おきのどくですが
なぜ私は止められましたの?とばかりのビックリ顔をしているあほのこフィリアは放っておいてやんやと相談しあう。
どうして止められないと思ったのか。大人しくアルミカップチョコにカラースプレーを乗せる作業に戻れ。アラザンもあるだろ。
「離婚制度がそも存在ないのウケる。じゃあ僕らやっぱり寡夫コースじゃない?」
「なんっで私が結婚してることになってるのよ!?しかも種族単位で所有物として!?
それって私が妖精種族の入った大入り紙袋扱いで東大陸で勝手に紙袋の所有者が決まりましたってことでしょ!?しかもゴージャスな紙袋扱いじゃない!!
ばっかじゃないの!?ば……っかじゃないの!?バカ!!太古の邪神連中だってここまで大規模にはやらないわよ!!」
「哎呀、つまり私は高価な結納品付き男扱いで勝手にバツイチされた上にこっちから取れる手段は寡夫だけアルか?
しかも寡夫なっても次のゴブリンくるだけ目に見えてるネ。元の世界でも私戸籍無かったアルがここまでされたことはねーアル。
たまげたアルなぁ……」
「…………東大陸。旅の最中にもあまりいい話は聞かなかったことは確かだけれど。
どうやら想像を越えているよう。天秤を壊された哀れな子たち、この世に人が夢見る報いはなく天罰などない。だからこそ自ら律して生きる事を星は尊ぶ。
魂を重く濁らせることの罪深さへの無知を私だけは憐れみましょう」
「なんで私がオマケなのさ!!」
プンシュコするぞ。本が本体で私がオマケなら私に付随する地獄と悪魔なんか包装紙だろ。どんな包装紙だ。
「多分ですけれどラ・シルド家は本がクーヤさん無しでは扱えないということをどこかで把握したのではありませんこと?
本を物品として教団に納めても求める性能がない、つまり本はクーヤさんに付随する神の財となります。
それが漏れぬうちに正規登録したいということでしょう。ラ・シルドの本家はアムルネミティア、序列2位の家ですが抱える氏族はオンカミカムイ家やアルカ家など特殊な氏族ばかり。
序列1位の氏族とも交流深いことを思えば一度目録登録さえされてしまえばアムルネミティアがそのまま所有が許されるレベルではあります。
そうなればラ・シルドも氏族内での序列の繰り上げも充分ありえますわ。その本にはそれだけの価値がありますもの」
「婚約破棄だわーーーーい!!!」
知らぬ存ぜぬ預かり知らぬ!!お控えなすって!!今この場でお前との婚約を破棄させてもらう!!
身分を笠に着てフィリアを虐めていたことは調べがついているのだ、お前の非道狼藉は看過しがたいのであるからして!!
ソファーの上でだばだばと両手両足を振り回した。
「ま、婚約破棄と離婚はいいアル。ストーカーと思っておけばよろし。
あの連中についてそちらが持つ情報を聞いても?」
「アルブレヒト様はあまり交流がありませんでしたからその辺りは皆様の方が詳しいかと思いますが。ラ・シルドの次期当主である方ですわね。
クーヤさんとの婚約は彼とではないのでございましょう?ラ・シルドの年齢が釣り合う子供という言い方をされたのでは?
ラ・シルドの氏族と直接の婚姻という形とラ・シルド下家氏族の何れかとの婚姻という形では得られる利の大きさが違います。
アムルネミティア家がラ・シルドから本を抱えた下家氏族丸ごと召し上げるというのも考えられますもの、恐らくクーヤさんの婚約者はラ・シルドの当主が数多く所有する平民や準人間の妻に産ませた子供の内の一人でしょう。
アルブレヒト様御本人の人となりとしてはクロイツマイン様に憧れ弟子入りして勇者になったとか。
自分に甘く他人に厳しい、他人にはどうあれ生きているだけでありがたいだろうという思想を押し付けてきがちで、独善的で盲目的、かなり面倒な方です。報酬など俗物的なものではなく感謝の気持ちだけで充分だを他人にのみ強要するタイプですわ。
私にも死んでいった姉妹達に申し訳ないと思わないのか、姉妹の分も強く生きるべきだとか、生きていれば良いことがあると言ってくださいました。あの時の私がへし折れなかったことが奇跡だと今でも思いますわね。
幼馴染、というものらしく昔からミナギノスズ様とクルギノスズ様、キリヤ様とパーティを組んで活動していらっしゃいますわ。
ちなみにミナギノスズ様とキリヤ様とも友達以上恋人未満とか。大怪獣とメルトアルストラムレト様は彼らにとって恋のトライアングラーというところかと。
クルギノスズ様はミナギノスズ様の異母弟ではありますが立場としては従者です。ミナギノスズ様の信者と言って差し支えありませんわ。あの通りお顔がよろしいのでミナギノスズ様も下男に近い立場の異母弟相手に随分とお優しく接したようですもの。
キリヤ様はラ・シルド家と同派の氏族であるサイ・コーラル家のお嬢様です。アルブレヒト様に心酔しておられる方で男嫌いのナチュラル上から目線、主語が大きくコミュ障極まり空気も読めない、こちらもある意味で面倒な部類です。
メルトアルストラムレト様と婚姻関係にある方ですわね。あの性格の方ですもの、随分なことを言われたかと思いますが彼女に悪気は一切ありません。
そしてミナギノスズ様はアーガレストア氏族から分祀を許され、アーガレストア家の男に嫁入りが約束されていた貴族のお姫様でありアーガレストア本家で養育されていた方。単純な人類目録上では私の妹にあたる方です。同じ住まいですもの、アーガレストア本家の邸宅は広大で日常での関わりは希薄ですがこちらはそれなりに人となりを知っておりますわ。
本家で聖女の苦行とノーブルガーディアンとしての役目を果たすべく引き取られてきた私達に対して随分と思うところがあったようですわね。
曰く、自分より義理姉が優先されている。曰く、自分は実の家族に冷遇されている。曰く、周囲の人達も騙されている。曰く、いつかきっとわかって貰える。曰く、私こそ真の聖女。
自分の仕事を増やすことがたいへんに得意な方でスケジュール表を書かせれば立つ座る歩くまで小分けにして書いて自分が他者より如何にみっちりとした日々を過ごしているかが視覚的にわかるスケジュール表を書き上げるタイプかと。
誰に頼まれてもない無茶で中身の無い仕事を勝手に作り上げて周りに止められても聞く耳持たず寝食削って没頭されては誰もわかってくれないとヒステリーを起こしてはグズるのが日課ですわよ。
私が当主のフェラリアスやエルマイヤのサンドバックにされている間にもフェラリアス様もエルマイヤ様もお姉様のほうを愛しているんだわとシクシクと言いまわっておりましたもの。
不幸とは思われたいけれど惨めとは思われたくない、という方なので聖女の称号も彼女自身の苦行や試練などで得たものではありません。
東大陸では全てが数字で管理されています。カルマ値の話もしたでしょう?
同じように功徳もまた数字であり、これもまた序列に従いねずみ講のように上納させる事が可能なのです。
聖女の称号を得るのは貴族以上であれば基本的にはこのやり方が相応しいとされる主流ですわ。ゴミ拾いや介護、労役などの労働、苦行や試練で自ら徳を積むことは平民のやり方です。
男性であれば目指すところは大体は勇者、こちらは正反対でモンスター退治で自ら徳を積むのが王道とされています。聖人は希少ですわね。
彼女もまた、彼女が所有する数多き生きた財に功徳を積ませ、それを納めさせる事で聖女となりました。
転じて私は当然、自力での取得になります。
平民しかしないような下賤で、みっともなく、ふしだらで、でしゃばりで、わきまえない、男に媚を売り、汚く、惨めで、悲劇のヒロインぶっていて嫌味なやり方です。
ええ、自己承認欲求とヒロイン願望が高すぎてこちらも非常に面倒な部類ですわ」
「ち、ちくちく言葉やめろー!」
あっちこっちから棘が出ている!サボテンよりも出ている!
言い足りないのか、見事なハリセンボンのようなパンパンの膨れっ面になったがちくちく言葉は情操教育によくないのである。見ろ、私は幼女だぞ!
今すぐ誰か来てフィリアのあの膨らみに膨らんだ頬から空気を抜いて欲しい。
はよチョコペンで文字を書く作業に戻れ!
「しんっじらんない……。それってあの奴隷の街のヤツの頭のおかしい言い分にも納得できちゃうヤツじゃない。
道理で当たり前みたいな顔で私と本の両方に対して所有権を主張してきてたわけだわ。
ほんとにアレで譲歩してるつもりだったってコト?」
そういやそんなのも居たな。カミナギリヤさんもあの時の会話を認知しているらしい。
しかし東大陸の実情を聞いた後だとそりゃあんなん言ってくるわと納得しかない。
多分だが……本人は貴族で家来っぽいのは平民だったのだろう。……ん、いやちょっと待てよ。
「もしやカミナギリヤさんは……」
「お察しの通り、あの状況から考えてあの時はグロウ=デラの下位の妻として登録されていた筈ですわ。50年前ですもの、神霊族の扱いについて変わるか変わらないかという頃合いですわよ。
特に北大陸の妖精王の里などほぼ知られていない頃です。
貴族であるグロウであればそこらで見初めた娘を妻の一人にしたくらいの簡単さで人類目録登録も出来た筈ですわ。
今はわかりませんけれど……」
「カミナギリヤさんもバツイチかぁ……」
「はぁ…………!?」
カミナギリヤさんの額に青筋が浮いた。まぁ気持ちはわかる。よりにもよって、であろう。
こうなると逆にフィリアとカグラの価値観が奇跡の賜物だろ。なるほどマリーさんが二人をそれなりに評価しているとおっしゃっていたわけである。
「にしてもそーいうもんだと言われるとあのゴブリン達との不毛な会話も納得っちゃ納得アルなぁ。
学びおおかたね。100で意地張ってるだけ思われてるの心底理解したアル。
もう死ぬ確定したアルし一人くれぇ殺っても問題ねーであろ。問題は次のゴブリンアルが東大陸の有り様聞くにもう何が来ても大して変わらんアル」
「この都市も墓標にするつもり満々で住人全員一致で僕らが死んだらそのまま後腐れなく更地にしてさぱっと終わるつもりだったからねぇ。
クルギくんの意見を是非通して欲しいって何度か伝えたんだけど全然伝わらなくて笑っちゃったもん。
この都市とギルドの今後の改革案まで出てて決定済みだなんてマジヤバでウケる。ほんとに貸してあげてるだけの認識なんだねぇ。
あ、フィリアくんなんとかこっち来れる?あの子達ちょっとたいへんな地雷踏んだのでもう一週間生きるかどうかってところだから来れたら思いっきり殴ってもいいと思うよ」
「そうなんですの?それならミナギノスズ様にフェラリアスとエルマイヤと仲良しする方法を教えて差し上げたいのですけど。
でも一週間ではここからそちらへは難しいですわね……。クーヤさん、私の代わりにちょっとやっておいてくださいまし」
「なんで私なのさ」
無理に決まってるだろ。向こうに加護やらが無くても私の弱さには何も変化はない。成人男性成人女性の自前の肉体強度だけで余裕で負けるのだが。
私の右にでも左にでも一発で顔面の形が変わるくらいにできるのがいるだろ。
「まっ!なんですの!お友達甲斐がないですわね!!
やるとくらい言ってくださってもいいじゃありませんの!!」
再びブースカしはじめた。どーどー!
「あーはいはい。私の代わりにアスタレルにでもガッシボッコと殴らせとくからそれでいいじゃん」
「考えうる中で一番攻撃力高そうなのが選ばれててウケる。
頭どころか全身消し飛びそうだなぁ」
「死体が無いは楽アルが。ま、そろそろ鬱陶しくなってきてたところネ。
あの茶番にも戯言にもいい加減に飽いた。揃ってBackroomsに落ちました、で決定ヨ」