はな
意味不明。作者も意味不明。
すき、きらい、すき、きらい、すき、きらい…そう言いながら花びらを千切る。無邪気に残酷に。そうやって簡単に花びらを散らす。イタズラに。そう、誰でもやったことがあるでしょう? そんなことに疑問を抱く人なんていないんだ。
花が舞う街。年中、季節の花が咲いている。
そんな所だからよく観光客が来る。でも、街の人はそれが当たり前になっていて花を見ようとなんてしない。
「昨日からポインセチアの花が咲いたんだ。知らないだろうけど」
昨日言えの近くで見たとても赤くて美しい花の名前を彼女に聞かせる。そんなの、彼女は知らないのだろうけど。
彼女は薄く笑みを浮かべた。答えはない。
「他にも今月もまた枯れては新しく命が芽吹いていくんだ」
そう思うなら、思えるならきっと。
空を土産てぼんやりと彼女は口を開く。
「お名前は?」
何度も何度も話してきた言葉。彼女がつけた名前。いつも、聞いてくる。
「ひいらぎ」
問に答える。彼女は笑う。
「ひいらぎさん。こんにちは。またきてくれたのね。うれしいわ」
今度はしっかりと覚えている。でも、彼女は直ぐに忘れてしまう。
「あらやだ。私ったら何も出してないわね。どうしましょう」
ベッドの上で彼女は慌てる。
でも、彼女は何も出来ない。そのベッドの上から動くことも。
「何もお構いもできなくてごめんなさい。お客さんが来るとは思わなかったから」
ふんわりとした笑顔。昨日のことを何一つ覚えていないその顔。傷つけてやりたいとすら前は思っていた。でも、それは出来ない。彼女が名前をつけたから。彼女が自分の親だから。
彼女は思いついたように花の名前を、雑草の名前を口にする。
「セイヨウタンポポ」
そういうと彼女のもとにその花が現れる。
彼女は気分屋なのだ。
「あなたとの会話は淡白でつまらないわ。私は気分屋だから。最後の花びらが嫌いだったら貴方はいなくなって」
彼女は花の名前の主。
誰だって花の名前を持つものは彼女には逆らえない。短い命に名前を刻む。彼女のもとに、彼女の記憶に刻まれる。
彼女はいつだって白い部屋の壁の中。面会に来る人とはガラス越しにしか話せない。無菌状態の部屋に彼女は容易に毒を撒く。
彼女は無意識かもしれない。今の季節の彼女の名前は小春日和。
意味不明だったでしょ?