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蒸気と雨に烟る都市4

 

 あぐあぐと食べ尽くしてぺろりんちょ。

 実に美味であった。次は外の屋台を狙いたいところである。

 というわけで頼んでいた食後の茶が全部出された。種類も豊富であったようだ。テーブルを埋め尽くすカップは壮観の一言である。

 近場に置いてあるカップから攻めつつ自分で淹れといて自分で手を付けている九龍に聞いておくことにする。


「トンネルとラーメンタイマーはどこに設置するのさ。あと暫く住み着くならなんかいい場所を教えるのだ」


 私の問いかけに九龍はふむと顎に手を当てて暫く。


「そうさな……。トンネルとラーメンタイマーはギルドに置くのがいいアルが……。

 大っぴらに置くのも困る代物ネ。後で見繕うヨ。

 住む場所は表にいい物件あったヨロシ」


 もしかしなくてもそりゃあのボロ掘っ立て小屋か?

 狭さに文句はないがさすがにあそこに住むのはお断りである。何か賄賂を渡さねば情報を引き出せそうもない。おのれ。というかタダで引き出すのは後が怖い。

 うーむと考えてみたところで。

 ─────铃。

 夜の中、涼やかな鈴の音が何処からともなく聞こえてくる。

 しかしなんだろこの音。どっからしているのやら。都市の中心部でも変わらぬ音量で聞こえてくる。然しながら別にあちこちの家屋に鈴が付いているというわけでもなさそうなのだ。

 どっからともなく聞こえてくる鈴の音としか言いようがない。


「この音、幽界から聞こえてくるわね」


「む?」


「物質界で鳴ってる音じゃないってこと」


「ほーん」


 確かに言われてみれば音源不明の様は現実とも思えない。

 空から聞こえてくるようでもありすぐ横で鳴っているようでもあり。


「鈴といやあ元の世界で私は鈴を持ち歩いてたアルがなぁ。今は持ってねーアル。

 この都市のこれについてはよくわからん音アルよ。昔に検証して精々わかったのは私の間合い内で鳴ってる音てくらいネ。

 ユグドラシルじゃあ氷と雪で音が吸われて鳴ってなかったアルが」


「ほーん……」


 それはつまりここは勿論のこと外壁の外側であっても九龍の間合いということか?

 恐怖情報なのだが。一体どういう理屈であそこまで間合いなのだ。知りたくないので聞かないが。


「ああ、それじゃ多分あんたの鈴音ね。異界に置いてきたのかどうかは知らないけど。

 物質として失われても未だ染み付いてるって感じでしょ。あんたといえばこの音、この音といえばあんた。

 あんたから音がしてるわけじゃないから周りからそう思われてたのよ。境界を越える時に混ざり込んだんだわ。

 あんたとこの音は切っても切り離せないってわけ。……あんた、よっぽどなんかやってたわね。周りからそう思われて音が魂に染み付くってそうそうないんだから」


「呵々、それなら元の世界の連中の忘れ物であろうなぁ。

 多少スクラップにされた程度でしつけーことアル。頭蓋を鋼で覆ってもモヤシはモヤシだたか。

 鈴の音が聞こえたらば三里を逃げよだの、体躯を携行電磁加速砲に装甲貫徹40mmガトリングに荷電粒子砲と御大層な重火器にすげ替えて脳だけになったような連中が生身の人間を指して言い合うのであるから全くお笑い草ネ」


 なんか怖い話始めたな。深堀はしないでおこう、くわばらくわばら。

 よし、本を開く。何かしら賄賂を贈るのである。いい暗黒神ちゃんハウスの為に。

 いつものカテゴリ生活セット。



 商品名 天藍玲瓏の鈴

 いい音が鳴ります。



 いい音が鳴るだけの鈴なのか。まあいい。賄賂賄賂と考えて出てきたんだから賄賂になるんだろう。

 ただの鈴と考えるとバカ高いが九龍への賄賂と考えると安いのでコスパもいいかもしらん。枝でつついて購入。どーれどれ。

 出てきた鈴はいい感じにてりてりと輝き、青だか緑だか黄色だかの色をした宝石で飾られた根付けが付いている。まぁ九龍の目玉色だな。元の世界で鈴を持ち歩いてたと言うのなら鈴集めが趣味なのであろう。

 枝でクイッと引っ掛ければ確かに澄んだいい音がした。ナカナカなのでは?

 そのまま九龍の前に突き出しておく。


「こちら、山吹色の菓子でございます」


「うん?」


 言われるがままに鈴を受け取った九龍がリンリンと鈴を鳴らして具合を確かめている。横に鳴らしてリンリン、上下に鳴らしてリンリン。

 満足したらしく一つ頷くとにんまりと笑った。


「気に入ったネ。響きがヨロシ。音の反響で死角を見てたアルからなぁ。今まではこのよくわからん音を使ってたアルが。

 音源がわからん私の意思で鳴らす出来ないで使うやりづらかたネ。それにまぁ、慣れたモノが無いは落ち着かねーアルからな。

 例え四十年経とうともヨ」


 言いながらなっげぇ髪の毛を括っている青い玉輪飾りにちょちょいと取り付けてしまった。

 頭を軽く振ればリンリンリン。サンタか?

 具合を見るかのように軽い調子で真後ろに居たおっさんに視線もやらずに流れるようにして茶器が押し付けられた。おっさんは衝撃を受けた顔をしている。

 茶器が押し付けられたことにか見もせず正確な位置を把握されたことにかあるいは両方か。

 顔を見るにつけ茶器を押し付けられると共に手にしていた美味そうな料理をナチュラルにがめられたことであろうが。

 ついでに私も食べる。美味いなこれ。別に私が取った訳ではなく九龍が取ったものであるからして別に私は悪くない。悪くないったら悪くない。

 カミナギリヤさんも摘んでいるので問題はない。


「ヨロシ。じゃ、これやるネ」


「お」


 ぽんと投げ渡されたのは鍵である。どうやら賄賂が成功したらしい。古風なデザインであるが錆の類は見られない。

 はて……?


「部屋の鍵ヨ。この建物の四階の一部屋。

 暫く貸すアル。好きに使うヨロシ。なんかあったら言うアル。私は五階居るアルがたまには他の二人も顔出すネ」


「ほほー」


 この建物の上部分とは。だいぶ安心安全なのでは?

 九龍とあと二人の異界人が住み着いている異界人ハウスというわけだ。それに一階は冒険者の溜まり場である。まぁ言い方からして二人は留守が多いようであるが。

 しかし何故かカミナギリヤさんは微妙な顔である。何故に。


「あらまぁ~。クーヤちゃんたら勇気がたくさんねぇ~」


「全員軒並みクズとして有名でギルドマスターランキング最下位を埋めてる連中が寝泊まりしてる建物に住み着くとかアンタそれ蛮勇って言うんじゃないの?

 あたしは隣に建ってる宿場に泊まるけど。暫く滞在するならどっかを借りてもいいかもね」


「あっ」


 速やかに鍵を返却しようと試みるがスマイルを浮かべた九龍により鍵は容赦なくこちらへ戻された。


「他に泊まる出来ないよう通達出しとくネ」


「ノーーーーン!!」


 クソッ!またもや恩を仇で返された!!

 というか賄賂を贈ってもタダでせしめても最終的に何かしら騙されているような気がするのだが。

 そこまで考えてはっとした。

 あの親切な運転手のおっさんが言っていたクソみたいな爺、どう考えても九龍では?

 なんてこった!!あのおっさんが言っていた通り、暇そうにしてても楽しそうにしてても近寄ってはいけないという言に一切の偽りなし、これはクソジジイですわ。

 シブシブしながら鍵を受け取る。五階とその二人が居る階には近寄らんとこ。決心した。


「んじゃ、ついでアルから一人紹介しとくヨ。丁度こっちに来てたアルからな。

 普段はクンツァイト港のギルドに居るやつアルが」


「それって例の創立メンバーってヤツ?

 もう一人は何処に居るのよ?」


「もう一人は東に近い離島アルな。魔導研究所に居る生徒会のヤツね」


「生徒会…………」


 その生徒会って一体なんだ。どう考えても場違いなのだが。


「知らんアル。出会った時に学生服だたか、それ着てたネ。

 生徒会の名付けは総司ヨ。笑いながら付けてたアルからなんか碌でもねー意味合いであろ。

 アレもやめてくれと叫んでたアルからな。今じゃ技術部門総括ネ。女好きが妙な方向にいって猫も杓子も毛虫を見る目になるアルが」


「ウーン…………」


 学生服で異界人、これは拗らせてたと見たね。誰が一番強いかで揉めたと言うし多分恥ずかしい黒歴史を作ってしまったのであろう、ナムナム。

 多分だが普通の学生があのジジイとこのジジイ、いや若い頃なのだろうがとにかくこいつら相手に手加減抜きの殺し合いをしたと言うし10秒保ったかも怪しいもんである。可哀想。

 拗らせた童貞になってしまったに違いない。いや後一人がどうなのかはわからないが。


「あっそ。それで残りの一人が今ここに居るってわけ?」


「ま、そうアルな。

 見てくれはおかしいアルが頭もおかしいアル。差し引きゼロで気にせずゴーするネ」


 普通に嫌な情報きたな……。

 ずいと差し出された都市の地図にはぐるりと赤丸が描いてある。

 曰く、自由都市総合大書庫。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新万歳! [一言] これ、その内、暗黒神様もジジイ共とおんなじカテゴリに入れられるパターンじゃ........?
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