表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/232

スキット

「ああ、そういえばクーヤ。貴女、ああやってあの御姿をとって晒していたということはもういいのね?」


「む、まぁそうですな。クーヤちゃんたらワケあって元人間じゃなくてプリティーデュアル・ザ・暗黒神ちゃんでした」


 ぴゅーぴゅーと口笛の音と囃し立てる声が一瞬静まり返り、ついで大歓声が聞こえてきたのでこちらの皆でこれが年貢の納め時ってヤツかぁとダラダラして暫く。

 未だ乱痴気騒ぎの中でやり遂げてやった感が溢れるマリーさんがふとティスコードからこちらに声を掛けてきたのでお返事をしておく。

 実際もうバレバレなので開き直ったほうが恥は少ない。


「元人間?クーヤ、貴女もしかして自分が元々は人間だったと思っていたの?」


「あい」


 完全に思っていました。


「……悪魔も苦労すること。悪魔があそこまで尽くして真名も明け渡しているのにそんなわけないでしょう?

 貴女が思う以上に悪魔というのは冷酷で残忍。この世で最も恐ろしい眷属よ。それに貴女、こう言ってはなんだけれどあまり人間らしい挙動をしていなかったわ」


「え?」


 そうだっけ。そんな覚えがないが。


「まぁそれはいいでしょう。

 クーヤ、エウリュアルはこちらで魂の治療を行うわ。こちらに向かわせて頂戴。手っ取り早いのは羽兎族の次元移動だけれど……。

 羽兎の次元移動はリスクが高いもの。赤の竜が許容しないでしょう。トンネルで生物の移動が可能になったら連絡してもらえるかしら」


「わかりましたぁ」


 うーむ、最優先はやはりトンネルか。次の内職売上が上がってきたらトンネルだな。働いても働いても魔力が無くなっていく……いっぱい悲しい。


「代わりというわけではないけれど。クロノアが貴女に会いたがっていてよ。

 その内にそちらへ行くでしょう」


「む?」


 なんであろうか。クロノア君がわざわざ私に用事とは。というかどうやって意思疎通をしているのだろう。謎である。

 取り敢えずクロノア君が来るらしい。ふむふむ。

 それにしても今引いたカードで累計ババ4枚が私の手札にあるのはどういうわけだろう。なんならババしかない。最初に入れたババの数は無論のこと1枚、私以外の全員がイカサマしてることになるのだが。

 いやでもよく考えたらペアになったら捨てていいんだから捨てていいなこれ。4枚をぺっと捨てて上がりである。私が優勝、私が一番!


「なんで!?」


 カミナギリヤさんが目を剥いた。九龍とラムレトは黙っているので犯人コイツらだな。


「私が混ぜたの1枚だけなんだけど!!」


 違った。私以外が犯人である。これが策士策に溺れるというヤツであろう。

 遠慮なく賭け品のお菓子を徴収。うははは。しかし場からババが無くなったのでこれ決着つかないのでは。もうスピード勝負だな。がんばれ。

 ソーダの残りも吸い上げて一息入れる。暗黒神ちゃん大満足。いつかギルドでラムネを製造して大々的に売り出して頂きたいところだ。


「すっかり仲の良いこと。ではクーヤ、また連絡を取りましょう。

 貴女はわたくし達のパーティの一員なのだからあまり浮気をしてはダメよ?」


「はーい!」


 元気いっぱいに返事をしておく。なにが浮気なのかはわからんけども。

 マリーさんが言うならしないべき。


「絶対わかってない感が草」


「クーヤはそんなもんでしょ。そんな機微があったら悪魔連中があんなハイライトの無い淀んだ病み目してないわよ。

 ところでこの勝負はリセットでいいわよねはい終わり終わり」


「そういやぁ私の自称嫁は生きた財所有してる言うてたが。

 私浮気されてねーアルか?」


「そのツラ晒して顎クイでもしたら振り向かせられるでしょ。やったら?」


「いやアル」


「草」


「ラムレトの自称嫁も恋のトライアングラーってフィリアが言ってたぞ。

 浮気だ!!浮気に違いない!!」


「クーヤくんちゃんとわかってるんだ……?

 一応聞くけど浮気ってどんなものと認識してるんだい?」


「……?

 なんかこう……結婚相手が二人いるやつ……?

 どっちも変わらんから欲張らずどっちか一つにしなさいみたいな……?」


「根本的にダメじゃない。恋愛観が終わってるのしか居ないわけ?」


「僕はちゃんとしてますぅー。砂漠の神々ってまぁ結構適当だけど。

 親兄妹で結婚が普通だしね。同性結婚もあるし。異種結婚もあるよ」


「あぁ……、まぁ環境が閉じた場所の神話には珍しくはないわね。

 でもあんた自身はどうだったのよ?なんかあっちみたいな恋バナないわけ?」


「うーん、僕がそもそも色々な神が集合されてるからねぇ。歴史も長い国だったし戦争もしてたしね。

 領土が増えたり王位が変わる度に神話も変わってたよ。

 キャベツと結婚したり川と結婚したり弟が生えて女体化して結婚してたけど次の代では居なくなってたりしたかと思えばいつの間にか僕が弟になってて自分とも結婚してたかな。

 姉とも結婚してたし冥府の花とも結婚したよ」


「あたしと九龍のバツイチが霞むバツの数じゃない。

 浮名を流しすぎでしょ」


 確かに。ここまで結婚してればもう浮気とかどうでもよくなるヤツだな。しかもほぼ異種婚である。キャベツとか川とか花とかどうやって結婚したんだ。

 自分と結婚してたことになってたヤツは多分だが名前を間違えられたんだな。

 砂漠の神話というのなら石に掘るのが関の山だっただろうし欠けたり風化したりで断絶したりしたのだろう。


「この世界と違って僕はただの空想上の存在だったからねぇ。

 人の都合と想いと忘却でうつろう程度の存在だよ。だからキャベツとだって結婚するワケ」


「そんなら浮気されてるはメルトの自称嫁の方アルな」


「キャベツが恋敵ってなんとも言えないわね……。じゃあ全員恋愛観終わってるわね。

 ロマンスの欠片もありゃしないわ。艶話の一つや二つ持ってなさいよつまらないわね」


「私なにも聞かれてねーアルが」


「私も聞かれてないぞ」


 なにも聞かれてないのに終わってるとは。この暗黒神、猛烈に不服を申し立てるぞ。ブーブー!ブースカブーまである!

 ちょっとくらいあるわい。あるはず。多分、きっと。溢れんばかりのじょしぢからがなんかこう……いい感じに……。


「聞くだけ無駄じゃない。あるわけ?」


「…………………………」


「…………………………」


 揃いも揃ってぐぅの音もでなかった。


「ほら見なさいよ。そもそも満場一致の監禁男に人でなしじゃない。

 あってもスリラー系とコズミック系でしょ。暴力と狂気の匂いしかしないわよ」


「そ、そんな事ないですし……。悪魔だってなんか暗黒神ちゃん総攻めとか夢小説とかやってたし……。

 本とかゲームも作ってたからなんかこう……ミラクルロマン的な……」


「それをあんたが知っててそうやってあたし達にバラす時点で人でなしを補強してるだけじゃない。

 可哀想だからやめてあげなさいよ」


「グエー」


 思わずぐえーが出た。なんかダメだったらしい。何故だ。レガノアとなにが違うのか。ボインか?クソッ!


「私そも監禁したことねーアルが」


「じゃ、あんた億が一惚れた腫れたしたとして何からするのよ?」


「………………気絶させる……?」


「初手気絶させるしか上がらない時点で終わってるんだけど。

 後のルートがガッチリ監禁か手足どうかして軟禁くらいしか分岐ないじゃない。

 建前だけでもせめて声を掛けるとか言いなさいよ。ほんと終わってるじゃない」


「………………?」


「………………?」


「揃って宇宙背負うのやめなさいよ!!」


「ウーン、これは絶望的。僕のキャベツちゃんエピあげようか?」


「あんたも終わってんだけど。何他人事みたいな顔してるわけ?

 異種も近親も同性も重婚も文化の違いでいいとして今ここに居るあんたのボカァ別に誰でも構わないよウェルカムな人外ムーブがまずダメなのよ。

 あんたも億が一いざ本気で惚れた腫れたなんてなったら異類婚姻譚ホラーやらかします感溢れてるんだけど。

 こいつらと大して変わらないわよ」


「………………?」


「宇宙背負うんじゃないわよ。

 あんた達、総司と生徒会長はちゃんとまともなんでしょうね?

 幽霊2人はなんかダメそうだけどぉ。

 ああ、でも生徒会長は普通に終わってたわね。まともそうなのは総司くらいじゃない」


「ぬぐぐ……」


 くそみそのケチョンケチョンである。初手にして尽く会心の一撃。全滅である。最早反論の術がない。というか反論したら3倍で返されそうだ。

 必殺質問返しで反撃できるだろうか?

 いやこの調子では光の回答が来て闇に生きる我々が焼かれる気しかしない。妖精とはいえカミナギリヤさんは真っ当な人なので真っ当な答えしか返ってきやしないだろう。

 カミナギリヤさん自身の恋愛遍歴を突っつくにしたってエウリュアルさんやらと違い、あってもなくてもだから何よ感しかないのでノーダメであろう。

 故にここで取れる手段はただ一つ。沈黙、それが正しい答えなのだ。


「うむ、七並べしよう」


「そうしよう」


「カード寄越すアル」


「こんな時だけ阿吽の呼吸するんじゃないわよ」


 あーあー聞こえなーい。並べられたカードにダイヤの6をくっつける。

 通信も終わったし、エウリュアルさんとカルラネイルもいつの間にか居なくなっているし。まぁ多分くっついたので愛の巣を見繕いに行ったのだろう。ナムサン。

 窓の外は真っ暗でもうおねむの時間といったところ。リレイディアだけが取り残され、ふかふかのクッションの上でぷーぷーと寝ている。

 折角なので夜更かしするとしよう。ゴトゴトとソフトドリンクに酒とつまみを出した。あとボードゲーム。


「幽霊も呼ぶ?」


「私見えんいうたが」


 そういやそうだった。本人達に聞き取りして身体作るかどうかも決めよう。あの幽霊の身体と考えながら本を捲る。


 商品名 魔人の器

 指定した魔人の肉体を復元し、第十八次元二十三層八次反応性法則型宇宙に仕様変更します。

 値段は指定した魂の質によって異なります。


 商品名 機人の器

 指定した機人の肉体を復元し、第十八次元二十三層八次反応性法則型宇宙に仕様変更します。

 値段は指定した魂の質によって異なります。


 ふむふむ、指定できる魂は天來機人と千刺道化と。あの五階にいた幽霊2人のことだろう。


「あの2人高いな」


 特に機人とかいうほうが高い。でも生き返らせるならセットの方が手っ取り早いしな。


「どれどれ。あー……、さらっと書いてるけどこれ多分仕様変更が常識的に考えてヤババだからそれが原因だね。

 オズウェルくんは彼の世界で肉体改造してて半分機械だったからね。それもそのまま仕様変更して復元するようだしそれでジョーカーくんより高いんじゃないかな。

 次の内職で2人共賄えなくはないけどねぇ。次の神託も引っこ抜くなら全部は使えないし微妙なところだね」


「トンネルとどっちがいいだろ?」


 トンネルか、あの幽霊かどっちかって感じだ。人員不足で設備も老朽化した会社に最初に齎すべきは設備か人員か、悩ましいところだ。

 ここは権力者の意見であろう。


「そんならトンネル優先アルな。

 ここと西と北と繋がってノーリスクで行き来できるそっちのほうがメリットがデカいアル」


「そうだねぇ。まぁ結論はクーヤくんに任せるよ」


「ふむ」


 まぁそれならトンネルにしておこう。幽霊共は次の次だな。うーん、買わねばならないものがどんどこ積み上がっていく。

 折角なら魔王化も進めたいしな。初代魔王とやらがほぼ揃っているらしいし。

 寝落ちしたカミナギリヤさんは置いておいて再びカードを配る。配られた手札を見てみた。全部ババだった。なんでだよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
読みか上してる最中なのだが、あれでも最初の方は猫かぶって人のふりしようとしてたんやな。 今や人のなめし革かぶって人間です状態じゃんw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ