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神に挑む者たち

 完全に振り切った。勝った。よくやったウルト。やったからスピード落とせ、心から言いたい。

 けどまた追いつかれそうなので言うに言えない。いや、でももうきっとこれだけ距離があればこっちがどこに行ったかなんてわからないだろう。目印も糞もないのだ。とうに見失っているはずだ。というわけでスピードを落としていただきたい。

 新幹線から顔だしたらこんな感じなんだろうか。

 おぐぐぐぐ。

 ぶつかる前に雲が散っていくのは見ていて楽しいのだが。

 きついぞコレ。何とかならないのか。いや、多分何とかしているんだろう。カミナギリヤさんと綾音さんが。さもなきゃとうに落ちている。

 あとどれぐらいで着くのだろうか。というかこれ、帰りもこうなるんじゃないだろうな。帰りはカミナギリヤさんの転移魔法をお願いしたい、いや本当に。


「おっと」


「ぎええぇぇえ!!」


 再び空中ローリング。今度は何だ!

 思ったが、問うまでも無かった。


「うあ……」


 建造物。かなり巨大な。なんじゃこりゃ。ウルトは隙間を縫うかのようにぐるんぐるんとローリングしつつ飛ぶ。

 こえぇ。回廊と回廊の僅かな空間を抜け、たけのこの如く幾つも生えている尖塔の間を潜る。

 すぐ近くを、それも風越しに障害物があるのがわかるレベルの近くを飛翔されるのは真面目にやめて欲しい。心臓が痛い。

 ひゅごおおおとウルトと壁の間の空気が悲鳴を上げている。ぶつかろうものなら勿論もみじおろし確定である。

 しかし、この建造物。私の見間違いでなければ下が無いように見えるが。回廊のようなものも周囲をぐるりと取り囲んではいるがどこにも繋がっていないように見える。あまりにも巨大でわかりにくいが。

 こちらから見えないだけで何か蜂の巣のように細ーい棒で全体を支えているのかと思ったのだが。

 ウルトが棟と棟の間にぽかりと開いた空間、言ってみれば中庭のような場所に突っ込む。無論、地面が無いのだから庭など無く。そこから見えるのは雲とその隙間から覗く遥か遠い地上だけだ。

 ぼふんと雲を下に抜けた。ウルトは綿菓子のようなちぎれ雲を大量作成した後、その場で羽ばたきつつ滞空する。

 身を乗り出して頭上を仰げば下からではあるが建造物の全体が見渡すことができた。うむむ?


「…………なんじゃこりゃ」


 下から見れば、やはりどう見ても浮いている。どこを見ても棒なんてありゃしない。

 のしっとカミナギリヤさんと綾音さんが圧し掛かってきた。重い。何故わざわざ。他にも場所はあるだろ。ピンポイントに私に圧し掛かる理由を聞きたい。


「凄いです、これって……」


「ヴァステトの空中庭園か。私も見るのは初めてだな」


「ヴァステトの空中庭園…………」


 何かラストダンジョンな風格を漂わせているな。

 じーっと見てみるが人影は無い。無人のようだ。というか生き物が住んでそうにない。鳥も居ないし、動く者が居ないな。

 ばっさばっさとウルトが翼を動かしながら空中庭園に近づく。ふむ、小さな岩が沢山浮かんでいる。建物の玄関らしき場所から他の建物の玄関の間に密集している辺りを見るに、おそらく足場だろう。あんな所絶対に渡りたくないが。

 窓を覗き込むが、やはり誰も居ない。しかし何か変だな。なんだか覚えがあるぞ。この感じは。迷宮に似ている。


「行ってみますー?」


 ウルトがのほほーんとしながら問いかけてくる。しかし、行っても何も無さそうだが。

 生き物も居ないが、ウルトが好きそうな財宝も無さそうだ。

 近くで見ると、石造りの建物には精巧な彫り物がしてある。女神らしいものや剣、天使に竜、ふむ。何やらストーリー性がありそうだ。

 頭を巡らせて見渡せば相当な技術で作られている事がはっきりと見て取れる。

 巨大な門、あちこちにある女神像、ぐるりと輪を描く幾つもの回廊。窓ひとつとっても凄まじく巨大だ。嵌め込まれたガラスも。波打つ表面はガラス技術が未熟なのではなく、人為的なものだろう。何かの模様らしい。魔術的なものかもしれないな。触らない方がいいだろう。

 あちこちに見受けられる繊細なステンドグラスや、窓から覗き込んだ内壁や天井に何か絵が描かれている様だが、まじまじと見ても何を描いたものかはとんとわからない。

 経年劣化は一切見られない。どこを見ても、傷らしい傷や欠けの一つも無い。老朽化とは無縁でございとばかりである。建築材は石に見えるが石じゃないな。

 …………とてもじゃないが人の作り出したものとは思えない。少なくともまともな手段で建設なんかしちゃいないだろう。


「あの、ここって確か……教団指定の特S級迷宮では……?青の祠や魔王城と違い、何か居るとは聞いていませんが……ここに残されている武具はかなりの力を持っており、相当な価値があるとか。

 教団が攻略し、最深部の武具を持ち帰った者は即時聖人への列席を行うとまで言っていた筈です。

 空中にある上に場所も移動するという事も相俟ってそもそも発見難易度が高かったですけど……今まで辿り着くことが出来た者は皆無と聞きます。

 ギルドでは存在自体が疑われていた迷宮です」


「確かに発見は難しかろうな。この高度を飛べる生き物がそもそも稀だ。

 それに……迷宮というよりは……異界だな。主の居ない神域だ。資格ある誰かに招かれねば目の前にあっても見つけられんだろう。未だ攻略されていないのはそこが大きいだろうな。

 魔物の気配こそせんが、内部は見た目以上に広大だろう。食料や水も期待できなければ逃げ場も無い。まさに迷宮だな。

 例え侵入できたとして、勇者であっても青の祠より攻略は難しいだろう。魔物も居ないのだ。魔力や力がどれほどの役に立つか。

 求められるのは忍耐と知識。そして何より折れない精神力だな。寿命の半分を賭ける覚悟も必要だが」


「すぐ離れよう!」


 冗談じゃねぇ!そんな危険な所に行けるか!!


「ふむ、いいのか?クーヤ殿」


「何がですか!危険なんでしょう!すぐ逃げるのだ!」


「我らの前にあると言う事は招かれたという事だ。何かあるのではないのか。それに、ギルドではなく教団指定の特S級なのだろう?何も居ないというのも信じがたい。

 ヴァステトの空中庭園、伝説では神との決戦の為に邪神達が作り上げ、この庭園で最後の戦いを繰り広げたとなっている。

 悪魔でも封じられているのではないのか。武具を持ち帰れば即刻聖人として取り立てるというのだ。相当な力の入れようだ」


「……えー……」


 そう言われても行きたくねぇ。じろじろと空中庭園を眺める。危険がネギしょって飛んでいるようにしか見えない。

 地獄のわっかを眺める。その邪神達とやらを自動洗浄で吸い込めないだろうか?しかし置く場所がない。ウルトに置くのは怖い。穴が開いて戻らなくなったらトラウマになりそうだ。かと言って近寄るのは嫌だし。

 悪魔、悪魔か。ここにもルイスと同じように石にされた奴が居るのかもしれないが。

 言われて見れば悪魔が作った建造物としても可笑しくない。まさしく神か悪魔、どちらかだろう。

 カミナギリヤさんが言っていた通り、こうしてここに居るという事は誰か居るのだ。この庭園に人を招く事の出来る誰か。そしてこちらを招いた。私に用事のある悪魔や邪神という可能性もあるといえばある。普通に三人の内、誰かに用事があるのかもしれないが。

 というか招いた奴が普通に人かどうかすら怪しいな。この迷宮そのものに意志でもあるんじゃないのか。その辺に生えてる雑草も怪しい。見れば見るほど怪しい。怪しさ無限大、大爆発である。

 ……うーん、聖人への列席なるものがどの程度凄い事なのかいまいちわからないが、二人の言い分を見るに滅茶苦茶に凄い事なのだろう。

 特に、武具を持ち帰るというのがミソだ。手に入れて利用しようとしているという事だ。教団が利用できる代物という事だ。何があるか分かっていないなんて事はあるまい。

 世間的にはあるかどうかも怪しいとされる迷宮をあると断言して美味しいエサをたらしているのだ。間違いなく何があるか知っている。伝説、ふむ、伝説か。邪神とは一体誰の事だったのやら。

 というか本当に武具か?

 なーんか怪しいな。本当はヘンテコ道具じゃないのか?それも物凄い力を持った系の。これをチャンスと見て回収、すべきだろうか?

 お招きいただいたのだし。悩みどころである。……主の居ない神域、結界を失った青の祠、アスタレルが作ったあの碧落の異界と同じだろう。なにやら迷宮潰しな私でも危険に違いない。よし、無視しよう。さらば!空の彼方でまた会おう!


「あ、クーヤちゃん時間切れです」


「え?…………うわ!!」


 きりもみ回転しながらウルトが再び加速する。遠くに見えるは白い影。うぬ、追いついてきたらしい。ゆっくりしすぎたようだ。にしてもどうやってこちらの位置を把握したんだか。

 上下左右に転がるようにその軌道をランダムに変えながら、ウルトは空中庭園の塔の隙間を抜ける。背後を見やれば、がっつり着いてきている。

 どちらかといえばあの白い竜というより、その背に乗った奴が凄いのだろう。こちらの動きを読んでいる。

 その両手で握った武器、なにやら白い物体から何か飛んできている。何だ?銃みたいなものだろうか。

 ウルトの鱗に弾かれているし、カミナギリヤさんと綾音さんも飛んでくる礫を綺麗に弾いている。これではこちらに届きそうもない。数は多いが、この速度で飛びながらでは当てるのは至難の業、そもそも飛行機のようにまっすぐ飛ぶだけならまだしも、ウルトと来たらあっちゃこっちゃ曲がって転がって出鱈目である。

 向こうだってそれに気付いているだろう。このままではこちらを撃ち落すなど不可能だと。

 つまり、何かある。


「潮時だな。あの調子ではどこまでも追ってくるだろう。魔力探知……いや、魔力追跡か。かなり精度が高い。ここらで片をつけるべきだ。仲間を呼ばれては厄介だ」


「そうですね……。行きましょう。ここで追跡の糸を断ち切り、振り切らないと。騎乗している人は多分、勝てません。ですが、あの竜の方ならば」


 うむむ、降りたい。きつそうだ。というか既にきつい。

 本も開けそうにないし、降ろしていただきたい。安全な所に。


「しょうがないですねー。あんなの相手にしたくないんですけどね」


「そうぼやくな。私も同じだ。好き好んで神など相手にしたくはない。綾音殿の言うとおり、竜を狙うぞ。それしかあるまい」


「え?」


 なんて言った?

 神?神、神といったかこの妖精さんは!?

 反転し、ウルトが咆哮を上げてその場に滞空する。

 相手もまた同じようにとどまった。白の竜と白の騎士、光を反射し輝く姿は少し眩しい。

 矢をつがえ、カミナギリヤさんは高らかに、歌うように声を張り上げた。


「氷雪王シルフィード!我ら、貴公に一差し舞を奉らん!…………いざ、推して参る!!」


 放たれた矢は光の速度を以って白い鎧に覆われた人物へ。それをまるで石礫か何かのように簡単に腕で弾いてみせる。

 辺りの壁に反響するかのように、朗々たる響きとなって吟じられたその声は美しく、そしてそれに応えるかのように。兜にその手が掛けられる。

 零れた髪は美しい青銀色だ。男だか女だかわかりゃしない顔つき。銀の瞳がこちらを射抜く。

 ――――笑った。



「よかろう!

 正面切って神に挑む汝らのその魂。鴨撃ちと舐めてかかって顔を隠すなどして悪かった!

 この氷雪王シルフィード、全力でお相手仕る!」



 膝をつきたい。冗談きついんじゃないか。

 天使に勇者に続いて、ついに神まで来てしまった。

 顔を覆った。おおおと声を上げて慟哭する。来るんじゃなかった。

 こんな近くに居た事を思えば何れ相対したのだろうが思わずに居られない。

 …………逃げてぇ、超逃げてぇ…………。




 名 シルフィード


 種族 神性

 クラス 氷雪王

 性別 女


 Lv:7000

 HP 8000000/8000000

 MP 7200000/7200000





 化け物やないか、どうやって勝ちますのん。

 いっそ落っこちて悪魔の洞窟に逃げ込もうかなァ。



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