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妖精王

「うおおお……」


 ここがエリュシオンに違いない。アヴァロンでもアルカディアでもいい。まさにロマンか。

 御伽噺の世界のようだ。

 飛び回る妖精たちにエルフらしき人たちが有翼馬の手綱を引き、ドライアドとでも言うべき姿の美しい女性達が寄り集まってキャッキャウフフしている。

 素晴らしい世界だ。キランキランとしている。

 混ざりたい。10年ぐらい混ざっていたい。

 ここに住み着いてもう動きたくない。

 フィリアとウルトがエルフらしき女性と話しているのを物陰からじーっとその様子を眺めてでへへと涎を垂らした。

 そう、物陰から。

 ……悲しい。

 やたらと怯えられるので仕方がない。

 クソッ!ウルトの方が凶悪じゃん!

 何故あんな変態のペドラゴンの方がニコやかに応対されているのだ。

 納得いかねー!

 膨れつつキョロキョロと辺りを見回す。

 ……うーむ、変わった建築物だ。

 建築物と言っていいのかも怪しい。

 何せただの植物である。

 木をくり貫いた家が乱立する風景はまさに絵本の世界と言って過言ではない。

 見上げるほどの巨大な植物はベンチ替わりなのか、これまた巨大な葉っぱに妖精たちが乗っかっている。

 ホタルの光のような物が辺りには漂い、積もった雪に光が反射する様はその風景と相乗効果で実に幻想的だ。

 大樹を中心にして円形に広がる街はそこまで大きいという訳ではない。

 街と村の中間ぐらいだろう。

 ……迷子になる、という事もあるまい。

 物陰から二人を伺う。

 あんなに楽しそうにしやがって。

 許さん。私も楽しんでいいはずだ。

 私だけこんなに理不尽な目に合うなんて許されざる事なのだ!

 私もあのファンタジーな住人とお花畑できゃっきゃうふふすべき。

 うむ、この街のどっかに居ないだろうか?

 私に怯えない、友好的でいい感じのファンタジー住人が!!

 でししと笑ってその場から離れた。

 目指すはあの中心の大樹。

 取り合えず一番栄えてそうだし、あそこを拠点としてこの街を散策してやろうではないか。


「ふふーん」


 鼻歌交じりで闊歩する。

 ……見事に全員逃げていくな。

 おのれー。そんなに怯えなくてもいいじゃんか。

 適当にとっ捕まえてみようか?

 いやでも出会った頃のカナリーさんを思うに失神してしまうかもしれない。

 それは困る。

 時間を掛ければ慣れてはくれるのだろうが……。

 ちえっ。

 あっという間に大樹に辿り着いてしまった。

 だってどこに行っても怯えられるし。

 立ち止まるとか出来なかったのだ。

 無念……。

 しかしここは賑やかだな。

 住人が沢山居る。

 私に気づいた近くの人たちが顔を引き攣らせて脱兎の如く逃げて行くのは見ないふりをしてやろう。うん。泣いてない。


「おー」


 湖だ。

 いや小川か?

 大樹の周りには如何にも私清らかですといわんばかりの清らかそーな水が溢れている。

 そこに居るのは水に戯れる人魚さん達だ。

 素晴らしい。

 写真に取りたい。

 人魚さん達にも色々種族があるのだろう。

 羽根が生えていたり二本足だったり色々居るようだ。

 見ていて飽きないな。

 何か全員怯えるし、多分どこ行っても友好的なのは居ないな。

 もうここで遠巻きに住人を眺めていようか。

 そっちのほうが精神的にいい感じだ。

 きゃっきゃうふふの住人にはなれない私は一人寂しくここでクラスメイトから遊びにハブられる子供の如く指を咥えて眺めているのがお似合いなのだ。

 クソッ!ウルトくたばれ!

 適当に見繕ったその辺の木に腰掛けてふーと息をつく。

 私が座り込んだ事で住人達も安心したのか、近寄っては来ないが逃げ出す事もなくなった。

 初めからこうするべきだったか。

 あー、誰でもいいから私とイチャイチャしてくんないかなー。

 ここまで避けられると流石に寂しくなってきた。

 ウルトは論外。

 悪魔?知らんな。

 可愛いファンタジー住人がいい。

 戻ったらカナリーさんふん捕まえて頬ずりしてやろう。


「あれ?」


 そう思っていると、今まさに思い浮かべていた妖精が少し離れたところをすいーっと飛んでいったのが視界に入った。

 変だな。

 こんなところに。

 立ち上がって声を上げる。


「カナリーさーん!」


「!!」


 ぎょっとして振り返ったカナリーさんは……あれ?カナリーさんじゃないな。

 人違い、いや、妖精違いだったようだ。

 よく見たらカラーリングも違うし。

 キャメロットという名前のようだ。

 何だかうまそうな。

 クラスも水の妖精ではなく水の大妖精となっている。ちょっと偉いようだ。


「すみません、妖精違いでした」


 謝ってから再び座った。

 よく考えたらこんなところにカナリーさんが居るわけないな。

 ちょっと恥ずかしい。

 が、そのまま逃げると思っていたカナリーさんそっくり妖精さんは恐る恐るとこちらに近寄って来る。

 おや?何であろうか。


「カナリー、といったの?あの子を知っているの?」


「え?あ、はい」


 知り合いなのだろうか?


「あの子を、どうしたの。何故あの子は帰って来ないの?貴女……カナリーに何をしたの!!」


「ギャーッ!!」


 叫ぶが早いか、水を飛ばしてきた。

 何て攻撃的な妖精だ!

 必死に避ける。


「なな、な、ななな何もしてませんわーい!」


 因縁だ!!言いがかりだ!!

 べちょっと尻餅をついた。


「嘘をつかないで!貴女、カナリーを食べたのでしょう!?」


「食べるか!!」


 むしろいつも私のご飯を食べられているわ!


「じゃあカナリーはどこに居るの!?言えないのでしょう!?」


「今頃ならモンスターの街でぐーたらギルドでご飯を皆に分けて貰ってご満悦で食べてる頃ですよ!」


「………………モンスターの街?」


「そうですよ!私のご飯をいっつも横から食べるんだい!」


「………………本当なの?」


「嘘なんかつくもんか!」


 言い募るがまだ疑ってそうな顔だ。

 全く!!


「……嘘ではないでしょうね?カナリーはあの街に居るの?」


「元気にピンピンして住み着いてますよ!」


「………………」


 まだ疑ってやがる!

 何て疑り深い妖精だ!


「大体、妖精なんか食べませんよ!私は普通のご飯が好きなんです!」


「……信じられません。そんな事を言ってこの里の神霊族を食べるつもりでしょう?」


「食べるわけないじゃん!そもそも私はご飯なんか食べなくても平気だわい!」


 ていうかまさか、全員逃げる理由は私が神霊族食の変人に見えるからか!?

 何故だ!?

 ギャーギャー言い合っていると、後ろから声を掛けられた。


「クーヤちゃん、探しましたよ!」


「もう……、何をしてらっしゃるの!?一人で離れては駄目でしょう!?」


「お」


 ウルトとフィリアだった。


「それで?この騒ぎは何ですの?」


「このにんじん妖精が私が妖精を食べたって言い掛かりをつけるのです」


「にんじん?何でにんじんなんですか?……いいですけど」


「食べましたの?」


「食うか!」


 叫んだ。

 妖精なんか食べるか!


「貴方達は……」


「あ、はじめまして、美しい妖精さん。僕の名はウルトディアスと申します」


「フィリアフィル=フォウ=クロウディア=ノーブルガードですわ」


「竜様と……貴女は確か……」


「ええ、以前この里を訪れた聖女ですわ。今は元ですけれど」


「フィリア、来た事あるの?」


「聖女をしていた頃に、妖精王の加護を頂く為に一度だけ訪れましたわ。

 まさかここだとは思いませんでしたわね」


「へぇ……」


 にんじん妖精は恐々とウルトとフィリアに話掛けた。

 そのチラチラとこちらを伺う仕草はやめていただきたい。

 悪い事は何もしてないぞ。


「お二人は……その邪悪とお知り合いなのですか?」


「邪悪!?」


 誰がだ!


「ええ、まあ。確かに神霊族の皆さんにとってはかなり凶悪に映るかもしれませんが……。

 大丈夫ですよ。僕が保障いたします」


「そうですわ。

 何を怯えているのかは分かりかねますが……悪い子ではありませんわ。

 気にしないでくださいまし」


「二人とも……!!」


 感動した!

 いいぞもっと言え!


「お二人がそこまで言うのならば……少しは信じましょう。

 邪悪なる者よ、カナリーは……モンスターの街に居るのですか?」


「邪悪なる者て……。

 ……カナリーさんは天使が居るって聞いて見に行きたくて遥々街まで来たそうですよ。

 奴隷商人に捕まってたところを助けたんですがそれからあの街に住み着いているのです」


「天使……ああ、あの行商人がそんな事を……そう、あの子ったら……」


 漸く納得したらしい。

 この二人が来たらあっさり信じた辺りちょっと腹立つ。

 おのれー……。


「……カナリーは元気にしているのですか?」


「してますよ。あちこち巡って遊んでるみたいです」


「そう……。それならいいけれど……」


「最初はあの街でおばあちゃんからの連絡を待つって言ってましたけど……あの調子だとギルドに手続きとってないのかなぁ……。

 ……でもまあ、そのうち帰ってくると思いますよ」


「そうなのですか……。ではギルドに連絡を入れておきます。……その、ごめんなさい」


 むぅ……。

 まあいいだろう。

 きっとカナリーさんの心配をしていたのだろうし。

 カナリーさんの故郷とはここだったのだろう。

 この見た目、もしかしたらカナリーさんの家族かもれない。

 多分姉とかだろうか。カナリーさんも連絡入れればいいのに。


「遅くなってすみませんが……孫がお世話になったようで有難うございます。

 奴隷商人などに捕まっていただなんて……助けて頂いてよかった」


「孫!?」


 本日二度目であるが心から思った。

 ……詐欺だ!!






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