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神託分解業務

「はいどーぞ」


「ん」


 ラムレトが綺麗に色が揃った桁数エグい圧縮キューブを持ってきたのは蒸し風呂から3日後の事であった。

 どぶらさいに精を出しては島に戻る生徒会長を見送り、九龍の私室にラーメンタイマーを設置しせっせと都市の各部にチーム大罪を派遣しといい感じに働いていた頃合いである。時間は午後三時、おやつ時であるからしておやつを頬張っていた時であった。

 だが3日後恐るべき事態になどとならなくて重畳なことである。受け取ったキューブをしげしげと眺める。うーん、これは確かに私や魔物では十日間コースであろう。

 何故なら全面の色を揃える為に特定法則に則ってガチャガチャとただひたすらに単純作業を繰り返し続けるだけの代物だからだ。やってやれない事はないがやりたいかやりたくないかで言われれば勿論やりたくない。ラムレトはどうやらその手の作業が特に苦となるタイプではないらしい。しかしクンツァイト港とやらのギルドが普段の生活圏と聞いていたが未だに戻る様子はない。いいけど。

 腕を伸ばして薄目でキューブを眺める。右左上下。ンン、結構結構。地獄の穴にホールインワン。既に分解作業も終わったエネルギーの塊である。魔石などと同じくそれはすぐさま吸収された。

 3億。


「………………」


「ところでクーヤくん」


「ファッ!!!!!!」


「え、なに。どしたの?拾い食いでもしてポンポンでも痛いの?生徒会長と総司くんと九龍くんも昔よくやってたよ。クーヤくんが痛くなるのかはわかんないけど」


「3億!!!!!!」


「?」


「3億!!!!!!」


「よくわかんないけど3億なのはわかっておくね」


「ウヒョヒョーーーーーイ!!!」


 本を掲げてどたどたとギルド内を走り回る。神託を引っこ抜くのに1億、差し引き2億の大黒字である。リッチ、セレブ、上流階級、そういった単語がぐるぐると私の脳内を巡る。それと同時に買わねばならないリストが蘇りテンションは一気に下がってスンとなった。

 約束された素寒貧、あまりにも無情。椅子によじ登って座り、本を開く。


「で、報酬は何がいいのさ」


「テンションの上下の仕方が完全に犬猫とか幼児とかのソレだねぇ。

 個人的なお願いになるけど僕としてはジョーカーくんとオズウェルくんをなんとかしてくれないかなと思ってるんだけどどう?」


「ん、成仏させればいいのか。わかった。成仏してクレメンスって商品があるぞ。跡形もなく消し飛ぶに違いない」


「人の心が無いね?」


 違うのか?

 よっぽど成仏させて欲しいのかと思ったのだが。商品が嫌なら頑固な魂もこれ一本、トイレに流しやすくするはよ成仏してトイレクリーナーもあるけど。


「魂となった彼らに再びこの世界でも生きていけるような身体を作ってほしいって事だよ。

 手段があるなら折角だしねぇ」


「ふむ」


 なるほど。いやでもそれはなしだな。


「それは本人達が望むならやるつもりだったから無しだな。

 別にするのだ」


「そう?………………なるほど………………なるほどなぁ……」


「なにさ」


「いんやぁ、ちょっと納得しただけだよ。気にしないでね。いやでもこれちょっと心配だなぁ。九龍くんにも言っとこう。

 ……しかし別でかぁ。これだと思ってたから考えてなかったなぁ」


「別に後払いでもいいけど」


「そう?じゃーそうしようかな。いざなんでもと言われると悩ましいね」


「決まったら言うのだぞ。あとはい次の内職」


 勝手にラムレトから引っこ抜いておいた。畑を耕し二毛作。クローバーも植えてばっちりである。生徒会長からも今度引っこ抜こう。うむうむ。


「うわ僕からなんか出た。えっ、キモ。今の感触だいぶキモかった。

 九龍くんが変な顔してたけどキモかったからかぁ」


 頭部の拡声器から出てきた干からびた植物を摘んでいやそーにしている。そのままくれてやった地獄の穴に投げ込んでから手を突っ込んで暫く何かを探すような仕草をしていたが、目的の物が見つかったのか腕を引っこ抜いた。

 その手には前と同じく桁数ヤバヤバルービックキューブが握られている。システムが謎だがどうやら地獄の中で神託の芽のキューブ化作業がなされているらしい。謎だ。

 ガチャガチャとやりだした植物解体業者は置いておいてふんふんと本を眺める。これはだいぶ……いやかなり、いい。現状において最高効率と言って差し支えない。よしよし。

 こうなるとやはり都市の住人からも片端からスポポポンと引っこ抜きたくてたまらないが……。私としてはもう商売とかどうでもいいので目についた住人から勝手に抜いて回ってもいいのだがそれでは最初に大金を支払った九龍が可哀想と思わなくもない。

 いやまぁ魔力にして一億換算の魔石をぽんと軽く積むバチクソ金持ち人間であるが。この世界で金銭としての時価にすれば1億程度では足りない筈だ。

 うーん……考えていてはたと閃いた。ピラメキーノと言える。最初に巨額を払った九龍が可哀想なので他の住人から引っこ抜けない、つまり九龍が可哀想でなくなれば引っこ抜いていい。善は急げ、よしやるか。


「というわけで魔力値一億くらいでなんか言うのだ」


「何がどうしてそうなったアル?」


 ロビーの派手派手なソファにごろんと寝そべっている九龍の服をぐいぐいと引っ張りながら要求する。ソファから足がはみ出る脚長族めが。許せん。


「神託分解代を相殺するのだ。そうすれば私も神託を引っこ抜いて回れるのだ!」


 そう、九龍に最初に貰った魔力値一億を返却すれば何の問題もなくなる。九龍から支払われた金額を元にそのまま魔力値一億分の魔石を用意して頂ければ神託分解しますと看板を出したところで誰が出せるかという話なのだ。

 神託分解によって出てくる神託スラグをどうしようもないゴミですという顔で回収していけば大黒字のシノギ、お客様が肝心の神託分解に掛かる費用を出せませんで閑古鳥となりスラグ回収出来ないとなれば結果的に困るのは私なのだ。

 いっそのこと神託分解はタダでもいいのである。それで出る神託スラグさえ回収できれば。ぐいぐいと引っ張ってよじ登って頬を引っ張る。何か一億分言え。この際魔王にしろでもいい。とにかくなんか一億を相殺させろ。

 気だるそうに転がったままの九龍は思い出すようにちらりと天井に目を向けてからややあって頷いた。


「ん……。ああ、あれアルか。気にするな言うたが。んなら一億全て食券扱いにしとくアル。

 次の夜食もよろしく頼むよろし」


「食券て」


 一億を全て食料に替える気か?

 30年くらい毎日たかられて漸く相殺出来そうなヤツきたな……。まぁいい。本で世界のお茶菓子セットAを購入して胸筋の上に乗せてから飛び降りた。とりあえずこれで3000ポイントである。

 よし、本で看板を制作。ペンを持ってうーむと考える。


 [神託分解実施中。料金無料]


 きゅっきゅと書き上げる。こんなもんか。ぱっと見てわかりやすく、実にいい文言だ。これを掲げて待っていればそのうち客が来るだろう。しめしめ。


「九龍くん、ちょうどいい話してるね?はいこれは没収~」


「ギャーッ!!」


 何故か私の看板が没収された。なんでだ。まぁ確かに字は多少曲がっていて読みにくいが。別に変なことは書いてないぞ。


「いやこれ普通の人族が見たら発狂する文字だけど。どうやって書いたの?」


「なんでさ」


 別に普通の文字の筈だが。曲がってひっくり返って踊って反転してるから悪いのだろうか。うーむ。

 組んだ腕を枕にしたまま起き上がりもせずに片目だけ開いた九龍に何やらゴニョゴニョと耳打ちするラムレト。

 あー、という顔をするに何やら納得の話題らしいが。なんだ。やるというのか。黙っちゃいないぞ。悪魔が。


「ローズベリーやブルードラゴンならそうでもないけど……ここだと人目が多すぎるからちょっとマズいよねぇ。特に出入りする人間層がマズい。お遊びじゃ済まないレベルになりそぉ。

 僕への工賃も金額の提示一切なしで青天井がお察しだし頓着なさすぎてめちゃヤバの気配がするし」


「……まぁそうアルな。鉱山を掘ったところで地球は気にしねーアル。

 かと言って管理させろ気にしろっつーのもおかしな話ネ」


「そうだよねぇ、悪魔くん達にお願いした方がいいかな?」


「あいつらはクーヤが黒いうたら黒いうアルがなぁ。

 戯れなれば見逃しても舐めて利用する輩はまぁ手を打つアルか。クーヤへの不敬見逃すないであろ」


「何さ」


 よくわからん会話をしおって。とりあえず悪魔を私にけしかけようとしている気配は察知した。このぷりぷり暗黒神ちゃんが悪魔の言いなりになると思ったら大間違いだぞ。伊勢海老の如くビッチビチに暴れてくれる。砂糖にだって負けんぞ。

 両手を上げて尻を振って威嚇する。


「オオアリクイに似てるね。いやまぁ気にしないでいいよ」


「む?」


「んー、とりあえずここ人間が結構出入りするからね。神託取れますはあんまり見られるとちょっと大変な事になっちゃうから」


「むむ!!」


 そういやそうだった。完全に忘れていたが。確かに本を往来でバカスカ使っていては問題である。

 今のところ人間は見かけていないが、もし見られたら折角うまいこと隠れられているのにご破産だ。危ない危ない。看板は回収だな。これを掲げるのは確かにヤバそうだ。というかとんでもない話だ。天使とかすっ飛んできそうだ。

 見られないうちに廃棄しとこう。


「あと神託取るなら相手に同意は求めなくていいよ。クーヤくんが勝手にやっていいから。

 神託取るから一列に並べでもいいしそれなら人手出すから言ってね」


「そうなの?」


 いやそれはどうなんだろう。まぁ確かにラムレトからは勝手に取ったが。


「気にしない気にしない。好きにしてくれていいよ」


「ほーん」


 まぁ好きにしていいと言われたら好きにするが。でもさっきの看板みたいにヤバそうなのはちゃんと前もって止めて欲しい。

 我が暗黒脳みそはところてん方式なのだ。命が助かる。


「うーん、なんて言えばいいのかなぁ。いや僕もあんまり理解はできてないんだけど。

 実体と名前を持って活動してるとどうしてもわからない人は出てくるって話らしいんだけど。

 理不尽さを見せろって僕も昔結構言われたなぁ。畏れを忘れさせるなってめちゃ言われたよ。

 この世界は状況が状況だから大多数はそうでもないけど、あっちの大陸の人間はちょっとその傾向が強いって言うしね。

 まぁでもクーヤくんは思うままに好きにしていいよ」


「ま、そこに落ち着くアルな。ただの人界の理の話ネ。神に強いるもんでも無しクーヤ考える必要ないよろし。神は気まぐれなもの、恩寵も試練も天運のうちネ。人は落ちてきたものをただ受けるのみヨ。

 バランスは下々で勝手に取るアル」


「……むむ……?」


 よくわからん。首を傾げたところでふとあの魔女っ子お姉さんを思い出した。対価を支払わせろと逆だろと言いたくなることを言っていたお姉さんだ。

 ふむ、まぁつまるところ進んでタダ働きは良くないって話なのであろう。あまりにも私が適当に金勘定するので悪い人間から搾取されそうというわけだ。

 言ったところでどうせ私がそういったものをめんどくさがってやらないから調整は勝手にすとこに落ち着いたとみたね。私への対処としては実に正しいと言わざるを得ない。丸投げ万歳。

 しかし創立メンバーって存外に世話焼きだな。面倒見がいいというのかなんというか。まぁ思えばボランティアから始めた連中だしな。大人しく世話を焼かれておこう。よきにはからえ。うむうむ。




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― 新着の感想 ―
>島に戻る生徒会長を見送り >せっせと都市の各部にチーム大罪を派遣し 綾音さんとイースさん。自由都市に常駐するみたいですが、ユミルの街のギルド業務や患者さんをほっといても大丈夫なんでしょうか?
オオアリクイクーヤでめちゃ笑ってしまった
暗黒神様、順調に神としての階を登ってってんな。 化けの皮(極薄幼女スキン)が剥がれてきたともとも言うが。 昔の君臨すれども興味も関心もほぼ向けませんスタイルから、気まぐれに天沼矛ぶち込んで撹拌しますに…
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