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自由都市のチピチピチャパチャパ2

 外は一面の氷世界。

 走り出して僅か二歩目でガッチガチに凍りついた地面にちゅるりんと滑って尻もちをついたが、勢いをつけすぎたのかそのままツルーッと尻で前に進む。歩かなくていいなこれ。


「クーヤ、それそのうちどっかで癒着して皮膚ごと剥がすしかなくなるわよ」


 秒で立ち上がった。尻皮がうっかり無くなってしまうところであったらしい。危ない危ない。

 後ろを見る。カミナギリヤさんは言わずもがなで浮いているので地面の影響は無い。綾音さんも片足ですーっと進んでいるので多分超能力でズルをしている。

 そして生徒会長を引きずっているラムレトは実に人外らしく直立したまま幽霊みたいに平行移動しているし九龍に至ってはお前ちゃんと物理法則の下で生きてるのかと言いたいくらいに普通にてくてく歩いている。

 苦労しているのは私だけではないか!おのれ許せん。この都市に来てからこんなんばっかりな気がする。よし。ピョイと九龍によじ登る。

 カミナギリヤさんも綾音さんも小柄なのでなんだし、ラムレトは2メートル超えで背が高すぎて登りづらいので九龍が丁度いいのだ。私の奢りで夜食を食わせてるし私の乗り物でもいいだろう。ふはは。

 それに登ったところで一切微動だにしないからな。実際私がよじ登る最中にも変わらずてくてく歩くので歩容には何の影響も見えない。如何にもちゃんとした地面の上を歩いていますという顔をしている。もちろんガチガチの氷の上である。

 移動が安定したのできょろきょろと周囲を見回す。雪が降ったなどとは違う、年がら年中雨が降り湿度も高い土地だったのが災害の如き大寒波と吹き下ろす突風により急激に冷やされ、まさに冷凍庫の中身って感じになっている。

 店の旗や幟など、外で吹き曝しの布製品ははためく形を保ったまま凍りついているのだからその威力も知れるというもの。水桶やドブなんかの水溜もカチンコチンだ。植物の類は触ったら多分崩れるなぁという様相を晒している。バナナで釘が打てるに違いなかった。

 透明な氷で覆われた都市はどこもかしこもちゅるちゅるのトゥルントゥルン。当然ながらこの様な有り様の都市で明け方4時など出歩く者など居よう筈もなく街路は無人である。

 空気中の水蒸気が氷の粒となって漂うものが僅かな光できらきらと光っていてこれがダイヤモンドダストってやつかぁと感心はするものの、ウルトあたりに言えばいつでも見られる現象ではあるのでありがたみは特に無い。


「この天気だと蒸し風呂も人居ないだろうねぇ。いつも24時間混んでるから貸切って貴重だよ。

 いんやまぁ、生徒会長や九龍くん、僕が入るといつでも貸切になるけどね。九龍くんは滅多に入らないけど」


「アンタそれって避けられてるだけじゃない……」


「でもこの都市の人達って未だに見慣れないんですよね。私の世界には人間種しかいませんでしたから。

 私のような兵士用として生産される超能力者は人に非ずとするために遺伝子に手を加えて目や肌の色を人が持ち得ない色にしてはいたんですが、それでも基本的な身体形状は同じでしたし」


 そういや綾音さんって目の色がパステルピンクだな。北大陸では超能力で光を屈折させてその辺りを誤魔化していたらしい。超能力を使う時はそこまで手が回らなくなるので光の屈折が甘くなっちゃうんですとかなんとか。

 もう隠さなくていいですからこのままですと言っていたが。よくわからんがまぁ本人がいいと言うのならいいのだろう。なんか闇が深いし。


「この都市の獣属がよくしてる尻尾袋っていいわよね。おしゃれでちょっと可愛いじゃない?

 妖精にもああいうのって無いのかしら」


「その翅はそのままのほうが素敵だと思いますけど……。翅の強度にもよりますがレースで飾ったりでしょうか?」


「レース!いいわねそれ!アンタやるじゃない!妖蜘蛛族の蜘蛛糸なら翅も傷つかないだろうし鱗粉も大丈夫よね。

 今度ちょっと交渉してみようかしら……」


 うーん、何やら女子力が感じられる会話をしている。私にもなんかこう、ないのか。そういう女子パウワー的なものが。九龍を跨いでいる両足を持ち上げてみる。靴下が左右バラバラだった。凄まじい女子力が感じられる。日々是成長ということであろう。よし。とかなんとか思いつつ頷いていたらいつの間にか目的地に到着していた。楽ちん楽ちん。ぽとりと落下してオープンササミ!!


「九龍くん乗り物にするって世界広しと言えどクーヤくんくらいだよね。

 乗り物にされた感想は?」


「いつもながら連続体として成立していない物体が乗っているとしか思えん感触が不気味でおもしれーアル」


「わかりみが深い。あらゆる可能性が同時に存在してるような不思議な手触りだよねぇ。しかも一秒ごとに繋がってないって感じ」


 む、なにやら納得のいかない気配を察知。まあいい。公衆浴場として設置されているだけあって中は丁寧に使われているのが一目でわかる整理整頓具合だ。

 やはり無人らしく人の気配は無い。入口すぐに広々とした脱衣所があり、右側には仕切りで分かれた風呂上がりに体を洗い流す為の大きな水場がある。そして脱衣所の奥の方が肝心の蒸し風呂である。ここからでもわかる蒸しあがったホカホカ具合に期待が高まるというもの。

 脱衣所には未使用の道具置き場と使用済みの物品の返却場がありレンタル料金もお安い仕様である。まぁ高くして住人に衛生面をケチられては困るのだろう。ちなみにこれらの洗濯と手入れ、蒸し風呂の清掃はギルドの万年依頼となっている。

 ちゃりんとお金を木箱に投げ入れてタオルにおこちゃま用サウナ着をガメた。おこちゃま用サウナ着は腹掛なので見た目は完全に金太郎である。まぁ着るのが楽なのでいいけど。性善説仕様の金銭のやりとりだがこれで不正をすると後で恐ろしい目に合うらしい。

 都市が抱える種族の多様さに応える為に各種垢すりや種類様々なブラシ、精油にワケのわからん液体に塩に妙な砂と色々置いてあるが私に必要なのは金太郎腹掛とタオルくらいである。垢は出ないし。


「ちょわーっ!!」


 すぽぽぽんと引っこ抜いて左右違いの靴下もかぼちゃパンツも全てを籠に投げ入れる。ん、食いすぎたのか自慢のイカ腹がはちきれんばかりにビッグサイズである。……減るのか?これは。多少不安になった。うーん……。

 減ると信じて腹掛を着用。これでよし。ん、準備が終わってしまった。

 暇になったのでちゃりんちゃりんと各々小銭を投げ入れて必要な物を取り、適当な場所に陣取って服を脱いでいる連中を眺める。ファンタジー和装って感じのカミナギリヤさんの服の構造が若干気になっていたのだが背中にどうやらスリットがあるらしい。あそこから翅が出てるのか。へぇ……。

 ふんふんと鼻歌混じりにぺっぺっと脱いでいくのを眺めていたがもうわけわからんくなってしまった。しっかり見ていた筈なのに私では元の形に戻せなさそうだ。ちなみに下着は無かった。ファンタジー和装と思っていたが思っていた以上にファンタジー和装である。脱いだ服は服というか布の塊だ。どうやってああなっていたのだろう。あれもうただの布では?

 羽根持ち用の背中の大きく開いたオーバーオール型のサウナ着を下から履いて終了。

 視線を移し、綾音さんに目が止まった。ごく普通の服だが脱ぎ方がめっちゃ変だった。ぽけーっと天井を眺めて直立不動なのだが見えざる手があるが如くひょいひょいひょいと服が持ち上がってボタンを外し、着々と脱いでいく。めちゃくちゃ変だ。

 足も上がるが自力で上げている感じはしない。誰かが持ち上げたような動きをしている。動くのが面倒なのか単に超能力も手足の延長線上にあるものなのか、見ていて不安になるとにかく変な脱衣である。綿パンツが最後にぽいとされた。しかし身体に色々な跡があるのがなんとも言えない気分になるな。蒸し風呂であったまって家に帰ってあったかくてふわふわのオフトンで寝て欲しいものである。ポンチョ型のサウナ着を頭から被って終了。

 更に視線を横に流して次に目についたのは九龍である。まぁこちらは普通に脱いでいる。派手服の金具を取ってオシャンな組紐型のチャイナボタンを外し、そんな雑でいいのかという扱いでぐしゃっとその辺にあった椅子に引っ掛けていっている。籠を使う気はないらしい。適当だなぁ。

 しかししげしげと眺めるに無駄な脂肪一切ありませんなのはわかるがそれでもそんなガチムチ筋肉というわけでもない体格なのに実際にはバカクソのように怪力なのが不思議である。圧縮筋肉でも搭載されてるのか?もしくは不思議な功とか気とかの力であろう。

 どうでもいいが傷一つないのが経歴を思うと若干怖い。地を舐めたことなど一度もねぇアルって感じだ。

 ズボンと下着をまとめて脱いでそのまま床に直落としで放置し長い髪の毛を解いてくるくるに巻いて団子にしている。意外であるが刺青は無い。背中にクソデカ龍でも居そうなツラだというのに。逆に詐欺だろ。

 サウナ着の下だけ着用してそれで終わりらしい。にしても散らかしすぎだろ。幼女の私以下である。鈴と玉がごろごろと床を転がった。

 最後にラムレトに視線をやる。身体の構造が気になるか気にならないかで言えばめちゃ気になるのでオオトリにしといた。

 ゴシック系デザインの黒と赤のスーツが指パッチン一つで霞と消えた。ええ……?なんだその脱衣。便利すぎだろ私もその機能が欲しい。つるんとした身体には人間らしさが一切無い。なんか砂で出来た彫刻のような見た目をしている。赤みの無い青肌は毛も無ければ血管も浮いておらずつんつるてんである。

 異様に細長い手足はこうして見ると骨とか無さそうだ。私葦ですという印象を受ける。にしてもあちこちを幾何学模様な金の輝きが覆っていてゴージャスな身体だな。宝石もあるし。なのに頭部だけが漆黒に塗り潰されている。

 さらさらと砂のように崩れては再生する頭部はかすかに風の音が聞こえてくるようだ。ふむ……しかし闇、という感じはしない。どちらかと言えば逆光だろうか。大きな月が浮かぶ夜空を背景にし黒く影に沈むピラミッドや神像のシルエット。そのような感じだ。面白い身体である。ふむふむ。

 再び指パッチンするとしゅわっと音を立ててサウナ着が身体を覆った。貫頭衣のような形状だ。そこは普通の服と着方なのか。いやまぁ上着だけで下を履いてないとかされても困るからいいが。

 最後に床に転がった生徒会長のハイソサエティ服を全員で毟る。綾音さんが空中に持ち上げ、私がズボンを思いっきり引っ張り上着を九龍が引っ張り下着と靴下をラムレトが霞にしてカミナギリヤさんが魔法で服を籠に全て収めた。これでよし。

 蒸し風呂に行く途中でふと壁の張り紙に気付いた。


[当ギルド前サウナは男女混浴ですが脱衣所の使用に関しては男女混合不可です。以下の時間帯で男女別に使用してください。完全男女共用サウナの案内は以下の通りです。]


 ……そういや全員そんなの一切気にせず全裸になってたな。まぁいいか。別に大したことあるまい。ブラドさんもぶらぶらしてたしアホもぶらぶらしてたしユグドラシル温泉でも見たしな。

 腹掛の上から立派なビッグサイズイカ腹をポンと一叩き。ほったらかしていた私の髪の毛をカミナギリヤさんが仕方なさそーにまとめてくれた。やったぜ。全裸の生徒会長をラムレトと九龍が右足左足を持ってずりずりと引きずっていくのに続いてさっさと歩くのだった。




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えぇ......暗黒神様って存在そのものがストップモーションなの...? 言動といい行動といい邪悪な蒸気船ミ◯キーじゃん。
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