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チビな暗黒神様と嗤う悪魔4

 正直に言おう。

 面白くなってきた。

 ふて寝の傍ら千切って捏ねてをひたすらに繰り返し、無心で積み上げ続ける。おかげで目の前には沢山のお団子が山となっている。指でつつけば同色積み上がって消えるということもなく、ただぷるんと小さく揺れた。

 よし、お前たちを魔んじゅうと名づけよう。名付けたところであむあむと食べまくる。ヒョイパクヒョイパク、両手を駆使して右左右左右左右左。

 平らげたところでソファを作ってごろりと寛ぎながらカタログに没頭。

 魔んじゅう片手にソファに転がって本を読む、完璧だ。もう動きたくない。飲み物も出すか?


「完璧駄目神デスネ」


「………」


 これでこいつさえいなければ文句無しなのだが。無視だ無視。私はニートになりたい。お仕事とやらもちょっとぐらいサボったって平気だろう。ちょっとだけ。

 本を眺めるだけでも充分に暇は潰せる。パラパラと並んだ商品を眺めてデザインや機能にケチをつけては吟味してちょっといいなと思ったものにチェックをつける。

 暫くそうしていたがふと違和感を覚えた。ちゃっちゃっとページを素早く捲り続けていればやがて違和感は確信へと変わった。結構な厚みを摘んでべろんと捲るが、その動作途中でずるんと本の内部が動いたのがわかった。

 どうやらこの本、書かれている内容はちゃんと変わっているが先に進まないようである。ページ数は無限に近いんじゃないだろうか。

 となれば気になる。このカタログ本の一番最後に飾るラストワン商品が如何なるものか。私はネタバレなど一切気にしない。というわけで遠慮なく一番最後のページを開いた。

 そこに書かれていたのはとある商品。私が求めてやまない、とある商品だった。


「………………」



 商品名 転生

 種族、クラス、スキルの全てをリセットして生まれ変わります。



 その文字列を繰り返し、繰り返し視線で何度もなぞるようにして何度も読み返す。

 値段の桁が見たことも無い、というか何故だか見れない上に真っ赤だが。

 しかし内容は至って端的、誤読のしようもない。種族、クラス、スキルのリセットの上で生まれ変わる。

 差し戻しもされぬ、紛うこと無き退職届がそこにあった。


「頑張ればいけるかもしれませんネェ?」


 後ろから聞こえるは文字通りの悪魔の囁き。


「暗黒神様が地上で魂を集めて神域を広げて魔力を沢山貯えれば、いつか買えるかもしれませんネェ……?」


 肩にぽん、と手が置かれる。


「この本を使って転生すれば……暗黒神という役目から解放されるかもしれませんネェ……?」


 直ぐ近く、首筋に吐息。

 恐る恐る尋ねる。


「魔力を貯めてこいつを買えば……退職できる、というのか……?」


「この通りならば……出来るでしょうネェ……?」


「よっしゃー!! やる気出てきた!!」


 やる気がモリモリ湧いてきた。迷うまでも無い。ソファから転がり落ちるようにして大地に降りて立ち上がる。

 本と木の枝をしっかりと握りしめた。自由の女神ルックの服をもぞもぞと手繰り魔んじゅうを詰め込む。

 ロリコン御用達のふにふにの幼児の足が丸出しになって流石にアレなのでリュックを作った。

 目玉がモチーフらしい模様が描かれてたまに笑い声が聞こえる不気味なリュックだが容量は多いようだし魔んじゅうをアホほど詰めても不思議と軽い。

 ふむ、中々にいいものを作った。残りの全ての魔んじゅうを詰めてもまだ空きはある。そこに小さめの魔水晶本体をいくつか空中からもいで詰め込んでおいた。


「行く!! 地上に降りる!! いざ、世界を救わん!!」


「やる気になってくれたようでアスタレルは嬉しいデスヨ。

 ではいくつか物質界での注意をしておきまショウ」


 ステッキで手を打ちながらいつの間にあったのかゴージャスな椅子に腰掛けている。

 すいっと足を組めば……女教師、というフレーズが頭をよぎった。

 顔には出さない。


「顔に出てますヨ。まず一つ、暗黒神様が物質界にお越しになられるとそれなりの影響が出るでショウ。

 物質界には当たり前の様に天使が闊歩していマス。暗黒神様の存在はまずバレマス。逃げるが勝ちデス。

 なんなら魔水晶を売ってお金を作って護衛でも雇えばよろしい。その場合は腕がいいのを雇うのデス。

 天使を殺す程とは言いませんガ逃げる位は出来る程度にしておくのデス。いざとなれば肉の壁にでもするのデス。

 ただし魔水晶はあまり見せびらかすものではありまセン。強盗に会いマス。ギシギシアンアンされて売り飛ばされて奴隷小屋行きデス。

 活動拠点は東国と西国の中心、2つの国の国境付近の群島。長くの戦争により完全に呪われた荒野。

 今は表向きには不可侵条約を結んでおり、この辺りにはどの国も干渉してはならぬ、という事になってマス。

 ここには神は全く居まセン。精霊も居まセン。勢力図的には真っ白けの神が完全に見捨てた土地デス。それ故にほんのちょっぴり治安が悪いデス。

 暗黒神様的には居心地いい筈デス。領域さえ広げれば魂の回収はやりたい放題でショウ。下積みにはよろしい土地かと。

 東は人間、西は魔族、南は亜人、北には神霊の国がそれぞれありマス。と、言っても今は人間の国が一番大きいデス。暗黒神様が近寄るのはオススメしないデス」


「うん!」


 アスタレルはホントに分かってんのかコイツ、みたいな顔だけどそれ以上何か言ってくる事は無かった。


「では扉を作りマス」


 ドキドキしてきた。

 なんだろう、もしや大冒険じゃないのかこれは。

 手に汗が浮かんでくる。

 アスタレルがステッキでちょんとつついた空間に音もなく木製の簡素なドアが現れる。

 開いた先は真っ白な光。逸る気持ちを抑えてゆっくりと深呼吸。


「いってらっしゃいデス、暗黒神様」


 その言葉に後押しされるかのように――――私は扉を潜った。


「言い忘れてましたがその格好と見た目はよろしくないデスヨ、暗黒神様」


 最後に放たれたその言葉は既に光の中へと飛び込んでいた私に届く事はなかった。

 ついでに退職届を買うためにせっせと働いて給料を貯める、その不条理と欺瞞に私が気づく事もなかった。



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