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グラブニル鉱山攻略2

 朝。テントからごそごそと這い出す。

 ぶるんぶるんと頭を振って洗顔代わりに雪に顔を突っ込んだ。

 ブルルルルンッ!

 うむ!冷たい雪がそれなりに頭をすっきりさせてくれた。

 しかし、フィリアの乳がでかすぎて狭いテントだと寝苦しかった。顔に乳の跡がついてなければいいが。

 次は綾音さんのところに潜り込むようにしとこう。ちいさいから。


「皆さん!集まってください!」


 お?綾音さんからの集合のお声である。

 てってけ走って近づいた。

 わいわいと他の皆さんも集まって来ている。

 ブロートとやらは流石にダウン、街へと強制送還のようだ。まぁ片腕がもがれてるとな。引っ付くといいね。

 にしてもまたもや人数が減ってしまったが大丈夫だろうか?


「内部は迷宮化しているでしょうから、あまり意味があるとも思えませんが……一応、グラブニル鉱山の地図になります」


 ほほう。蟻の巣みたいだな。


「どんな魔物が溢れているかわかりません。トラップもあるでしょう。通路の幅、形状、現状では全て謎です。

 その観点から索敵と殿、どのような状況にも対応出来るようメンバーを配置して―――――」


「いや、その必要はないんじゃないかなー」


「え?」


 ウルトの言葉に綾音さんがきょとっと目を丸くした。

 私もわからん。必要ない?まあウルトとカミナギリヤさんを単騎突撃させれば何とかなりそうな気もするけど。


「そうだな。というよりも、攻略のしようがないな」


「…………?あの、よくわからないんですけど……」


「アタイも同感だよ。何かあるのかい?」


「あはは、クーヤちゃん、青の祠に行った時の事覚えてます?」


「覚えてるけど」


「青の祠!?」


「……あそこに行ったのかい!?」


 皆さん目を剥いて驚いている。そういやあそこって危険度Sだったっけ。


「クーヤちゃん。多分、苦労せずに中心部まで来たでしょう?」


「そういやそうだなー」


「…………そういえば、魔物もトラップもありませんでしたわ……。一本道でしたし……」


「中心部、え?え?」


「……………………どうなってんだい?」


 ざわざわとした空気。むむ、どうやらかなり凄いことをしていたらしい。よし、褒めろ。ナデリナデリと頭を撫でるのだ。ヒノエさんの大きな肉球つきを要求する。


「同じだと思いますよ。あの系統の敵ならクーヤちゃんが居れば迷宮に意味はないでしょうね。神域ならまだ見込みがあるでしょうけど。霊格が違いすぎますから。最深部まで真っ直ぐ行けると思いますよ?

 戻りは何とかなるでしょうし……向こうも獣なりにそれが分かってるでしょうから神域に全てを賭けるでしょう」


「ああ、問題は迷宮などより本体の方だろう。以前の戦から判断するに奴には物理攻撃は意味は無い。が、悪魔の攻撃が効いていたところを見るに魔術の類には脆いようだ。そこを突く。

 攻撃には魔術師中心の編成とし、物理しか攻撃方法を持たぬ者は攻撃を捨て壁役に徹するべきだ」


「え、と。俄かに信じがたいんですけど……本当ですか?それに、悪魔?え?」


「………………吹かしてんじゃないだろうね?」


「まさかー。生きた証拠が居るじゃないですか。僕が言うんだから間違いないですよ」


「アンタみたいな優男が何の証明になるってんだい?」


 確かに生きた証拠だな。青の祠の最深部に封じられていた張本人である。

 綾音さんがぽつりと呟く。


「あの鱗、種族は神竜種……まさか」


「どうも、初めまして。青の祠に封じられていた邪竜、破壊竜ウルトディアスですよ。冒険者として頑張りますねー」


 言いながら蒼い竜へとその姿を変じる。あっけに取られたように、土気色の顔色でその威容を見上げる面々にちょっとしたパフォーマンスのつもりなのかどうなのか。

 直後、もはや物理攻撃と言って良い威力を持つ咆哮が放たれた。






「……………………ウルトディアス様、少しは加減してくださいまし」


「ははは、まさか全員失神するなんて思わなかったんですよねー」


「例え魔力が含まれておらずとも、竜の咆哮は純粋な音の衝撃としても十分だからな。扱いには気をつけろ。ウルトディアス」


「そうみたいですねー」


 フィリアが疲れたように治癒魔法を掛けて回っている。

 頭がくわんくわんする。うごごご。

 メンバーは全員、なんだか死にそうな顔で縮こまってしまっている。

 ぶつぶつと何事か呟く姿はさながらホラーである。

 気持ちはわかるけども。


「…………何度見ても、あの姿は怖いです……」


 おじさんもプルプルと怯えるばかりである。

 ……いや、いいけど。おじさん本人も結構、うん。


「こりゃあ、魔物なんぞには負ける気がしないね……綾音ちゃんの言うとおり、こいつらが居ると居ないじゃ大違いだろうさ」


 ぐったりと雪の上に寝そべるヒノエさんが疲れた様に言った。

 綾音さんも雪に突っ伏している。


「一刻ほど、休憩にしましょうか……。その後、迷宮内部へ突入します……」


 ウルトのせいで無駄な時間を浪費してしまった。

 誰かあの邪竜の手綱握っといてくれ。




「では、行きますわよ!」


「おー」


 フィリアが無駄に元気だ。

 珍しいな。るんたるんたと鼻歌までついている。


「フィリアさん、やる気がありますねー」


「当然ですわ!スライムでございましょう!?」


 うーむ、ビッチらしくスライムが目的のようだ。使用目的は聞かないでおこう。

 たゆゆんと揺れるパンプキンハートを大事に抱え込んだ。フィリアに気をつけるのだぞ、パンプキンハートよ。

 鉱山の入り口は薄暗く、10メートル先すらも見えはしない。ふむ、まだ朝だが。奇妙な程に光が届いていない。

 そろーっと覗き込む。特に生物の気配などはないが。

 先行はウルト、殿はカミナギリヤさんとおじさん。魔法を使えない前衛職の皆さんはウルトの後ろで魔法が使える方々は全員カミナギリヤさんの前である。

 私は何故かウルトの直ぐ後ろである。左右をヒノエさんと綾音さん、この位置、地味に囮にされている気がしないでもない。


「じゃあ、入りましょうか」


 ウルトが一歩、迷宮へと踏み込む。

 ……一歩踏み入れただけなのだが。その後姿がやけに暗くなった。

 迷宮か。確かに、空間的に可怪しいようだ。青の祠はそんな事もなかったのだが。まあ、あの時はフィリアと横並びで二人だけだったし、私達にわからなかっただけで実はこんな感じだったのかもしれないな。

 そっとウルトに続いて鉱山へと足を踏み入れた。


 カン、カンと遠くから音が聞こえる。

 採掘音に聞こえるが……人など居よう筈もない。七人の先行組は結局、朝まで戻ってくることは無かった。

 流石に他の冒険者達も顔を引き締めている。戻って来なかった。つまりはそういう事だ。勿論地獄トイレに流しておいた。ナンマンダブ。


「何の音かなー?」


「誘い込むための囮だろう。出来る限り戦力分断をしておきたいだろうからな。音の方向へ向かって歩いても辿りつかんだろう。放って置いて構わん」


 ふむ、カミナギリヤさんの言うとおり、無視しておいたほうが良いかもしれないな。

 ガサガサと隣の綾音さんが地図を開いた。


「概ね、地図通りの地形ですね。特に空間が歪んでいるという事もなさそうです」


「ねーねー、ウルトー。何で青の祠は道が真っ直ぐだったのさ?」


 フィリアもまるで地形をショートカットしているようだと言っていた。

 が、ここではそんな事も無いようだ。地図通りの地形。


「あそこは長く迷宮化していたせいで物質的な世界というより、霊的世界に近く境界があがっていたせいですよ。

 出来立ての教会より、古くからある教会の方が神の奇跡は起こりやすいって事です」


「ふーん……」


 それは何となくわかるような。古い方が不思議な事がありそうだからな。

 カチカチと火打石で松明が付けられる。ぼんやりとした光に照らされる鉱山。

 奥まった場所までは光は届かない。しかし、あちこちに伸びた通路の先、死角から光が零れている。

 音と一緒な気がする。多分、行っても光源は遠ざかるばかりで見つけられないだろう。


「ひとまず、地図が合っていると仮定して鉱山の最深部、採掘場を目指しましょう」


「それならば……分断工作だけには気を付けましょう。トラップの類は無いようですもの」


 さてさて、どうなるやら。

 綾音さんから渡された地図を片手に、ウルトが先行する。響く足音。

 ……後ろから足音がついて来ているな。カミナギリヤさんより後ろだ。

 ヒノエさんが鼻をヒクヒクとしながら視線だけ後ろへと流している。


「匂いも無いねぇ。音だけかい」


「そう、ですね。手を伸ばしても何も触れませんから……」


 綾音さんが何やら妙な事を言っている。手?

 ……もしかしたら、ブロートの腕をもいだ力の事かもしれない。手か。

 しかし地道な工作だな。いや、大掛かりな事をされても困るのだが。通路崩落とか。

 カンカンという音はいまやあっちこっちから五月蝿いほどだ。

 通りがかる脇道のうねった曲がり角の向こうには時折明かりに照らされた人影のようなものも映る。


「人の気配はしねぇのに、存在だけは主張してきやがる……不気味だな」

「ああ……」

「…………さっきから、俺の服を引っ張ってやがるのは誰だよ……」


 姿の見えない存在に他の人も戦々恐々だ。

 確かに、異様だ。お化け屋敷みたいである。

 既に七人を飲み込んだ迷宮だ。そう思うとやはり恐ろしいもの。


「七人か……既に魂はクーヤ殿が回収したのだろう?

 今以上のエネルギーは得られていまい。死体が無いな。消化されたか」


「…………ど、どっかで生きてるんじゃ、ねぇか……?」


「本当にそう思うか」


「……………………」


 死体か。そういえば無いな。血痕や争った形跡、それらしきものも残っていない。

 反応したのはおじさんと綾音さんだった。


「…………あの、それなら、消化よりも」


 一呼吸置いて、綾音さんが慌てたように振り返って叫んだ。


「皆さん!彼らに近づいては駄目です!」


 綾音さんの声は不自然なほど大きな歓声によってかき消された。


「セルド!生きてたのか!驚かせやがって!」

「お前ら、どこ行ってやがった……!?」


 振り返った先、先行したという七人の冒険者だろう。

 見た目には生きている、が。

 目を凝らしても私の目には何も映らない。

 向こうに居るのはただの肉人形、そこには既に魂が無いが故に。

 彼らはあのゲルを思い出させる黄金の瞳で叫んだ。


「てめぇら、騙されるんじゃねぇ!そいつらだ!そいつらが元凶だ!!俺達をハメやがった……!!」


「…………セルド、アンタ…………!!」


「ヒノエ、騙されるな!可怪しいだろうが!ここは迷宮だぞ!何で魔物もトラップも無いと思う!?

 誘い込まれてるんだ!行くんじゃねぇ、こっちに来い!!」


 広がる疑惑という名の波紋。


「思ったより、頭が良かったですねー」


 …………こりゃまずい。どうしたものか。

 どちらを信じるか、彼らの瞳に迷いの色を見た。



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