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妖精王2

 

「クーヤちゃん、どこに行こうとしてたんですか?」


「そうですわ。また迷子になられては困りますもの」


 ぐぬぬ。

 迷子じゃねぇ!


「ちょっと散策しようと思っただけだい!」


「あまり、貴女にうろうろされては困ります。

 皆が怯えます」


「ヌー……」


 怯えられるのは事実なので言い返せない。

 おのれー!


「まぁ、暫く滞在の許可は貰いましたし、そのうち皆さん慣れてくれますよ」


 そうかなぁ……。

 こうして見るとカナリーさんはかなり特殊な妖精さんだった気がする。

 一日で慣れたし。

 いや、未だに部屋には入ろうとしないが。


「……キャメロットさん、ここではギルドへの連絡はどれくらい掛かりますの?」


「一週間ほどになります。

 ギルドも無ければ、交信球もここには置いてありませんし……外へ人を出す事になります」


「大丈夫なんですの?ここは確か……」


「はい、常駐していただいている亜人の冒険者の方へお頼みする事になります。

 彼なら目立ちませんから」


「それならばいいのですけど……」


 ん?

 何だろうか。

 歯切れの悪い会話だな。


「何かあるんですか?僕はかなりの時間あそこに封じられていたから、世界情勢とかさっぱりなんですよね」


「その、さほど離れていない場所に人間の街があるのです。

 奴隷市場が盛んな……」


「あぁ……」


 ウルトは納得顔で頷いた。

 奴隷市場……ってあの奴隷市場だろうか?


「奴隷狩りでもあるんですか?」


 あの黒の牙みたいな奴がいるのかもしれない。


「……はい。

 あの街が出来てからというもの、一人で里の外へ出た神霊族が攫われる事が多いんです。

 最近はギルドに頼んでこの里の守護を頼んでいますので、減りはしたのですが……。

 人間達にとって私達は珍しい動物でしかありませんから、教団に訴えた所で無意味ですし……」


「……まあ、そうでございましょうね。

 とんでもない見返りを要求されるのがオチですわ」


「へぇ……人間って今そんな風になってるんですか。

 あんなに脆かったのに、世の中どうなるかわからないものですね。

 けど、引越しとかしないんですか?

 神霊族に故郷という概念は無いでしょう?」


「私達もそうしたいのはやまやまなんです。ここに住み続けても良いことは何一つありません。

 ただ、妖精王が……」


「あのとんでもないクソガキがどうしましたの?」


 妖精王……なんだそのかっこいい響きは。

 う、羨ましい……ギリギリ。

 しかしとんでもないクソガキ……。

 フィリアが言うぐらいだ。よほどのクソガキなのだろう。


「フィリアさん、どうかそう言わないでください。

 妖精王も昔はあのようなお人ではなかったのです……」


「……妖精王、そういえばここへの滞在の条件が確か妖精王への挨拶だったんですけど」


「はい、そうです。それが里の掟。

 ですが、今となっては殆ど形骸化した形ばかりのものです。

 フィリアさんには分かると思いますが……」


「ええ、ええ!そうでしょうとも!

 あんなクソガキに挨拶などしたところで無意味ですわ!

 単身、神霊族の王たるお方に加護を頂こうとやってきた私が馬鹿でしたわ!」


「そんなにクソガキなんですか?

 流石に僕も妖精王に会った事はないですからねー」


「フィリアさんには感謝しております……。

 人間では始めてでした。

 人間にとっては動物でしかない私達の王に加護を頂きたい、とおっしゃって参られたのは……。

 ……昔であれば、きっと妖精王も貴女に精一杯の力を貸し与えたに違いありません」


 ……意外な。

 フィリア、意外と人間が出来ているようだ。

 あんななのに。

 しかし前々から思っていたのだが。


「ねーねー、神霊族と精霊ってどう違うの?」


 一緒じゃないのか?


「…………………………貴女、ヴァカですの?」


「な、なんだとー!!私は、何だ。そう、異界人なんだーい!」


「そうですの?魔族に見えますけど。

 ……それならまぁ、お教え致しますけど。

 一緒ですわ」


「一緒なのかよ!」


 何だよ!!


「一緒、とおっしゃられるのはフィリアさんだからです」


「異界人って何ですか?

 僕が居た頃にはそんなの居なかったんですけど」


「ここではない異界から来た人々の事ですわ。

 滅多におりませんの」


「異界人……?邪悪そのものに見えます。

 その方は異界人でも魔族でもありえません」


「そうですよね。

 その……異界人?でも魔族でも困りますね」


「じゃあ何ですの!」


「そもそも異界人ってイマイチよく分からないんですけど。

 結局人間なんですか?」


「人間のような見た目の方もいらっしゃいますけど、それは稀な事ですわ」


「うがー!一緒ってじゃあ違いはなんなのさ!」


 何だこのカオス!

 それぞれ知識が偏っててお互い口を挟みあうせいでわけが分からない事になっている。


「もう!一緒ですと申し上げているでしょう!」


「じゃあ貴女は私の何なのさ!」


「し、知りませんわ!」


「違った!精霊と神霊族の扱いは何で違うのさ!」


「人間の都合ですわ!」


「そうか!納得だ!」


 ……ウルトとキャメロットさんが妙な顔でこちらを見ていた。

 何そのヴァカを見る目は。


「クーヤちゃんは面白いですねー」


「確かに……こうして話してみると、邪悪とは程遠いようです」


 誤解が解けたようで何よりだ。

 そう思っとこう。

 フィリアがため息を付きながらも説明を続けてくる。


「神霊族は実体有る精霊、精霊は実体無き神霊族ですわ。

 水、炎、風、土、人間には認識こそ出来ませんが、彼らにも魂があり力がある。

 それらが人間に認識できるレベルまで姿を現したものが精霊ですの。

 その精霊が寄り集まって融合し一つの形を成し、魂を得て魔力と土から実体を作り出した者達が私達の言う神霊族ですわ」


「へぇ……一緒じゃね?」


「一緒ですと申し上げたでしょう!

 実体も魂も持たぬままに巨大化した精霊もおりますけれど、彼らは……こう言っては何ですけれども、見た目が天使のようにとても美しいのですわ。

 実体も持たず、魂も持たず、巨大な力と美しい姿を持つ大精霊達は人間にとって神霊族とは違う生き物に見えるのです。

 それに、意思を持たぬ精霊は扱いやすいですし、気に入った人間に加護を与える大精霊も多い事から、神の守護天使達の一つとして扱われているのですわ。

 魂と肉体を持つ精霊である神霊族はどうしても……精霊とは違って感覚も感情もありますし、言葉も通じる。手に触れる事も出来てしまう。

 見目麗しい者も多いですから、そうなると、やはり……そういう事になってしまうのです。

 本来であれば精霊と同じく、誠意ある態度と好意を示し、契約すれば精霊としての加護を頂く事も出来るのですが……。

 人間は神霊族を相手にそんな事はしないのですわ……」


 そうなのか。見た目って大事だな。


「そういや大精霊と妖精王ってどっちが偉いの?」


「どっちも偉いのです」


 ふーん。


「その偉いのをとんでもないクソガキだなんて呼んでいいの?」


「クソガキはクソガキですわ。

 妖精の王に幻想を抱いて意気揚々とこの里を訪れた過去の私を消したいくらいに」


 そんなにか。


「納得できたんなら良かったですね。

 クーヤちゃん。

 では、その妖精王のクソガキを見に行きましょうか」


「い、行くのですか?

 既に形だけの掟です。

 無理に会う必要は……」


「そうも行きませんよ。

 守るべきものはきっちりと守らねばなりませんから。

 それに、一つ気になりまして……会ってみたいんですよ」


「気になる事、ですの?」


 はて、何であろうか。


「昔は違った、と言ったでしょう?

 それに、今のこの状態を良しとしているというのも気になりますから」


「あー……」


 確かに気になるな。

 彼女達はお引越しした方がいい気もするし。

 説得できるものならしたいところである。


「妖精王がお変わりになられたのは……50年ほど前からです。

 少しずつ……姿が幼くなり、考え方も言動も、性格も少しずつおかしくなって……今では立派なクソガ、いえ、子供のような有様に……。

 ここを離れないのも、お引越しなんてヤダヤダめんろくさーい、私が楽しければいーもん、と……」


 今クソガキて言いかけたなキャメロットさん。

 いやでも、クソガキだな。それは。


「その妖精王ってどこに居るんですか?」


「この大樹の根に扉があります。

 会われるというのならばそこから……」


「では、行きましょうか」


「あんなクソガキにまた会わねばなりませんのね……」


 嬉々としたウルト、がっくり項垂れるフィリアの前に立って大樹を指差す。


「いざいざいざ、今より敵本陣に特攻仕る!!いくぞ者共ー!」


「おー!」


「おー……」


 ……お前ら、意外にノリがいいな。


「その、妖精王は今でこそクソガキですが、あまりご無体をなさらないでください。

 昔は偉大なお方だったのです」


 キャメロットさんは終にクソガキ呼びを隠しもしなくなった。

 ついでに既に私にもあまり怯えていない。

 この適応能力の高さ、やはりカナリーさんのおばあちゃんのようである。



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