水着イベント~真夏の海のバカンス~4
廊下をとっとこ走る。私はハムハム暗黒神ちゃんであるからして。行き先はひとまず白のスイートルームである。
スイートルームに設置するベッドはもちろん最高級品、沈み込んでそのまま出てこれなくなるんじゃないかとすら思わせる奇跡のマットレス。
そしてこの世界において最高品質とされているらしい西コッコ羽毛をたんと詰め込んだ羽毛布団と枕。コッコ羽毛がよくわからなかったので羊に聞いたらアレをどうぞと鳥悪魔を指さしたのでなるほどと該当悪魔をふんづかまえて毟ったものである。
サイズ的にあんまり羽毛は取れないのではと思ったのだが毟っても毟っても無限に出てきたので足りた。悪魔は泣いていたが些事であろう。
そんな鬼畜なことされると今後僕が作る純愛乙女ゲーの方向性が変わっちゃう性癖曲がっちゃうとかなんとか。曲がったなら逆方向へ曲げればいいだけだろ。相対的に元に戻る。
というわけでシャンパンゴールドの輝きを放つシルクの滑らかな生地と羽毛の柔らかさと温かさが眠る者を深い沼底へ堕落させてくる魔性の寝具が完成した。
重さや触感で邪魔にならない程度に金糸で繊細な刺繍も施してあり、材質だけではなく当然のように技術もふんだんに使っている。刺繍は淫魔らしい蝶の羽を付けた悪魔がせっせと施した。淫魔らしく寝具には一家言あるらしい。
この刺繍は魔法陣になっているようで不思議パワーにより寝汗や謎汁をすぐさま空気中へ分解し、ベッド上の生き物を睡眠に適切な体温に保つとのこと。謎汁ってなんだ。
ちなみにこの島でうっかり金銭を使い果たして一文無しになったヤツは海辺でゴザで寝ることになる。
寝室は壁や家具も落ち着いたベージュを基調とし、光沢の少ないマットな金彫刻を装飾としている。寝る場所なので落ち着きを優先し、華やかさ全振りということはしていない。華やかさ全振りはリビングルームのほうだ。
寝室の壁は東側一面が大きな窓となっており夜明けの光を堪能してもよし、分厚いカーテンをきっちりと閉めて惰眠を貪るもよしだ。
テレビも何もないので娯楽は一切ないが。その代わりにちゃんと小さなワインセラー的なものが設置してあり、悪魔おすすめのワインが既に並んでいる。外でも眺めながら酒でも飲め。
酒を飲まない人の為にお茶もちゃんと備え付けてあるしお菓子も配置予定だ。こちらは予定なだけで今は置かれていない。暗黒神ちゃんの胃袋が警戒されているらしい。否定できない話だ。置かれたら即食べる予感しかしない。
水晶仕立てのグラスも用意し、陶器のティーセットもばっちりである。埃ひとつ許さぬ空気循環機能も相俟って清浄さが天井知らずだ。
家具も一通り発注した通りのものを悪魔が運び入れているし、ルームウェアやスリッパも搬入済みだ。
あとはわからせルームとしてインテリアの類だな。我々はこんなものをホテルの一室に飾れるくらいに金と権力がありますよっと。それもこの部屋であれば神の工芸品か。それに音楽も欲しい。本を開く。
商品名 天上から響く歌声(サブスク契約済)
音楽配信サービス付きのスピーカー。
再生。停止。戻る。進む。繰り返す。
購入。でっけぇ巻き貝だな。真っ白な貝だが縁が金色に彩られており、うずの内部が蒼く光っている。
見た目もこの部屋に合っているし、よさそうだ。これはベッドサイドテーブルに配置しておく。一応動作テストもしたほうがいいか。
スイッチどれだ?
それらしいものがない。とりあえず巻き貝を耳に当ててみる。貝の遠くで海のさざなみのような音が聞こえてくるが。落ち着く波の音ではあるだろうが音楽ではなさそうだ。
うーん。まぁいいか。別に不良品ではあるまい。多分なんか特殊な使い方があるのだろう。
よし次。
商品名 下天の花(花屋定期配達契約済)
部屋に華やかな彩りと香りを添える花器。
美しい花々と共に楽しむ、美しい夜を貴方に。
これも購入。出てきたアンティーク調の花器には既に綺麗にカットされているらしい花々が活けられ、満開の顔を見せている。香りも強いのか寝室はあっという間に濃い花の匂いが満ちた。
これは窓辺のテーブルにセットしておく。
その拍子にゆっさと揺れた花の1つから小さな雫が落ちたが、それはテーブルに落ちる前に空中ですーっと霧散するように掻き消えた。なんか不思議なパワー持ってそうだな。まぁ神の工芸品だしな。
ふむふむ、この調子でどんどこ置いていこう。絵画も掛けたいがああいうものは神の工芸品よりも悪魔共のほうが得意分野か。いやでも悪魔に用意させると悪魔の芸術品か呪われた神の工芸品になりそうだ。
それはこの部屋のデザインに合わせるものとしてどうなんだろう。
ここは揃えておきたいと言われれば確かにって感じだしな。仕方がない。
商品名 楽園の黄金樹
グラノイル・アグ画。
商品名 聖女の行進
ティティラ・ヴェルツァ画。
商品名 湖の精霊
無名の画家によるもの。
ページを捲って出てきた絵画をぽんぽんぽんと買って壁に飾る。悪魔どもが持っているようなのと違って神々しいというかなんというか、まぁいい感じのオーラが漂っている絵画だ。
楽園の黄金樹とかいうのはその名の通り、中央に贅沢にも金を使っているらしい黄金の木が描かれておりその周りを精霊っぽいのが飛んでいる。これはいかにもな感じだな。
聖女の行進は名前だけ聞くとフィリアがいっぱいだが実際は小さな子ども達が女の子を先頭にして鼬らしき小動物をきゃっきゃと追っている様子だ。こちらはほのぼの感が溢れている。
湖の精霊とやらは……なんだろう。無名の画家とあるが。主線もなく色も全体的にぼんやりとしているが、それがまるで水の中から見ているような錯覚を抱かせるなんとも空気感のある一品である。
どれもまぁまぁの大きさだが太陽の光が当たったらよろしくなさそうだ。窓を開けても大丈夫な位置にしておいて紫外線カットなアイテムを買って覆っておく。よしよし。
ルームウェアやタオルなどのほか、アメニティを納めてある棚の上が何も無いので人魚さん達も好んでいた蓬莱の枝と、ついでに他に枝とシリーズものらしい仏の御石の鉢、非鼠の皮衣、龍の首の玉、燕の子安貝も出して綺麗に並べておく。全部ほんのり光っているので寝室のランプとして丁度いい光源だ。真っ暗な部屋で寝るタイプの人ならベッドには天蓋があるしな。
どでんと置いたソファにクッションも並べておく。寝室という用途を考えればあまりごちゃごちゃさせるのも落ち着かない。インテリアはこれくらいで留めるべきだろう。あとはそうだな。
ベッドによじ登る。ミニマムボディが沈み込んだ。ベッドで溺死すら有り得そうな恐ろしいクッション性。モガモガしながらなんとか位置取りを調整。うむ。
「せーの……ホリャッ!」
ベッドの弾みを利用して表返った。顎をすりすり。ちょっと表返るのを短期間で乱用したせいか少しばかり違和感。ガワがレガノアだが中身がちょっと。私としては特に問題は無いと思うがまあ一応手早く済ませよう。
そのままベッドの上をころりと転がる。枕も撫でてシーツも巻き取ってゴロゴロゴロゴロ。
毛を擦り付けるようにして端から端までごーろごろ。いい感じに養分が染み込むように念入りにレガノアボディを擦り付ける。あちこち重てえ。
5回転くらいしたところでドアが勢いよく開け放たれた。
「……………………………………」
目の据わった悪魔共が淀んだ空気と共にこちらを見ていた。
うむとひとつ頷く。
「さらば!!!」
すわっと飛び上がって逃げ出した。なんか嫌な感じだったので。
次は黒のスイートルームだな!




