ドキドキワクワクリゾート生活
「ふぅ……ふぅ……おもたい……おもたい……」
というわけで何事もなく翌日。
私を背負ってふらふらとするラムレトが歩いていく後を九龍が足の感覚だけで測量しながら紙に地図を書き込み続けることほぼまる1日。
太陽も傾き始め、だいぶ涼しくなってきた頃合いになんとなく地形に見覚えが出てきた。そろそろ一周しそうだな。
この島、スタートラインが私の抜け殻でありそこに更に私が無理に表返ったことで影響がでたのかラムレトが精算を掛けるまでもなく、面白いことに奇跡的なバランスで程よくなってしまったらしく測量して後はリゾート化するのみとなってしまった。
なので実に平和そのもの、ただお散歩しているだけである。
ちょっとした奇跡でしょ、これでまともに使えるアルなどと2人が言い合っていたのが解せないが。
島の見た目は真っ黒いボッコボコとした硬い繊維質の何かしらのでっけぇ塊といった塩梅であったが砂要素のあるラムレトを中心に変な掛け算が行われたらしく、一夜明けたところ見事な砂の島になっていた。
全体的に中心部が盛り上がった緩やかな砂丘となっているものの、それ以外に視界を遮るものはほぼなく見渡す限りの砂浜と海である。
とは言え、色の方はまぁ白い砂浜とはならなかったようだ。深い金青の砂浜には青白い星雲のような光がうねり、あちこちに星のように青白く輝くものが混ざってキランキランと自己主張が激しい。天の川を島にしましたってもんである。
如何にも私とレガノアとラムレトの力の複合魔改造って感じだ。まぁ元々が観光名所な塩湖だったことを思えば観光資源としての価値がそんなに落ちなくてよかったなというところ。見た目はだいぶいいだろう。多分。
リゾートに改造するにあたってナカナカの集客が見込めるのではなかろうか。
思いながら素知らぬ顔をして負荷を増やす。ラムレトを鍛えるのであるからして。
「む」
尻が九龍に支えられた。面白くないことに朝から私がこうやってラムレトに負荷を掛ける度に九龍に尻が支えられているのである。ええい、ラムレトを甘やかすな。
尻を振って威嚇しておく。
「九龍くんありがとう!ほんとありがとう!!僕の命が助かるよ!!
命の恩人!!一生ついて行きますからよろしく!!」
「ついてくんじゃねーよろし。
礼なら飯の一つも奢るネ」
「手料理でいいかい?」
「よし、尻を支えるのやめるネ。しっかり歩くヨ」
「ヤダーーーーーーーーッ!!!」
全くやかましい神である。わんわんめそめそしくしくとしている。幼児退行でもしたのか?
いいけど。支えられては意味がないので負荷を掛けるのをやめた。
「ま、歩く程度には丁度いい負荷であろ。
それなりに成果もありそうネ。日課にしとくよろし」
「丸一日クーヤくんをおぶって毎日散歩するって色んな意味で僕が後で死んじゃわない?
下手人ちゃんとあげてくれる?」
「否定はできねーアルが。下手人は誰でもいいであろ」
「ウーン、これは酷い。やっぱりついていくのやめるね」
「呵々、残念ながらこの世界に来た時点で全員一蓮托生アルからなぁ。
精々長生きするヨ」
ケケケと笑う妖怪ジジイが再び測量に戻る。ちらりと投げた視線の先、つられてそちらを向けば遠くに飛竜達がごろごろと転がって遊んでいる。傍には出発時に刺しておいたいい感じの棒が立ったままだ。
どうやらゴールラインが見えてきたようである。1日掛けて一周、結構なペースの散歩であったし障害物が一切無かった為わかりづらいがまぁまぁの大きさだったな。
測量を切り上げた九龍が紙を広げてしげしげと眺めている。方向も距離も九龍の感覚に全てを任せた測量の筈だが、チラ見した地図は意味不明な正確さを以て書き上げられていた。そろそろビックリキショキショ人間なのだが。
「この島なんて名前付けようか?」
「猫島」
即答である。こやつ猫大好き過ぎるだろ。猫以外食うって言ってたし。しかしこれだと逆に猫を食ってないのが不思議なのだが。皆さん曰くヤンデレ監禁野郎らしいしな。
……それにしてもあの猫耳パーカー、もしや本人の趣味なのだろうか。
「南大陸のセオリーに真っ向から反抗していくストロングスタイルだねぇ」
「セオリィ……?
私が法で私が決めたモンが名前ヨ。
ま、据わりが悪いは確か。譲歩はしてやるネ。猫目島アルな」
「1文字増えただけだねぇ……。セオリー通りはそうだけど。
まぁこの島って白い模様が中心を走ってるからそれっぽいはそれっぽいね。それでいいんじゃないかな」
確かにキャッツアイと言われればそう見えなくはない、のか?
いやまぁいいか。島の持ち主であるラムレトがオッケー出したのなら別に言うこと無いしな。
考えているとラムレトがパンと手を合わせてから指を弾いた。元気いっぱいだな。やはりもう少し負荷を掛けるべきだった。
「よぉし、じゃあお楽しみタイムといこうか!!
日が暮れる前に作業を終わらせて一番宿泊したいしね!!
あ、九龍くんついでにギルドの名前どうしようか?」
「あー、そいつはメルトに命名権やるネ。好きにするよろし」
「そうかい?
どうしよっかなぁ。魔王くん達のお名前は全部使っちゃったし……やっぱりここは島の成り立ちとしてもクーヤくんにあやかりたいよねぇ。
やっぱりパンデモニウムとか?
でもパンデモニウム支部はちょっと語呂が悪いかなぁ……。ゲヘナ支部もちょっと言いにくいし」
「縁起の悪そうな名前だな」
「そう?
でもこういうのじゃないと僕が悪魔くん達に酷い目に合わされそうっていうか……」
「好きにすればいいじゃん」
別にあいつらは文句言わんだろ。
「クーヤくんお墨付きなら大丈夫かぁという気持ちと悪魔くん達かわいそぉという気持ちでちょっとセンチメンタル。
よし、ドリームランド支部にしようか。色んな意味でいい具合っしょ!」
突然ファンシーな響きが出てきたな。しかしリゾートと考えると悪い名前ではないだろう。確かにいいんじゃないだろうか。
「猫の神殿作るネ」
「それじゃあウルタールじゃない?
でも猫を押し出すのは悪くない案だね。リゾート地に猫って映えるよね~。
僕の砂漠でも猫って大事にされてたよ。神格化されてたし。でっかい像があってねぇ……」
「猫猫族でも誘致するアルか?」
「誘致する難易度はともかく夢があるねぇ」
ほーん、猫猫族を働かせたいらしい。二足歩行する猫だっけ。確かにそんなのがコンシュルジュとかやってたら爆売れ必至である。そういえば悪魔の名前で猫っぽいのが居たな。気が向いたら呼ぼう。
足をバタバタさせているとラムレトに降ろされた。もっと背負え。降ろすな。許さんぞ。
「スパ……マリン……?
うーん、ギルドリゾートの建設、はっじまるよー!」
「おおー」
どうやらラムレトはもう建設作業に入るらしい。仕方がないな、代わりに九龍によじ登っておいた。うむうむ。
アトラクションとしてダンジョン設置なんて話していたが、その辺は魔王ズやらドラゴンズを呼び寄せねばならないだろうから後になるだろう。
とりあえずはメインとなる宿泊施設といったところか。
さて、ラムレトの魔法と言っていいのかはわからんがとにかく不思議パワーでの建築である。ちょっとワクワクしてきたな。
そわそわしつつじーっと見守っていると、徐ろにラムレトがしゃがみ込んでざくざくと砂山を作り始めた。んん……?
その横に九龍も座り込んでじゃくじゃくと砂を掻き始める。
「…………………………」
「…………………………」
無言。無心で砂をがしがしとし続ける2人の表情は大真面目であり、別に遊んでいる雰囲気は無い。
海水をぶちまけて固めつつ黙々と砂で何かを作っている。港のギルドでも指パッチンで崩していたから不思議パワーと思っていたが、まさか。
「手で作るというのか」
「そうだけど」
「何年掛かるのさ」
如何なる超絶技巧を駆使したところでどうにかなるようには見えない。出来ても掘っ立て小屋であろう。
「流石に全部手作業ってワケじゃねーよろし。生活力0は伊達じゃねーアル。手先はともかく技術は皆無ヨ。
今から作るのは、なんだたか……みにちゅあ、じお、ジオラマね」
「ジオラマ……」
ちっこい模型ということか。
「そうそう、ようするに設計図だね。魔族の人とか神様とかはこんなのいらないらしいんだけどねぇ。
僕のペラ神っぷりはここでも遺憾なく発揮されるワケ。構築したものを世界に反映させるのにワンクッションいるんだよね。
サイズは小さくてもいいんだけどある程度は精巧な実物を用意しないと駄目出し食らっちゃうんだよ。
僕の存在規模ってホント綿菓子くらいだから。神域とか一切無いよ。悲しいね」
悲しいねといいつつ頭はパーリナイなミラーボールである。眩しい。
というか綿菓子は綿菓子でも神権というのか権能というのか、神様として持っている何でも分解屋な精算とかいう能力の極悪さはふつーにプライスレスである。まぁ元の世界がそういう方向にいかなかったからペラ神になったというだけで、死後を司る神様とかどんな神話だろうがどう考えてもつよつよ神だしな。無理やり働かされている若い頃は強かった隠居ジジイといったところか。納得の体力のなさ。
「それでも昔よりはマシあるがな。
このジオラマ工程でテキトーすると出来るのはただの砂山アルが昔は実際に作ったほうが早い程度にはふざけた精密さ求められたヨ。
今はテキトー部分あってもある程度は補完されるネ」
「とは言ってもこの工程の完成度が高ければ高いほど良いのが出来るからねぇ。悩ましいところだよ。
けどワンクッションあるせいで手で作ったミニチュアを巨大化させてるって感じになっちゃってるからこの世界の精神生命体と違って世界に干渉しても上書きされちゃうって心配がないからそこは長所かな」
「ほーん……」
まぁつまりはラムレトにとって何かを創造する系魔法の呪文的なものがこのジオラマ製作ということだろう。
そしてそのジオラマのクオリティが高ければ高いほど良いものが出来ると。
マリーさん達の温泉制作を見た後だとそのヤバさがわかる。めっちゃしんどそう。1人でダンジョン制作を嫌がったわけである。
ふむ、ジオラマか……よし。そうとなればこの暗黒神ちゃんもやらねばならん。面白そうだし。我がげんだいあーとぢからを見せつけてくれるわ。
最悪、悪魔を呼びつけて手伝わせよう。あいつらこういうの得意そうだし。
ぼとりと九龍の背中から落下して横に並ぶ。スコップを出してじょうろも持った。コテに細かな作業用として小さなヘラ。霧吹きまで用意。
骨組み用にいい感じの棒もいるな。勿論この島にそんな棒はいくらもないのでこちらは本で出しておく。準備は万端、いざ!!
高々とスコップを掲げる。見ているがいい、超高級リゾートホテルを建築してくれる!!
「今から既にやらかされる予感がすごい」
「エルフの皇族でも呼べそうアルな。まぁ好きにさせるヨ」




