妖精王4
「で、行くんですか?」
「行きますわよね?」
「お願いいたします! 妖精王をどうか……!」
なるほど、実に皆やる気満々だな。
……で、それはいいが。
「何で私に聞くんですかね」
「えー? だってこのパーティのリーダーと言っていいですから。ね? リーダー?」
「そうですわね。
何となくそんな雰囲気ですわ」
「ち、違うのですか?」
全員意見が一致かよ。何で私がリーダーなのだ。
そこはどう考えても聖女か破壊竜じゃないのか?
そんな偉そうな肩書きなのだし、強さだってエライコッチャだろう。
「私レベル1じゃんか。
一番強いウルトじゃないの?」
「いやあ、レベルは特に関係ないですよ。
リーダーはリーダーシップ溢れるリーダーっぽい人がやるべきなんです」
「そうですわ。
私も破壊竜様も貴女について歩いているだけですもの」
「ええー……」
めんどうだなぁ。とてもめんどう。
私は単にあの荒野に戻りたいだけなのだが。
そういやなんで二人共私について歩いてきているのだ。別に解散しても良かった筈だ。ウルトはまぁともかくとしてフィリアなんてそもそも敵対勢力ではないか。
カルガモの雛か何かか?
私は幼女なので二人は養えないのでやめて欲しい。悪魔達だけで手一杯なのである。
「勿論行きますわよね?」
「行かないんですか?」
「妖精王様をお助けください……!」
カエルの合唱を思い出した。見事な輪唱だ。しかし妖精王か。
確かに幾らなんでもな状態だし助けてやりたいのはやまやまだが。
それにこう言ってはなんだが暗黒神的にも助けておいた方がいい人だろう。
「けどさ、その街に行ってどうすればいいの?
その霊弓をひったくればいいの?」
「そうですねぇ……それが確実なんでしょうけど。
けど、態々盗まなくても壊せばいいと思いますよ。
この50年を耐えた人ですから。根性で肉体に戻ってくると思います」
「ふーん……」
態々盗まなくてもいい、って事は割といけるのか?
いやでもなぁ、壊すのも結構難易度が高いのではないだろうか。
「んー……。そのグロウ=デラって人の目を盗んで壊すって難しいんじゃ?」
「そうですわね……彼はあの武器だけを頼りにしてきた方ですもの。
それこそ肌身離さずに持っているのでしょう」
それじゃあやっぱりどっちでも難しそうだ。
三人でうんうん唸っていると、地に轟くような音が響いた。
即ちおなかの音である。
「………………フィリア、おなか空いたの?」
「そういえば歩き詰めでしたからね」
「……忘れてくださいまし」
真っ赤になった顔でボソボソと呟くフィリアを見て何だか新鮮な気分になった。
うん、今までに無い新しい反応である。コレがギャップ差という奴か。
見習うべきだろう。
「じゃあ今日はもう休もう」
キャメロットさんが不安そうに見つめてくる。
「とりあえず、体力が回復せねばもののふは戦は出来ぬのだ」
「もののふ?」
「何ですの、それは?」
「気にするな! キャメロットさん、明日になったらちょっと街まで行ってみますよ。
作戦を練るのです!」
「……! あ、有難うございます……!」
半ば泣いているように心底安心したような表情のキャメロットさんに鷹揚に頷く。
うむ。作戦も立てる必要もあるのは確かなのだが。
それよりも今は休まなくては。フィリアが疲れているのもあるのだが。
さてさて、本を見やる。
残りは……7時間ほどだろうか。
どれだけの魔力になるのやら。
量によってはこのミッションの難易度が段違いに跳ね上がるのだが。
魔物頑張れ。心の中でエールを送っておいた。
よし、宿を取って夕食にするか。
「うめぇ」
つぶやいた。桃源郷のご飯はやはり桃源郷だった。
この卵のあんかけ美味いな。とろみのあるスープも絶品だ。
ふーふーと冷ましつつもぐもぐと口いっぱいに頬張る。
ウマイウマイ。
あの店主もスキンヘッドなヒャッハーの見た目によらず中々の料理を作っていたが……。
あれらとは別方向の魅力を持っている料理である。
言うなれば脂ぎったジャンクフードと料亭料理。
どちらも甲乙付けがたい。
毎日日替わりにしてやりたいところである。
「神霊族でもこんなの作るんですねー」
のんびりと言うウルトにエルフのおねーさんがどこか自慢げに目を細めて笑った。
「ふふ、沢山食べてくださいね。
妖精王様が美食家だったもので、食材にはこだわっているんです」
「へぇ……」
「この果物は何て言いますの? 見た事がないですわ」
「それはクルコという果物で、妖精王の加護の有る大地でしか取れない果物なんです」
「おー……すごいなー」
さすがである。
あの荒野にぜひとも来ていただきたい。
この果物を店主にパイにしてもらうのだ。美味しいに違いない。
妖精王様の救出に成功したら引越し先として誘致しとこう。
「………………」
私が喋る度にどことなくキョドキョドされると気になるのだが。
いいけど。
しかしエルフっていいな。色白の肌にやわらかそうな薄い色の髪の毛、つんと尖った耳に翠の目。鼻は高く、唇は薄い。長身で、細身ではあるがどこか優美な曲線を描いたボディラインである。まさしくエルフと書いてエルフと読む見た目だ。
うーん、ビューティホー。私もビューティホーになりたい。
「あ、あの、何でしょう?」
いかん、何故か涎が。
めっちゃびびられている。ごしごしと拭ってニターと笑ってみた。
益々びびられた。
カナリーさんと全く同じ反応しなくたっていいじゃないか!
「食べませんよ! そんなに怯えなくたっていいじゃないですか!」
うがーっと吼えてみた。
益々もってびびられただけで終わった。
「仕方ないですよ。
クーヤちゃん怖いし。いや、可愛いですけどね?」
「な、なんだってー!?」
驚愕の事実であった。このぷりちーさだというのに怖いだと!?
破壊竜に言われたくねぇ!
ついでにペドラゴンたるウルトに可愛いとか言われたくねぇ!!
「神霊族は精霊の一種だって話したでしょう?
契約も出来るって。
貴女にくっついてる人達がちょっとなぁ……威嚇しているといいますか」
「なにぃ!?」
それってあの契約の儀について聞いた時の悪霊共か!?
後ろを見る。足元を見る。顔をペタペタと触ってみる。
しかし悪霊らしきものは見えない。
クソッ! どこで拾ったのかは謎だがいつか絶対に祓ってやる!
そしていつしか必ずやかっこよくて強い精霊さんと契約するのだ!
そしてそこから始まるフォーリンラブ!
見ているがいい!
だがそれよりもご飯だ!!
木のスプーンを握り締めて一際大きな皿に乗ったキノコとジャガイモのクリーム煮を囲い込んだのだった。
「ああ! クーヤちゃん酷いですよ!」
「ずるいですわ! 私も目をつけておりましたのよ!?」
「早い者勝ちだーい! 所詮この世は弱肉強食よ!!」
戦争の始まりだった。
「ぷぃー」
膨らんだお腹を撫で擦る。うむ、テーブルの上に乗った皿は軒並み空だ。
一番食った奴が誰かと言えばウルトといいたいが私だ。
満腹である。ヨハマンゾクジャ。風呂入って寝るか。
「はー、食べた食べた」
「……どこにあんなに入りましたの?」
「ここ」
ポンとタヌキ腹を叩いた。
「こちらでお休みください」
エルフのおねーさんに案内された部屋にそれぞれ向かう。
木をくり抜いた家なのに存外にしっかりした作りだ。
一人一部屋とは豪気である。まあ冒険者や遭難者の宿泊施設のようだしな。
……一人一部屋、なのだが。
「……いや、ウルトはあっちじゃん」
「えー。いいじゃないですか。僕寂しいです」
「やだよ」
こっち来んな。
「ではフィリアさんで我慢します」
「お断りですわ」
ざまぁ。
ぶーぶー言っているドラゴンは放っておいて部屋に入ってお風呂にイン。シャワーではなくちゃんとしたお風呂だ。地味に初である。魔法で沸かしているらしい檜風呂には洗剤の類もちゃんと据え置かれており至れり尽くせりだ。しかし残念ながら流石に片腕ではイマイチ綺麗に洗えなかった。
この腕も早々に手を打つべきだろう。
お風呂でゆったりした後はごろーんとベッドにダイブ。中々にふかふかである。よく眠れそうでなによりだ。
本と木の枝を枕元に置いて幾度か寝返りを打ちいい具合のポジションを模索する。
腕輪を眺めれば、残り作業時間は4時間ほど。起きる頃には終わっているだろう。
さて、寝るとしようかな。
ランプの火をふーっと消して毛布の中に埋まった。おやすみなさーい。
「ありゃ」
夢だ。
何となく分かる。以前に見た夢に似ているような気がする。
辺りを見回すが何も無い。
夢の中なのに何も無いとは詰まらん話である。
何か居ればいいのに。
「……ん?」
思いながら見回して、それに気付く。
トカゲだ。
トカゲかよ。
もっと夢のある奴が良かった。
……しかし小さいトカゲだな。最初から居たようだが全然気づかなかった。掴んだら潰れそうなので手を出すのはやめとこう。
なんとなくじーっと眺めてみる。トカゲも動かない。
逃げないのか。
人に慣れているのだろうか。いや、もしかしたら固まっているのかも知れないな。デカい生物に遭遇したら思わず固まるというのは理解の出来る話だ。
まあそのうち逃げるだろう。
それまで放っといてやろう。
こんな真っ暗なところに居ないで自然界で強くたくましく生きるのだトカゲよ。
真っ暗で居心地がいいので駄目人間たる私は動かないが。
そのうちキノコが生えるかもしらん。誰か生えたらクリーム煮にしてくれ。
というわけで私は動きたくないがお前は明日をいけ。
トカゲにもトカゲの人生があるのだ。
その短い人生を好きに生きればいい。
青い鱗はキラキラとしていて嫌いじゃないからな。
祝福してくれる!




