クンツァイト港食い倒れ旅行編~ボンバー~
はよはよと大暴れして猛然と玄関に向かって走り出したところで中華マフィアに襟首掴まれて持ち上げられる。私の短足がシャカシャカと空を掻いた。
「まぁまぁ。後片付けしてからね。取り敢えずこれあげるよ」
「お」
シャカシャカしたままラムレトから何やら受け取った。
見てみればこれはビックリ分解済み神託だった。そうだったそうだった。
「ヤッター!!」
両手で掲げて大喜び。暗黒神ちゃんレッグは最早自動でシャカシャカし続けてカートゥーンアニメのようになっているがまぁ良し。
ほっとけば治まるだろう。
いそいそと地獄に仕舞う。
「飯はどうするネ?」
「街で買ってくとボッタクリだからねぇ。
直接港で交渉してきた方がいいけど、それよりはキャンプらしく現地調達を楽しみたいじゃない?
時間もあんまりかけたくないよねぇー。港の爆破とギルド船の方に連絡いれるのと後はまぁ貴重品だけ回収してさくっと潰そっか!
僕はギルド撤退を言って回ってきまーす!」
「是。私火薬用意してくるネ。そこの小娘、船の方に港爆破する連絡入れるヨ。
そこらの小僧はとっとと荷まとめて全員で自由都市に向かうよろし。1時間後に爆破するネ。連れて行きてぇ連中居れば連れてってよろし。
綾音、同行頼むネ。連れて行く連中かうるせー連中にめんどっちいの居れば沈めてこい」
「そうですね。私はそちらに回ったほうが良さそうです。
マスターをよろしくお願いしますね」
「ん」
綾音さんの返事にひとつ、頷いた九龍がさらさらと何やら紙を書つけてくるくる丸めてポイと犬耳兄ちゃんに投げた。
「着いたら門番にそれ見せるネ。暫くの生活ぐれーはまとめて面倒見るアル。
そのまま自由都市に居着くのもよろし、メルトのギルドに戻るつもりあるなら運用出来る程度になった頃合いに連絡入れさせるヨ」
「はっ、はいぃぃぃ!!ひぇ……直筆、直筆だ……じいちゃんに自慢しよ……」
「おい!!待て僕にもちょっと見せろ、うわぁ……!!ヤバいヤバい……」
「メルトさんに俺ら信用されてたんだなぁ……真面目に冒険者やっててよかった……少し泣く……」
わちゃわちゃしてるなぁ。シャカ足が治まったところで食事処端の砂場に落とされた。終わるまで大人しく遊んどけということらしい。ちえっ。
本能のままにホリホリしてみると何やら白い皮を発見。袋のような形をしているものの、穴が開いとる。砂を詰め込んでみるがざーっと流れ落ちていった。ちょっと離れたところでおじさんが青い顔で砂場で遊ぶ私を見ている。なんでだ。
それにしてもこのギルド、こんな端っこの方にえらく立派な砂場が設置されているのはどういう理由なんだろう。おこちゃま用だろうか。まぁおじさん用ではあるまいが。
お姉さんが砂かき棒で先程私がトンネルにしようとしていた砂を押し運んできてざっざと砂場に混ぜ込み始めた。どうやらあれとこれは同じ砂のようだ。砂漠の砂のように細やかな粒は粉のような質感であり、山にしても水のように崩れていく。
はて……?
「……………………あっ」
ばひゅんと砂場から脱走し、手にしていた皮を放り投げた。ひらりと顔パックのような形をしたものが床に落下。
九龍によじ登って背中に齧り付くようにして取り憑く。
「ん?もう遊ばねーアルか?
長年メルトがせっせと砂を溜め込んだクンツァイト港ギルドの名物砂場アルが」
「死体じゃん!!あれ死体捨て場じゃん!!」
「目の前でメルトが砂にしてたであろ」
「私がそんな昔の事を覚えてるわけないわーい!!」
「半刻も経ってねーよろし」
半刻もあれば充分忘れるに決まっているのだ!全く!全く!!
私をへばりつけたまま作業することにしたらしい九龍が木箱を抱えてすたすたとカウンター横の倉庫入口に向かう。クソデカい鋼の鍵を指で弾き飛ばし、赤い魔石やらなんやらを集め回っている。港爆破用の爆破物を作るようだ。
ふむ……。どれ、私も手伝ってやろう。
背中にへばりついたまま爆破物、爆破物と考えつつ手当たり次第にビビビと来たものを棚からひょいひょいと引っこ抜いて九龍の持つ箱に投げ込んでいく。
スカラベみたいなデカい虫、変な角、妙な石に謎の粉その他諸々。赤石もいいがこの薄青の石と黄色の石もいい気がするな。あとは……そうだな。なんとなくこの液体とこの液体の組み合わせが良い気がする。
「うむ、満足だ!」
「…………………………港どころか街ごと消し飛ばねーアルか?
廃船に乗せて沖で使うアルか……」
「ふんふーん」
ゆっさゆっさと背中で揺れながらご機嫌に歌う。キャンプだキャンプ!!じゅるりとヨダレが出てくる。
焚き火でマシュマロを炙ってもいいし肉を豪快に焼いてもいいだろう。キャンプ飯というのはどうしてああも食欲を唆るのか。不思議である。
木箱がいっぱいになり両手が塞がった事で足しか無くなったからかその辺に積み上げている木箱に貼り付けてある何やら色と数字が書いた紙をちらりと見た後に必要そうなものだけをガンゴンと蹴り飛ばして出入り口まで移動させていく。お行儀が悪いな。
「こんなもんアルかな」
「ほほー」
材料の搬出が終わったらしい。倉庫を出れば全員指示をこなすために解散したらしくギルドは既に無人であった。
ぴょいと飛び降りてガサガサと漁る。ほうほう、なかなか良いものを集めているな!この形、この重さ、素晴らしい積み木である。
がちゃがちゃと積み上げてついでに魔石の類を集めに集めてばっちんばっちんと引っ叩く。魔石は粘土のようにとろけ始めた。
「ふむ、ほっとけば勝手に爆薬作りそうアルな。
んなら廃船のほう回るか」
すたすたとパッパは立ち去ったのでこの場の全ての物は私の物と言えよう。好きにしろということに違いない。ふはは!
魔石の入った木箱をひっくり返してガラガラと魔石を転がし、水をぶっかけてごねごねと捏ね上げる。
いい感じに粘土質になったところで九龍が材料を入れていた木箱を漁ってデカい虫を取り出した。ハンマーでぶっ叩いてぐずぐずに崩し、続いて角に石に粉と1個ずつ取り出してハンマーでぶっ叩いていく。
それも混ぜ込んで熟練の手つきで揉み上げては折り重ね、引き伸ばしてを繰り返して均一に仕上げていく。残った木箱からも魔石を取り出して水と共に投入していきまーぜまぜ。黄色を混ぜてこの次は青色を混ぜよう。
全てを投入し終わったところで空気を抜くように床へと打ち付ける。何度か打ち付けてよさげになったところで形を整えて寝かせた。
「ふふんふーん」
ちくたくと時間が進む。リンリンと相変わらずどっかから聞こえる鈴の音を聞きつつ10分も待てば生地はもっちもちだ。
ふっくらと膨らんで立派に育った生地をばむばむと引っ叩いた。柔らかく、滑らか。手の平をつけてぐっと押し込めば私の手の形に沈むあたりが実に良質な生地であることを訴える。
手の平サイズに生地を千切りとって別で置いておき、大きな生地の方をぐねぐねと成形して丸くしてから千切っておいた小さな生地を回収して丸くして潰し、円盤のような形にしてから2つを合体させた。
九龍が持ってきていたのか木箱にあった黄金のジャガラの糞を着火剤にすべくロープでぐるぐると巻いてから円盤の真ん中に埋め込んでロープを垂らせば絵に描いたような見事な爆弾型だ。ボンバーと言えよう。よしよし。
赤と透明の魔石を倉庫から追加で持ってきて鍋に入れて水を投入し、食堂でぐつぐつと煮詰める。ラメとして刻んだ竜鱗もいれとこ。キラキラ光っていい感じである。
ラメ入りピンクの粘液となったところで爆弾の元へダッシュ。上からゆっくりと回しかければ……。
「ヤッホーイ!!」
暗黒神ちゃんスペシャルラメ入りピンクボンバー爆弾の完成である。りんご飴のように固められた爆弾はガラス細工のような素晴らしい仕上がりとなっている。
うむうむと頷いてから大事なことを思い出した。画竜点睛を欠いている。倉庫から筆を持ってきてインクを浸してからダルマのような顔を描いておいた。りっぱなばくだんだ。
大満足で眺めているとギルドのサンキャッチャーがしゃらんらと鳴った。
「ただいまー!住人の皆すっごい喜んでたよ!
いやあ、世知辛い世の中だよねぇ。しかしこれもまた人生ってワケ」
「お」
ラムレトが帰ってきたようだ。どうやら通告してきたらしい。ぐるんとこけしの頭が回ってピタリと止まった。
暗黒神ちゃんボンバーが気になるようだ。
「なんかヤバいくらいえげつない爆弾があって草。
港っていうか地形変わりそう。時空震も有り得そうでヤバ。でも神性領域ごとふっ飛ばしそうだし有りかなぁ?
九龍くんはどこに行ったんだい?」
「なんか廃船準備するってどっか行った」
「ウケる。まぁそれはそうだね。
じゃあこっそりと港にこれを持って行こうか!
署名もあるしギルドのロビーだけ残しておいて後は全部砂にしておくかな。
でも砂にするのは最後だね。これはまさに後ろ足で砂をかけるってヤツじゃない?いいねいいねぇ」
「物理じゃん」
意味が違うだろ。ツッコミを入れつつ暗黒神ちゃんボンバーをごろごろと転がして運搬する。ついでにコソドロ風呂敷を指差した。私はあれも持っていきたいのである。大いにタニシを育てるのだ。




