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グラブニル鉱山攻略3

 結論から言えば人数は半分になった。

 こちらを信じた、というよりはヒノエさんを信じた冒険者が5名。

 あちらを信じたのは7名。

 勿論、説得だって出来る限りしたのだが。死んだ死んだと言っていた彼らが見かけだけでも生きて目の前に居るのだ。

 死んでいる事の証明は流石に出来ない。ウルトは一人ぐらい殺してみましょうかなんて言っていたが。

 そんな事をしたら私達は敵でございと言っているも同然である。

 ほら見ろと言われておしまいだ。

 他にも手段はあったのだろうが……話を打ち切るように背を向け別の通路へ歩き出した彼らを留めようにも如何せん皆さんにやる気が無くなっていたのでどうしようもない。


「構わんだろう。進むべき道は自らの意思で選ぶもの。我々がどうこう言える事ではない」


 とはカミナギリヤさんの言。ドライな事である。

 意外だったのがヒノエさんと綾音さんが彼らの説得に乗り気じゃなかったことだ。


「よかったんですか?」


「…………アンタ、変わってるね。あそこまで言われてまだ説得しようってのかい」


「まるでこっちが魔物にでもなったかのような気分です……」


 まぁ確かにちょっと五月蝿かったけど。

 何を言っても言い切る前にうるせぇ魔物共がの合唱だったし。

 あれが集団ヒステリーという状態なのだろうか。

 言われてみれば何とかしようという気が萎えてくるのは確かである。


「あいつら、大丈夫か……?」


 不安そうに呟くのはこちらに付いたおっさんである。


「助けたいのならば、一刻でも早くアレを倒すべきだろうな」


 カミナギリヤさんの言うとおり、黄金ゲルを何とかすれば彼らも正気に返るだろう。問題は時間だけだ。

 にしてもおっさん率が高いな。全員亜人のようだ。魔族は居ない。

 足が蹄だったり角が生えていたり毛むくじゃらだったりと面白い事である。

 有角族に蹄人族……人獣族か。残りの二名は竜人族のようだ。まぁ竜人とドワーフの街と言っていたしな。

 ちなみにヒノエさんは妖獣族である。

 しかしどうでもいいがこの私の認識するクラスって謎だ。人間とかどう見てもただの職業だし。フィリアは違ったが。

 異界人である綾音さんは種族もクラスも変だ。どういう割り振りなのだろう。

 まぁいい。

 この変わった亜人の3人とヒノエさんが前衛、竜人族の二名が後衛である。

 といっても竜人の皆さんもそう魔法が得意というわけではないらしい。

 話を聞くと、そもそも亜人という種が一般的な魔法と呼べるものが得意な方ではないとか。そういうもんか。

 確かにステータスだと魔力がそう高くない。MPは妙に高いが。魔力はうろ覚えながらウルトの話からすれば魔力炉とやらの数と大きさらしいし……MPは言葉通りの魔力量ではなく単純なエネルギー量みたいなものかもしれないな。


「このメンバーで大丈夫かなー?」


「うーん、魔法攻撃を使える人が少ないですからねー」


 フィリアとウルトとカミナギリヤさん頼りか。おじさんは魔法は使えなさそうだ。

 綾音さんはどうであろうか。


「綾音さんって魔法使えるの?」


「う…………」


 使えないようだ。

 そういえば変な力を使っていたが。あれは魔法ではないらしい。

 となると攻撃手段が限られてくる。


「お」


 ポンと手を打つ。忘れてた。

 あまり人前だとよろしくない気がするが隠れるところなんてありゃしないので仕方がない。


「じゃじゃーん」


 取り出したるは地獄の腕輪。


「なんだいそりゃ?」


「マジカルアイテムボックス!」


 ヒノエさんに元気に即答した。

 まぁ間違いではない、筈。色々入るし。

 バッと地面に設置。真っ黒い穴に向かって叫んだ。


「出て来いルイスー!」


 ビョンッと穴から出てきたウサギに全員目を剥いた。


「召致に応じました、ルイスにございます。お呼びにあずかり光栄ですな。お嬢様」


 出てきたウサギは大仰にお辞儀して耳をピクピクと動かして見せた。

 ぬぬ、可愛いな。こいつ絶対今の自分の可愛さを分かってる。なんて卑怯な。悪魔め。


「なっ……!なんだいそいつは!?」


「え?うーん……兎執事?」


 悪魔とは流石に言えない。

 腕輪を回収しながら適当に答えた。


「…………だ、大丈夫なのか?」


「大丈夫だ!」


 人獣のおっさんに元気に返事をしておく。害は無いぞ。

 綾音さんが女の子らしくキラキラとした目で歩くウサギたるルイスを見つめている。

 ルイスも分かったものなのか綾音さんを小首を傾げて見上げている。傾げる動きに合わせてうさ耳がゆらんと動いた。誘惑しているな。綾音さんはもうはわわと言わんばかりである。

 しかしまぁ気持ちは分かるがやめておいた方が良いと思う。何せナリはこうだが悪魔である。騙されてはいけない。


「うーん……転移アイテムかい?魔道具じゃなさそうだね。神の工芸品(アーティファクト)か何かだろう?

 そいつはあんまり人前でやるもんじゃないよ。特に人間の前ではね」


「ふぁーい」


 大人しく頷いておく。グロウの例もあるからな。


「どこの秘境から来た亜人だい?猫猫族にそっくりだね」


「猫猫族……」


 なんだその名前からして可愛い。


「二足歩行で歩く服着た猫だよ。そっくりじゃないか」


 是非とも見たいなそいつら。しかし確かに言葉だけで聞くとそっくりである。

 それでいこう。


「兎兎族ですな」


「へぇ……」


「すげぇな。おもしれぇ」


「ふむ、ルイスと申します。短い時間になりましょうが挨拶の一つもしておかねばお嬢様の名に傷を付けますからな」


 出来た執事である。

 見習えアスタレル。


「亜人……」


「…………亜人?それがですの?」


「あはは、フィリアさんとアッシュさんはそういうのに敏感ですよねー。まあそういう事にしておきましょう」


「ふむ、では行くとするか」


「おー」


 一行は再び歩みだす。迷宮の最深部へ。

 コツンコツンと反響する足音。


「もうそろそろ採掘場に着きます。

 皆さん、十分に注意してください」


「ああ、わかったよ綾音ちゃん。綾音ちゃんにも向こうは見えないのかい?」


「そうですね……何かノイズが沢山あって。よく見えないんです」


 ふむ?クレヤボンス的な能力でも持っているのだろうか。

 便利そうである。

 やがてたどり着いた採掘場の入り口。

 線路があちこちから伸びて吸い込まれている。

 見渡せば所々にぼんやりと光る石。魔石の光に似ている。

 採掘場からも同じような強い光が漏れている。

 うーむ。


「お嬢様、ご用心を。お嬢様のお身体は脆いですからな」


 脆いっていうな!


「うーん……あの入り口の向こう、神域ですね。今回はこちらが責める側だし、クーヤちゃんが居るから全員問題なく入れるでしょうね。

 じゃー、行きましょうかー」


 呑気なウルトを先頭にして私達は進みだす。

 木枠で補強された入り口、潜った瞬間に妙な感覚。

 カミナギリヤさんとウルトとおじさんの姿が変わってしまったことに皆さん驚かれているようだ。

 まぁ私も初見はビビったが。

 しかし、おじさんのドラキュラコートは神域内の見た目だとめっちゃ似合ってるな。どこぞの舞台に立っていそうだ。

 まあいい。神域に入ったようだ。書き換えられる空間、現実での採掘場の広さなど完全に無視した広大な空間。

 あちこちに積まれた鉱石。ざらざらと降ってくる色とりどりの装飾品。

 その向こうにそれは居た。


「………………アンタ達」


 黄金に輝く女性、流動体らしくその表面は歪んで波打つ。

 その周囲に居るのは例の七名、それとは別に先ほど別れた冒険者たち。

 その目は黄金に輝き、ゴボゴボと口からも黄金の粘液を垂らしている。

 どうやら頭の中身がすげ変わってしまったようだ。

 冒険者の皆さんが呻いている。まぁもう少しで自分達がああなったわけだしな。

 しかし、これであの黄金ゲルは更に魂を取り込んだことになる。ぬーん。


「…………成程、女共の怨霊だな。光神め、人間に無差別に白炉など持たせるからこうなる」


「え?白炉が関係あるんですかアレ?」


 怨霊……確かにそんな感じである。

 光神というからにはあんなのとは無縁に見えるが。


「クーヤ殿、白炉とは最も純粋ともいえる神の力だ。光神の加護とはつまりあらゆる奇跡を起こす力、生命への祝福に他ならない。

 特に…………多くの人間が欲に塗れ、争いが絶えない世界で誰もが救世主の登場を祈った。その多くの人々の願い、究極の祈りに答えて光神は神の子、救世主を使わした、と言う光臨神話は有名だろう?

 多くの人々の心からの祈りにこそ応える。そういう神だ。調和と祈りを司る神だ。

 元は一人の願いを叶えるには向かん力だが、一人一人に白炉を与えてしまえば話は違う。反響し、増幅し、集って高まる。人間種族とは即ち巨大な聖杯。

 その結果があれなのだ。修行をしたわけでも素養のあるわけでもない人間に大量に持たせれば当然ああなるのだ。

 制御の外れたその奇跡の力、それは女が持つであろう美しく着飾りたい、宝石が欲しい、そういう取るに足らん欲望にさえ反応しああいったものを生み出す。

 女の情念が澱み集まり白炉の力をもって形となった欲望の集合体。東大陸は光神の加護が満ちた大地、穢れは弾かれ溢れ出てああして他大陸に出てきている。

 今の世界において、魔物というのはそうして産まれた物も多いのだ。人間は認めんだろうが」


「ほほう……」


 禄でもないな。


「へー。光神ってすごいんですねー。通りで見たことがないタイプなわけですよ」


「それは……初めて聞く話です。本当ですか?」


「ああ。ふん、他の神霊族の王達はそんな事も伝えなかったか。察知はしていただろうに。相変わらずな事だ」


「…………あの街は長く人間に隷属させられていたんです。ギルドの介入により解放されたばかり。

 それまでは多くの装飾品を作らされ、人間の王族や貴族に貢がされていました。殆ど収容所のような状態だったそうです。

 この鉱山には……死者が多いらしいんです。それで人を蝕むと。あまりにも酷使され、死者が絶えなかったと。

 この街の人々は解放されてからは一切、東との交流を行っていません。勿論、工芸品も一切取引していない」


「あー、成程。今まで当たり前のように貢がせていたものがギルドの介入で手に入らなくなったせいなんですね。

 この街で作っているものは竜である僕が保障しますけど、良いものが多いですからねー」


「25年前、ギルドにより解放されたこの街はカミナギリヤさんの里との交流を始め、西の国とも交易を始めていますが……多分、きっとそれ自体が面白くなかったんだと思うんです。

 教団からも大反発だったらしいですから……」


「飼ってるペットに手を噛まれるって気分だったんだろうねぇ。それでコレかい?全く人間ったらないよ」


「宝石などより身体を磨き上げることの方が重要ですわ。ベッドの上ではどちらも裸でしてよ」


「…………来るぞ!」


 カミナギリヤさんの声に応えるようにしてそれぞれの武器を構えた。

 相対するは黄金ゲル、場所は奴の神域、グラブニル鉱山攻略、その一戦である。


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