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雪と石と血と首4

「たのもー!」


「こんにちわー」


「綾音さん、居ますの?」


「あの、その、お邪魔します……」


「……え?あ、ちょっと待って下さい!」


 ドアの向こうでやたらとバタバタと暴れる音が聞こえてくる。

 やがて出てきた綾音さんの姿に全員が悟る。絶対さぼってたな。

 まあいい。誰しも休む事は重要だ。私とか。


「綾音さん!

 廃材置き場ください!」


 バツが悪そうな顔をしている今のうちだ。謹んで陳情申し上げた。

 私達が来る前におやつをいやしん坊していたらしい口元にお菓子のクズを付けたままの綾音さんが一筋の汗を垂らしつつうんうんと頷く。


「廃棄場ですか?

 ちょっと待って下さいね。えーと、何に使うんですか?」


「この石を量産するのです」


「これですか?ちょっと貸してもらえますか?

 ……うーん、黒の純色の魔石ですね。これを作るんですか?」


「そうなのです!この本で作るのです!」


 返して貰った石を受け取ってから自慢の本を掲げて見せた。

 フィリアが呆れたように呟く。


「もう何も言いませんわ……。

 くれぐれもそれを不用意に往来で口にしないでくださいまし」


「魔石の生産には今まで多くの人々が挑んだと聞きますが……。

 その本だと出来るんでしょうか……?」


 ほう、二人の言い分からして結構凄いことのようだ。よし、この黒い石をラブリィプリティブラッキィと名付けよう。


「クーヤちゃんがその石を沢山作れるようになったら僕も嬉しいですからね」


「そうなの?」


「そうですよ」


 ニコやかだが眼がドラゴンのそれである。恐ろしい。竜的にも美味しいらしい。これは益々作らねばなるまい。

 綾音さんは口元に指先を当てて少し考え込んだ後、引き出しからごそごそと何やら取り出して見せる。

 どうやらこの街の地図らしい。


「廃材置き場はいくつかありますが……。

 それなら街の外れにある場所を提供しますね」


 言いながら街の隅っこの区画に大きく丸を付けてくれた。

 ここらしい。


「あそこなら管理もしやすいですから。かなり厳重に封印を施さないと危ないですし。

 船で二日後に立たれるんですよね。今から向かわれますか?」


「おー!」


 時は金なり、きりきりと働くのだ。


「イースさんに連絡を取りますね。ちょっと待って下さい」


「おー…?」


 何故にイースさん?

 まあいいけど。みょいんみょいんと電波を発していた綾音さんが顔をあげる。


「先に向かっているそうです。

 じゃあ私達も向かいましょうか」


「うむ!!」


 しかと頷いて目を付けておいた巧妙に隠されているお菓子をくすねる。

 ささっとポッケにしまった。よしよし、あとで食べよう。


「それでは行きますわよ。

 クーヤさん、そのお菓子は綾音さんに返却なさいまし」


 バレてた。

 ポッケから取り出したお菓子を取り上げられる前に口に詰め込む。

 そのまま部屋の出口に向かって脱走である。後ろから何やら叫ぶ声が聞こえたが勿論無視だ。

 ごっくんと飲み込んでしまえばもう一安心である。ふははは!もう私のもんだ!




「ふんふーん」


 枝をフリフリしつつ歩く。綾音さんが隠し持っていたお菓子は中々のものであった。あとで情報交換の必要があるな。

 フィリアにはくどくどと言われてしまったがこの味と引き換えならそれを差し引いてもくすねた甲斐はあった。

 てってけと綾音さんの先導のもと、歩いて行った先は如何にも人の居ない寂れた区画だ。

 雪の降りしきる中、無表情で立つ医者が一人。

 その前にあるごちゃごちゃと石やら何やらが置かれた広間がある。

 なるほど、ここか。


「来たかね。

 綾音、君のあの連絡手段は強烈な痛みを伴う。

 痛みのレベルとしては群発頭痛に匹敵する。あまり使ってくれるな」


「そうですか?

 すみません。私はもう慣れてしまって」


「元兵士としてはそういうものかね?

 逆に小生は薬で感覚を殺す事が多かった。ああいった感覚にはあまり慣れん」


「気をつけますね」


「そうしてくれたまえ」


 本当に仲がいいなあの二人。

 まあいい。広場の前に立ち、目を付けておいた商品を買うべくペラペラと本を捲る。カテゴリはマナと開拓。


「うわー、キラキラしてていいですねー」


「ウルトディアス様、それはただのガラクタですわよ?」


「……フィリアさん、竜は、その、光ってさえいればビニール袋でも喜ぶので……」


 カラスか。竜では無く犬豚ペドラゴンにしてカラスだったらしい。

 ほっとこう。



 商品名 暗黒神ちゃんハウス

 指定した場所を地獄の次元に近づけ、窯状態にします。

 置いた物を暗黒神と悪魔の瘴気で汚染する事が出来ます。

 生き物がハウスに侵入した場合、死に至る事もあるので取り扱い注意。



 つんと広場をつついて購入。


「お……?」


 もやもやとした黒い霧の中、何やら現れた。


「なんですの?」


「タヌキですか?」


「ダルマでは……?」


「…………なんだろう」


 何だこりゃ。

 現れたのは石造りの像である。

 三つの眼を備えた奇妙なずんぐりむっくりとした小さな像だ。

 タヌキにも見えるがダルマにも見える。口元と呼べる場所には弧を描く線が一つ。

 ふむ……?

 近寄って抱えてみる。思ったよりも軽いな。

 皆に見せようかと振り返ったところ、はて。


「なんでそんなに離れてるのさ」


「……何だかおぞましいですわ。よく抱えられますわね……」


 フィリアの言葉に他の二人もうんうんと頷いている。

 マジか。まあ確かに呪われそうな外見だが。

 なんというか、閉鎖された近親婚を繰り返す呪われた因習を今もなお伝え続ける寂れた古村の邪神像って趣だ。

 ダニッチな感じである。けどまぁよくよく見ればプリティではないか。この口とか。

 人間慣れが肝要である。

 フィリア達は一歩も足を踏み入れようとはしない。もっと近う寄れ!

 ぐいと突き出すが全員じりじりと後ずさって、やがて弾かれたように逃げてしまった。フィリア超はえぇ。ウルトを越える速度で走っていった。

 近寄ってきたのは綾音さんとイースさんだけである。残念。


「クーヤさん、その像は一番奥に置いておいてください。

 祠を立てて祭っておきますから」


「そうした方がいいだろう。

 像は神像とでもして隠した方がよかろう。姿は見せんほうがいい。

 社にでもなればそのうち神官の役割を持った邪神でも産まれるだろう」


 ほーん。

 祠か。何やら神様っぽいぞ。私の初祠である。しかもそのうちに社になるのか。いずれ私の名前が付けられた札とか売るようになるかもしらん。

 そう思うと何やらこの像が可愛く思えてきた。

 でしゃしゃと頬ずりしまくってやった。ざらざらしている。いてぇ、もうしない。

 三人で歩いて広場の一番奥まで行き、ガラクタを綾音さんが適当にどけてくれたのでそこに鎮座させておく。

 ナデナデ。大きくなるんだぞ。えーと、ブラッキィ。


「ついでに地獄の穴も開けておきたまえ。

 更に強力な封印が必要だが、それは何とかしておこう」


「はーい」


 ちょんと腕輪を作って像の前に置いておいた。

 ……しっかし、この二人、詳しすぎる。ナチュラルに私よりもこの像について詳しい。

 こうなったらもう異界人だからじゃないな。

 イースさんは悪魔と知り合いだと言っていたし……それに思い出すのは最近見た先代のあの夢だ。

 夢の中に出てきた女性は、あれは綾音さんではなかったか?

 今のメガネを掛けて機嫌よく像を見下ろしている姿からは想像も出来ないほどに酷い姿だったが……。

 超能力者か。彼女は元の世界でどのように過ごしていたのだろうか。

 恐ろしいほどにやせ衰えた身体を引きずり歩く姿。元兵士、と言っていた。

 考える。ふむ、多重次元存在者だったか。ちらっとイースさんを見る。



 名前 イーシュアリーアツェアリアリード


 種族 異界人

 クラス 多重次元存在者

 性別 男


 Lv:49

 HP 4900/4900

 MP 5800/5800



 イースさんもだ。この二人以外に異界人を見たことがないのでなんとも言えないな。

 ……謎である。

 聞いてみても答えないだろうし。いや、言えないのか。何かあるのだろう。

 いずれにせよ絶対に先代について隠している。

 悪魔共といい、この二人といい……ぐぬぬ、いつか吐かせてくれるわ。

 先代の発見は私の最終目標なのだ。見ているがいい!

 一人えいえいおーと叫んで二人を置いて雪の中を走り出した。

 向こうから美味そうな匂いがするので。ついでに逃げたフィリア達も捕まえねばなるまい。いい加減にカグラ達も起きだしているだろう。

 それに二日後の船出のために準備をそそと進めねばならんのだ。日は随分と傾いている。

 忙しくなってきた。

 全く、困ったもんである。

 さて、あの三人はどこに逃げただろうか?

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