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交渉とちゃぶ台

「……………………」


 本を眺める。欲しい、どうしても神託植物が欲しい。話し合いも終わってただの宴会となったので食事をつつく生徒会長やラムレトをちらちらと眺める。あの2人にも植わっているのだろうか?金のなる木。

 なんか段々金の銅像に見えてきたな。売り飛ばしたくてたまらないのだが。

 だがしかし、引っこ抜くのには莫大な金が掛かる。投資が必要なのである。九龍から引っこ抜いた神託の分解には十日間も掛かるのだ。ぐぬぬ。借金をしてでも、いや、それは悪手だ。

 借金は碌なことにならない。であればここは一つ、商売にするのだ。九龍からだけ巨額の魔石を頂きましたなどとするとえらいことになりそうなのもある。金を取って神託も取る。うっはうはでは?

 なにせ神託とは結構な問題とされているようであるし、九龍のように発芽可能性ありませーんなんて連中ばかりではないのだ。

 とは言えだ、私にはそんな交渉事は出来ないことくらい自覚している。ちらりと隣を見上げた。そういうのがいかにも得意そうなのが居るので。

 私の視線に気付いたらしく、ばちこーんと視線が合う。よし、いけ!私の心の内を読み込みうまいこと言いくるめて神託の芽を引っこ抜かせるのだ。お前ならやれる!

 愉快そうに口角をあげた悪魔は一つ頷くと徐ろに立ち上がり、そのまままずは生徒会長との距離を詰めていく。

 どうやら私の心が通じたらしい。悪魔の手練手管が尽くされた交渉術をお手並み拝見といこうではないか、わはは。

 そう呑気に構えた瞬間、何故かドカンとソファが破壊された。まさかの初手威圧だと……!?


「というわけで暗黒神様がその童貞魂に根付いたクソ植物をご所望です。

 地を這い回る童貞クソ虫などこの世に居ても居なくても同じですが暗黒神様のご要望により全悪魔総出でその童貞を守護致しますので生涯童貞確定済みの大賢者ですから愛などと得る手段は有りませんがそれはそれとしてそのクソ植物は多少は役に立つ。

 暗黒神様から守護を賜わるなど死ぬほど妬ましいカスが、今すぐブチ殺してそのクソ植物の肥料にでもしてやりたいところです。

 残念、残念。本当に。心底から。では暗黒神様、こちらの金品からどうぞ」


 言いながら流れるように生徒会長を毟りあげ漁って金目のものを奪い取って私に突き出した。


「ファッ!?!?」


 あまりの無法に3度見した。違う、そうじゃない。

 びりびりに服を引き裂かれて全裸にされた上に床に転がされた生徒会長に周りの女性がきゃーと喜んでいる。喜ぶとこあるかコレ?


「なんでぇ!?!!?なんで俺ものすごい罵倒されながら全裸にされて強盗されてんの!??!?!ドウシテ!?!?!?!」


 おっしゃるとおりである。


「コラーッ!違う、違うやーい!!やめ、ヤメローッ!!」


「あと俺の童貞守護ってなにぃ!?!?なんなの!?!?」


「それは面白いからやめなくていいけど!!」


「やめて!?!?あと服返して!?!?」


「うげ、ざーこざーこ。仕舞いなさいよ見窄らしいわね」


「全然嬉しくないメスガキ罵倒!!違うんですぅ!!」


「これはギルド嬢達が暫く寝不足になりそうなヤツきたなぁ。彼女達の創作意欲に火が付くと手が付けられないから程々にね」


「ノーコメントにしとくアル」


「うちのこがすいませんでした……」


 謹んで洋服を進呈しておくこととする。えーと、パラパラと本を開いた。

 隣で羊がキュルンとしているのが腹立たしい。親に向かってなんだその顔は。



 商品名 聖逆十字黒翼学園(ハイソサエティ)生徒会長専用学園服

 生徒会長が中学生時代に学習帳に描いていた落書きから描き起こされたデザインを一流の職人達が形に。

 漆黒と白銀を組み合わせたデザインに厳つい肩パッドが映えている。背中の翼は学園の”王”の証。そしてその瞳には”罪”の証でもある逆十字が浮かぶ。

 聖逆十字黒翼学園(ハイソサエティ)生徒会長専用学園服は落書きの横に書き記された文章の原文ママである事に留意されたし。

 オプションとして現状付与可能な最高の防御力と致死防護、ハニトラ避けの加護、精神耐性生体保護など一人サバイバルとなっても一ヶ月は生存可能な性能を持たせた。



「これあげるから許せ!」


「どうしてそういうことするの……?」


 泣いてしまった。


「あんまり強くないって聞いたからちゃんと防御力とか生存力を高めてハニトラ避けも付けられてるらしいぞ」


「どうしてそういうことするの………………」


「着ないって選択肢が無い装備でめっちゃウケるね」


「24時間それ着とくアルよ」


「ちょっとおじさんにはキツ過ぎない?全裸よりはマシだけどぉ」


「えっ……と、大丈夫です。人間慣れるものですから!!」


「飽きるじゃなくて慣れるの辺りがキツい……」


 絵に描いたようなOTLとなっている生徒会長にそっと服を渡しておく。ちゃんと着るんだぞ。

 まぁ実際全裸で居るかこの服を着るかで考えれば選択肢は無いに等しいだろうが。


「ついでに無精髭も剃っといた方がいいと思う。あと寝た方がいいんじゃないかなぁ」


 顎をジョリジョリしてみる。うーむ、ジョリジョリ。目の隈も凄いし不健康そうだ。社畜というヤツなのかもしれないな。


「合法ロリに顎ジョリされているという喜びが凄いけどそれを表に出したら死ぬ気がする」


「口に出てますヨ。後で霊子レベルに解体してぶっ殺します。別に蘇生すれば問題無いでしょう」


「やめんか!」


 しっしと悪魔を枝で追い払っておく。全く碌でもないヤツだ。白目の部分が真っ黒だわで普通に恐ろしいわ。

 不満そうにしながらも羊姿になって再び配膳に戻っていった悪魔を見送ってから椅子に座り直した。食べ終わった鍋を横に避けて唐揚げの大皿を抱え込む。

 抱え込んだところで横合いに派手な色が着席した。がっしと腕を回すように頭を絡め取られ、そのまま顎をぷにりと摘まれる。ぐえー。

 並んで座ったらちょうどよく腕を回せるサイズ差である事は否定しないが顎をタフるのをやめろ!最近むちむちなのだ。身を捩ってイモムシのように抵抗した。

 にんまり笑顔と共に先程の魔石群に勝るとも劣らない多色性をも備えたきらんきらんのチュウニな目玉の持ち主がすーっと覗き込んでくる。


「で、クーヤ。先程あの悪魔が面白い事を言っていたアルが」


「はいすいませんでした」


 抵抗をやめて全面降伏しかなかった。いやでも別に神託の芽が私的に美味しい事と神託の芽を取る仕事は別個のことであるからして別に特に何の問題も無いっていうかなんていうか!

 頂いた神託解体料金は多少の黒字はあれどそれはつまり技術という名の手数料上乗せがされているだけであって真っ当な金額でありまして結果として生え主に返却すべきであろう作業終了後に生まれた神託スラグがその道ではプレミア値であることを黙って横領したことはちょっとだけ問題だったかもしれないがそれはそれとして人では別段あれに使い道は無いのであるし確かに買い取りするのが本道かもしれないがこれもまた商売でありまして私にも生活が掛かっており養うべき子どもたちが云々カンヌンケロケーロ!!

 ブラック企業は権力側に弱いのだ。いや私は別にブラック企業ではないが。


「ま、あれは良いアル。大した金額でも無し、そちらが得をしたのはそちらの事情ネ」


 ボムボムと手の平で頭が押される。ぬえー。あれが大した金額ではないとはこの暗黒金持ちめが。


「要するに神託の芽が良質の餌になるとみていいか?」


「はいそうです神託の芽をください」


 認めるしか無かった。こうなれば最早開き直りである。全部欲しいのだ。


「唯一の神託除去可能な存在が積極的に取る言うならこちらとしても願ったりアルがなぁ」


「でもマスター、多分ですけれどそもそも神託を取るのってすっごい魔力使ってますよね?」


「うむ。投資がバカ高い感じですな」


「リターンがすっごいけど投資がヤバいって感じかぁ。クーヤくんの力が貯まるのって周りとしても良いんだけどねぇ」


「今まさに九龍から寧りとった魔力があるんじゃないの?」


「さっきのは使えるようになるまで十日間程ですな」


「十日間かぁ~。神託一個に随分と掛かるねぇ」


「む」


 改めてそう言われると確かに。一個の分解に十日間、うっすら長いとは思ったが深く考えるとこの都市の住人全員から引っこ抜いたらそれこそ分解だけで百年単位とかになりそうな日数だな。

 人口が有りすぎるせいかこの都市の感情エネルギーや生命エネルギーも分解にそれなりの時間が掛かっている。

 ふむ……テコ入れの時が来たようだな。即ち魔物カテゴリである。単純に数を増やすか、あるいは魔物共の性能を弄るか……。

 ぺらりと本を開く。カテゴリ魔物セット。

 数を増やすのは確実かつ堅実ではあるが、今の数で神託一個に十日間なのだから魔物数2倍3倍といった増やし方が前提となるであろう。10匹20匹増やしたところで、という具合であることは私でもわかる。

 魔物の進化ツリーもあるが……レッドキャップ化にブルーキャップ化、色々あるようではあるが。分解速度はどれほどのものになるものか。

 作業速度向上の数値も記載はあるものの、そもそも数値がどれくらいでどのくらいがわからんのだからまるで無意味である。少なくともこちらも一段階や二段階では焼け石に水であることはわかる。今の残金では目に見える程の効果を得るにはどちらにしても、であるが。

 どうせならもっとこう……画期的且つ前衛的でありながらもおもしろおかしいヤツはないものか。


「しーんーたーくーぶーんーかーいー」


 言いながらページを捲ったり戻したりしつつ商品を吟味していく。

 コーヒカップの頭部になっているラムレトがうんうんと頷きながら上から本を覗き込んできた。異界組は下から上からと覗き込んでくるのがデフォなのか?

 というかその頭は見えてるのだろうか。


「分解ってなんとなく親近感湧くよ。僕は肉体と魂の取り立てって感じだけど」


「あー」


 そういえばラムレトは魂の返済肉体の精算を行う冥王神的な仕事だった的な事を言っていたな。確かに親近感がある。分解も得意そうなもんである。

 神託分解神託分解、思いながらページをペラリと捲る。



 商品名 暗黒神様サポーター団体

 指定した神性を魔性化させます。

 魔物と同じように育てることが出来ますのでばっちり養育しましょう。

 魔物の上位存在であり作業なども出来ますが眷属や魔物と違い自立している為、育てすぎると悪魔化や魔王化、下剋上などの可能性があります。

 値段は指定した神性強度によります。



「あっ」


「え?」


 ラムレトを見上げる。


「……………………」


「……………………?」


 暫く見つめ合う。いや見つめ合っているのかは謎であるが。うーん。大丈夫か?

 まぁいいか……。


「で、クーヤくん。ところで僕に今なにかしたかい?」


「はいすいませんでした」


 この指が勝手に。私は悪くないんです!!

 見た瞬間に何を考える間もなくポチってしまっていた。いやでも安いのが悪くないか?

 多分本人曰くの空想に堕ちた神であるというのが原因だろうけど。神性強度とやらが文字通りのペラ神であったのだろう。

 あまりにも安いので半額シールが貼られたセール品の勢いで購入してしまった。


「面白くて安かったから……つい……」


「面白くて安かったからついかぁ……」


 興味深げに顎……?顎を擦りつつ首を捻っている。


「あれ?もしかしなくてもこれ僕が神託の分解する流れ?」


「気付いてしまったか……」


 神託分解と考えながら出てきた商品なので神託の分解に関してはまず間違いなく最優の流れである。

 養育出来るとかなんとか書いてあったがそもそもラムレトがかなり強めの神様っぽいしそんなのがこんな閉店売り切り大特価大セールで魔性とかいうヤツに出来てしまったのはかなり特殊事例だろう。

 魔性というのがよくわからんが多分いつかの氷雪王やら人形姫やらみたいな感じに違いない。しかし異界の冥王神に魔物代わりの作業させるのちょっと笑うしかないな。

 魂の分解でもなく植物の分解だし。


「うん?メルトは植物解体業者に転職したアルか」


「ここまでくるとクーヤってちょっとキモいわね。異界の神をノリで従属神にしないでくれる?不気味だから」


「キモいて」


 カミナギリヤさんに半眼で呆れられてしまった。

 なんだかセンチメンタルになったので養育がてらラムレトに唐揚げを渡しておいた。ついでに勝手にレモンを絞っておくことにする。これでよく育つんだぞ。


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 _人人人人人人人人_ >  ハイソサエティ  < > 聖逆十字黒翼学園  <   ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
唐揚げに勝手にレモンだとぉ!? じゃあ僕はタルタルソースぶちまけとくね…
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