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自由都市のチピチピチャパチャパ3

 踏み込んだ室内は結構な広さだ。十人くらいなら軽く入りそうである。天井は低く、窓もないがあちこちに灯りがあるので暗くはない。

 木製の腰掛けは寝転がれそうな大きさであるが板の隙間からほこほこと蒸気が出ているのであの腰掛けの下にも熱源があるのだろう。調子こいて転がったらシマシマに焼けそうだ。

 真ん中に生徒会長を大の字で転がして各々好きな場所に陣取る。垢すりやらブラシやらでそれぞれキレイキレイし始めたのでそういうのが必要のない私は一気に暇である。

 見回せば何やら部屋の隅にはたわわに葉が茂った木の枝が何本か立てかけてあった。なんじゃこりゃ。くんくんとひと嗅ぎ。ちょっとくさい。

 ただ匂いがきついだけでミントっぽいような香りではあるのでこれで身体を叩いて香りを焚き染めたりするんだろう。この都市はどうにも香りというものに拘りのある種族が多いのだ。


「ロディアンヌの葉ですか?ヒノエさんが好きでしたね」


「おー」


 葉っぱを弄る私に向かって綾音さんが声を掛けてきた。ヒノエさんか……あの素晴らしいマズルを思い出す。元気にしているだろうか。西に行くか、モンスターの街に行くかとおっしゃってらしたが。

 モンスターの街はあんななったし西の方はあまりよろしくない状態と聞く。少し心配である。どこかで会えるといいのだが。

 思いながら色々な種類の葉っぱを吟味。スパイシーな香りに爽やかな香り、炒った豆のような香りに柑橘系の香りと多種多様である。ふむ、一応持ち込んでいる本を開いた。湿気もなんのその。



 商品名 鬱金の冥樹(一部)

 暗黒神のマナを生成し物質界に加減しろバカほどに振りまく木から折った枝。

 折っているので効果はないが、魔族や竜族は好む。



 うむと頷いて購入。しれっと混ぜといた。んー……。しかし魔族や竜族か。この都市向けのもほしいな。思いながらページを捲った。



 商品名 蓬莱の玉の枝

 ありえないもの。存在しないもの。



 なんか凄そうだ。買っとこ。ずもっと出てきたのはまぁ枝である。当たり前だが。これも葉っぱ達に混ぜておく。これでよし。この都市向けになるのかはわからんがまぁそう思って出てきたんだからそうなはずだ。

 ずぼっとロディアンヌとやらの枝を抜き取ってぶんぶんと振り回す。自前の枝と合わさり二刀流である。ふはは。なんか強くなってきた気がしたな。

 どてどて走って全裸で大の字で転がっている生徒会長を枝で突付いて遊んでおく。

 目の下が真っ黒だし窶れていたのでこれ多分丸一日起きないヤツだな。一度意識を失えばもう終わりって感じだったのだろう。ぐいっとぶらぶらしたものを枝で持ち上げる。左右に揺らしてからぺっとした。面白いのでついでに枝で叩いた。ピシピシ。


「ちょっとクーヤ、ばっちいからその見窄らしいのを叩くのやめなさいよ」


「む」


 確かにばっちぃな。やめとこ。

 綾音さんの仕業だろうか、生徒会長の身体がぐるんとひっくり返ってうつ伏せとなった。ブツは隠れたがケツは出た。

 いたそぉ~とラムレトが呻いたがどうせお前のは見た目が模倣されてるだけだから別段感覚はないだろ。ぶっ叩いたってノーダメに違いない。それくらいわかるぞ。九龍は……、うーん。人間なのだから痛覚はあるはずだが。いやなんか怖いな。考えるのをやめた。

 生徒会長から離れて室内の真ん中にどでんと鎮座する石箱を眺める。サウナストーン入れであろう。中には魔石らしい小さな石が沢山詰まっており、煌々と光を放っていた。これが熱源らしい。おそらくクズ石のような物を使っているのだろう。使い捨てっぽいし。

 ふむふむ。魔法的な力で熱を放射しているようだが。多分この石箱に秘密があるのだろう。

 この魔石を持ったら熱いだろうか?流石に魔石本体を掴めば火傷をする気がする。しかしこの放射されているものに関しては握れそうだな。ぎゅむりと握った。おお、いけるではないか。魔んじゅうとかカミナギリヤさんの魔力とかと同じなのだろう。

 ぐいぐいと引っ張ってこねこね。ぐるぐると綿菓子のように枝を石箱の中でかき回して放射される赤い光を巻き取っていけば枝にはあっという間に白熱する塊が出来上がった。その代わりに石箱の中の魔石達は死んでしまったようだ。むむ。

 二刀流なのでもう一本の枝で死んでしまった魔石達を突っついてみれば、がさがさと乾いた音を立てて灰となって崩れていく。葉っぱとタオルを駆使して灰を掻き出して室内備え付けのバケツに廃棄し枝に巻き取ったままの塊をぼとんと石箱の中に落とした。

 真っ白に光り輝いていた粘土質の塊は徐々にその光を失い、やがて固まって真っ赤な石となってしまった。綺羅綺羅しいクソでかい宝石となったそれは石箱の魔法と反応を始めたのか、徐々にその輝きを強めてくる。

 じゅうぅぅと焦げ付く匂いが漂い始める。目を焼くほどの真白の光はサウナ室を真昼のように照らし出した。ぐん、と温度が急上昇し始めたのを察知。湯気の量がえげつないことになってきた。中央に転がっている生徒会長から滝汗が出てきている。

 ……なかなか面白いな!現場のテンションは最高潮だ。ロウリュ用と思われる水を引っ掛けてやった。凄まじい音を立てて一瞬で蒸発した水は湯けむりとなって室内を満たした。なんもみえねえ。


「ちょ、ちょっとクーヤ!なにしてんのよ!!もうクズ魔石を純度100の神話級にすることは突っ込まないわよ!!

 あっっっつい!!!あっっっっっっっっっっづ!!!!」


「目が、目が…………!!マスター、人間は死んじゃいますぅ!!」


「ありゃりゃ、体感温度が一瞬で三桁いっちゃった。流石に生徒会長避難させとこうか」


「ん、汗出てきたアル」


「うひょひょ!」


 ますますロウリュってやった。じゅごぉ、じゅごぉと音を立てて水蒸気が吹き上がるのにテンションもますます上がってくる。これほど水を引っ掛けているというのに石箱の中の魔石は温度が下がるどころかぐんぐんとその輝きを強め、石箱が若干曲がり始めた。

 流石にこれ以上は石箱が保たなさそうだ。残念。今度悪魔に言ってもっと良い石箱作らせとくか。仕方がないのでベンチの上にごろりと転がる。ロウリュる為の柄杓は手放さない。

 しゅんしゅんと吹き上がる蒸気によって蒸し上がる室内の温度計は驚きの120℃。とは言っても120℃までしか測れないようだが。ま、瑣末事であるからして。

 まず音を上げたのはカミナギリヤさんだった。真っ赤な身体は溶けているのかというほどに滝汗をかいており、奇声をあげつぴょんぴょんと飛び跳ねながら隅に転がされた生徒会長を回収してサウナ室を飛び出していった。


「キャッホーーーーーイ!!!」


 外からは水を被る音と解放感でいっぱいの喜びの声が聞こえてきた。続けてアイスおいしーとかコーヒー牛乳もあるじゃないとかも微かに聞こえてくる。


「カミナギリヤさんはビリっけつだな」


 呟きながら再び追いロウリュ。


「………………………………」


 静かなる闘争の気配。じりじりと焼け付く空気により視界は揺れている。うーん蜃気楼。耐えること、ただそれのみに集中する為であろう。全員ピクリとも動かず喋りもしない。

 足をぶらぶらさせながら三人を眺める。ラムレトの表情はわからないが九龍はいつものにんまり顔、綾音さんは真っ赤な顔で耐え忍んでいる。なかなかの根性である。よっこいしょと座り直す。

 あ、そーれ。じゃばぁんと再び柄杓が猛威を振るう。

 次に音を上げたのはまさかの人物。


「あ、僕ちょっと用事が出たから失敬するね!!これは別に負けたわけじゃないんだから!!か、勘違いしないでよね!!」


 言うが早いか、びっくりするほどのダッシュでサウナ室を飛び出していった。痩せ我慢していたのか、見える地肌はよく見たら汗塗れであった。神様の癖に根性がないな。まぁでも砂漠出身はむしろこの蒸気による熱は耐え難いのかもしれない。

 アイス僕にもちょうだい!という叫びだけがサウナ室に木霊する。


「うぅ…………」


「………………」


 綾音さんがふらふらとしている。しかし負けるのは嫌なのか踏ん張っている。九龍はにんまり顔だが口数が異様に少なく割と汗が伝っており結構な我慢をしているのではなかろうか。

 外からは都市の住人達がぼちぼち訪れ始めたのか、がやがやとした喧騒が伝わってきている。まぁそろそろ一時間は経つからな。

 サウナ室の扉ががちゃりと開けられた。僅かに涼し気な風が吹き込んでくる。視線をやれば、案の定この都市の住人であった。


「うあっぢぃぃいいぃいぃい!!!んじゃこりゃあああぁあ!!!」


「クソジジイいるじゃねーか!!!そういや脱衣所散らかってたわ!!!!」


 秒で逃げていった。しかし、今ので吹き込んできた涼しい風により綾音さんの心が折れた。


「もう無理ですぅうぅぅう!!!マスターごめんなさぁぁぁあぁい!!!」


「……………………」


 しゅんしゅん、じゅうじゅう。九龍と二人でじーっと座る。ロウリュりながら足をぶーらぶら。ぱきん、室内温度計が割れた。


「…………………………………………」


 だんだん飽きてきたな。

 本を開いてみたり枝を振り回してみたりとするが、当然ながらすぐに暇つぶしの手段は無くなる。うーむ。無意味にうろうろとしてみるが面白みのあるものも無い。

 垢すりでごしごしと身体を擦ってみるが、出てくるものはやはり無い。つまらんな。ごろりと転がる。寝るか?いや寝てもしょうがないな。

 うぞうぞと両手両足を暫く蠢かしていたがそれにも飽きてくる。むくりと起き上がった。九龍を覗き込んでみる。頬をついてみるが、黙って目を閉じており特に私の相手をする様子はない。ちえっ。

 仕方がない、アイスでも食べに行くか。この都市のアイスは大体シャーベットではあるが、いつかバニラも食べたいものである。生徒会長の生産力に期待。

 サウナ室の扉を開けて外に出た次の瞬間、後ろから凄まじい勢いで九龍が飛び出して水場にすっ飛んでいった。


「おお……?」


「草。九龍くんて負けず嫌いすごいよね」


 しゃくしゃくとオレンジのアイスを齧りながらのんびり涼んでいるラムレトが愉快そうに笑う。その両隣にはそれぞれ赤いアイスと黄色いアイスをカミナギリヤさんと綾音さんが座ってシャクついていた。

 ハーレムか?

 生徒会長が見たらうるさそうだな。まぁ件の人物は起きる様子がないが。私もアイスを食べよーっと。




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― 新着の感想 ―
神話級の魔石は都市のセントラルヒーティングの熱源として使えそうですね。お湯とかも沸かし放題。やったね。神様のお恵みっていうのは、人のためでもなんでもなく単なる愉快犯ですね。
九龍ちゃんと人間なんだな……
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