうが!
心臓が痛いくらい脈を打っている
最近、鴉の表情の僅かな変化から感情が読めるようになった
「飴あげるからほっといて」
「お断りです」
「なんでよ!?」
10月31日
寝れなかった
※ ※ ※
「小僧……どこでそれほどの力を……?」
「ふ、はは、ははははっ!地を這う虫けらが誰の許しを得て表を上げる?」
「貴様、人間を止めたのか!」
「天帝は俺が継ぐ。満足して逝け」
※ ※ ※
「メリークリスマス可愛い織姫様」
誰が見ても無表情の鴉の顔が私にはニヤニヤしているようにしか見えない
「どこから怒ればいいのかしらね……?」
起きたら鴉の車に乗せられていて、パジャマがミニスカのサンタコスに着替えさせられていて、鴉が厳選したリア充の巣窟とやらに向かっているらしい
12月25日
最初のクールだった鴉はもういない……疲れた寝る
※ ※ ※
「これこそ我が至高の『天帝の軍勢』なり!」
「馬鹿なこの場にある人間全てが社員だと!?」
「天帝とは孤高にあらず。その意志は全ての社員の志の総算たるが故に!」
「「「然り!然り!然り!」」」
「征くぞ彦星。武器の貯蔵は充分か?」
※ ※ ※
「本命チョコは……そう!彦星のなんだから勘違いしないでよね!」
家事能力皆無の織姫が手作りチョコとな……?
鴉は戦慄していた
このチョコは生き物が口にしてもいいものなのか?
それでも織姫からの好意は欠片も無駄には出来ない
おそるおそるチョコを口に運ぶ
「ど、どうよ?」
瞬間、鴉は目を見開いた
勘違いしていた
織姫の手作りチョコは
「私が作るより美味しいです……」
「そ、そう?当然よね!だって愛が詰まってるんだから!あ、アンタにじゃないからね!?」
「ただの駄肉ではなかったのですね今世紀一番の驚きです」
「アンタはいつも一言多いのよ馬鹿ぁ!」
織姫は上機嫌で部屋に戻る
それを見送った鴉はぽつりと独り言をこぼす
「外に出ないのに練習用のチョコですか……素直ではありませんね」
チョコの包みが自分の分しかないことに気付きクスリと笑う
2月14日
今まで食してきたどのチョコより甘かったですよ織姫様
※ ※ ※
「この彦星が……この彦星がぁぁぁぁ!」
「テメェの敗因は一つ。シンプルな答えだ。テメェは我を怒らせた」
なんやかんやで彦星との長きに渡る戦いに終止符が打たれた
そして思い浮かべたのは最愛の娘と上司を売り娘を欲しいと言った気高き女だ
「『彦星から織姫様を寝取った際には結婚を認めていただきたい』か。とんでもない挨拶もあったものだ」
※ ※ ※
「花より鴉見てるほうがマシだわ」
「……」
「何よ?急に静かになっちゃって」
「織姫がついにデレたかと思うと感慨深く」
「は、はぁ!?デレてないし!アンタなんて嫌いに決まってるじゃん!」
「(´・ω・`)」
「う、嘘よ。そんなに嫌いじゃないから。だから機嫌直しなさいよ鬱陶しい」
4月1日
嘘だよ
※ ※ ※
「織姫様」
「何?」
振り向いたら鴉にキスされた
「え?」
「好きです織姫様」
いつも無表情な鴉が真剣な顔をしていた
心なしか頬が朱く染まっているように見える
「始めは一目惚れでした」
「あの男に押し倒されたときに貴女が現れた」
「不快感なんて一瞬で忘れてしまうくらいの衝撃でした。一生、恋などに縁がないものだと思っていました。貴女を目にするまで一目惚れなど存在しないのだと思っていました」
「……」
「改めて、好きです織姫様」
「……わ、私のことを裏切らないって誓うなら考えなくもないわよ?」
「貴女の唇に誓って」
影が重なる
彼女と出会って丁度一年になる
出合いは最悪だったけど今はもうどうでもいいことだ
一年かけて私を口説き落とした素敵な恋人がいるんだから
7月7日
後に鴉と恋人になった記念日となった
節子、NTRちゃう自然なカップリングや
年に一度しか会えないならこうなるのが自然の理だろ
短編じゃなくて連載できそうだねこれ
めんどくさいからしないけど