地獄トンネル観光
ジジイ共を先導するようにのしのしとパイプの中を歩く。
仕方がないので手にはガイド手旗を掲げつつ。
「変なところに行かないようにこの旗を目印についてくるのだぞ」
「完全にお爺ちゃん扱いで草」
「迷いようもねーアルが」
嘘つけ。さっきから目を離す度にパイプに穴を開けようと試みたり反対方向に歩こうとしたりしていたのを私は忘れてはおらん。
先ほどこのパイプから出たら死ぬなーとか会話してた癖に何故出ようとするのか。意味がわからん。
屋根から飛び降りてみたかったとかスイッチ押してみたかったとか言い張る小学生男児とさして差のない行動を取るジジイ共は特に反省した様子もなく、私が旗を大きく振ることでようやくへーへーと言う顔をした。
わんぱくが過ぎるだろ。あれか、ハーネスリュックが必要か?
こんな連中にそんなもん付けて連れて歩きたくないので大人しくしていて欲しい。
「なんだたか、西大陸のウルトディアスの巣穴と北大陸の綾音が街、中央群島の地底湖にそこからユグドラシルの泉、南大陸の自由都市クーヤの部屋と夜店、あとは牧場だたか?
拠点の立地としちゃまぁまぁアルが。これで生徒会にもできれば文句なしヨ。
呃……実際の距離とトンネルでの距離にだいぶ差があるネ。それともあれは見かけだけか?」
「どうだろ。その辺は便利にしてそうだけどねぇ。クーヤくんの足のみぢかさで実距離歩かせるって悪魔くん達的にないっしょ。空間飛ばすくらいは簡単だろうし。
ここからだと一番遠いトンネルは北大陸かな? 実用品だから見た目通りにこのトンネルから一番遠くに見えてるのが多分北大陸の出口だと思うよ。
ちょっと行ってみようか。多分見かけどおりの長さだと思うけどね」
「みぢかい言うな」
あと九龍はなんで全てのトンネル場所を知っている。いつの間に把握したんだ。情報源が謎のジジイだな。
取り敢えず目指すトンネル出口は一番遠いヤツに決まったようなのでガイド手旗に北大陸行きと書いて掲げる。よしよし。
「ところであれって悪魔くん達かい?
あの動物姿というか、物質界だとほんとになんの実力も出せてないんだね。
実物ヤバすぎてヤバしか感想出なくてウケる」
「ふむ、あの建物はセイトカイチョーが見てたあにめに出てくる建物似てるネ。
親が旅行行ったダンシコウコウセーが美女美少女だらけのアオミソウオオヤになるやつだたか。
らぶこめ言うんであろ?」
「ラブコメっていうか深夜アニメだね。エロ描写チキンレースのヤツ。
途中で迷走して前世からの因縁を持つ異能力学園ものになったけど。
戦闘の度に服が脱げるし何故か女の子同士のキスシーンが頻りと挟まれたなぁ」
「ダンシコウコウセーが持ってたのがカタナであろ。総司のカタナでセイトカイチョーが真似しようとしてひっくり返ってたアルな」
「あれって鞘から抜くのにもコツがいるらしいからね」
「んー?」
立ち止まった二人が見下ろしているのはあの地獄アパートだ。どうやら悪魔共が外に出てきているらしい。まぁパイプを壊さないならいいが。
一応確認しておこうかと近付いて二人の間に挟まって眼下を覗き込む。
屋上でこちらに向かってペンライトを振っている悪魔連中が見えた。思ったより何の意味もない行動してるな。あいつら暇なのか?
各々でなんか文字が書いているらしいうちわを持ってるようだ。えーと……。
[バーンして♡]
[指ハートつくって!]
[†こっち見てうさ耳して†]
[がおーしてください]
…………よっぽど暇なのか?
暇なら働けと言いたいが、いの一番に視界に入るアパートがあまりにも見窄らしすぎてあまり強くも言いにくい。
「………………………………」
手を鉄砲の形にしてひょいと指先を上下に動かしてから指ハートを作る。続けてうちわを見つめながらうさ耳ぴょこぴょこ。
その後で顔の横で手をわきわきさせながらガオーとばかりに口を開けた。
「死んだアルが」
「推しのファンサで死んでて草」
「変な連中だな」
何匹か爆散したし何匹か胸元を握り込みながら屋上から落ちた。ちょっと面白かった。面白かったがやはり変な連中である事に変化はない。
まぁ折角作ったパイプに悪さをするわけではなさそうだしそれならなんでもいいか。
「わけわからんしほっとくか。よし行くぞー!!」
「塩すぎてウケる。
クーヤくんもうちょっとくらいファンサを、いやでもファンサは今あったね……。
あれで死んじゃうだなんて逆に今までの塩加減がお察しで普通に可哀想になってくるよ」
「……まぁ本人達が満足げであるからなぁ。
下手に箸を突っ込む案件でもなし、放置一択ヨ」
「藪をつつくことも無いかぁ……なにかあったらフォロー頑張ろうね九龍くん!」
「その時には異界組全員巻き込むアル」
「早くジョーカーくんとオズウェルくん復活して欲しいね。道連れは一人でも多いほうがいいよ。
休日出勤してもらおうか」
「はよ行くぞ」
アパート見物から動かないジジイ達に声を掛ける。何度か振り返りながらも二人が付いてくるのを確認してとっとこと歩く。
しかし、地獄というものはこうやって上から見ると改めてトンチンカンな世界だな。妙な像に変なオブジェ、空にもよくわからんものが浮いている。
大地の罅割れた部分からは青白い光が立ち上っているし、時折何も無い場所を影だけが走り回っているのも観測出来るし赤い河の上を無人の舟がゆく。
かと思えば一部がノイズと共に密林化したり彼岸花の群生地帯に変わったり。この辺は多分だが数多くの世界においてそれぞれ魂の行く先として扱われる概念世界が色々と表層に現れてるんだろう。悪魔も出身地が色々あるようだし、多様性ってヤツだな。
うーむ、実にへんてこな世界だ。前回はなんだかんだアパート探索だけで終わったしな。いい観光である。
というか一見すると広そうだが実体はスカスカだなこれ。立体映像のように過去の残滓が浮かんでいるだけで実際に行ける範囲はまぁまぁ狭そうだ。頑張らねば。
物珍しいのかジジイどももなんやかんや言い合いながら観光に勤しんでいるようだ。
そうやって観光しつつ歩いて一時間は掛かっていない頃合いだろうか、唐突に後ろからぎゅむと首根っこを押さえられる。
「ぐえー」
「ぶつかるアルよ」
「ムギィ……」
ふん捕まった私を置いてひょいと先行したラムレトがぺたぺたと前を触るような仕草をし始めた。
なんでいきなりパントマイムと一瞬思ったが、単にパイプがカクンと上に折れ曲がっているようだ。景色に夢中で気づかなかったが、上を見上げればポカリと伸びる土管の真下。
どうやらあそこから一番遠いトンネル出口に辿り着いたようだった。これ絶対になんか目印とかいるな。今度ペンキでも持ち込んでパイプを塗ろう。もしくは看板を立てるとか。
「瞬間移動とは言わないけど南大陸から北大陸まで一時間以内かぁ。破格も破格。
やっぱり見かけどおりの長さだねぇ」
「ん、登る手段がねーアルな」
「反応する砂もないし僕はちょっと無理かな。抱えてロッククライミングするにしてもね」
「ちょっと待つのだ」
よいせとしゃがみ込んで本で梯子を取り付ける。これでよし。二人を見比べてパンイチのラムレトはないなと結論づけて九龍の背中に飛びついておけば準備万端。
私が自力でこのクソ長い梯子を登ろうとすれば日が暮れて日が昇るからな。……そういえば夜食は九龍の持ち食券分になってしまったんだったか。好き放題に乗り物にする事は出来ないのだった。
タダ働きさせるのは怖いのでエンジンを入れておくとしよう。ケバブにしとくか。食わせておけば今度こそヨシ。
「僕にもなんか頂戴!!」
「えー……」
何もしてないだろ、思いかけてそういえば入る時に梯子を出したのはラムレトだったのを思い出す。仕方がない。
「ほれ」
スパイシーなチャイを出して与えておく。それでもちゅっちゅしておけという話だ。
やったーという声を尻目に九龍が梯子を握って具合をチェック。満足する仕上がりだったのか一つ頷いて足を掛けて体重を乗せた。
「行くアルよ」
声を掛けてからいざや登頂開始。それはいいのだが……。
「速い速い速い」
コンカンコンカンコンカン、あまりにも爆速の梯子登り。早送りされた動画のような速度で登っていく。
「九龍くん、クーヤくんが振り子みたいにぶらんぶらんしてるけど。
クーヤくん落ちない? 大丈夫?」
「しょうがねーアルなぁ」
速度が落ちた。危ない危ない。それでも結構な速度なので見る間に地層が切り替わってゆきしんしんと冷え込むような冷気が漂い始める。
この冷気、恐らく北大陸のものだ。物質界が近付いてきたのだろう。目に見えている地層に霜らしきものが混ざり始めたところでふと、九龍が止まった。
「どうしたのさ」
「妙な気配あるが。神の領域近い気配ネ」
「クーヤくん、綾音くんの街のトンネルってどこに設置したって言ってたっけ?」
「ただの廃材置き場だけど」
なんかあったっけ?
トンネル設置した時のことを思い出す。えーと確か……。
「そういやブラッキィ置いたんだった。綾音さんとイースさんが祠作って封印するとかなんとか言ってたような」
「あっぶな!?
ブービートラップすぎるっしょ!!」
「クーヤ先に行くよろし。なんとか出来そうなら呼ぶヨ」
「しょうがないな……」
もたもたと九龍の身体をよじ登ってなんとか梯子に移る。よいせよいせと上がってトンネルから頭を出した。
吹きすさぶ風雪、そういえば今の時期は雪が凄いって言ってたな。
廃材置き場はあの時とは違って綺麗に片付けられており、ブラッキィが入れられているのであろう祠がトンネルの目の間にあった。
そして広場には捧げるようにして厳かな感じの模様が付けられた岩石の類が並んでいる。黒化しているので立派に魔石として汚染されているようだ。そういやそういう目的で作ったんだった。
広場を出た先には別で建物が作られているようだ。樽が見えているので多分ユグドラシルに運搬予定の樽を運び入れる建物だな。
さてどうするか……まぁトンネルは動かせないのでブラッキィを動かすしかないのだが。トンネルから出てぱかりと祠を開く。
鎮座するブラッキィを回収してと。地獄のわっかを置いてブラッキィを放り込む。解体されてしまうだろうがしょうがない。後で別で作ろう。
後は多分九龍達にとって危険なのは瘴気であろう。全部下取りで使い切るか。特に買いたいものも今はないが本を開く。うーん……。
特に目的もなく開いているせいか出てくるものも微妙だ。
うーん……そうだ。ここは工芸の街だったな。工芸で役に立つものを出そうそうしよう。見たところ街は静まり返っており、あの時のような賑わいもない。この雪では当然であろう。
よしよし。ぺらりと開く。ヌクヌクとして鍛冶やらなんやらに役に立つものよ現われよ!
商品名 マッチ売りの少女
どう足掻いても消えない天の火種。
鍛冶に使えるくらいに育てれば約束された無限の火力を貴方に。
よし、下取りで購入。しゅわっと小さな音を立てて、広場の中心に吸い込まれるように一瞬空気が揺れた。私にはわからないが、これでここの空気は人体にも問題なくなった筈だ。
ハウスはまた別で作るとしてこちらのトンネルは移動用だな。
広場の中央には小さな火種が燃えている。拾い上げてみるがチラチラと燃える火は確かに消えることもなく燃え続けている。ふーっと息を吹きかけてみるが揺れるだけで消える様子はない。
今は小さな火種だが、育てれば大火力で消えない炉の火となるだろう。この雪じゃ薪の無駄遣いも出来なかっただろうがこれがあればいつか改善されるかもしれん。これはギルドに持っていって綾音さん預かりだな。
戻ってトンネルに顔を突っ込む。
「出来たぞー」
「……ほんとに大丈夫そ?」
「失敬な!!」
プンスコ。大丈夫だわーい!!




