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スピードスター2

 

「南かい?うーん……アタイも五年前に飛び出したっきりさね。

 何かあったのかい?」


「それが……」


 鍛冶屋が軒先を並べる広場の休憩所で寛いでいた相も変わらず素晴らしいマズルを持った美女は縞々武器をくるくると回しながらフンフンと鼻を鳴らした。めっちゃ押してぇ。

 見回すとあちこちに武器を研いだりハンマーでぶっ叩いている人達が居る。武器の魔改造中だろうか。防具を並べたり軽く打ち合ったりと中々の賑やかさである。

 たったかと走り回る。


「…………なるほどね。そりゃ気になるねぇ」


「南のギルドに連絡を取ってみます。

 協会発行の地図も更新される時期ですし、そちらも入手しましょう。もしかしたら何かあるかもしれません」


「そうさね。そうした方がいいだろうね。

 そのドラゴンに乗って西に行くんだろ?気をつけるんだよ。どうにもきな臭いからねぇ」


「有難うございます。

 あ、ヒノエさん。ギルドに香草がいくつか届いていますよ。後でお持ちしますね」


「本当かい!?ありがたいねぇ!ロディアンヌの葉はあるかい?」


「勿論です!あれはいい香りですから!」


 お、美味そうな店発見。

 覗き込む。ふむ、少々カラフルだがウニのようだ。丸焼きにされている。


「くれー!」


「ん?珍しいな。こんなもん欲しがるガキたぁな。

 一個400シリンだ。食い方は分かるか?」


「多分大丈夫だー!」


 手に入れたウニモドキはホコホコに焼きあがっている。

 どれどれ。

 口の中にぽいっと放り込んだ。むむ、トゲがいてぇ。


「…………ハリセンボンみてぇだな。

 割って食うに決まってるだろ。んな食い方初めて見たぞ」


「おー」


 しくじったようだ。残念。

 ペッと吐き出してガツガツとポシェットに溜め込んでいるクズ石で割った。


「ここが食える部分だ。後は内臓だ。ただ苦いだけだから食うな。腹も下す」


 ドワーフのおっさんはスプーンで殻の内側をこそいで手渡してくれた。

 ウニモドキの卵らしい。バクッと食らいつく。うめぇ。

 殻は後ろに付いて来ているスライムに与えておく。大きくなるんだぞ。


「しかし、お前さん。そのバッグに何入れてるんだ?そりゃあ鉱石か?」


「拾ったー」


「ふん、見せてみぃ」


「どーぞ」


 大き目の石を握って普段からハンマーをぶっ叩いているのであろうタコだらけのでっけぇ手にぎゅっと乗せた。

 私の手には大きくともこのドワーフのおっさんには小さいな。

 しかし……石の色が少し変わっている気がするな。気のせいか?


「……………………どこでこれを拾うた?」


「え?この辺ですよ。展示会の時に皆さんがポイポイ道端に投げ捨てまくってたアレです」


「…………なんぞ力に当てられて変質しちょる。見たことねぇ」


 変質……。何か変わっているという事だろう。色が変わっているのは気のせいではなかったようだ。

 ポシェットを漁くりまくって残りのクズ石を取り出す。うーん。拾った時には結構色とりどりだったのだが。全部真っ黒になっている。なんであろうか。


「ガキンチョ。こいつをこの街に卸さねぇか?持ってんのはこれだけか?」


「持っているのはこれだけですなー」


「全部買い取る。こいつでどうだ?」


 提示されたのは翠の縞々の変わった宝石だった。加工の技術といい、随分と高そうだが。いいのか?ただのクズ石なのだが。


「こんな高そうなのいいんですか?」


「構やしねぇよ。それなりのモンにはそれなりの価値のモンを渡すんだ。

 ドワーフは強欲だがそこは弁えちょる」


「うーん、…………ならまぁ。いいですけど」


 宝石を受け取ってごそごそとポシェットに仕舞い込む。

 そこでふと思いついた。このポシェットに入れていると変わるのかもしれない。

 実験してみるか。


「あと何かクズ石ください」


「ん?ああ……その山から適当に持ってけ」


 指差した先には廃石置き場らしい。ごちゃごちゃと石が堆く積まれている。

 重くない程度にポシェットに詰めてからバンバンと叩いた。

 よし、完璧だ。二人のところに戻るか。スライムを抱えて、てってけと走り出した。


「あ、戻ってきました。それじゃあヒノエさん。失礼しますね」


「行ってきな。無事に戻って来るんだよ。

 ああ、アンタ…………クーヤ。こいつは凄いね。いいのかい?こんなとんでもない武器貰っちまって」


 ヒノエさんは縞々両剣をくるくると回しながらそう尋ねてきた。

 いいも何もヒノエさんの為に作った武器である。ヒノエさん専用なのだ。


「別にいいですよ。ヒノエさん専用なのです。役立ててください」


「そうかい。なら遠慮なく貰うけど。……こいつなら勇者も殺せそうだねぇ」


 何か絶対何が何でも首だけになっても勇者殺す的な目をしている。怖い。魔王になってしまいそうだ。

 さっさと逃げるべし。


「よし、綾音さん行くぞー!」


「はい。それじゃあヒノエさん。後でまた」


「気を付けるんだよ。……そうだ、二人共。ブロートのボンクラを見なかったかい?

 今朝から姿が見えないんだが」


「ブロートさんですか?いえ、私は見ていませんが……。

 特に伝言などは残されていなかったんですか?」


「ああ。剣を持ってどっかに行っちまったみたいでね。

 荷物はそのままだったから直ぐに戻ってくるかと思ってたんだが……。この時間になっても戻ってきやしないのさ」


「それならギルドの方で掲示板に乗せておきます。

 街から離れるなんてそう無いとは思いますし、直ぐに連絡が取れると思うんですが……」


「そうだね。感謝するよ」


 ん?

 何だかぞわっとしたね。何であろうか。何やら見てはいけないものを見た気がする。

 よし、忘れよう。

 綾音さんと連れ立って広場を抜け出した。


「クーヤさん、私はギルドの用事を済ませておきます。

 後で合流しましょう」


「おー」


 手を振って見送る。よし、私も準備するか。時間はまだある。ポシェットを眺める。

 本も入っている。木の枝も刺さっている。スライムもばっちり居る。


「あれ?もう無いな」


 完璧だった。ケチの付け所など無く、手の入れようが無い。終わってしまった。仕方が無い、オヤツでも買いに行くか。

 空中である事を加味して飴玉にしとくか。メンツは乗り物たるウルトにカミナギリヤさんに綾音さん。話を聞いていた限り、なんだか心配な気もするが……。大丈夫だろう。

 腕輪を眺める。いざとなったらウサギ召喚しとこう。

 そんなに危険な目にあわない事が一番だが。

 頭の中に街の地図を描く。この近くには確か、竜人族のおばあちゃんがやっている食料店。そこにお手製のオヤツが並んでいた。この数日で食料関係はリサーチ済みである。恐れ戦くがいい。

 多少、クズ石を入れすぎてポシェットが重い。この調子だとあんまり入らないな。程ほどにしておくか。

 枝を振り回しつつるんるんと歩き出した。待っていろオヤツ。喰らい尽くしてくれるわ。

 買い物を済ませてギルドに戻ると、どうやら皆さん既にお揃いのようである。意外に早かった。一番遅いとはこの暗黒神、一生の不覚である。いいけど。


「あ、揃ったみたいですね」


「では行くか。一度街の外に出るぞ」


「そうですね。街中では目立ちますし」


 うむ!準備万端、出発進行!


「行くぞ野郎どもー!」


 すたたたと走り出す。行き先は西大陸、ウルトの巣。目的は西大陸の情報収集と財宝の接収である。


「クーヤちゃん、そっちは逆ですよー」


「ブギィ……」


 すごすごと戻った。


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