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蒸気と雨に烟る都市3

 

「ご飯!!」


 叫びながら扉を開ける。カランカランという古典的な音はしなかったがその代わりにガラリンガラリンと大小の鈴の音がした。これはこれで。

 ギルドカウンターは無視してシュバッと食事処に全力ダッシュで飛びついてそのままメニューを開く。黒っぽいかたそーなテーブルは何故かあちこち凹んでいる。

 どーれどれ。ふーむ、料理名からはイマイチどんなものか判断はつかない。香辛料の匂いがするのでスパイシーな食べ物が多いのはなんとなくわかるが。

 だがしかし、この香りからして美味いのは確定している。何より周囲のおっさん達が美味そうに…………何故おっさんだらけなんだろう。

 遠くのテーブルには普通に女の人や若いあんちゃんやらが居るので全くの偶然で私がおっさんを引き当てているだけなのがなんとも言えない。まさかオカルト寺院なんかに行ったから呪われたのでは?

 やだ……お祓いに行こ。決意した。

 まあいい、取り敢えずはここのご飯を打ち倒さねばならない。遅れてやってきたカミナギリヤさんとアンジェラさんがテーブルに着いた。


「匂いがちょっときついんだけど。神霊族にはあんまり無い料理みたいね」


 言いつつも手早く店員に料理を頼んでいる。私にはわかる、食えないものが出たら私に投げるつもりだなあれは。

 しかしこの暗黒神ちゃんのイカ腹を舐めてもらっては困る。何せ私の腹であるからして。ブラックホールもかくやであることを見せつけてくれる。


「こっからここまでくれー!!」


 上から下まで指してやった。店員さんのお顔が多少引き攣っていたが知ったこっちゃねぇのである。

 ケツを据えて見回す店内はガヤガヤとかなりの賑わいだ。回転灯籠がくるくる回っているのがちょっと面白い。

 ぶしゅーと蒸気を吐き出す謎の機械がぎごぎごと何かを磨り潰している。茶っぽい匂いがするので茶葉であろう。


「まぁまぁ~、スパイスの匂いと血の匂いが凄いわねぇ~」


 丸鶏のホット姿焼き、麻婆カツサンドにドライエッグのあんかけ炒飯、ピタ@パン、チキチキレースの香草春雨スープ、予想が付くようで付かないラインナップだな。

 ピタ@パンてなんだよ。ピタパンじゃダメなのか?


「隣の席のヤツものすごい赤い食べ物食べてるんだけど。何あれバッカじゃないの?」


「火を吹いてますな」


 いや火を吹いてるのは本人の特性なんだろうか?顔面がトカゲ系っぽいおっさんなので自前か否か判断が付かない。


「ところでそのメイド今なんか言わなかった?」


 折角流れたのにカミナギリヤさんが突っ込んでしまった。クソッ!

 いやしかし血の匂い、うーん……まぁ料理を作る場所であるからしてそういうこともあるだろう。

 忘れてたがギルドでもあるのだしなんかこう狩った獲物を解体とかしてるかもしらん。


「人間の血の匂いねぇ~、この遺伝子情報はお姉さんに登録があるわぁ~。

 クロイツマイン=ライン=ハーツマルトさんねぇ。随分とばらばらになっちゃったんじゃないかしら~」


「おぉう……」


「……それって確かユグドラシルで話が出たヤツじゃなかった?

 ここで死んだわけ?ここ食堂なんだけど」


 ナムアミダブツ、手をハエのようにスリスリとしておいた。後でこっそり地獄トイレしとこう。ここは結構な回収が見込めそうな感じがあるし。

 などとくっちゃべっているとゴトンと音を立ててデカい皿がテーブルに乗った。


「おー」


 ほかほかと湯気を立てるまんまるの鳥がパリパリに焼き上げられている。

 この照り、ツヤ、香り。完璧だ。絶対に美味い、間違いない。これは素晴らし。

 続けてどんどんどんと皿が積み上げられていく。

 ぐらぐらと揺れる皿は奇跡のバランスと言っていいだろう。いや良くない。どうやって食えと言うのだ。頼んだのは私であるが。


「丸鶏のホット姿焼き、麻婆カツサンドドライエッグのあんかけ炒飯ピタ@パンチキチキレースの香草春雨スープ以下省略ネ。

 頼み過ぎじゃねーアルか?」


「む」


 腕をお盆と勘違いしているのかというくらいにまだまだアホほど料理を持っているのはまさかの九龍であった。アンジェラさんに匹敵するバランス感覚。しかしその料理軍団はもしかしなくても全部私が頼んだヤツか?

 いかん、テーブルの大きさを全く想定していなかった。この暗黒神、一生の不覚であった。ここは一つ全てを吸引し全てを無に帰すしかあるまい。

 取り敢えず目の前の丸鶏を吸引しようとしたところで九龍が軽い調子で隣のテーブルを片足で引きずり寄せた。

 椅子だけにされた火を吹いているトカゲおっさんが凄い形相でこっちを見ていた。こっち見んな。やったのは九龍であって私ではないんです!


「単品物に残りの汁物、こっちは甘味ネ。あとは飲み物アルがそっちは食後ヨ」


「きゃっほう!!」


「って丸鶏もういなくなってんだけど!?」


 ふははは、ぷりちーらぶりーデラックス暗黒神ちゃんに掛かれば丸鶏など儚い命よ。潔く散れぃ、ナムサン!!

 ピリリとした辛味も香ばしく、見た目に違わず軽い口当たりの鶏皮がいい感じだ。ホクホクとしたお肉が実にウマイウマイ。

 いやしかし。


「ふぁんへふーろんがもっへくんのは」


「そりゃ私が給仕だからヨ。給仕が料理を持ってくんのは当たり前アル」


 お前のような給仕がいる……いやいるな。普通に給仕している。手慣れた手つきでお冷が出された。

 ギルド総裁がなんで給仕してんだ。

 胡乱な目で睨めつける。怪しい。アスタレルもアレだがこっちもこっちでアレなのだ。そんな感じがひしひしとする。その証拠に何やら機嫌良さげにしている九龍を見て周囲からあれほど居た人々が消えた。


「哎呀。まぁ総司にも言われたアルが。元々飲食店の給仕やってたネ。

 ギルドを組織化する時に危うく碌でもねー役職にされるところだったアルがな。香主は少しばかり印象悪いヨ。

 ちょいと治安の悪いところで生きて来たのは否定しねーアルが。幇会に身を寄せてたでも無し、私はきれーきれーな人間ヨ」


「………………………」


 ん、なんか聞こえたな。気の所為であろう。

 どう考えても今のはそういう危ない団体がしのぎを削るどちゃくそ治安の悪い場所で一切の後ろ盾なく好き放題に生きてきたアルと言っている。

 爺ちゃんも九龍は談笑してた次の瞬間には首をへし折ってくるタイプじゃんとか言ってたし実際そういうタイプで間違いはあるまい。

 危険人物過ぎてそういう団体さんからも遠巻きにされてた、確信がある。白肉の包み焼きを齧りつつ聞かなかったことにしておいた。

 透き通った色のスープに口を付けたカミナギリヤさんが火を吹くのを眺めつつせいろの肉まんを両手に握り込む。うめぇ。

 火を吹き終わったトカゲおっさんを蹴り飛ばして椅子を奪い取った九龍がどっかと対面に座る。ひょいぱくひょいぱくと緑の豆を揚げたコロッケもどきが食われてしまった。いかーん!

 そういえば九龍はうっすらと猫以外は何でも食う悪食野郎だった。目の前に食い物を置いておいたらなんでもかんでも食われるに違いない。

 アンジェラさんは食べ物を食べることはないらしくニコニコと眺めてるだけだ。よし、アンジェラさんの前に避難させよう。

 ささっと回収、回収しそこなった第二の被害食物がまるっと食われた。なんてこった!!

 ぺろりと指を舐めながらにまにまとしている九龍は実に楽しそーにしている。クソッ、急がねば!


「で、私は長年のこの肩こりから解放されたわけあるがどうやら赤の龍をどうにか出来たようアルな?

 教団も神頼みするのはいいアルが効果の程は知れてるよろし、さっさと見切りをつければいいものを全く懲りねー奴らヨ。

 というわけで指名依頼達成の報酬やるネ」


「む」


 ごとんと置かれたでっけぇ魔石がキラキラと光る。赤い石に青い石、緑の石と実に綺羅びやかで目もあやなブツ。キャンペーンのアレだ。よしよし。

 さてどうするか。テーブルの上は料理が山積みである。魔石はさっさと片付けてしまいたい。何故か客が引いたのでカミナギリヤさんとアンジェラさんに九龍しか居ないしいいか。

 地獄のわっかを設置してざらざらと流し込む。ついでにツマミを捻ってジャガボゴジャガボゴ。


 エネルギー取り出し作業中

 推定作業時間67時間


 おお、これはだいぶ期待できるのでは。ナカナカの数字に見える。

 しかしそこで火を吹き終わったカミナギリヤさんが汗と涙で濡れて真っ赤な顔をしつつ呆れたようにおっしゃった。


「…………クーヤ、あんたもうちょっとしっかりしなさいよ」


「え?」


「あら~クーヤちゃんたら今のは貰いすぎねぇ~」


「え?」


「食ったアルな?

 報酬は先払いということで一つ頼まれるアル」


「ギャーッ!!」


 騙され、いや増やされてた!?ありがた、いや……んん……?

 いや違うなんてこった!!いつの間にか借金を負わされてしまったようだ。油断も隙もねぇ!!


「ま、大した用事じゃないアル。

 クーヤにとってもいい話ヨ。まずはトンネル、それとあのラーメンタイマーだたか?

 あれの設置頼むアル。それと他に何かあったら好きに弄るネ。許可出しとくヨ」


「おー」


 ふむ、トンネルとラーメンタイマーか。確かにこの都市と綾音さんのギルドとユグドラシル拠点が繋がるのは良いことだ。

 それに魔物達をその場に居なくても魂を回収してくれるファニーモンスターに進化させた事を思えば、ここを繋いでおけば私がここに居る間も問題なく他の拠点からも魂を回収できるのだ。

 言われてみれば確かに悪くない。後は好きに弄れとな。暗黒花とか撒き散らしても良しということであろう。本で作ったものをばらまくもの良いかもしれない。

 しかし怪しいな。他に何か騙されてないだろうか。


「なーんかいつの間にかこの都市を拠点に活動するのが決まってるんだけど。

 まあいくら出力が低くても直接クーヤがここで長期間活動してれば北ギルドと荒野と同じようにそのうちに領域は乗っ取れるでしょうし、そうなれば下手な神族は自分の奇跡代行者にすら干渉出来なくなる。

 今の絶望的な種族差を覆せるヤツも出てくるわよね。

 アンタって恩着せがましく目的を遂げるの性質悪いって言われないの?」


「言われ過ぎて誰ぞに言われたか忘れたアルな。

 ま、暫くゆっくりしていくヨ。では改めてギルド総本山へようこそネ。此処が自由都市九龍。

 マリーベルが語る古き神、その滞在を歓迎するアル」


「むむ?」


 暗黒神ちゃんたら聞かずに食べていた。両頬をぱんぱんにしながら二人を眺めつムシャリと甘辛く煮た芋に齧りついたのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 中身が虚無なくせにころころ肥えてきてるということは自身でも食べ過ぎの認識があるのでは?
[良い点] 健啖ようじょかわいい [気になる点] >暗黒神ちゃんのイカ腹 前に食べてたイカが巨大イカになって吐き出されたりしませんか
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