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La Divina Commedia - re.3階-

 


 がちゃりとドアを閉じる。さて、一階に行くか、それともニ階のどこかを再び開けるか……。実に悩ましいな。


「暗黒神殿、もう物質界に戻らんか……?戻らんか……?ダメじゃ聞いとらんのだ……。

 オニイチャンズ逃げてたもれ……妾に出来ることはもう何もないぞよ……」


 どの部屋を開けるのかという点において例の掲示板で情報収集をするのは面白みが半分なのでやめておくとして。

 如何にビビらせ驚かせるかの情報収集はしておくか。指をくるくる回してピーピーガーガーとネットに直アクセス。恐らく私の突撃お前の部屋関連と思われる掲示板は弾きつつ情報を吸い上げる。ぽいぽいぽいとよくわからんものは吐き出して必要なものだけをぢゅもももと吸引。

 ざくざくと漁った感じとして先のサイトの他にも似たような事はしているらしくやはり悪魔は頭がおかしいと思われるがまぁそこを抜けば傍から見ている分には今のところめっちゃ面白い。右往左往するのが見てて楽しいので。

 しかし今まで私が物質界に実体を結んだ回数は実に13回、何れにしても今からする事に一番都合がいいと思われる姿は無かった。キメラ姿や巨人姿やらがそぐわないぐらいはまぁわかる。

 ちょいと考える。レガノアの姿は……まぁよろしくないのだろう。あまりにも口うるさいのでそれぐらいは理解した。もにもにと顔を撫でさする。よし、いい感じに調整をしてレッツラゴー。血色関係の見た目を取り繕っただけだが問題はない。

 アパートの壁にある消火栓と書かれた古びたベニヤドアに手を掛ける。そのまま繋げた307号室の襖を開けた。


「!?」


 横の天陽さんが3度見してきたが気にしない。

 三階はもう通り過ぎた安全圏と安心しきっていたらしい悪魔が端末をテーブルに乗せたこたつに収まったままみかんを毟しり終わろうとしていたところであった。自分は安全だと思っているヤツをビビらせることほど面白いものはないのだ。

 頭の角に目が二つに鼻が一つに口一つ。詳しく認識すればだいたい途中から虹色になっている銀髪に虹色の目玉と言ったところ。まぁ普通だな。強いて言えば泡模様をした半纏は趣味が悪い。想定外すぎて悲鳴も上げず完全に固まったままの悪魔に向けて入念に調整した砂糖がけ声を放った。


「ばーかばーか、おにいちゃんのばーか!」


「ハヒュッ……」


「ぬぁ……!!暗黒神殿、悪魔にそれはオーバーキルであるぞい!?」


 妙な声を上げてへっぴり腰になった悪魔の膝の上にどすんと座る。それで逃げる事すら不可能になったらしい悪魔の上で転がってごろごろにゃーとしてから膝の上にどっしと座り直して剥き上げられたみかんがいい感じになっているのでぱくぱくと食べ尽くした。

 甘くていい感じのみかんである。ほうじ茶が置かれていたのでそれもずずーと吸い上げておいた。ん、ナカナカのほうじ茶だな。こおばしい香りと味わいは緑茶とも違う深く鮮やかな塩梅と言えよう。


「おにいちゃんもういっこ」


「………はひ……ひっ、ひぃ………ヒュッ……」


 今にも死にそうな呼吸音を立てながら震える指がみかんの皮を剥いでいく。震えすぎて湯呑みが倒れた。大丈夫か?

 強く生きろよ。

 先程から天陽さんは耳を伏せて顔を手で覆っている。こっちにも強く生きて欲しいものだ。

 震える指先ではろくすっぽみかんの皮も剥けなくなったらしいがそれでも死力を尽くした様子で皮が剥かれていく。半死半生となりつも皮が剥かれたみかんがガクガクと震えすぎだろと言いたくなる様子で差し出された。

 うーむ、もうちょいイビるか。


「やだ。すじもとって」


「っつえ……ひぐ……ひっ、ひっ、ひっ……ひっ………」


 遂には浅くて早い呼吸を繰り出し始めた。爆弾持たされたってこうはなるまい。滂沱と涙すら流しながら嗚咽しつつみかんの筋を取る姿は実に死にそう。神様許してクレメンスと呟き続ける様はなんというか面白い。面白いから許さんとこ。

 がちゃがちゃとこたつが揺れている。腕にはびっしりと脂汗と冷や汗の混合物が浮き上がり赤みが一切無い。血の気引きすぎだろ。

 ふむ………、面白くなってきたな!!


「暗黒神殿……、あまりにも……あまりにも……!!」


 震えながらも再び陳情してきた天陽さんを眺めながらアルベドが綺麗に取られた房からひょいぱくひょいぱくと口に放り込む。倒れたままの湯呑みを手に取り急須から勝手にほうじ茶を注いだ。

 こたつの上に放置されている端末を奪取。寸前まで使用していた端末は開きっぱなしでどうやらあの掲示板を見ていたらしい。書き込みをタップして続けてカメラマークをタップ。

 起動したカメラアプリのアイコンをタップし自撮りモードに変換。ぴすぴーす。ばしゃりと撮った写真はいい感じの写りの良さだ。私を膝の上に乗せる事となった悪魔は既に虹色の泡を吹いているが。ま、気の所為だな。

 たぷたぷとキーボードを打ち込み。えーと。



522.いいえ、黒泡さんです

 おにいちゃんだぞ

 https://ddduploader.com/pic?~



 ばっちり書き込み完了。ぽちっと更新。



523.いいえ、黒羊さんです

 は?????????????


524.いいえ、黒月さんです

 今からお前を殺す




「む」


 一瞬でスレは埋まってしまったようだ。まあいいか。白目を剥いて動かなくなった悪魔の額に油性ペンで目玉模様を書いてからすっくと立ち上がる。わからんがイイ感じの模様だ。頑張れおにいちゃん。応援してるぞ。

 次行ってみよう。うーむ、次は逆にしてみるか?

 というわけで頭を振って取り繕っていた血色関係を元に戻す。

 しかしむっちゃ面白いのは確かだがこのおもしろ反応が激しければ激しい程にそういうわけのわからん感情強度でありそして対象が何故か私であるというあたりを深く考えるとなにやら身体が重くなるというか寒い気がするというか肌が泡立つ感じがあるというか。不思議である。オトメゴコロってヤツかもしれないな。

 思いながら窓を開ける。


「暗黒神殿?」


「いくぞーっ!!」


 アイキャンフライ!!私は雄大なる風になるのであるからして迸るリビドーが熱い感じに煮えたぎりまくりの熱風となってあの大きな空を吹き周りつつレッツパーリナイ!!

 あーあーあーと慣性の法則に従い握ったロープに振り子のように振り回されながらとんで304号室の窓をガシャンと叩き割りつつ侵入を果たした。


「暗黒神殿ォオォォ!?嘘じゃろ!?ロープどっから出たンじゃ!?これ制御不能じゃろ!?ってオニイチャンズ今の写真に妾は関係ないじゃろコーーーン!!」


 後ろから悲鳴が聞こえたが気の所為。何故か先程まで居た部屋が大爆発したので映画のワンシーンのような実にいい画が撮れた。撮影班が居ないのが悔やまれるな。

 転がり込みながらついでに横にくるりんちょしておく。一気に体格が変わったので僅かにたたらを踏みながら部屋を見回した。


「ンブッフ!!」


 こちらが窓から飛び込んだ瞬間に脱兎の如く玄関からの逃亡を図ろうとしていた悪魔との距離を一足で縮めてその勢いのままに壁に押し付けて壁ドンを敢行した。多少勢いが余ったか壁に穴が開いたが瑣末事だ。

 足を動かしていたついでに足を使ったのでこれでは意図したものとは異なるかと多少気にしたが面倒なのでそのまま続行する。確か収集した情報を元に顎クイだかなんだかをするつもりだったか。

 しかし今から腕を使うのもそれはそれで面倒さが勝る。先程までは面白さが優先されていたが今は何よりも面倒さが優先された。確かにまともな男姿とはこれこの一度きりであったが使い回すのは己の事ながら如何なものかと思いもする。まぁ構築し直す程の手間を掛けるつもりもないのだが。実際どの姿を取った所で新たに実体を構築するという甲斐性を持つ性格を持ち合わせているとは思わない。

 私、僕、わたくし、小生、我、吾、俺、麻呂、妾、此方、吾人、予、あたくし、物質界での13回とて確固たる姿形と言えるものは無く実体を結んでいない状態であれば殊更に唯の情報体でしかない。

 別口で7度の生に取り憑いた折には何れも禄に姿形を定めていなかったが、それが故に取り憑いた先であった彼ら彼女の姿もまた己に近しいものだ。あれらの模倣なれば多少整えるだけで済む。

 あの医者や獣、軍人など程々の年齢の男も幾らか居たのだからそちらでも良かったろうと思うも、こうして自我と似たような形質を持ちたるのならばなんとはなしに彼らを避けるというのも頷けるものではあった。面倒なものを抱え込んだという気もするが、今更元にも戻れぬというのも理解はしている。

 今となっては自死をしたところで意味は無く、よしんば何らかの手段を用いてそれを実行したとて歔欷し暴れたという悪魔達の事を鑑みて後々に降りかかる厄介さを思えばそれだけでうんざりとするというもの。

 それを思えばただでさえ面倒な事象の全てが煩わしく、畢竟どちらでもいい、好きにしろという他無くやはり行き着く先は面倒だ、これに尽きた。

 しばし考え、ため息を付きつ固まったまま動かぬ悪魔に声を掛ける。結論は出た。


「座れ」


「はわ……」


 ずるずると座り込んだ悪魔───────確かフェンに棲む者、だったか。世界を飲むとされた悪魔であった筈だ。座り込むのに合わせて壁にめり込んだままだった足を引き抜き悪魔の肩に掛ける。

 そのまま身を屈めて顎に指を掛けて上向かせた。


「ひょえ…………」


「大きい。面倒だから縮め」


 顔色と呼吸音が怪しくなっているのは無視をして肩に掛けた足に力を込めて踏み込んだ。


「キャイン!」


 些か間抜けな音を立てて煙があがり、後には小さな子犬が鼻を鳴らしながら混乱したようにぐるぐると回っている。己の尻尾を追い回しているようにも見える姿に少しばかり笑った。

 その首根っこを摘み上げて部屋の中を改める。氷で覆われた部屋は居心地が良いとも思えないが、氷狼とも言われる者であると思えば成る程、らしいとも思えた。

 机の類は持たぬ主義なのか、家具は戸棚などばかりで中央にある巨大なクッションが家主の活動主軸なのであろう。端末に雑誌などがクッション周辺に並べられていた。

 家主を摘み上げたままそのクッションに腰を落としてから家主を膝の上に乗せる。前に流れ落ちた髪の毛を軽く払い雑誌を手に取りページを捲れば美食、と銘打たれていた通り食に関する情報冊子のようである。

 付箋が付けられているものは肉料理が主であり、本犬の趣味なのであろう。膝の上で落ち着かぬ様子の家主は放置し次なる雑誌を手に取った。こちらは料理ですらなくただ只管に肉の通販冊子であった。

 雑誌を開いたまま端末に目を向ける。察したらしい家主が哀れっぽく吠え声を上げたがうるさいと告げれば静かになった。濡れた鼻先を親指で押しながら端末を手にする。

 セキュリティも無い端末には然程興味を引くものがあるとも思えなかったがこの様子であればそれなりに恥の多い端末なのであろう。手にした端末からそのまま情報を吸い上げた。

 例のサイトの書き手側であったようだ。正気とも思えないが見る限り素面でこれを書いているのだから大真面目なのだろう、別段文句もない故に好きにしろと思うだけだ。

 ちらりと家主を見やる。ぶるぶると震えながら鼻ったれた鳴き声を上げる様は愉快さと哀れさを覚えなくもないと言える。

 濡れた鼻を押しながら再度ため息と共に告げる。


「俺はどっちでもいい。好きにしろ。……けど、あんまり普段の私にそういう姿を見せるのはやめといたほうがいいんじゃないかなァ。

 自分でなんだが面白がって突っつき回しまくるぞ。暗黒神ちゃんは幼女であるからしてチャレンジャー精神旺盛なのだ」


 言いながら子犬をぽいと放った。ボウンと元に戻った犬悪魔は真っ赤な顔であわわわわとしている。ん、鳴き声がフィリアみもあるし面白いな?

 すちゃっと棒を装備したところでキャインキャインと悲鳴を上げて今度こそ逃げていった。キィキィと軋みを上げる玄関ドアがさもしく揺れている。


「……………ふむ」


 冷蔵庫を開けて何故か積み上げている乳酸菌を全部摂取しておやつだったらしい骨付き肉を食い尽くして一息入れてから犬悪魔が置いていった端末を開く。




1.げに恐ろしきなるは黒蛸さん

 狼くんがいきなり逃げてきたと思ったら暗黒神様には勝てなかったよ・・・と呟いてアヘ顔ダブルピースしてしまった

 https://ddduploader.com/pic?~


2.げに恐ろしきなるは黒月さん

 どゆこと?


3.げに恐ろしきなるは黒水さん

 絵に描いたような見事なメス堕ちアヘ顔ダブルピース


4.げに恐ろしきなるは黒王子さん

 なんでそんな写真の為にわざわざスレ立てたのかが気になって夜しか眠れる気がしない


4.げに恐ろしきなるは黒子さん

 快眠で草


5.げに恐ろしきなるは黒雷さん

 狼くんって俺は攻めだ!!ってイキリ散らしてなかった?わからされて受け派に転向したの?

 ざまぁ


6.げに恐ろしきなるは黒蠍さん

 なお黒泡くんはわからされて攻め派に転向した模様


7.げに恐ろしきなるは黒山羊さん

 ま、時代はリバってことだよね^^


8.げに恐ろしきなるは黒羊さん

 ころすぞ




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最早地獄は暗黒神ちゃんの遊び場…
テンション上がっちゃった暗黒神さま、いとヤバし… 黒翼さん、黒蝶さん、黒泡さんに黒狼さん… 成仏してくれ……
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