【暗黒神様と】人界のオカルト寺院【一緒】5スレ目
天地神明に誓いましてこの心に恨みの一切御座いません。どうして恨みなどしましょうか。
生命に正しき道など無いのです。命は道なき道を、先の見通せぬ暗闇を歩くばかり。
一歩踏み出した先に何があるかも分からぬままに歩くしかない、それが命というものです。
後から振り返って、その時になって漸く己の歩いた道を知る。
道を戻ることは叶わぬこと、目の前の分岐路の先を知らぬままただ選択し続ける。
抗えぬ時の流れに溺れるように藻掻きながら、己の最善を精一杯に重ねていく。
そのような生命にお前の選択は間違いだ、とどうして言えましょうか。救いも出来ぬくせに、ただ他人事のように見ているだけの身で。
人は神ではありません。苦しければ藁にも縋り、ままらぬ現状を変えたいと何かに抗う。
失意に沈む未来を見えぬ命にああしていれば十年後には何もかもうまくいっていたのになどと指を差して笑うなどどうしてできましょう。
私はただただ悲しいのです。ただただ苦しいのです。ただただ痛むのです。
ただ悲しく、哀しく、かなしく──────そして呪わしい。
「ふむ、上映映画の指向性を変えてみれば早かったようデ。
泡沫次元も下界に落ちたようデスし静かになりましたネ。では参りましょう」
ふわ、と生ぬるい風が頬を撫でていく。
長年放置されていたとわかる有様の部屋の中央に暗闇の中にあって尚、それでもそれは圧倒的な存在感を放っていた。
てくてくと羊の影に隠れつつ歩みよってしげしげと観察。床下へと通ずる古びた木製の扉は簡素な作りらしく蝶番が一個と取手が一つ。
「ふーむむ」
劣化により赤茶けているものの、文字が書き込まれているのがうっすらと見て取れた。
鳥居マークと扉という漢字を悪魔合体させた感じだ。その下には闡、であろうか。やったるぜぇといういかにもな空気を感じる。
取手に手を掛けて力いっぱいに引き上げれば、ず、ずと引き攣った音を立てて少しずつ持ち上がっていく。
重くは無いがなにやら反対側から抵抗を感じる。生意気である。
「おりゃー!!」
まだるっこしくなった。がぽっと開いた扉はそのままばたーんと倒れて死んだ。これでよし。覗き込んだ地下には小さな小部屋。
部屋、というよりも箱といった方が相応しい表現だろう。
四面全てに同じ作りの引き戸、そのいずれにも奇妙な模様がでんと描いてある。何かしら意味がありそうではあるが……。
なんとなく宿屋もどきで聞いたトリガーとやらを思い出す感じがある。つまるところ気にするだけ無駄である。
どうやら梯子も何もないようなので私単独で降りるのは厳しそうだ。よし。
隣の羊によじ登って背中に収まりせっせと実況していたらしい端末を奪い取る。びしっと指差して号令一発。
「しゅっぱーつ!」
「仕方がありませんネ。暗黒神様はミニマムでいらっしゃるので」
「うるさーい!」
腹立つことを言いあそばされる悪魔は無視してスレッドを確認。どれどれ。ふむ、相変わらずのクソスレである。
もっともっと刺激があるべき。
狐の窓で撮った写真に音声に動画とあるもの片っ端からどかどかと投下しなんなら生放送的なヤツを使ってリアタイ実況である。
とん、と軽い音を立てて地下に降り立った悪魔に乗っかったままぐるりと周囲を撮影。
扉の模様はそれぞれ微妙ではあるが多少の差があるようだ。とはいっても意味はわからないので運を天に任せた探索になるだろう。
いやよく考えたらアスタレルならわかるのでは?
「あの模様なにさ?」
「特に意味はありませんネ。気にするだけ無駄デス」
どうやら印象通りの代物だったらしい。
「だめじゃん」
「我々には意味がないのデス。看板のようなものですよ。ここは開きません、登れません、曲がれません、と。看板を踏み倒すような無法には無力デス。
意図的な霊道というトコロ。
シャハトリアの実験施設を事故当時のままにまるごとこの寺院の地下に持ち込んで固めたようですガ。
あのアルアルの言は中々に正しい。
固めたのみで処置も何もせず、再度実験に使うつもりだったというワケです。
樽子が産まれたことで中途半端極まりなくとも成功したと言える状況に陥ったせいで止め時を失ったといったところデショウ。愉快痛快。
ま、人間に埋め込まれた白炉の影響もあるでしょうガ。奇跡を起こしやすいのも考えものデス。百発百中の破れかぶれでなんとかなるのでこういったことには枚挙に暇もなし。
半霊素体精製を大幅に改変して素体に龍を使っちゃいましたなんて実験を成功させるとは億万分の一で引き当てた厄災デスね」
「ほーん」
奇跡の厄災とか字面が悪くてえげつないな。
まあいいけど。
「暗黒神様、ではどちらへ?」
「とりあえずあっち」
指した扉を安定のヤクザキックで粉砕したアスタレルはほっといてスレに視線を戻す。
どーれどれ。
7850.本当は怖い黒猿さん
なんか配信にずっと声入ってる気がする
7851.本当は怖い黒雷さん
こわいことゆわないでっていいました
7852.本当は怖い黒蛸さん
うーん
ちょっと掠れてて聞き取りづらいな
というか単調で平坦な繰り返しが普通に怖いのでやめていただきたく
7853.本当は怖い黒水さん
おいえ?
母音がなんとか聞き取れるけど
おいで?おきて?おいて?
7854.本当は怖い黒翼さん
それよりぼかぁ暗黒神様がちょこちょこ動き回って部屋も移動してるのにこの声が付かず離れずずっと一定なのが心底やめてほしい
7855.本当は怖い黒虎さん
ワンチャン羊
あいつこんな感じの粘着ストーカー系不気味声してた気がすゆ
7856.本当は怖い黒丑さん
暗黒神様が無反応だしどう聞いても女の声だしノーチャンガバ認定やんけ
死んでどうぞ
7857.本当は怖い黒狼さん
暗黒神様なら羊がブツブツ言っててもガチスルー普通にありえるので確かにワンチャンあるかな…あるかも…と一瞬思った
7858.本当は怖い黒山羊さん
暗黒神様の声とどっちが怖いかで悩んでる
7859.本当は怖い黒獅子さん
属性が属性なせいか素地はとろあまょぅι゛ょボイスだし性格がアレなので甲高い感じのわちゃわちゃ喋りだから相殺されてるだけでよく聞くとこう・・・
人が入り込めるわけないような隙間の暗闇からそういう声が聞こえてきてるみたいな謎の恐怖感ある
7860.本当は怖い黒月さん
わかる
死体とか昆虫とか暗闇とか声が聞こえちゃいけないところから聞こえてるみたいなのある
7861.本当は怖い黒迷宮さん
この話で一番怖いのはつまり音声内容と音声源のギャップが怖いだけで音声はそんなに怖くないになる筈なのに暗黒神様の声だけを収録したものを聞くとSAN値がいきなり0になるところ
7862.本当は怖い黒蛇さん
まぁとろあまょぅι゛ょボイスとして知覚できるように出力されてるだけで実際には合成音声みたいなもんだろうなとは思ってる
多分声帯使って喋ってない
たまに口が動いてなかったし
7863.本当は怖い黒雷さん
こわいことゆわないでっていいました
なんか失礼なこと言ってないかこいつら。こんなに可愛らしいぷりちー幼女を捕まえて死体とか昆虫とかどっかの隙間とはどういう了見だ。
しかし、ふむ。配信に声が入っているとな。こっちでは特になにも聞こえないが。
クソスレからリンクを踏んで配信を二窓してみる。うーむ、確かになにかボソボソ聞こえるな。カメラにめちゃめちゃ近い位置が音源に思えるが。
思いっきり端末を持つ私と位置が被っているくらいの音の感じだ。
おいえ、おきて、おいで、おいて、なんとも言い難いが。
「暗黒神様。次はどちらへ?」
「む」
羊の声に顔を上げれば目の前には三叉路。何れも引き戸に遮られ先は見えない。
とりあえず記録用にぱちりと写真を一枚撮ってみる。出てきたのはなぜか井戸の写真だった。不良品か?クレームをいれるべきだろうか。
しかしまぁ井戸というのならば行き先は一つであろう。
「下だな」
「望むがままに」
ゆっくりと持ち上げられた足がそのまま大地へと振り下ろされる。
ずしん、地面が揺れた。
僅かな落下感だけを感じるのみで危なげなく着地した羊にしがみついたままぶんぶんと頭を数度振り立てて砂埃を払う。
崩落した地下、パラパラと頭上から埃やら砂やらが落ちてくるのでまぁ一瞬で白くなったが。
「ぺっぺっ!」
ぺろんとひとなめ。むちゃむちゃと口を動かしてから周囲を観察。
ふむ。だいぶ雰囲気が変わった。あちこちに散乱する壊れた家具や布きやらにそれなりの生活感を感じる。
あちこちに焼き付いた人影だけがここに住んでいた者たちがこの世に残せたものといったところであろう。ナムアミダブツ!
空っぽの空気には何の気配もない。マリーさんが言っていた、どこにも還ることの出来ぬ魂はやがて摩耗するのを待つのみと。
上階に看板を立てていたが故にここから出ることも出来ず擦り切れ朽ちていったのか、回収できるものもなさそうだ。
こつ、こつと靴音を立てながら進む先、舞い上がっていた砂埃も落ちきり烟っていた視界も晴れやがて見えてきたのは巨大な鉄扉である。
かといって無骨とは程遠くぴっちりとした観音開きの形は真っ白に塗装されており実験室の入口といった様相である。
そんなエマージェンシー溢れる鉄扉であるが、先程から僅かに音を立てている。大きな音ではない。
取手に手を当ててみれば、細かく震えているのがわかった。ふむ……?
「暗黒神様」
「なにさ」
「こちらをドウゾ」
羊がなにやら渡してきた。丸っこくて柔らかい。ゴムのようなブツである。
「精神的には大したことではないでしょうが音の破壊力が大きすぎて物理的ダメージが深刻そうですからネ。
暗黒神様には防御手段が必要かと」
「…………音?」
「耳栓デス」
ほーん。ぐりぐりと耳に付けてみる。外界の音が小さくなるどころか完全なる無音になった。これはこれで問題がある気がせんでもないけど。
まぁこいつが改まって渡してくるくらいだから必要な処置なのであろう。しかし人体は色々な音を立てているものだがこうして外界の音が遮断されるとこのワガママボディがマジの無音で動いているのもわかってオイオイオイこの体死んでね?みたいななんとも言い難い気持ちになるな。虚無でできてないか?
まぁいい、よしレッツラゴー。
重たい鉄扉をよいせと開けてみる。カタカタカタと薄暗い部屋の内部が震えているのが見た目でわかった。置いてある机やらなんやらが揺れている。
なんだこりゃ。…………耳栓、音、なるほど音か。察するにこの部屋多分耳が潰れるレベルの大音量が流れているのであろう。
この体は物理攻撃には弱いらしいので音も過ぎれば質量兵器ということか。この耳栓が無ければ私の頭が物理的に弾け飛んでいた可能性も無きにしもあらずといったところ。よくやったアスタレル。
髪の毛が物理でチリチリしている感覚があるので空気が揺れまくっているのであろう。
しかし暗いな。思った瞬間にパッと明るくなった。羊のほうを見やれば指でくるくるとしている。多分なんかやったんだろう。
準備よく抱えていたフリップをこちらに見せてくる。こいつ人型だと背が高すぎて若干見づらい。いいけど。
[あちらの方ですよ→]
「ん」
先導されるままに付いていく。部屋の中はいかにも錬金術的な実験室といった趣きを呈しておりあちこちに割れたフラスコだのなんだのが散乱している。
さて、こういうところの探索といえばまずは棚や机の類であるからして。
がさがさと机の資料を漁り戸棚やら引き出しやらを開けてみる。
「お」
いかにもアンビリーバボゥなフェティッシュ。
古びた記録日誌であった。